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魔法が使えなくても剣と素手と、あと何か得体の知れない力で俺は勝つ  作者: 佐木凛人
第2章

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25 連戦


 膝が石畳についていた。

 息が上がっている。視界がぼやける。左腕の感覚がほとんどない。

 目の前に男が立っている。名前は知らない。ただ強い。

 今日2人目の相手だった。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 話は朝に遡る。

 掲示板に8戦目の組み合わせが貼り出された時、ギャッドゥが黙った。

 俺も黙った。


 アーサー・グレイヴ対ヴェルン・ガース。

 ――連戦あり。勝者は同日中に次戦を行う。


 連戦。同じ日に2試合。

 聞いたことがなかった。冊子にもそんなルールは書いてなかった。


「これ、おかしくないか」


 ギャッドゥが言った。


「おかしいな」


「他の奴にも連戦はあるのか」


 掲示板を見渡した。連戦の表記があるのは俺だけだった。


「……お前だけじゃないか」


 リディアの言葉が蘇った。

 「宮廷側があなたを潰しにかかる可能性がある」

 これがそういうことか。

 格上の相手を当てるだけじゃない。連戦で体力を削る。1戦目で消耗させて、2戦目で潰す。

 棄権する手もあるがそんなことはできるはずがない。


「……行くよ」


「知ってた」


 ギャッドゥが鼻を鳴らした。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 1戦目の相手ヴェルンは、星脈覚醒者だった。

 触れた物の重さを変える星脈。俺の剣が急に重くなったり、地面が足を引っ張るような感覚があった。

 まともに戦えば負けていた。だが星脈の発動にはわずかな間がある。

 ノアから学んだ「ずれの感覚」で、相手が星脈を使うタイミングが微かにわかった。だが完全じゃない。

 でも、避けるには十分だった。

 殴って、蹴って、引きずり倒して勝った。

 ダメージは大してなかったが、星脈で重くされた剣を振り続けたせいで、左腕の筋が悲鳴を上げていた。


「はぁ……はぁ……」


 重くされた足の代償は、疲労という大きなダメージを残した。

 休む間もなく、2戦目が告げられた。


 対戦相手の名前は聞き取れなかった。大柄な男だった。バーツほどではないが、魔法の使い方が巧みだった。

 外殻と攻撃魔法を同時に運用している。レインと同等か、それ以上。

 こんな相手を、消耗した状態で戦わせる。

 これが腐敗か。


 ――そして、冒頭に戻る。


 膝が石畳についていた。

 左腕が使い物にならない。剣を握る右手だけが、まだ動いている。

 観客席から声が聞こえた。


「もう終わりだろ」


「よく1戦目を勝ったよ、それだけで十分だ」


 同情だった。ザレル戦の後と似ている。だがあの時とは違うものが混じっていた。

 何人かの観客が、おかしいと思い始めている。


「なんで連戦なんだ。他の奴はやってないだろ」


「組み合わせ、変じゃないか」


 小さな声だった。だが確かに聞こえた。

 男が踏み込んできた。魔法を纏った剣が振り下ろされる。

 右手一本で受けた。腕が軋む。膝が沈む。

 ここで終わるのか。

 終わるわけにはいかない。

 リディアが言った。「勝つしかないわよ。誰が相手でも」。

 ミラさんが言った。「方向は間違っていない」。

 ノアが言った。「ずれの感覚を覚えておいて」。

 ギャッドゥが言った。「見届けてやる」。

 全部が、この一瞬に集まっている。

 男の剣を受けたまま、体の奥に意識を向けた。

 ずれの感覚。

 あの入口に触れる。ガルド戦で一瞬だけ触れたもの。

 今度は、もう少しだけ長く触れた。

 男の剣が、微かに軌道を逸れた。

 受けていた剣を外して、右手一本で振った。

 騎士の型の踏み込みに、喧嘩剣法の角度を乗せた。

 レイン戦で一瞬だけ繋がったあの感覚が、もう一度来た。

 剣が、男の外殻(シェル)を通った。

 浅い。だが通った。

 男がよろめいた。

 そこへ頭からぶつかる。

 右腕一本で剣を首に当てた。


「そこまで」


 ノアの声だった。

 立会人はノアだった。仕事顔だった。だが声がいつもより硬かった。

 観客席が沸いた。今日一番の歓声だった。


「連戦で勝ちやがった」


「喧嘩騎士、化け物か」


 化け物じゃない。ただ、倒れなかっただけだ。

 立ち上がろうとした。左腕が動かなかった。右腕も震えていた。

 膝が笑っている。視界がまだぼやけている。

 それでも立った。

 闘技場を出る通路で、壁に手をついた。まっすぐ歩けなかった。

 控え室に辿り着く前に、足が止まった。

 壁にもたれて、ずるずると座り込んだ。


「おい! 大丈夫か!」


 ギャッドゥの声が聞こえた。走ってきた足音がした。


「……勝った」


「見てた。馬鹿か」


「馬鹿だな」


 笑おうとしたが、顔が上手く動かなかった。

 左腕が熱かった。腫れ始めている。しばらく剣は振れないかもしれない。

 ノアが通路の向こうに立っていた。私服に着替える前の、制服姿のままだった。仕事顔が崩れていた。何か言いたそうだったが、何も言わなかった。

 ミラさんの姿は見えなかった。

 だがどこかで見ていた気がした。根拠はない。ただ、そう思った。

 ギャッドゥが肩を貸してくれた。控え室まで歩いた。

 壁にもたれて目を閉じた。

 全身が痛かった。特に左腕。

 だが、折れてはいない。腕も、気持ちも。

 まだ、剣は握れる。

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