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彼女と、彼女を取り巻く一方向の現実について4





 片頬をぷっくりと赤く膨らませて、フィヌ・フィリーは給湯室の奥から引っ張り出してきた、埃のかぶったパイプ椅子を机から1メートルほど距離を開けた絨毯の上に置いた。さすがにそのままでは問題なので、床にぶちまけたままの雑巾とバケツを手に取って、給湯室へ一回消え、再び戻って綺麗に椅子を拭くとパウダービーズ入りのクッションを申し訳程度に敷いて女性に席をすすめた。


 狼狽えるでもなく、礼を述べて椅子に腰かけた女の名を、吉崎道香といった。


 紅茶のカップとソーサーを上品に受け取り口をつける所作に、フィヌはうっかり見入ってしまう。


 しかし、その真逆を行くのが、フィヌの弟子である。


 傲岸不遜にもほどがあると言う呈で、椅子には座らず机の端っこに腰を掛け、あろうことか女性を見下す角度でフィヌが用意した紅茶をうまそうにすすっている。


 足を組んでいるため下品なことこの上ないが、下着がまる見えである。


「ミコト・・・・。これ」


 さすがに道香に気の毒だと思い、フィヌは自分がお気に入りにしている真紅のブランケットを彼女に手渡した。


「なによ、これ」


 片手でブランケットをもてあそびながら怪訝そうな表情をする娘に、フィヌはジェシュチャーで膝の上にかけるようにすすめた。


「あ、ホントね」


 気づいていなかったのか、というツッコミはさておいて、彼女は机からようやく腰を下ろし、ブランケットで下半身を隠そうともせず自分の定位置である椅子に腰を掛けた。


「で、何の用なの? 吉崎道香」


「呼び捨てか! いや、その前に。さっきも説明してたじゃないか。聞いてなかったのか!?」


 フィヌが椅子を用意したり紅茶を用意する間、道香はまず自分の名前を丁寧に名乗り、ここへ来た経緯や理由などを細かくミコトに説明をしていた。その会話は無論のことフィヌの耳にも入ってきている。


「聞いてたけど、全部。それが何か?」


「それが何かじゃない!! キミにはだいたい、謙虚さというものが消失している!! 何それ、何様俺様ミコト様? せっかく彼女が丁寧に説明してくれたのに、馬耳東風、馬の耳に念仏とはこのことだ!」


 ぜはー、ぜはーと肩で息をしながら渾身の抗議をしてみるが、何のことはない。


 彼女はいつも通りだ。


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