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魔法が使えなくても剣と素手と、あと何か得体の知れない力で俺は勝つ  作者: 佐木凛人
第1章

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4 剣と体術と喧嘩剣法

 遅れるなと言われたから、昨日より早く、夜明けの1時間前に訓練所に着いた。

 副団長はもう来ていた……


「遅い」


「まだ夜です」


「騎士は夜でも訓練だ」


「……そうなんですか」


「知らん」


 この人はなぜたまに適当なことを言うんだろう。


「予め言っておくが、今のお前の剣術を完全に崩すつもりはない」


「それは、どういう――」


「始めるぞ」


 返事をする間もなく木剣を放り投げられた。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

「重心が前すぎる」


 直す。


「力みすぎだ」


 直す。


「また前だ」


 また直す。


 1時間ぐらいだろうか、延々と素振りをしている。

 1つ直すと別の箇所が崩れるが副団長は怒鳴ったりすることなく、淡々と毎回同じ温度で指摘してくる。

 それがかえって怖い。


「……なぜ構えと剣の振りが乖離しているんだ、誰に剣を習った」


「……剣の振り方はカルロスという男に教えてもらいました。構えは……なぜか身体に染み付いていて……」


「……カルロスという男は騎士か」


「違います……」


 副団長は何も言わない。

 それが答えだということはわかった。


「剣というのは身体の使い方だ、上半身だけじゃなく下半身も使え」


 そう言われてから、何百回も振った。

 剣の重さの感じ方が少しだけ変わった気がする。


「……少し変わったか」


「わかるんですか」


「音が違う」


 俺には音の違いはわからなかったが、副団長には聞こえていたらしい。

 カルロスたちから教えてもらった剣は、相手を仕留めるためだけの剣だった、その中で俺の癖が出てきて、見辛く、読みづらい、今の形になった。

 果たして、今の俺の剣と騎士の剣が噛み合う日なんか来るのだろうか。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 昼の全体訓練の時間になって、ようやく他の団員たちが訓練所に集まってきた。

 俺は既に死にかけている。普段の素振りと大きく違ったやり方といつもの倍以上の素振りをこなしたから身体はバキバキで疲労感が常に付き纏う。


「……おい」


 聞き慣れた声の方向に振り向くとギャッドゥが立っていた。

 数日前にぶん殴った右頬には大きな痣ができている。

 気まずい気持ちとこいつに勝ったんだという気持ちが交差する。


「なんだよ」


「お前の……体術……誰から教えてもらったんだ」


 ギャッドゥが言葉に詰まりながらそう言う。


「別に誰かに教えてもらったわけじゃない、見よう見まねでやってたら身についた」


「そうか」


 ギャッドゥはただ一言そう言い、鼻を鳴らし訓練に戻った。

 ……いじめのこと謝ってもらってないな。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 さっきまでの光がいくらか薄れ、あたりに夕暮れの気配が広がり始めた。


「やってみろ」


 全体訓練が終わったから帰ろうとした時、突如副団長からそう言われた。


「……何をですか」


「ギャッドゥ相手にやったことだ。俺に向かってこい、ただし当てるな」

 

 つまり動きを見たいってことだよな。

 俺は踏み込んで副団長の懐に入る動作をゆっくり見せた。


「速くやれ」


 もう一度、今度は実戦の速さで。

 副団長は避けた。それだけだった、組み合いにも何も繋がらなかった。


「俺にはお前の相手はできん」


「……え」


 じゃあなんでやらせたんだとは言えなかった。


「そもそもとして騎士の言う体術とは、体軸をずらすための体当たりや間合いを取るための蹴りなどでお前のそれとは違う、お前のは喧嘩剣法だ」


 喧嘩剣法……いいね

 貶されているようで、なぜか少し誇らしかった。


「よし、今日は終わりだ、朝の訓練は継続する、遅れるなよ」


 副団長が訓練所を出ていく。

 疲れた……また明日あんな早い時間から剣を振るのか……

 そんなことをぼんやりと考えながら訓練所を出ていこうとすると入り口にグレゴールさんが立っていた。


「騎士アーサー、アルドリック領主がお呼びです」


 まじか……でも行かないわけにもいかない。

 グレゴールさんと共に領主館へ向かった。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 領主様の部屋は前回と何も変わらない。暖炉の火、積まれた書類、それから窓際に立つ領主様。


「来たか」


 領主様は窓の外を見たまま、しばらく黙っていた。


「どうだったヴァルド副団長との訓練は」


「……辛かったです」


「それはよかった」


 がははと豪快に笑いながらそう言う。


「ヴァルドは良い男だ、不器用なりにお前のことを考えている」


 一呼吸おいて、領主様が続ける。


「お前を登剣礼の推薦候補に挙げたのはヴァルドだぞ」


「副団長が……ですか」


 意外だった、てっきり領主様が決めたものだと思っていた。


「驚くか」


「……正直」


 領主様がまた笑う。今度は静かな笑い方だった。


「あの男はお前のことを買っている、口には出さんがな」


 副団長がそんなことを思っているとは……

 あの怖い顔からは想像できなかった。


「……俺なんかをなぜ」


「なぜだと思う」


 問い返された。

 少し考えたが答えが出ない。


「ヴァルドはな、騎士の才を見る目だけは確かだ、あの男が買ったということはお前にはそれだけのものがあるということだ」


「……騎士の才とはなんですか」


「さあな、だがヴァルドが選んだ騎士は皆、一流の騎士になってる」


 領主様がゆったりと椅子に背を預ける。

 それから、ふと思い出したかのように口を開いた。


「剣の調子どうだ、今日振ってみて」


「……全然です、下半身が上手く使えていないとのことで……」


「構えは」


 さらっと聞いてきた。

 なぜ構えだけを切り出して聞くのか、少し引っかかった。


「構えだけは……最初からできているらしくて、でも誰かに教えてもらった記憶はないです」


 領主様の顔が、ほんの少しだけ動いた。


「そうか」


 それだけだった。

 何かが詰まっているような気がする、それを聞くために口が勝手に開く。


「……領主様は何か知っているんですか」


 言ってから後悔した、踏み込みすぎてしまったのではと。


「俺が知っていることをいつかお前に話せる日が来るといいな」


 怒っているわけではない、穏やかに笑いながらそう言った。

 だがそれ以上は聞けなかった。


「登剣礼まで4ヶ月ある、今は剣だけに集中しろ」


 立ち上がった領主様が俺の肩に手を置いた。


「お前の剣はお前だけのものになる。俺はそう思っている」


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 館を出て、兵舎に戻る夜道、空には星が出ていた。

 副団長が推薦した。領主様は構えのことを知っている。

 2つのことが頭の中でぐるぐると回っていたが、どちらも答えが出なかった。

 まず強くなれということかもしれなかった。今の俺にできることは、明日も、夜が明ける前に剣を振るということ。

 横になって目を閉じると、今日振った剣の重さがまだ腕に残っていた。それを感じながら、意識が落ちた。

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