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ドアが閉まったあと、

部屋の静けさがゆっくり戻ってきた。


さっきまで隣にあった体温が、まだ腕に残っている気がする。

胸の奥がじんと熱い。

風邪のせいだけじゃない。


……どうして、あんなに優しいんだろう。


ベッドに腰を下ろすと、

ふわりと息が漏れた。

身体はだるいのに、心だけが落ち着かない。


触れられた肩の感触。

近くで聞こえた息づかい。

名前を呼ばれた声。


思い出すたびに、

胸の奥がふるっと震える。


唇が触れた瞬間のことを思い返すと、顔が熱くなって、毛布に顔を埋めた。


……弱ってるときに、あんなの、ずるい。


そう思うのに、嫌じゃなかった自分がいて、そのことのほうがよっぽど苦しい。


熱が上がったのか、気持ちのせいなのか、もう自分でもわからない。


静かな部屋の中で、胸の奥だけがずっとざわざわしていた。


香澄は熱の残る頭で、先ほどの出来事をぼんやりと反芻していた。


──芹沢さんがお見舞いに来てくれて。

心配して、色々とあんなにたくさん買ってきてくれて。

机に並べられた品々を見ながら、胸の奥がじんわり温かくなる。


大人になってから、誰かが“様子を見に来てくれる”なんて初めてだ。

前の職場では、体調を崩しても電話やメールで確認されるだけで、誰かが来てくれることなんてなかった。

お互いの関係は、どこか希薄だった。


なのに──

知り合って間もない芹沢さんは、当たり前のように心配して来てくれた。


嬉しいような、恥ずかしいような。

胸の奥がじんわり熱くなって、泣きたくなるほどだった。


だから、居たたまれなくて。

風邪をうつしたくないし、泣きそうな顔を見られたくなくて、帰ってもらおうとしたのに──


起き上がろうとした瞬間、肩を掴まれて。

驚いて目が合って。

気付いたら、キスされていた。


告白されて…嬉しくて、素直に応じてしまった自分がいる。


だって、普段のワンコくんじゃなかった。

あの時の芹沢さんは──

“私が欲しくてたまらない男の人の顔” をしていた。


思い出すだけで、ゾクリとする。


嬉しくて、恥ずかしくて、気持ちよくて……

優しい指先の感触を思い出すと、胸の奥がきゅっと疼く。


「もっとキスしてほしかったけど……熱とか、汗とか……下着とか……色々あるし……」


あのまま止めなかったら、きっと最後まで流されていた。

そう思うと、顔が熱くなる。


「……私、芹沢さんのこと好きなんだ……」


自覚した瞬間、さらに熱が上がった気がした。


「ダメ……! とりあえず何も考えずに寝る!」


毛布を引き寄せて目を閉じると、ふわりと残り香がした。

芹沢さんの香り。

それだけで、不思議と安心して眠りに落ちた。



翌朝、目を覚ますと身体はまだ少しだるいが、熱は下がっていた。

シャワーを浴びながら、深く息を吐く。


「ふう……」


洗面台の鏡に映る自分の顔を見つめていると、

ふと昨夜の声がよみがえる。


(……猫耳、似合うかな……)


毛先をつまんだ指先に、じんわり熱がのぼる。


「……似合わないよね……でも……」


ちょうど、そのタイミングでオーナーから連絡が入った。


「芹沢くんに様子は聞いてるよ~。 とにかく三日は休むように! お大事に~!」


どこか楽しげな声だったのが気になるけど…。

ありがたく、養生させてもらうことにする。



冷蔵庫から、芹沢さんにもらった《ほろ苦キャラメルプリン》を取り出し、スプーンを入れる。

ほろ苦いカラメルが甘さを引き立てていて、思わず頬が緩む。


──そういえば、あの日の限定カボチャプリンは食べ損ねたんだった。

無念……!


でも、このプリンも十分に美味しい。

芹沢さんの差し入れは、いつもハズレがない。


ふと、お礼のメールを送ろうと思ったが──

連絡先を知らないことに気付いた。


「今度『ロワール』に来てくれた時に、絶対聞こう……」


アイコンは……猫耳をつけた私にしたら喜ぶかな?

色は黒だな、と考えてひとりで笑ってしまう。



さて、ワンコくんの反応はいかに。


(……翔くん、撃沈のち悶絶!)




※ひとまずは、ここまでです。(読みやすさ重視で!)

プロポーズ的な話も存在しますが…ご興味がありましたら、よろしくお願いします。

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