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お買い得だよ? 3

すみません。少し長くなりました。

 「完璧な王太子」と呼ばれるディルニアスが、ダイアナは怖いと思った。

 確かに、皆が憧れるのが分かるほどに美しい容貌をしていたが、微笑んでいても目が笑っていないと思った。人を寄せ付けない雰囲気を持っていて、気が付けば観察されているような視線を感じた。

 何か、この王太子にとって気に障ることをすれば、自分は容赦なく殺されるだろうという緊張感を強いられた。


「その勘を大事に生きていきなさい。きっとお前を助けるだろう」


 ディルニアスが怖い、と兄のライアンに訴えると、預言者のように重々しくダイアナに告げた。

 そして続けて言うことには。


「お前がヴァイオレット様に対して、裏切らず、暴力を振るわず、嘘を吐くことなく、誠実に、仲良くしていれば大丈夫だ」

「そんな当たり前なこと?」


 ダイアナが眉をひそめれば、ライアンは誇らしそうに笑ってダイアナの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「もう、子供じゃないんだからやめてよね! わたし、お姉さんなんだから!」


 ツンと顎をあげるダイアナに、ライアンは真面目な顔で頷いた。


「そうだな。お前はもう子供じゃない。だから、ヴァイオレット様のお家に行ったら、周りをよく見て勉強しなさい」

「……見る?」

「自分の家と、自分と、いかに違うかよく見なさい」


 次にヴァイオレットの家にお呼ばれした時、ダイアナは兄に言われたことを思い出して注意深く観察した。

 まずは、家が大きい。子供のダイアナの感覚では、家ではなくお城だった。使用人が大勢いる。そして、剣を腰に下げている男性や女性の騎士が、外にも中にも沢山いた。


「家に騎士さまがいる……」

「ディーがくる日は、どうしてもいつもより多いの」


 つまり、普段から騎士が家の中にいるのか、とダイアナは察した。当然、自分の家に騎士などいない。いや、兄が騎士団に入っているが、寮に入っているからやはり家にはいない。

 庭に出れば、騎士たちもついてきた。一人で残されれば本気で迷子になるような広さの公爵家の庭でヴァイオレットと遊んでいるときに、騎士たちが皆違う方向を見ていることに気が付いた。


「不審者が忍び込んで来たり、武器が飛んで来たりしないか警戒しているんだよ」


 兄に説明されて、武器が飛んで来るって何? とダイアナは意味が分からなかった。ヴァイオレットを殺そうと狙う者が存在する意味が分からなかった。こんなに綺麗な子を殺す意味が分からなかった。

 色々と観察して分かったことは、余りにも自分とヴァイオレットは住む世界が違う、と言うことだった。羨ましい、とか、憧れる、とかも思わないほどに、何もかもが違っていて、どうして自分はここに居るのだろう? と不思議に思った。


「それは俺も分からない……」


 そうか、兄も分からないなら仕方ないか、とダイアナは考えることを放棄した。

 侍女の服を着たきれいなお姉さんたちの中には、伯爵家の人間もいるという。皆、穏やかに微笑み、大声を出さず、優雅にスカートの裾を捌いて音を立てずに歩いていた。ダイアナは、公爵家は自分たちが住む世界とは別の世界の人たちだ、ということをよく理解した。

 余りにも世界が違いすぎると思ったが、ダイアナはヴァイオレットのお姉さんになりたかった。いや、「お姉さま」と呼ばれたからには、お姉さんになろう、なる、ならねば! と決意を固めた。

 天使のように可愛らしく儚い容姿なのに、庭を元気に嬉しそうに飛び跳ねるヴァイオレットの意外性が楽しかった。一緒にして欲しいことをそっと服の袖を引いて上目遣いにお願いしてくる仕草が可愛らしかった。幼いのにマナーや勉強を嫌がらずに頑張っている姿に尊敬した。

 自分も、ヴァイオレットの友達として恥ずかしくない姿でいたい、とこっそりと侍女の人たちの振る舞いの真似をしていたら、公爵家の計らいで、ダイアナもマナーを教えてもらえることになった。

