01
「君はいつもどこを見ているのだね?」
少し上の方から声がした。
眼鏡を掛けた中年の男性。スーツをビシッと着て、左手には教本を携えている。
ハッと体を起こし、すいませんと一言謝ると、教室からはクスクスと笑い声が聞こえる。
現在は昼の一時ごろ。
昼飯を食べ終わり、その後の授業だ。
そして、教科は現代国語。
果てしない眠気さが襲うのは当たり前ではないだろうか?
席は窓際といった、まぁ、狙ったかのような場所である。
五月になり、陽気なと言うより少し暑いくらいの太陽の光を受ける。
それでも人間の欲とはすごいもので、睡眠欲は増すばかりだ。
現に目の前に座っている友人は、体を完全に折り眠ってしまっている。
教科書には目もくれず、授業開始五分未満で寝てしまった。
それでも国語担当の教師に怒られるのは俺なのだから、この世は本当に理不尽である。
それでも時間は進むもので、その後の授業は何事もなく終了を迎えた。
「おーい、早く帰ろぜ」
帰宅準備をしていると、目の前の席である黒入が声をかけてきた。
「ん?今日は会議は無いのか?」
今日はない、と生返事。
黒入は生徒会に所属している男であり、副会長である。
昼頃の授業中に現を抜かす男だのに副会長である。
まったく侮れない男なのだ。
「よし、帰るか」
手持ちの鞄に教本を詰め込み、帰る準備はできた。
廊下を歩いていると眩しい光が目をくらます。
空はもう赤みがかかっており、太陽はもうすぐに沈むだろう。
外には、部運動部がグランドいっぱいを使い活動している。
廊下にもちらほら生徒が残っている。
黒入と並んで歩いていると、前から一人の少女が歩いてきた。
その瞬間に隣を歩いている黒入から、はあ、と短い溜息が漏れた。
条件反射と言うやつだろうか。
「女王様のお出ましだ」
「誰が!女王様か!」
声を荒げて、威嚇するように二人の目の前にやってきた。