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プロローグ
夜の街。静けさが支配する闇夜。
しかし、その静けさとは裏腹に激闘の末、私を庇った男が目の前にいる。
強烈な一撃を身を挺し、守ったのだ。
ああ、彼はもう助からないのだな……
嫌に冷静な自分がそこには居て、まるで遠くから別の私が見ているかのような感覚に陥る。
私の頬には、目の前にいる彼の血液が数滴ばかり付着していた。
「俺が…俺ができるのは、これくらいだ……」
恐らく瀕死であろう彼が振り絞った言葉だった。
もっと他にするべき事があっただろう!
君には別に守るべきものがあっただろう!
そう、叫びたかったが、声は出ない。
普段の私なら簡単に言えたであろう言葉もその時ばかりは出なかった。
彼の体の中心からは、重い一撃を放った腕がいとも容易く貫通している。
現在は夏。
彼らの上空からは雪が振り落ちる。
まるで彼の命が絶つのを比喩するかのようだった。