 ダイアナが頑張り屋さんで観察力があり、外見も可愛らしく、欲もなく、ヴァイオレットを大切にし、そして何より、ディルニアスを怖がり近寄ろうとしない、というこれらの点を、ヴァイオレットの両親は非常に気に入った。何よりも、娘もダイアナのことを気に入っている。

 いずれは王太子妃に、王妃になる娘の傍には少しでも心許せる味方を置いてやりたい、というヴァイオレットの両親の親心から、子爵令嬢のダイアナがヴァイオレットと一緒に城に上がれるように、と本人にはそれと知らせずに、マナーや学問を最低限の教育は受けさせていた。

 ダイアナは自分がいずれ城に上がる、などと大それたことは考えていなかったので、無料で学ばせてくれて公爵家は親切だなあ、お金持ちは違うなあと思うだけだった。

 

 ちゃんと弁えているダイアナは、ヴァイオレットと遊んでいてディルニアスが割り込んできた時はその場を譲ったし、二人が話をしている時は決して割り込んだりはしなかった。子供の時は、大人気なく割り込んでくるディルニアスに不満を持ったが、ダイアナが成長するにつれ、ディルニアスには進んでヴァイオレットの傍を譲った。

 ディルニアスが怖いから、という理由もあるが、ダイアナは二人が並んで会話をしている空間が好きだった。年齢差はあるけれども、お互いがお互いを想いあっている空気が好きだった。

 ディルニアスはヴァイオレットに会う度に、必死で口説いているように見えた。

 完璧な王太子であるのに、ヴァイオレットよりも十三歳年上であるのに、婚約者であるのに。

 そんな姿を見て過ごしたからか、ダイアナはディルニアスを完璧な王太子として見ることはなかった。ダイアナにとってのディルニアスは、ヴァイオレットの大切な人であり、婚約者であり、近寄ってはいけない怖い人であった。

 だから、第二王子のレイモンドを見た時に「物語に出てくる完璧な王子様のようだ」という感想を抱いた。ディルニアスの明るい金の髪とは違って少しくすんだ金髪に、琥珀色の瞳、優し気な微笑みを浮かべている姿は、ディルニアスのような派手さはなく、落ち着いた、親しみやすい容姿であった。


 住む世界が違う人だ。


 皮肉なことに、「王子様」と認識した時点で、ダイアナにとってレイモンド第二王子はディルニアス王太子よりも遠い世界の人となった。ディルニアスは怖い人なので、常に何処にいるかを意識していなければならない分、ダイアナの生活に近い人物となっていた。

 しかし何故か、ヴァイオレットに付き添って城に上がるようになってから、ダイアナはディルニアスとよく遭遇した。そして、ヴァイオレットへの伝言を頼まれたり、予定を尋ねられたりすることが多かった。そのうち、他の上位貴族や役職付きの人たちからも尋ねられることが多くなった。

 なので。

 ダイアナは、自分はヴァイオレットへの伝言係なのだと思うようになった。第二王子のレイモンドに話しかけられても、まさか自分に話しかけられているとは思わなかったのだ。レイモンドとヴァイオレットは割と気さくに話をしているのを見てきていたので、ヴァイオレットへの伝言だと疑いもしなかった。

 いくら思い返してみても、自分に話しかけてきたという会話に心当たりはなかった。誰か一緒に話を聞いていた人はいないか、と考えて、レイモンドはいつもダイアナが一人だけの時に話しかけてきていた、と気が付いた。

 つまり、証人がいない。

 ダイアナは溜息を吐いた。



「もう、駄目です! 降参します! いくら考えても分かりませんので答えを聞かせて欲しいです!」


 数日後、ダイアナはヴァイオレットに泣きついた。


「ダイアナがレイモンド様をどう思っているか、の答え?」


 ヴァイオレットが首を傾げた。


「そうです。いくら考えても、レイモンド殿下はわたしにとっては雲の上の別世界の人、としか思えません。まだ、読んでいる本の中から王子様が現れて、『毎日熱心に読んでくれている君を好きになった』と言われた方が納得できます!」

