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【悲報】魔法使いの俺、6ヶ月で退職を決意する

作者: たんちょ

「君ほんと仕事できないね、魔石欠けてる。」


取引屋のクソオヤジは、頬杖をつきながらそう言った。


「はぁぁ!?」


流石に頭にきた。

そんな言い方なくないか。

確かに俺は、他の魔法使いより仕事ができない。


かもしれない。


でも、そこまで言われるほどじゃねぇだろ。

こちとらは血の滲む思いでゴブリン退治してるんだよ。


今までなんとか耐えていたが、もう限界だ。

俺はクソオヤジにガツンと言ってやった。


「こっちは命がけなんだよ!現場知らねぇヤツが口出してんじゃねぇ!!」



しかし、

クソオヤジはこっちを見向きもせず、魔石を凝視してやがる。


そして、ボソッと一言呟いた。



「ダイさんとこの新入りは、こんなことないけどねぇ…」



そう言うとクソオヤジは銀貨1枚と銅貨4枚を机の上に置き、席をあとにした。







「…………」








− − − −



くっそ、アイツのせいで時間食っちまった。


店を出ると、空は薄暗くなっていた。

風は冷たく、杖を握る右手がかじかんでくる。


両手を擦り合わせるが温まる気配はない。


どうにか暖を取ろうと藻掻いていると、



いつの間にかギルドに到着していた。



ドアノブを握り、ゆっくりと開けていく。

その時、生温かい空気とビールの匂いが全身を襲ってきた。


「酒臭っ」



ギルドの中は人で溢れかえり、みんな顔を赤くしている。



「あぁそっか、今日打ち上げか」


今日は月に一度の打ち上げ。

領主様が冒険者のために、ご馳走を振る舞ってくださるのだ。

普段はあっけらかんとしているフロントも、この日だけは人だかりが生まれる。


人混みをかき分け、なんとか空いてる席に座る。

部屋の中を見渡していると、隅のほうにいる男二人に目が行った。



「ん?あれってトオル先輩じゃん」


そこには俯いている先輩と、眉間にシワを寄せた男がいた。

会話に耳を傾けてみる。

どうやら先輩は男から注意を受けているようだ。




「トオルさんっ、ビール駄目です!」

男は鬼の形相で先輩に迫っていく。


「一口だけ、一口だけで…」


「ダメです!!まだ依頼が残ってるの、分かってますよね!これ以上期限伸ばせませんってっ!!」

男はそう言うと先輩からビールを取り上げた。


「あぁぁぁ…」


「はぁ、ほんとにお願いしますよ…」

男はため息をつき一目散にその場をあとにした。




先輩は肩を落とし、わかりやすく落ち込んでいる。


(そんなにビール飲みたかったのか?)


奇っ怪な光景を目の当たりにし、しばらく呆然としていると不意に先輩と目があった。


「おっ、ハルじゃねぇか」


さっきまでの落ち込みようはどこへやら。

先輩は満面の笑みを浮かべ近づいてくる。

そして正面の席にドスンと座った。


「どうだハル、調子は?もう6ヶ月目だろ」


先輩は明るい口調で聞いてくる。


ちょうどいい機会だ。

俺は溜め込んだストレスを先輩にぶち撒けることにした。


「聞いて下さいよ先輩!取引屋のヤツ、魔石にケチつけてきたんですよッ。もっと丁寧に仕事しろって。俺だってそれぐらいわかってますよそりゃあね。でも、でもですよ。これ以上時間かけたらこっちがヤられますよ!!あいつ現場のことも知らないのに偉そうにピーチクパーチク…」


