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魔法が使えなくても剣と素手と、あと何か得体の知れない力で俺は勝つ  作者: 佐木凛人
第1章

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11 次の場所へ

 ルーカスさんが死んで、1日が経った。

 団舎の空気は変わっていた。誰もが普通に動いていた。訓練をして、飯を食って、当番をこなしていた。

 それが余計に、変だった。

 世界がいつも通りに動いているという事実が、胸に引っかかり続けていた。

 俺は朝の訓練を終えた後、一人で訓練場に残っていた。

 剣を握り、素振りをした。体はいつも通り動き、今までの訓練の成果は消えていない。

 ただ、何かが違う。

 振るたびに、ルーカスさんの顔が浮かんだ。笑いながら「そのうち追いつかれるかもしれない」と言ったあの顔が。

 剣を振る腕に力が入らなくなり、剣が勝手に下りる。

 追いつけなかった。一度も。

 それだけが、ずっと頭の中にあった。


「――い、おい、アーサー!」


「……はい」


「大丈夫……じゃないよな」


「……いえ、ご心配なく……」


「……副団長が呼んでたぞ、部屋に来いってさ」


「……わかりました」


「それだけだ、無理すんなよ」


 それだけ言うとドルフさんは去っていった。

 とりあえず、副団長の元へ行こう。

 部屋に入ると副団長は机の前に立っていた。

 いつもと違ったのは、こちらを最初から見ていたことだ。振り返るのを待たずに、目が合った。

 

「座れ」

 

 椅子を示された。副団長の部屋に入って座れと言われたのは初めてだった。

 

「お前の中で何かが動いたな」

 

 開口一番それだった。

 

「……はい」

 

「カリスの剣がお前に対してズレたのが、わかったか」

 

 わかった、と言えばいいのか、わからなかった、と言えばいいのか迷った。

 あの瞬間、俺は何か考えて動いていたわけではない、体が勝手に動いていた。

 軌道がずれた。それだけだった。

 

「星脈だ」

 

 副団長が言った。

 

「お前が持っているものの名前だ。魔法とは違う。教わって使えるものじゃない。お前の中にずっとあったものが、極限の状況で表に出た」

 

「……副団長は、知っていたんですか」

 

「まあな」

 

 あっさりと言った。隠す気などはないようだ。

 

「お前の動きに、普通の人間にはない何かがあった。剣の軌道への反応が、経験だけでは説明できない部分があった。星脈の萌芽だと思っていた。」

 

 あの日……ギャッドゥとの武約戦をした日から副団長が何かを見ていた。俺はそれを知らなかった。

 俺のことをじっと見ていた理由が、今になってわかった。

 

 副団長が静かに言った。

 

「喧嘩剣法と騎士の剣を組み合わせた動き。あれは技術だけじゃない。お前の星脈が、相手の動きを微妙に読んで対応していた。自覚なしにな」

 

 頭の中で何かが繋がっていった。ギャッドゥとの武約戦。

 ルーカスさんとの手合わせ。

 関所の傭兵集団。

 あの感覚の正体が、今初めて言葉になった。

 

「ルーカスさんより強くなれますか」

 

 気づいたら聞いていた。

 副団長は少し間を置いた。

 

「なれる可能性はある。ただし星脈は鍛え方が剣とは違う。王都に行けば、そういう者に会えるかもしれない」

 

「……王都」


「カリスまだ生きている。くれぐれ王都では気をつけろ」


 そう言うと副団長は窓の外を見た。話は終わりだという空気だった。

 俺は立ち上がりかけて、止まった。

 

「副団長は……ルーカスさんのこと、知っていたんですか。南部の件」

 

「知っていた」

 

「カリスが動いているのも知っていたんですか」

 

「知っていたが……いや、なんでもない」

 

 それだけだった。それ以上は何も言わなかった。俺も何も言えなかった。部屋を出た。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 夕方、中庭のベンチにぼんやりと座っていると、セリア様が来た。

 

「ここにいらっしゃいましたか」

 

 隣に座った。何かを聞いてくるかと思ったが、何も聞かなかった。ただ隣にいた。

 しばらく、二人とも黙っていた。夕暮れが中庭を橙色に染めていた。風が草を揺らしていた。

 

「ルーカスさんは」

 

 セリア様が静かに口を開いた。

 

「いつも遠くを見ていましたね。でも笑うときは、ちゃんとそこにいた」

 

 俺は何も言えなかった。

 

「アーサーさんと話しているときは、特に」

 

 喉の奥が詰まった。泣くつもりはなかった。泣かなかった。ただ、詰まったままでいた。

 セリア様はそれ以上何も言わなかった。ただ隣にいた。その静かさが、今の俺には丁度よかった。

 日が落ちた。セリア様が立ち上がった。

 

「王都、気をつけて行ってきてください」

 

 それだけ言って、屋敷の方へ歩いていった。…

 ぐるぐると頭の中にあった後悔や悲しみの感情が1滴の涙共に流れでてしまう。

 一度流れ始めると2滴、3滴と止まらなくなってしまっていった。

 ルーカスさんとの思い出が勝手に浮かび上がる。

 こんな俺に、出来損ないの俺にも優しく接してくれた数少ない人。

 

「一緒に王都に行きたかった……」


 思わず声にでてしまっていた。

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