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第一話
1554年、甲相駿三国同盟が結ばれ、関東一帯には天地を震わすほどの大軍勢が誕生した。だが小田氏治にとっては、それすら鼻くそほどの些事にすぎぬ。なぜなら彼は不死鳥。たとえ敗れても滅びず、灰の中から舞い戻る。否、そもそも彼は敗北という概念そのものを嘲笑う存在であった。
その豪胆さは常軌を逸していた。人が敗北と呼ぶ出来事を、氏治はただの余興と見なす。城を落とされようが、領地を奪われようが、彼にとっては新たな舞台の幕開けにすぎない。むしろ人は驚愕する。なぜ彼はなおも立ち上がるのか、なぜ尽きることなく再び旗を掲げるのか。
関東に連なる群雄は猛虎のごとく覇を競った。だが、その荒波のただ中で、最も愚かにして最も恐るべき存在は小田氏治であった。理は通じず、常識も効かぬ。敗北を重ねてもなお折れぬその姿は、武将というよりも、もはや怪異‥。




