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魔法が使えなくても剣と素手と、あと何か得体の知れない力で俺は勝つ  作者: 佐木凛人
第2章

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14/31

14 外れ枠


 1戦目が終わった後は誰の武約戦を見ることもなく、すぐに自分の宿に帰り、寝床についた。

 2戦目の組み合わせが発表されたのは翌朝だった。

 

 アーサー・グレイヴ対セルジ・ヴァン。

 

 当たり前だが、名前を見てもわからなかった。誰だそれは。

 控え室で確認すると、ギャッドゥが壁にもたれたまま言った。

 

「有名な剣術の使い手らしい。魔法はほとんど使わない。剣一本で勝ち上がってきた奴だ」

 

「どこで仕入れた情報だ」

 

「昨日の試合を観戦してた。お前も見ておけばよかったのに」

 

 それもそうだが、昨日は疲れてさっさと寝た。まあいい。剣一本の使い手か、副団長との訓練の成果を出せるかな。

 闘技場に向かう廊下で、賭けの声が外から聞こえてきた。

 

「エルドラムの魔法なし、今日も出るぞ」

 

「昨日のまぐれが続くと思うか?」

 

「賭けてみる価値はあるだろ。倍率がまだ高い」

 

 俺の話をしているらしかった。倍率が高いということは、まだ負けると思われているということだ。

 自分に賭けるのは駄目なのかな。ギャッドゥあたりに聞いてみるか。

 そんなことを考えながら闘技場の中央に立ち、兜を着装する。

 観客席からまた笑い声が起きた。昨日と同じだ。もう慣れた。

 対面に立ったセルジという男を見た。長身で、腕が長い。

 剣の構えが低かった。重心が安定している。昨日のゴードとは明らかに違う。

 立会人が前に出た。

 昨日と同じ顔だった。戦律官の紋章。無表情。落ち着いた声。

 

「武約戦を執り行います。争点は王都登剣礼における点数のみ、よろしいですか」

 

「ああ」

 

「問題ない」

 

 誓印が体に広がった。

 

「始め」

 

 セルジは動かなかった。

 俺が踏み込むのを待っている。誘っている。こういう相手は厄介だ。踏み込めば先に刃が届く。そういう距離の取り方だ。

 俺も動かなかった。

 数秒、沈黙があった。


「おい、何してんだ、早く動けよ」


 そんな観客からの声を皮切りに観客席がざわめきだす。

 セルジが動いた。速かった。剣が横に薙いできた。長い腕からの一撃で、思ったより間合いが広い。後退してかろうじて躱した。

 続けて縦に振り下ろしてきた。横に跳んで避けた。

 重い風切り音が耳を掠める。純粋な剣術だけでこれだけ重いのか。

 距離を詰めようとした。セルジが剣先で牽制してくる。入れない。

 懐に入ればこちらの土俵だが、その前に剣先が来る。

 三合、四合と続いた。俺の動きが読まれていた。喧嘩剣法の崩しを全部外側に流された。

 こいつ、対策してやがる。

 昨日の試合を見ていたのか。それとも情報を仕入れたのか。どちらでもいい。対策されたなら別のやり方をすればいいだけだ。

 俺は剣の動きを変えた。

 喧嘩剣法を捨てた。副団長に叩き込まれた騎士の剣で攻めた。

 セルジが一瞬だけ戸惑った。読んでいた動きと違うからだ。

 その隙に半歩踏み込んだ。剣がぶつかり、乾いた金属音が闘技場に響き渡る。

 鍔迫り合いになった。

 力勝負では負けている。押し込まれる。

 そこで剣を思いっきり引き込みセルジを近づける。

 腹に向かって膝を入れるが、当然のごとく、外殻(シェル)があるため、大きなダメージにはならない。

 なら――

 セルジの剣が俺の脇腹を目掛けて振ってくるが、構わず上から叩き切る形でセルジに振り下ろす。


「ぐっ……」


 セルジの剣は俺の脇腹を切りつけている。鎧を着ているとはいえ、外殻(シェル)なしの俺には大きなダメージだが、近い距離、短い横振りだったおかげで倒れずにいる。


「がっ……」


 セルジがよろめいた。

 そこへ剣を首に当てた。

 

「そこまで」

 

 立会人の声が響いた。

 今度は少し間があってから、拍手が起きた。昨日より少し大きかった。

 歓声ではない。ただ、昨日より確かに大きかった。

 

「おい、本物じゃないか」

 

「魔法なしで二連勝か」

 

「賭けて損した」

 

「次は賭けてみるか」

 

 声が変わっていた。

 侮りではなく、品定めする声になっていた。賭けの対象として認識され始めている。あまり嬉しくないが、まあいい。

 立会人と目が合った。

 昨日と同じ無表情だった。ただ昨日と違って、少し長く目が合った。

 

「お疲れ様です」


 控え室に向かおうとしたとき、後ろから声がかかった。

 

「ねえちょっと待って」

 

 振り返ると、立会人が立っていた。さっきまでの無表情が消えていた。眉を寄せて、少し口を尖らせていた。

 

「なんですか」

 

「変わった戦い方するね、魔法も使えないのに。いや、魔法が使えないからそんな戦い方するのかぁ?」

 

「……ま、まあそうですね」

 

「それに、それに、星脈持ちでしょ」

 

 俺は黙った。何を言っているんだこの人は。さっきまで完璧に職務をこなしていたのに。

 それに、なんで星脈のことばれたんだ?

 

「あー、言わないか。まあいいや。でも面白いね、あなた」

 

「……あなたは戦律官ですよね」

 

「そうだよ。ノア・フェル。一応中堅の戦律官やらしてもらってまーす」

 

「一応って何ですか」

 

「本当のことだから」

 

 悪びれる様子が全くなかった。

 

「さっきまでと全然違う顔をしてますが」

 

「仕事中だったから。今は仕事終わり」

 

「立会人の仕事は終わったんですか」

 

「次の試合は別の人がやるから大丈夫。それより、あなたの次の試合いつ? 見に行くから教えて」

 

「知りません」

 

「えー」

 

「掲示板を見てください」

 

「めんどくさい」

 

 俺は踵を返した。背後でノアが「あ、行っちゃった」と言っていた。

 控え室に戻ると、ギャッドゥが待っていた。

 

「また観客席で何か見てたのか」

 

「戦律官に絡まれた」

 

「戦律官に?」

 

「説明が面倒だ」

 

 ギャッドゥが首を傾げた。俺も首を傾げたかった。

 王都の二戦目は、よくわからない後味で終わった。

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