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魔法が使えなくても剣と素手と、あと何か得体の知れない力で俺は勝つ  作者: 佐木凛人
第2章

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16/31

16 焼かれながら、前へ

 16

 昨日は、武約戦がなく、疲れていなかったからか、早い時間に起きてしまった。

 ギャッドゥはまだ寝息をたてている。よくよく考えたら同部屋なのはおかしい。

 無名の騎士だからか?

 小領地からきた田舎者だからか?

 今更になって文句が溢れてくる。

 こんな気分じゃ、二度寝はできそうにない。

 ふと、昨日貰った剣を見る。昨日、ここに戻ってきてから長い時間ずっと、それこそ眠る直前まで手入れしていた。

 ギャッドゥは口では何も言わなかったが、目が「いつまで手入れしてんだ」という目をしていた。自分でもわからないぐらいこの剣に惹かれてしまっている。

 ギャッドゥの方を見る。相変わらず寝息をたてている。

 この感じならちょっとやそっとの物音では起きないだろう。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 今日は3戦目。

 フェイ・ロスという名前を聞いたとき、ギャッドゥが珍しく顔を曇らせた。

 

「魔法特化型だ。剣はほとんど使わない。遠距離から魔法だけで戦う」

 

「どんな魔法だ」

 

「炎と風の複合らしい。近づく前に削ってくる戦い方だ」

 

 俺は少し考えた。外殻なし、魔法なし。遠距離から削られ続ければ普通に死ぬ。

 

「まあ、なんとかなるだろ」

 

「根拠は」

 

「この剣がある」

 

 ギャッドゥが呆れた顔をした。


「……俺が寝ている時の手入れはだけはやめてくれ」


 結局、俺は朝の時間を剣の手入れに充てた。

 手入れの途中にギャッドゥが起きて俺を見た瞬間に悲鳴をあげた。なんでも、気持ち悪いにやけ顔で剣を握っていたから、殺されると思い、悲鳴をあげてしまったらしい。

 かわいいところもあるんだなと思った。


「さて、行くか」


「……頑張れよ」


「ん? なんか言ったか」


「剣が折れないようにしろよ」


 この剣が折れるはずがない、と言い返したかったが時間が迫っているため、手で返事をして、闘技場に繋がる通路を歩く。

 闘技場の中央に立つ。兜を着装する。

 対面のフェイ・ロスは細身の女だった。剣を持っていなかった。

 両手を軽く開いて、こちらを見ていた。

 その目が、品定めではなく計算していた。距離を測っている。

 立会人が前に出た。ノアだった。無表情の仕事顔だった。

 

「武約戦を執り行います。争点は王都登剣礼における点数のみ、よろしいですか」

 

「ああ」

 

「はい」

 

 誓印が体に広がった。

 

「始め」

 

 フェイが動いた。後退しながら右手を掲げた。炎が生まれた。

 速い。

 剣とは違う距離からの攻撃。

 熱が顔を掠めた。外殻がない俺に直撃すれば終わりだ。

 また炎が来た。今度は2発同時だった。左に跳んで1発躱したが、2発目は受けざるを得ない。

 右腕で2発目を弾いた。鎧がチリチリと音を立てて焦げる。熱くて、思わず右手を振るが意味がない。

 

「外殻もないのに避けるか」

 

 観客席から声が飛んだ。

 距離を詰めようとした。

 風魔法が足元を薙いだ。体勢が崩れ、地面に手をついてしまった。追撃の炎が俺を燃やそうと向かってくる。

 横に転がるようにして躱した。

 地面に手をついたまま一瞬止まった。

 まずい。

 このやり方で負けるのも時間の問題だ。

 剣は届かない。魔法は使えない。ならどうする。

 いや、俺には選択肢なんてない、ただ近づくしかない。

 俺は正面から走った。回避をやめた。炎が来た。肩で受けた。鎧が焦げて熱が通る。痛みに耐えながら、構わず走った。

 風が足を掠めた。今度は倒れずによろめきながら走った。

 もう1発炎が来た。腕で防いだ。

 フェイの目が変わった。

 届いた。剣の間合いに入った。

 剣を振る。フェイが後退し、魔法を使おうとした。

 その腕を掴んだ。引き寄せて、足を払った。地面に倒れたところへ剣を首に当てた。

 

「そこまで」

 

 ノアの声が響いた。

 観客席が沸いた。今までで一番大きな反応だった。歓声ではなかったが、明らかに違った。

 

「おい、魔法なしで魔法使いに勝ったぞ」

 

「あいつ本物じゃないか」

 

「賭けて損した、いや次は賭けてみるか」

 

 俺は剣を収めた。肩と腕が焦げていた。

 まだ脇腹の腫れも完治していないのに新たな傷が増えてしまった。

 早く帰ろう。

 いそいそと闘技場から退場し、控え室に向かおうとしたとき、後ろから声がかかった。

 

「ちょっと待って」

 

 ノアだった。立会人をしている時の大人びた顔ではなく。子供のような顔になっていた。

 

「なんですか」

 

「さっきの試合、見てたんだけど」

 

「立会人だから当然では」

 

「そうじゃなくて」

 

 ノアが一歩近づいた。目が真剣だった。普段と違う目だった。

 

「星脈、出てたよ。炎を腕で防いだ瞬間。ほんの一瞬だけど」

 

 俺は黙った。

 

「説明してあげようか。星脈のこと」

 

 断る理由がなかった。俺は頷いた。

 ノアが話し始めた。126年前に最初の覚醒者が発見されたこと。

 魔法とは根本的に違う力であること。

 外的な補助をする魔法に対して、星脈は内包的な力で他者への感覚のズレなどを促すものであること。

 

「覚醒する条件は」

 

「死の淵か、何物にも変え難い覚悟をした瞬間。だから戦いに携わる者に多い」

 

 ルーカスさんが死んだあの瞬間が頭をよぎった。何も言わなかった。

 

「種類は星の数ほどある。同じ能力を持つ覚醒者は2人として存在しない。あと、覚醒者が死んだらその能力は新たな覚醒者に宿るまではなくなるわけ」

 

 それは初めて聞く話だった。

 ノアが話し終えて、少し間があった。それからいつもの顔に戻った。

 

「あなたの星脈、面白い種類だと思う」

 

「どういう意味ですか」

 

「さあ」

 

 それだけ言ってノアは歩いていった。

 なんであんなに星脈に詳しいんだ?

 そんな疑問を抱え俺は一人、廊下に立ったままでいた。焦げた肩がまだ痛かった。

 面白い種類、という言葉が頭に残った。

 意味は、まだわからなかった。

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