運だけ底辺転移冒険者の俺は、ドS魔女の魔法調教でイロイロと目覚めてしまう(序章版)
ーー異世界「アンカールド」 辺境都市スタード 中央広場
「ぐああぁぁぁぁああああああ!!!!」
早朝のスタードの街に、いつもの悲鳴が鳴り響く。
俺のHPが超高速で減っている。全身が燃えるように熱い。
「む、無理だっ! 頼むからやめてくれ、ああああああ!!!」
ただでさえ少ない俺のHPは残り僅かになった。いや、死ぬって!
「ふっふっふ、今日もいい反応だねぇ。もう少し、と言ったところか」
「魔女」は俺を上から涼しげな目で眺めながら嬉しそうにそう言う。
「また朝からこんなことやってんのか、あいつら。頭おかしいんじゃねぇのか?」
「こら、あっちを見ちゃダメよ。ああいう大人になっちゃダメ」
街の人間から、めちゃくちゃ白い目で見られる俺。いや俺だって、ほんとはこんなはずじゃ、うぎゃあぁぁああああああ!!
強い毒で地面をのたうち回っていた俺は、突然全く動けなくなる。「魔女」の放ったバインドの効果だ。てかマジで動けねぇー。ムリだ、殺せー、殺してくれーー!!
しかし、その時間は長くは続かなかった。二つの魔法が同時に切れたのだ。
「ふむ。ポイズンとバインドがすぐに切れたか。いいねえ、今日の実験は大成功だよ。いやぁ、これはいろいろと試し甲斐があるというものだ。じゃあ、また明日と行こうか、マウスちゃん」
「魔女」は嬉しそうにつぶやき、「今日の実験は終わり」と言わんばかりに優雅なステップで宿屋に戻っていく。
ようやく終わった今日の「実験」から解放された俺は、「魔女」が去った1分後に意識を取り戻すと、地面にダラダラと垂らしたよだれを拭ってふらふらと立ち上がる。
「何でだよ。何で俺の異世界生活は、こんなんなんだよ。 異世界転移して、勇者になって、最強で無双するんじゃなかったのかよ!!」
俺、幸村幸夫は、都内の3流高校の2年生、だった。
授業中、いきなり時間が止まったみたいに動けなくなって、気がついたらこの世界、「アンカールド」に来ていた。
そこで待っていたのは、絶世の美女である女神エレクトラ。勇者候補として召還された、と聞いた俺の心は沸き立った。しかも、滅多にないレアスキル2種持ち、と言われたら、期待するしかないよな。
だって勇者だぜ。現実世界でいくらゲームとかで勇者を操ったって、現実じゃ絶対になれるわけない職業だ。当然最強だし、異世界ハーレムも夢じゃないだろ、なんて考えていた時だ。女神エレクトラはいきなり氷のように冷たい顔になった。
「あなたのレアスキルはこの世界では何の役にも立ちません。あなたのような役立たずは、辺境都市スタードにでも落ちて野垂れ死になさい!」
え、と言う間もなく、俺は光り輝く空間から転がり落ちてしまった。
気がつくと、俺は地面に傷だらけで寝ていた。
何とか起き上がった俺は、とりあえずレアスキルの真相を知るべく冒険者ギルドに向かう。
そこでギルドの受付のねーちゃんに告げられた真実は、俺の持ってるレアスキル『剛運』『超運』は、簡単に言うと「運以外のステータスがほとんど上がらない」呪いみたいなスキルだった、ってことだ。マジかよ。
ステータスを見ると、普通のレベル1の冒険者が50はあるというHPがたったの10。犬に噛まれたら瀕死のレベル、らしい。力もないから短剣しか持てないし、防具も最低限しか装備できない。その代わり、運だけ1000と規格外の高さだ。
ところが、この運がまるで使えないステータスらしく、せいぜいお宝が落ちやすくなるぐらいで、戦闘にはほとんど関係しない、らしい。じゃあ何のためにあるんだよ、それ。
あまりの衝撃に動けなくなったけど、ここは異世界。俺はこの世界で生きていかなくちゃいけない。
俺は1人で冒険を行うことなんてできず、しばらくの間日雇いの肉体労働でその日暮らしを強いられた。寝床は馬屋の藁の中。冒険者の中じゃ最低の暮らし、らしい。
そうして1週間が過ぎ、このままじゃ一生この世界でこの暮らしになってしまうと焦った俺は、ギルドのねーちゃんに無理言ってお願いして、有り金を全てはたいてアンカールド中に伝わる高級有料掲示板を使って仲間集めをすることにした。
『パーティーメンバー3人募集! 上級職の強い人だけ希望! 俺は異世界アースから来たレアスキル2個持ちの超運が高いシーフだ!』
受付の巨乳のねーちゃん、アンに笑われたよ。
「シーフで上級職の人希望って、ボーカルしかできない人がめっちゃうまいギターとかベース探すようなもんだって、異世界アースから来た男友達が言ってましたよ~」
俺は屈辱に耐えながら、最高のメンバーが来てくれるのを待った。
すると、何と2日後に、俺宛の連絡が来たとギルドから呼び出しがあった。
「ラックさん、すごいラッキーですよ。まさか、王都から超凄腕の魔法使いが来るなんて。しかも19歳でハイウィッチの女性らしいですよ。何でも、王立魔法大学に主席で合格した方らしいです」
アンが興奮気味に話す。そういや、ここじゃ俺はラック、って呼ばれてるんだよな。みんなあだ名なんだよ、この世界って。
てかマジかよ。やっぱ俺の運最強じゃねぇか!