「そんなことがあったら素敵ねえ」

「え、気持ち悪いでしょう」


 メアリーがうっとりと呟き、エレノアが両腕を擦っていた。


「なるほど。レイモンド殿下を人として見られないのね」


 ヴァイオレットの言葉は間違ってはいないのだが、何だかとても失礼なことを思っているように気づかされ、ダイアナは躊躇いながらも頷いた。


「そうねえ。一度、二人で会って話し合った方が良いかもね」

「え!」


 思わずダイアナは声を上げた。


「王子様とわたしが? 二人だけで? 何を話せば良いんです?」

「だから、分からないことを訊けば良いんじゃない?」

「場所はどうしましょう?」

「ヴィオラ様の庭園でのお茶会なら見つかりにくいんじゃないかしら?」


 当人のダイアナを置いて、さくさくと話が進んでいった。



 結局、ヴァイオレットの庭園の奥にあるガゼボで二人はお茶をすることになった。表向きには、王太子妃の庭に珍しい花が咲いたので見学をしたいと申し出て、それをダイアナが案内するという筋書きだ。


「庭も見ておかないと、後で誰かに訊かれた時に感想を言えないからね」


 それはそうかと、ダイアナは頷き、二人で庭を見ることになった。


「だけどさあ」

「はい」

「何で、後ろを歩いてるの?」

「わたしは殿下を案内するお役目ですから」


 そういう筋書きなのだから、女官として後ろを歩くのは当然だろうとダイアナは思っていた。


「……ふーん」


 レイモンドは少し考えるように首を傾げ、そのままダイアナに向かって二歩進んだ。ダイアナは反射的に三歩後退った。変わらない距離に、レイモンドはもう一歩進んだが、ダイアナは二歩後ろに下がった。


「……よく分かった。さっさとガゼボに行こうか」

「え? 庭を見なくても良いのですか?」

「いいよ、適当に『王太子妃殿下の祖母君の祖国から贈られた花が綺麗に咲いていた』と言うから大丈夫」


 どこにそんな花があった? とダイアナはきょろきょろと辺りを見回したが、すたすたと歩いていくレイモンドを慌てて追いかけた。

 ガゼボには、すでに冷たい飲み物とお菓子が用意されていた。緊張で口の中がからからに渇いていたダイアナは、同僚の心遣いに感謝した。

 レイモンドが椅子を引いて座らせてくれたことに恐縮しながらも、ダイアナは目の前の飲み物を早く口にしたかった。

 レイモンドが椅子に座るのを今か今かと待ち、口を開いた。


「それでは、わたしが毒味をさせていただきます」


 そう言って、二口ほどを口にした。本来なら、スプーンなどに取って、舐める程度で良いものである。しかし、ダイアナは、喉が渇いていたので二口、しかも「小鳥が啄む程度」と言われる淑女の量からは程遠く、グラスに入っていた飲み物は、見てはっきりと分かる位には減っていた。


「美味しいです! 殿下もどうぞお召し上がりください!」


 レイモンドは一瞬ぽかんとした表情をした後、口を押えながら横を向いて「んぐっ」と声を詰まらせ、肩を震わせていた。


「殿下?」


 早く口をつけてもらわないと、自分が飲めないのだが、とダイアナは傍らの台の上に載っているピッチャーをちらりと横目に見た。


「毒味をして美味しいって……。いや、それなら、その毒味をした君のグラスを私が貰わないと意味がないよね?」

「あ、そうですよね。どうぞ!」


 立ち上がってレイモンドの前にグラスを運ぼうとしたダイアナを、レイモンドは慌てたように制した。


「別に構わないよ。義姉上の庭で何かが起こるはずもないだろうし」


 この場にヴァイオレットがいなくても、今レイモンドに何かがあればヴァイオレットの責任となってしまう。ディルニアスがそんな失態を犯すとは思えなかった。


「いえ、御身に何かあってはいけません。どうぞこちらをお飲みください」


 ダイアナはレイモンドの前に自分が口を付けたグラスを置いた。


「あの、ちょっと、だいぶん量が減ってしまっているんですけど、まだピッチャーがありますので!」

「そこを恥じらうのか……」


 レイモンドは吹き出してしまいそうになるのを堪える為に、ぐっと唇を噛みしめた。


「とりあえず、座って飲みなさい」

「ありがとうございます!」


 ダイアナはレイモンドの向かい側へと座り、交換したグラスを口にした。今度は心置きなくグラスの半分ほどまで飲み、ふうっと息を吐いた。


「さっぱりしてるね」

「はい。口の中が爽やかになりますね」


 ピッチャーの中には果実は何も入っていない。果汁を何種類か混ぜているようであったが、ダイアナは何の果実か分からなかった。自分はまだまだだな、と眉間に皺を寄せていると、正面から視線を感じた。


