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魔法が使えなくても剣と素手と、あと何か得体の知れない力で俺は勝つ  作者: 佐木凛人
第2章

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19/29

19 定まらない


 5戦目の朝。

 掲示板の前に立った。


 アーサー・グレイヴ対バーツ・クロウ。


 隣でギャッドゥが腕を組んだ。


「知ってる名前か」


「大柄の男だ。防御型で、外殻が分厚い。力押しで相手を削るやり方らしい」


「お前、いつの間に情報通になったんだ」


「お前が運命の剣を可愛がってる時に観戦してるからな」


 返す言葉がなかった。俺は試合が終わるとすぐ宿に帰って剣の手入れか素振りしかしていない。

 闘技場に向かう道すがら、昨日のミラの言葉が頭を占めていた。

 2つを1つにする。切り替えるんじゃなくて、最初から混ざった状態で振る。

 言葉としては理解できる。だがそれを体でやろうとすると、途端にわからなくなる。

 昨日の素振りでも試した。騎士の剣で振り始めて、途中から喧嘩剣法の崩しを混ぜようとした。結果は滅茶苦茶だった。どっちでもない、ただの手の振りになった。

 今日の試合で試すか。

 いや、試すも何も、やり方がわからないものを試しようがない。

 とりあえず勝つことだけ考えよう。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 闘技場の中央に立つ。兜を着装する。

 対面に立ったバーツは、でかかった。

 横幅がゴードの倍くらいある。大剣を片手で持っていた。もう片方の手は何も持っていなかったが、腕そのものが盾のようだった。

 外殻が見えた。分厚い。セルジやゴードのそれとは密度が違う。あの外殻を殴っても拳が先に壊れる。

 立会人が前に出た。ノアだった。仕事顔。


「武約戦を執り行います。争点は王都登剣礼における点数のみ、よろしいですか」


「ああ」


「ああ」


 誓印が体に広がった。


「始め」


 バーツが前に出てきた。遅い。だが止まらない。

 大剣を横に薙いできた。重い。受けたら終わる。

 横に跳んで避けた。すかさず懐に入ろうとした。

 入れなかった。

 バーツの空いている左腕が壁のように立ちはだかった。押し返された。

 もう一度。今度は騎士の剣で正面から打ち込んだ。

 外殻に弾かれた。手応えがない。硬すぎる。

 喧嘩剣法に切り替えて、足元を狙った。蹴りで崩そうとした。

 びくともしなかった。体重が違いすぎる。

 ――切り替えた。

 その瞬間、ミラの言葉が頭をよぎった。「切り替えている時間が隙になる」。

 わかっている。わかっているが、他にやり方を知らない。

 バーツの大剣が振り下ろされた。横に跳んで避けた。石畳が砕ける音がした。

 あれに当たったら試合どころじゃない。

 距離を取った。考えろ。

 力で勝てない。防御を貫けない。近づけない。

 フェイ戦と同じだ。選択肢がない。

 ならフェイ戦と同じことをすればいい。

 選択肢がないなら、正面から行くしかない。

 走った。バーツの大剣が横に来た。しゃがんで回避し、そのまま勢いで懐に潜る。

 外殻の上から、腹に頭突きをした。

 効いてない。だがバーツが一歩だけ後退した。反動だけだ。

 構わず密着した。この距離なら大剣は振れない。

 殴った。外殻が硬い。拳が痛むが構わず殴った。

 1発、2発、3発。

 ゴード戦で学んだ。外殻越しでも打撃を重ねれば衝撃は蓄積する。

 4発目でバーツの体が微かに揺れた。

 そこへ膝を入れた。足を払おうとした。重すぎて払えなかった。

 なら上だ。

 バーツの首に腕を回して、全体重で引き倒した。こういう倒し方をした覚えは今までないが、体が勝手に動いた。

 巨体がゆっくりと傾いて、地面に倒れた。

 すかさず剣を首に当てた。


「そこまで」


 ノアの声が響いた。

 観客席から歓声が上がった。今までで一番大きかった。


「おい、あのでかいのを引きずり倒したぞ」


「魔法なしの喧嘩騎士、勝ったか」


「喧嘩騎士って呼ばれてんのか俺」


 まあ否定はできない。

 立ち上がった。拳が赤く腫れていた。頭突きした額もじんじんする。全身が痛い。

 勝った。だが勝ち方は相変わらず泥臭い。

 騎士の剣で切り込んで、通用しなくて、喧嘩剣法に切り替えて、殴って蹴って引きずり倒した。

 2つを切り替えただけだ。1つにはなっていない。

 ザレルに同じことをやっても、また一手遅れて終わる。

 勝ったのに、手応えがなかった。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 控え室に向かう通路で、後ろから声がかかった。

 ミラかと思って振り返ったら、違った。

 若い女だった。俺と同じくらいの年齢。

 仕立ての良い服を着ていて、髪は綺麗に整えられていた。だが表情に柔らかさはなかった。こちらを値踏みするような、あるいは見下すような目だった。

 後ろに侍女らしき女性が一人控えている。


「あなたがエルドラムの騎士ね」


「……そうですが」


「随分と野蛮な戦い方をするのね。頭突きに、殴り合い。騎士というよりただの喧嘩よ」


 言い返す気力がなかった。否定できないので。


「でも、面白い。観ていて飽きない」


 言葉の温度が変わらなかった。褒めているのか貶しているのか判断がつかない。


「リディア・ヴァレン。覚えておいて」


 それだけ言って、侍女を伴って去っていった。

 また名前だけ言い捨てていく人間が増えた。王都の人間はみんなこうなのか。


 控え室にギャッドゥが待っていた。


「また誰かに絡まれたのか」


「そんな顔してるか」


「してる」


 壁にもたれて座り込んだ。拳の腫れを見ながら、考えていた。

 ゴードには殴って勝った。セルジには切り替えて勝った。フェイには走って勝った。バーツには引きずり倒して勝った。

 全部、勝ち方が違う。だが全部、その場しのぎだ。

 毎回、相手に合わせて戦い方を変えているだけで、「俺の剣」が確立されていない。

 ザレルには「俺の剣」があった。一つの剣で全部を制していた。

 ミラの言う「2つを1つにする」というのは、そういうことなのかもしれない。

 考えているうちに、控え室の入口の向こうに白い髪が一瞬だけ見えた気がした。

 立ち上がって出てみたが、もう誰もいなかった。

 いたのかいなかったのか。見間違いかもしれない。

 だが不思議と、見られていた方がいい気がした。

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