「あ、もうすぐワープで王都から直接ここに来るそうです。名前は、マジョさん、って言うらしいですよ」
アンがそう言った瞬間、外でブイン、というすごい音がしたかと思うと、ギルドのドアがギィ、という音を立てて開いた。
入ってきたのは、はっきり言ってものすごい美女だ。長く伸びた赤みがかった黒髪、学生服と魔法使いの服が合体したような変な服、四角と三角の変なメガネ。
そして、そんな変な格好でも隠しきれないナイスバディ。
キター!! これだよ、異世界はこうでなくっちゃ。ここから俺のハーレム伝説がスタートするんだよな?
「君がマジョかい? 俺は超レアなレアスキル2種持ちの転移冒険者、ラックだ。これからよろしく」
そう言った瞬間、俺は確かな違和感に気づいた。マジョの目が、イってしまったみたいに大きく見開いている。そして、異常なまでに口角が上がっていた。
明らかに、おかしい。
マジョは俺を上から下までなめ回すような視線で見ると、今度は俺の目を見てそれはそれうれしそうにニッコリと笑った。
「ふうん。君が噂のラックくんかい。これからよろしく頼むよ。ふっふっふ、せいぜい楽しませておくれよ?」
そうして、マジョは一緒に冒険する条件を話し始めた。
「まず、君は今馬小屋に住んでいるらしいが、それは全く心配する必要はないよ。私が養ってあげよう。私の家は大貴族でね、スタードの一番いい部屋に住んでも何てことはないのさ」
何でも、マジョは王都エイガーの大貴族で、王専属の宮廷魔法師長、マジャスティ・マジョルカの1人娘だという。これガチのお嬢様じゃん。
「加えて、君が望むなら、私の力でこの世界で可能なことはどんなことでもかなえて見せよう」
「え、どんなことでもって、例えばこの世界の王になるとか、最強の冒険者になるとか、ハーレム作るとかもできるわけ?」
「ああ。私が本気を出せば、どれでも実現可能だよ。ただし」
マジョの目が怪しく歪む。
「その代わり、条件が一つだけあるんだ」
条件か。当然、あるだろうな。こんなうまい話、タダであるわけないんだから。でも、何てことはない。こんないい話に乗らない手はないからな。
「大丈夫だ。君が一緒に冒険してくれるなら、どんな条件でも飲むよ」
俺はつい、勢いで言ってはいけないことを言ってしまった。それに気づくのは、もう少し先だけど・・・。
「そうかいそうかい。では、毎朝1回、必ず私の実験に協力してくれたまえ」
実験、と聞いて思わず足がすくむ。これだけの好条件だ、何かあるとは思っていたけど、「実験」なんて人に対して使う言葉じゃないよな。
「実験? 実験って何だよ。薬物とかか?」
俺はいかにもマッドサイエンティスト風のマジョから「実験」と言われ、思わず身構える。
「そんな危ないものじゃあないさ。毎朝私の魔法を受けてもらう、ただそれだけだよ」
は? 魔法を受ける? 馬鹿じゃねぇの?
「アホかお前。そんなの死ぬに決まってるだろ! お前ハイウッチだろ? ヤバい魔法で即死するだろうが」
俺の焦りにも、マジョは一切動揺を見せない。
「なぁに、心配はいらないよ。私は妨害魔法専門のハイウイッチだ。命を奪うことなんてありえないよ」
へ? 妨害魔法専門?
「は? 何で妨害魔法しか使わないんだよ。お前なら、攻撃魔法使えば無双できるだろ」
俺は当たり前のことを言ったつもりだったけど、マジョはなんでそんなことを言うんだい、とでも言いたそうな表情をしている。
「攻撃魔法なんて、無粋でつまらないよ。それに、私のレアスキルは、魔力が上がる代わりに妨害魔法しか使えないのさ。さあ、この条件でどうだい?」
マジョの目が怪しく光る。
そういや、妨害魔法はこの世界で弱くて使い物にならないと聞いていた。でも、このマジョは相当な使い手だろう。それを差し引けば、ちょっと我慢するだけで最高の条件なんじゃないか?
「わかった。喜んで受け入れよう。その代わり、最強になって無双してハーレム作るの、よろしく頼むわ」
俺がこう返事した時のマジョの表情を、俺はあれから一度も忘れたことがない。
ちょうど、実験用のマウスでも見るマッドサイエンティストのような、優しくも完全に狂った瞳で見つめられた。
俺がこの選択を後悔したのは、この後すぐだった。でも、これは絶対に逆らえない「契約」だった。
こうして俺は、ドS魔女の魔法調教を毎日受けることになり、イロイロと目覚めるはめになるのだった。
果たして俺は、本当に調教なんかで無双できるのか? 調教されてハーレムなんて可能なのか? その前にドMになってしまいそうで、俺は新たな興奮に震えていた。