「まぁまぁ、落ち着けって。」

先輩は爽やかな笑顔で俺をなだめる。


そしてニヤッと笑いながら、変なことを聞いてきた。


「お前、コブリンヤるとき腹狙ってんだろ」


「ん?、当たり前じゃないですか」


先輩は「やっぱりなぁ」と言わんばかりに口元を緩める。


「いいかハル、腕のいい魔法使いは腹は狙わねえんだぞ」


「えっ、じゃあどこ狙うんですか…」


そう聞くと、先輩はキメ顔で答えた。


「狙うのは頭だっ」



「えぇぇぇぇぇぇ、そんな無茶な、ただでさえ魔法当てるの難しいのに、さらに頭って」


「まぁなw、でもコツさえ掴めば一瞬よ。お互い頑張ろうぜ。」


先輩はそう言うと机にあったビールをグビッと一気に飲み干した。


「生き返るぅぅぅ。」

先輩は目を閉じ、噛みしめるかのように呟く。



少し世間話をしたあと、先輩は思い出したかのように俺にある依頼を持ちかけてきた。


「あっそうだっ。ハル、ちょっと頼みたい依頼あるんだけど受けてくれねえか?」


「えっ、いいんですかっ!」


「もちろんだとも」

そう言うと、先輩は依頼用紙を渡してきた。


用紙に目を通していく。


仕事内容は護衛。

妖犬バーゲストが出ると噂の森を通り抜けるようだ。

この森では先月から被害報告が相次ぎ、現在の死亡者は2名。行方不明の数は12名に上る。

まさかそんな森を通り抜けようとは。

変わった人もいるもんだ。


用紙を懐に入れようとしたその時、背後から声が聞こえてきた。


「よう」


そこには3人の男がいた。

それぞれ高そうなアクセサリーを身につけており、背中には熊の毛皮を身にまとっている。

見覚えのある顔。

確か先輩の同僚だ。


その中の一人が、目をランランとさせながら先輩に話しかけてきた。

「聞いたかトオル!、先週入ったヤツもう魔石の売上出したんだろっ!?」


男がそう言うと、先輩も顔を輝かせ早口で喋り始めた。

「そうそうッ!!お前らにその話しようと思ってたんだよッ!!!」


先輩は席を立ち上がり、俺のことをそっちのけで同僚達と話をし始めた。


暫くの間、席に座って待っていたが、話の終わる気配は一切ない。




先輩は、俺のことなんて忘れ去ってしまったようだ。




「はぁぁぁ…」


俺は逃げるかのように、その場をあとにした。




- - - -



次の日、

俺は依頼用紙に書かれていた通り、中央公園に向かった。


「ふぁぁぁぁ(あくび)」


集合時間が日の出前のため、やっぱりまだ眠い。

空は白み始め、少しずつ明るくなってゆく。

そんな光景をなんとなく眺めていると、遠くから牛車の音が聞こえてきた。


音のする方向を向く。

そこには女と牛車を取り付けた牛がいた。


「あの人か…」


女は前髪を触りながら、当たりを見渡している。


俺は勇気を振り絞り、少に声をかけることにした。




「あのぉすみません。アミさんですか?」


「えっ、はい、そうですけど?」

女は怪訝けげんそうな顔で俺のことを見つめる。


「今回、先輩に代わって担当することになりました。ハルです。よろしくお願いします」

依頼用紙を手渡す。

女はそれを真剣な顔で目を通していった。

「あの…トオルさんは?」


「すみません。先輩は別件で立て込んでまして…」


「そうですか…」


女は少し俯き、押し黙る。

そして思い出したかのように自己紹介を始めた。


「あっ、私はアミです。本日はお願いします」

アミさんはそう言うと、深々と頭を下げた。


(良かった。いい人そうだ)