「な、何か……?」


 レイモンドは微笑みを浮かべていた。けれどもその微笑みは、どこか寂しそうな、悲しそうな笑みに見えた。


「いや……。そうだね。早速だけど、私に何を訊きたい?」


 ダイアナは意外だった。何となく、レイモンド殿下なら上手に話を誘導するだろう、もしかしたら煙に巻かれて何も訊けないまま時間が来るかもしれない、と考えていたのだ。


「あの……」


 わたしのことが好きなんですか?


 とはさすがに訊けなかった。そんな厚かましいことは尋ねる勇気はなかった。

 だから。


「わたしと結婚する目的はなんですか?」


 こう訊くしか思い浮かばなかった。

 子爵家の八人兄姉の末っ子だ。実家には権力もなく、財力もない。末っ子だから持参金も持てるか分からない。特別に美人でもなく、優秀でもない。何か、自分には分からない目的があるとしか思えなかった。


「……目的。目的ねえ」


 レイモンドは、ダイアナの言葉を繰り返した。

 レイモンドは微笑んでいた。だが、琥珀色の目は笑っていなかった。

 こんな第二王子殿下の表情は初めて見た、とダイアナは驚いた。


「……君は、ヴァイオレット義姉上が好きだよね?」

「はい、大好きです!」


 ダイアナは声高に力強く返事をした。


「そして、……ディルニアス兄上のことを怖がっているよね?」


 ダイアナは目を見開いた。


「大丈夫、無礼講でいこう。君の返事は決して他言しない」


 逃げられない、と思ったダイアナは、小さく頷くに止めた。


「大丈夫だよ。僕も兄上のことは怖いからね。だって、あの人は異常だろう?」


 宥めるような優しい声音であったが、さすがにダイアナは頷くことが出来なかった。ただ、呆然とレイモンドを見つめた。


「異常なほどにヴァイオレット義姉上に執着して、囲い込み、偏愛して、他者を排斥し、傾倒して溺愛しているだろう?」


 ダイアナは頷けなかったが、表情には出てしまっていた。代わりのように、レイモンドは頷いた。


「ねえ、知っているかい? 兄上は、義姉上が生まれる前から婚約者にしようと画策していた。まだ、この世に存在しないうちからだ。どうして兄上は、生まれてくることが分かっていたんだろうね」


 聞いたことのある噂話であったが、まさか本当の話だったの? とダイアナは硬直した。


「ね? 兄上は異常なんだよ。大精霊の力なんてものも持っている。人間ではないのかもしれないね。……もし、万が一、義姉上が亡くなったりしたら、兄上はきっと狂い、この国を、世界を壊すだろうと思っている」


 それは、容易に想像できた。何しろ恐らく、レイモンドよりもダイアナの方がヴァイオレットと一緒に居るときのディルニアスを見てきているのだ。


「だから私は、ヴァイオレット義姉上を守ることが、この国を、世界を守ることになると思っているんだ」


 ここまでは理解できるかな? と言うように顔を覗き込まれて、ダイアナはこくこくと頷いた。


「私がヴァイオレット義姉上を大事にしても怒らない人、そして、ディルニアス兄上を異常だと認知して、節度を持って踏み込まずに対応してくれる人。そういう人と婚姻しなければと考えていたんだけれども」


 そこで言葉を切って、レイモンドはにっこりと笑いかけた。


「ね? 君は、私が考えていた結婚の条件にぴったりと当て嵌まるんだ」

「……え?」


 ダイアナは何を言われたのか分からなかった。

 何か理由が、目的があるのだろうと思っていたが、まさかそんな目的が、本当に目的があるのだとは思わなかったのだ。


「だって、君は私以上にヴァイオレット義姉上のことが好きだろう? 私以上に義姉上のことを大事にするだろうし、私はそれに口を挟まないよ。自由にすれば良い。後、何だっけ? 前にも言ったけど、王太子に会わせろなんて言わないしね? お城に詰めるのも全然大丈夫さ」


