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魔法が使えなくても剣と素手と、あと何か得体の知れない力で俺は勝つ  作者: 佐木凛人
第2章

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13/30

13 開幕戦


 開会式は朝から始まった。

 闘技場に足を踏み入れた瞬間、その大きさに言葉を失った。

 円形の石造りの建物で、観客席が何層にも重なっていた。

 収容できる人数がエルドラムの人口を軽く超えていそうだった。

 そしてすでに、その席が埋まりつつあった。

 

「でかいな」

 

 隣でギャッドゥが言った。

 

「ああ」

 

 俺も同じことしか言えなかった。

 観客席から声が飛んでいた。

 怒鳴り声ではなく、値を告げる声だった。

 賭けだ、とすぐにわかった。参加者の名前と数字が飛び交っていた。

 人間の戦いを金に換える声が、開会式の朝からこれだけ響いている。


「お前の倍率すごかったぞ」


 ギャッドゥが横目で言う。


「まじ?」


「高すぎてな」


「もう一回殴ってやろうか?」


 そもそも、聞いてない。王都登剣礼が賭けごとのイベントだということを。

 てっきり、もっと真面目で気品があるものだと思ってた。

 良くも悪くもこれが王都だ、と思った。エルドラムとは全然違う。

 参加者が壇上に整列した。全部で三十名ほどいた。年齢は様々だったが、全員体格が良く、目つきが鋭かった。

 俺は壇上から観客席を見渡した。

 あの人数が全員こちらを見ている。品定めするような目で。

 

「エルドラムから来た魔法なしか」


 観客席から、そんな声が聞こえた。声の主はわからない。

 なんだ? そんなことまでばれてるのか。

 昨日会ったいじめっ子……確かレインとかいう騎士には魔法が使えないことはばれてなかったはず……

 

「どうせ潰されて田舎に帰るだろ」

 

 笑い声が混じった。まあ、可能性はあるな、と思った。

 俺は前を向いた。ただここがどういう場所か、骨身に染みた。

 壇上の端にレインが立っていた。

 こちらを見ていて、目が合った。

 レインは小さく鼻で笑って、視線を外した。

 開会式が終わった。最初の武約戦の組み合わせが発表された。

 

 アーサー・グレイヴ対ゴード・ハイン。


 わあ、いきなり俺か。

 闘技場の中央に立つ。

 観客の視線が一気に集まった。重さのある視線だった。

 エルドラムの関所での武約戦とは比べ物にならない。

 左腕に抱えていた、兜を着装する。


「おい、あいつ本当に魔法使えないんだな」


「今時、兜って」


 観客席から笑い声、呆れたような声。

 ほんの一瞬、手の感覚を確かめる。問題ない。

 対面に立った男を見た。ゴードと呼ばれた男は中背で、魔法の外殻(シェル)を纏っていた。

 剣の構えは標準的だった。強くないとは言わない。ただ、読める。

 立会人が前に出た。

 若い女だった。俺と同じくらいの年齢か、少し下だろうか。

 戦律官の紋章を胸につけていた。こちらを一瞥して、それから相手を見た。表情が全くなかった。

 

「武約戦を執り行います。争点は王都登剣礼における、点数のみ、よろしいですか?」


「……ああ」


「はい」

 

 声が通った。落ち着いた声だった。年齢に似合わない声だ、と思った。

 誓印の感覚が体に広がった。

 

「始め」

 

 ゴードが踏み込んできた。

 剣に魔法が掛かっている。魔法の補助が入っている分、純粋な剣術より重さがある。

 ――受けない。

 最初からその選択肢はない。

 流す。

 相手の勢いを殺さず、横に逃す。

 踏み込みをずらし、体を入れ替えた。

 一歩遅れてれば、まともに喰らって、負けるどころ致命傷だったであろう。

 ゴードの背中が一瞬だけ空いた。

 柄頭を叩き込むか……いや、試してみるか。

 鈍い音。

 俺は空いた背中に蹴りを入れる。外殻(シェル)があるからダメージはあまり入ってないと思うが、試してみる価値はあるはずだ。

 ゴードは驚きの表情を浮かべながらこちらに振り返る。

 振り返った顔に向かって今度は殴りつける。


「くっ……」


 ゴードが顔を歪め、距離を取ろうとする。

 腕を掴み、引き寄せ、頭突きをする。

 ゴードはふらふらと身体が右に左にと泳ぐ。

 そこへゴードの顔を殴るとゴードは地面に倒れた。

 剣を首に当てた。

 4発ね。4発で外殻(シェル)越しでも俺のやり方(喧嘩剣法)は通用する。

 

「そこまで」

 

 立会人の声が響いた。

 ……静寂。

 間があり。それから、ぱらぱらと拍手が起きる。

 雨が降り始めるような音だった。

 それだけだった。歓声はなかった。

 

「なんだあの戦い方」

 

「外殻もなしか」

 

「まぐれじゃないか」


「おいおい、負けちまったよ」

 

 声が飛んだ。感心しているのか、疑っているのか、どちらとも取れる声だった。

 ただ間違いなく言えるのは賭けに負けた者がいるということ。ざまあみろ。

 俺は剣を収めた。まぐれじゃない、と言う気にはなれなかった。

 どうせ続きを見ればわかる。

 立会人と目が合った。何かを確認するような目だった。

 ――その一瞬だけ、僅かに眉が動いた気がした。

 

「お疲れ様です」

 

 それだけ言って、立会人は次の試合の準備に移った。

 いつのまにか、ゴードという男は立ち去っていた。


「俺も出ていいのかな?」


 出ていいのかわからない不安からか思わず独り言を呟く。

 出る前に賭けに負けた奴らの顔でも見てから出るか。

 そう思い、観客席を見上げると。

 観客席の一角で、一人の女性と目が合う。

 年齢は俺より少し上ぐらい、白色の長い髪と表情からわかる冷たさ。だが顔立ちはとても整っており、目が離せない。兜を被っているおかげでおそらく目線はばれてないはず。だが不思議とずっと目が合っている。


「いつまで突っ立ってるんだ。早くでてけよ」


 どうやら長い時間見つめ合ってたらしい。観客席からの言葉にハッとし、控え室に戻ると、ギャッドゥが壁にもたれて待っていた。


「観客席で何を見てたんだ?」


「……」


「まあ、いい。それより勝てたな。」

 

「ああ」

 

「拍手がしょぼかったな」

 

「そうだな」


 少し間があった。

「まあ」とギャッドゥが言った。「続ければわかるだろ」

 俺と同じことを思っていたらしかった。それがなんとなく可笑しくて、俺は小さく笑った。ギャッドゥも少し笑った。


「それより、いじめたこ謝っ――」


「それじゃ、俺には俺の戦いがあるから」

 

 王都の最初の試合は、そうして終わった。

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