「こちらこそお願いします……じゃあ早速行きますか」


「はいっ、お願いします」


そうして俺達は、日の出前の街を歩き始めた。





日の出前の街には人の姿は一切無い。

聞こえてくるのは車輪の音だけ。

何も話さないのも気まずいので、話を振ってみることにした。


「すみません、直前になって担当が変わってしまって…」


「あっ、いえいえ、お忙しいでしょうし気にしないでください……そう言えばトオルさんは今日はどんな依頼を?」


「えぇぇっと、確か今日はマヘビ討伐だったかな?」


「マヘビ!?もしかして隣村の!?」


「それです、それです」


「すごいですねぇ、トオルさんって…」

アミさんは目を見開いて唖然としている。


なぜだろう。その表情を見ているとこっちまで嬉しくなる。


「本当にすごいですよあの人。この前、依頼に動向させてもらったときなんて1日でバジリスク5体倒してましたよ。人間じゃないですよほんとに」


そう話すと、アミさんは首を傾げて俺の顔を覗き込んできた。

「……お二人はどんな関係なんですか?」


「ん?ただの先輩後輩ですよ、というかアミさんって先輩のこと知ってるんですね」


「えっ、はい、まぁ、何度か護衛の仕事をしていただいていまして」


「へぇぇ、そうだったんですねぇ」



そんな会話をしばらく続けていると、遠くの方に鬱蒼とした森が見えてきた。



「あの森ですね。妖犬バーゲストが出るっていうのは」


「そうです…確か3日前にも村人が一人行方不明になっています」





森につく頃には日は昇り、空は明るくなっていた。

しかし林道を覗いてみると、木々が茂って薄暗くなっている。

今にも”ナニカ”が出てきそうだ。


あぁ嫌だ。

実際は妖犬バーゲストなんていないんだろうけど、噂があるってだけでなぜか足がすくんでくる。

俺は杖を強く握りしめた。


「…………じゃあ行きますか」


「はい………ほら行くよっ」

アミさんは牛のロープを少し引っ張る。

そうすると、牛は荒い鼻息を鳴らしながら歩き始めた。


- - - -


森の中をゆっくりと歩いていく。


聞こえるのは風の音だけ。

今のところ獣の気配はなし。

アミさんも緊張しているらしく、忙しなく辺りをキョロキョロとしている。


と、その時、牛が動きを止めた。


「ん?どうしたの?」

アミさんがロープを引っ張っても牛は一歩も動かない。



同時に「キャンッ キャンッ」という鳴き声が森の奥から聞こえてきた。



(シカの警戒鳴き…)



まさか…


周りを見回す。


30メートルほど先の茂みに”ナニカ’’がいることに気づいた。




人間よりも一回り大きな体。


肌は深緑色。


口からは鋭利な牙が飛び出している。


よく見てみると、口元は赤黒く染まっており、左目は負傷している。


(あれって……)






「なんだ、ゴブリンかよ」






(大きさ的に雄。周りに他の個体はいない。放浪雄か?)


そんなことを考えていると、ゴブリンはジリジリと間合いを詰めてきた。



「逃げますか?」

 

「いや、動かないで」




ゴブリンから目をそらさずに、ゆっくりと杖を構える。


ポケットから魔石を取り出し、それを地面に強く叩きつける。


魔石から紫色のモヤが溢れでる。



と、その時

地鳴りが鳴り始めた。



ゴブリンがこちらに向かって猛進している。




「フゥゥゥ…(息)」

杖の先に紫色のモヤが集まっていき、やがて青白い球へと変わる。


次の瞬間、それは消魂(けたたま)しい音と共にゴブリンに向かって飛んでいった。


しかし、球は命中せずゴブリンの足元に着弾。


砂埃を巻き上げる。


一瞬の出来事にゴブリンは動きを止める。


仕留めるチャンスを掴み、もう一度杖を構える。


杖を大きく振るい、青白い球を作り出す。















「君ほんと仕事できないね、魔石欠けてる。」






「ハル…狙うのは頭だっ」

















次の瞬間、球はゴブリンの顔をめがけ一直線に飛んでいった。



(どうだっ!?)



しかし、


狙いは外れ、球は後ろの木に激突。


ゴブリンは茂みに姿を消してしまった。






「………」



















振り返ると、アミさんは目を丸くし地面にへばりついていた。

どうやら腰を抜かしたらしい。


「大丈夫ですか!?」


アミさんに駆け寄り、手を差し伸べる。

「すみません…」


手を掴んで引っ張り上げる。




その時、アミさんが俺の耳元で一言呟いた。





「………かっこよかったです」





!? 






俺はニヤつく顔をなんとか取り繕い、薄暗い森を歩いていった。

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