表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が使えなくても剣と素手と、あと何か得体の知れない力で俺は勝つ  作者: 佐木凛人
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/29

18 混ざらない剣


 朝が来ていた。

 目は覚めていたが、起き上がる気にならなかった。

 天井を見ていた。無駄に高い天井だった。

 ギャッドゥはもう起きていて、ベッドの端に座って防具の手入れをしていた。

 俺もいつの間にか剣を手に取っていた。

 一昨日と同じように手入れをしている。だが一昨日と同じ気持ちではなかった。

 あの時は嬉しくて触っていた。今はただ、手を動かしていないと何かが止まってしまう気がして触っている。

 しばらく二人とも黙っていた。


「強かったか」


 ギャッドゥが言った。防具から目を離さずに。


「ああ」


「どのくらい」


「……何もできなかった」


 ギャッドゥの手が一瞬だけ止まった。それからまた動き始めた。


「お前がそう言うのは初めてだな」


 そうかもしれない。ゴードにもセルジにもフェイにも、何かしらのやりようは見えていた。

 ザレルには何も見えなかった。

 ギャッドゥは何も聞かなかったし、俺もそれ以上何も言わなかった。


「出かける」


「どこに」


「わからない」


 ギャッドゥが少しだけ呆れた顔をした。だが何も言わなかった。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 宿を出て、当てもなく歩いた。

 前回は西の市場に向かって迷子になった。今回は方角すら決めていない。

 気がつくと闘技場の裏手に来ていた。

 無意識に足が向いたらしい。試合がない日の闘技場は人気がなく、石畳の広場がだだっ広く空いていた。

 剣を抜いた。

 素振りを始めた。副団長に叩き込まれた型で振る。

 振るたびに昨日の感覚が蘇る。

 ザレルの剣が、ただそこにあった感覚。何をやっても一手遅かった感覚。

 喧嘩剣法に切り替えた。

 振っても振っても、昨日の答えが出ない。

 混ぜた。騎士の剣と喧嘩剣法を。ザレルに「混ざってるだけで統合されてない」と言われたやり方で。

 当然、何も変わらなかった。変わるわけがない。昨日と同じことを繰り返しているだけだ。

 それでも剣を止められなかった。止めたら、昨日の負けを認めて終わりになる気がした。

 何十回、何百回か振った頃、腕が重くなってきた。昨日の脇腹の痛みが戻ってきていた。肩の火傷も疼いている。

 構わず振った。

 剣を振り下ろした瞬間、あの感覚を探した。ルーカスさんが死んだ時に出た、あの力を。

 体の奥に手を伸ばした。

 何もなかった。

 思い出すことはできる。だが再現できない。あれは意志で引き出したものじゃなかった。もっと切実で、もっと取り返しのつかない何かで動いたものだった。

 結局、俺は昨日と同じだった。

 剣を下ろし、石畳に座り込んだ。息が上がっていた。汗が目に入った。


「随分と雑な振り方をするのね」


 声がした。

 振り返ると、女が立っていた。

 白色の長い髪。冷たい表情。整った顔立ち。

 見覚えがあった。初戦の後、観客席で目が合った女だ。

 あの時は遠くにいた。今は近い。近くで見ると、冷たさの奥に鋭さがあった。


「……あなたは」


「ミラ・ヴェスト」


 それだけだった。

 俺が次の言葉を待っていると、ミラは俺ではなく、俺の隣に転がっている剣を見た。それから俺の腕を見て、足を見て、最後に目を見た。


「君が昨日ザレルに負けた騎士ね」


「……ああ」


「3戦目まで見ていた。魔法なしで勝ち上がる戦い方は珍しい」


 褒めているわけではなかった。事実を述べているだけの声だった。


「だが、ザレルに通用しなかった理由もわかる」


「……聞いてもいいですか」


「君の剣は2つある。騎士の型と、崩しの剣。それを切り替えて使っている」


「……」


「切り替えている時間が隙になる。どちらを出すか迷う瞬間が、そのまま遅れになる。ザレルのような相手にはそれで終わり」


 昨日、ザレルに言われたことと同じだった。

 悔しかったが、反論できなかった。


「どうすれば」


 気づいたら聞いていた。座り込んだまま、見上げるようにして。


「2つを1つにする。切り替えるんじゃなくて、最初から混ざった状態で振る」


 言葉にすれば一言だった。だがその一言の意味がどれだけ重いか、4ヶ月副団長の下で剣を振った俺にはわかった。


「もう一つ」


 ミラの目が少し変わった。冷たさの中に、何か別のものが混じった。


「星脈が覚醒しているのに、全く制御できていない」


 ノアと同じことを言われた。

 やはり、わかる人間にはわかるらしい。


「フェイとの試合で一瞬だけ出ていた。あれが制御できれば、剣の統合も早くなる」


「……なぜそこまでわかるんですか」


「私も覚醒者だから」


 さらりと言った。

 見た目からは何も感じなかった。だがこの人が覚醒者だと聞いて、妙に納得してしまった。あの冷たさの奥にある鋭さは、才能や経験だけでは説明できないものだった。


「君に興味がある。魔法なしで戦うやり方も、未制御の星脈も、私にとっては見たことがない」


 それだけ言って、ミラは背を向けた。


「待ってください」


「何」


「……名前を覚えてもらえますか。アーサー・グレイヴです」


「知っている。兜の騎士は嫌でも目立つ」


 振り返りもせずにそう言って、ミラは去っていった。

 一人残された。

 石畳はまだ冷たかった。座り込んだまま、空を見上げた。

 2つを1つにする。星脈を制御する。

 どちらもやり方がわからない。

 でも、昨日は何が駄目なのかすらわからなかった。

 少なくとも今日は、何が足りないかを突きつけられた。

 突きつけられただけで、何も解決していない。

 それでも、剣を拾い上げる手は、さっきより少しだけ軽かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