 ああ、そう言えばそんなことを言っていたような、とダイアナはぼんやりと思い出した。


「いえ、ですが、わたしと殿下では無理です。家格が違いすぎます」

「どうして? 君は結婚相手の地位には拘らないんだろう?」

「それは、平民でも良いという意味で言ったのであって」

「どうして第二王子は駄目なの?」

「え、えーと」


 どうして駄目なのだろう? 正直に言えば考えたこともないからなのだが。


「マナーとか教養とかなら」

「それです!」

「公爵夫人に確認したけど、君、要点は殆ど押さえているよ? まあ、いくつか追加で勉強してもらわないといけないけど、君なら大丈夫でしょう」


 自分が王子妃になる勉強を殆ど押さえているとはどういう意味? 公爵夫人に確認って、どうして夫人に確認するの? とダイアナはますます混乱した。


「そんなに、私のことが嫌いかな?」

「いえ、嫌いだなんてあり得ないです!」


 ダイアナはぶんぶんと首を振った。


「だけど、殿下のことはよく知らないですし……」

「えー? でも、君、『乳母になりたいから』って、条件が揃っていれば誰でもいいって相手を探していたよね?」

「な、なんで」


 何で知ってるの? とダイアナは恥ずかしさで赤くなった。もしかして城中に広まってるの? と思い至って青くなった。


「君は、条件に合う男を見つけ出して結婚しようとした、私も条件に合う女性を見つけ出して結婚しようと申し込んでいる。何か違いがあるかい?」


 ない、とダイアナは気が付いた。

 いや寧ろ、王命で無理やり結婚をしようとしない分、レイモンドは礼節を重んじてくれていると言えるだろう。

 だけど。

 ダイアナはぼろぼろと泣き出した。


「えっ!」


 レイモンドが驚きの声をあげて腰を浮かしたが、ダイアナはそれよりも早く立ち上がった。


「殿下がこんなに意地悪な方だったなんて!」


 ダイアナはもう、混乱の極みだった。ダイアナは決して馬鹿ではない。だが、恋愛という不慣れな分野で、次々と畳みかけられて考える隙を与えてもらえない、というストレスで限界が来てしまった。

 ダイアナは叫び、そのまま踵を返して走り出そうとしたが、数歩進んでから再びレイモンドの方に振り返った。


「言っておきますけど! ディルニアス殿下は確かに愛情が重いですが! 嫉妬深くて心が狭くてヴィオラ様大変だなあと思いますけど! でも! 唯一の人として愛されることは、全女性の憧れなんですからね! 異常って切り捨てるのは、どうかと思います! それと、目が笑ってないのに笑ってる表情なんてお二人ともそっくりですよ!」


 そうして、今度こそレイモンドに背中を向けて走り出した。

 レイモンドは呆然と小さくなっていく背中を見送った後、


「ふっ……。くっ、はーっはっはは」


 とても嬉しそうに涙を流しながら笑った後に、グラスにそっと口付けて、中身を一気に飲み干した。


あのディルニアスがヴァイオレットへの伝言を頼んでいる! と言うことで、ダイアナはディルニアスに信頼されているんだな、と周囲から信頼されていったのですが、本人だけが分かっていません。

4回くらいで終わるかなと思っていたのですが、終わるのか? と疑問に思っております。

今週末は用事が重なっておりますので、次の投稿は10/20の月曜予定です。よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
>「ふっ……。くっ、はーっはっはは」  う〜、厄介で面倒くさそな人物、レイモンドさんに見初められちゃったダイアナさん… 当のレイモンドさんは嬉しそ♪ そのグラスの果実水、美味しかったでしょ♬  ダイア…
4回で終わらなくていいんですよー(*´﹀`*) ダイアナちゃんだけで10話くらい引っ張ってくれたら私もうんと幸せですー! とりあえずレイモンド殿下の「んぐっ」にハート撃ち抜かれました♡
ダイアナちゃんかわいい。。。 ディルニアスとレイモンドの似てる部分をちゃんと見抜いてるダイアナちゃん優秀。。。 最後嬉しそうにしてるレイモンドかわいい。。。 今回のお話もすごく楽しく読ませていただきま…
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