14 外れ枠
1戦目が終わった後は誰の武約戦を見ることもなく、すぐに自分の宿に帰り、寝床についた。
2戦目の組み合わせが発表されたのは翌朝だった。
アーサー・グレイヴ対セルジ・ヴァン。
当たり前だが、名前を見てもわからなかった。誰だそれは。
控え室で確認すると、ギャッドゥが壁にもたれたまま言った。
「有名な剣術の使い手らしい。魔法はほとんど使わない。剣一本で勝ち上がってきた奴だ」
「どこで仕入れた情報だ」
「昨日の試合を観戦してた。お前も見ておけばよかったのに」
それもそうだが、昨日は疲れてさっさと寝た。まあいい。剣一本の使い手か、副団長との訓練の成果を出せるかな。
闘技場に向かう廊下で、賭けの声が外から聞こえてきた。
「エルドラムの魔法なし、今日も出るぞ」
「昨日のまぐれが続くと思うか?」
「賭けてみる価値はあるだろ。倍率がまだ高い」
俺の話をしているらしかった。倍率が高いということは、まだ負けると思われているということだ。
自分に賭けるのは駄目なのかな。ギャッドゥあたりに聞いてみるか。
そんなことを考えながら闘技場の中央に立ち、兜を着装する。
観客席からまた笑い声が起きた。昨日と同じだ。もう慣れた。
対面に立ったセルジという男を見た。長身で、腕が長い。
剣の構えが低かった。重心が安定している。昨日のゴードとは明らかに違う。
立会人が前に出た。
昨日と同じ顔だった。戦律官の紋章。無表情。落ち着いた声。
「武約戦を執り行います。争点は王都登剣礼における点数のみ、よろしいですか」
「ああ」
「問題ない」
誓印が体に広がった。
「始め」
セルジは動かなかった。
俺が踏み込むのを待っている。誘っている。こういう相手は厄介だ。踏み込めば先に刃が届く。そういう距離の取り方だ。
俺も動かなかった。
数秒、沈黙があった。
「おい、何してんだ、早く動けよ」
そんな観客からの声を皮切りに観客席がざわめきだす。
セルジが動いた。速かった。剣が横に薙いできた。長い腕からの一撃で、思ったより間合いが広い。後退してかろうじて躱した。
続けて縦に振り下ろしてきた。横に跳んで避けた。
重い風切り音が耳を掠める。純粋な剣術だけでこれだけ重いのか。
距離を詰めようとした。セルジが剣先で牽制してくる。入れない。
懐に入ればこちらの土俵だが、その前に剣先が来る。
三合、四合と続いた。俺の動きが読まれていた。喧嘩剣法の崩しを全部外側に流された。
こいつ、対策してやがる。
昨日の試合を見ていたのか。それとも情報を仕入れたのか。どちらでもいい。対策されたなら別のやり方をすればいいだけだ。
俺は剣の動きを変えた。
喧嘩剣法を捨てた。副団長に叩き込まれた騎士の剣で攻めた。
セルジが一瞬だけ戸惑った。読んでいた動きと違うからだ。
その隙に半歩踏み込んだ。剣がぶつかり、乾いた金属音が闘技場に響き渡る。
鍔迫り合いになった。
力勝負では負けている。押し込まれる。
そこで剣を思いっきり引き込みセルジを近づける。
腹に向かって膝を入れるが、当然のごとく、外殻があるため、大きなダメージにはならない。
なら――
セルジの剣が俺の脇腹を目掛けて振ってくるが、構わず上から叩き切る形でセルジに振り下ろす。
「ぐっ……」
セルジの剣は俺の脇腹を切りつけている。鎧を着ているとはいえ、外殻なしの俺には大きなダメージだが、近い距離、短い横振りだったおかげで倒れずにいる。
「がっ……」
セルジがよろめいた。
そこへ剣を首に当てた。
「そこまで」
立会人の声が響いた。
今度は少し間があってから、拍手が起きた。昨日より少し大きかった。
歓声ではない。ただ、昨日より確かに大きかった。
「おい、本物じゃないか」
「魔法なしで二連勝か」
「賭けて損した」
「次は賭けてみるか」
声が変わっていた。
侮りではなく、品定めする声になっていた。賭けの対象として認識され始めている。あまり嬉しくないが、まあいい。
立会人と目が合った。
昨日と同じ無表情だった。ただ昨日と違って、少し長く目が合った。
「お疲れ様です」
控え室に向かおうとしたとき、後ろから声がかかった。
「ねえちょっと待って」
振り返ると、立会人が立っていた。さっきまでの無表情が消えていた。眉を寄せて、少し口を尖らせていた。
「なんですか」
「変わった戦い方するね、魔法も使えないのに。いや、魔法が使えないからそんな戦い方するのかぁ?」
「……ま、まあそうですね」
「それに、それに、星脈持ちでしょ」
俺は黙った。何を言っているんだこの人は。さっきまで完璧に職務をこなしていたのに。
それに、なんで星脈のことばれたんだ?
「あー、言わないか。まあいいや。でも面白いね、あなた」
「……あなたは戦律官ですよね」
「そうだよ。ノア・フェル。一応中堅の戦律官やらしてもらってまーす」
「一応って何ですか」
「本当のことだから」
悪びれる様子が全くなかった。
「さっきまでと全然違う顔をしてますが」
「仕事中だったから。今は仕事終わり」
「立会人の仕事は終わったんですか」
「次の試合は別の人がやるから大丈夫。それより、あなたの次の試合いつ? 見に行くから教えて」
「知りません」
「えー」
「掲示板を見てください」
「めんどくさい」
俺は踵を返した。背後でノアが「あ、行っちゃった」と言っていた。
控え室に戻ると、ギャッドゥが待っていた。
「また観客席で何か見てたのか」
「戦律官に絡まれた」
「戦律官に?」
「説明が面倒だ」
ギャッドゥが首を傾げた。俺も首を傾げたかった。
王都の二戦目は、よくわからない後味で終わった。




