どうやらオーガ娘から性的にロックオンされているようです
「うーん、無いなあ」
僕はギルドの掲示板に張り出された依頼書の一覧を眺めていた。どれもこれも、要求ランクがC以上。冒険者ランクG(最底辺)の僕に太刀打ちできる依頼は一つも見当たらなかった。
全く、Gなのはカップ数だけで十分だと僕はため息をついた。
「おいチビ、邪魔だ。どけ」
「ひい! ごめんなさい!」
後ろからスキンヘッドの戦士が割り込んできた。当然、対抗できるわけもなく、僕は掲示板の前から追い出されてしまった。追いため息を付きたくなる。
現代日本で高校生として生きていた僕が、この異世界に転移して来てから1年が過ぎようとしていた。
こういう異世界転生って、だいたい女神様から、無双したり、ハーレムを構築できるようなチート能力を頂戴できるものだと思うのだが、僕が授かったのは「鑑定」スキルのみだった。
鑑定スキルと言えば聞こえは良いが、この世界には鑑定スキル持ちは溢れかえっていた。10人いれば1人は鑑定スキル持ちという有り様で、もはや石を投げれば鑑定スキル持ちに当たるような有り様だった。
しかも僕がもらったのは決してハイクラスなものではなく平凡なもの。
鑑定対象の隠れスキルが見えるわけでもなく、見えるものと言ったら攻撃力、守備力などの簡単なステータスと、その人の性癖のみ。
性癖なんてわかった所で、こんなの使い道が「世界の性癖大全」を作るくらいしか思いつかない。
ちなみに今までで一番とがった性癖はドアノブフェチだった。その人はドアノブの鍵穴に、人体のありとあらゆる部位を差し込もうとして警察に持っていかれた変人だったので、まあ鑑定するまでもなかったんだけども。
まあそれはさて置き、鑑定士には需要があるものの、こんな新参者かつ他所者かつ挙動不審な、負のトリプルスリー達成者の僕から依頼を受けようなんて人はほとんどいない。これまで鑑定士として受けた依頼はたったの5つで、あとはもう、薬草とりなどの採集クエストをこなして、何とか食いつないでいた。
むちっむちっ……
不意に後ろからむちむち音が近付いてきて、僕は顔を上げた。聞き覚えのある音だ。
振り返ると、思った通り、巨大な鬼が僕を見下ろしていた。
むちっむちっ……
身長は2m以上あり、がっちりした体格は人間離れしている。腕なんて僕の顔より太い。頭には二本の角が生えていて、褐色の顔に浮かぶ表情は意外と穏やかである。
鬼と表現したが、彼女は「オーガ」というれっきとした種族である。
御覧の通り、人間離れした体格と身長、フィジカル、そして二本の角が、日本育ちの僕には鬼と感じさせたのだ。
むちっ、むちぃ……
このムチムチいう音は、彼女があまりにムチムチしているために、彼女の身体のありとあらゆる部位から直接発せられている。
……まあ、皆さんの言いたいことは分かる。もし第三者としてこの場に居合わせたとしたら、僕だってつっこんださ。
「お前、ビビリのくせになんでオーガを見て逃げないんだ?」と。
実をいうと彼女は顔見知りなのだいや、顔見知りというか、お得意様である。さっき鑑定士として受けた依頼は5件と言ったが、そのうちの4件は彼女がくれた仕事なのだ。
「鑑定士君、おいすー」
彼女ことヒューコさんが手を挙げる。
むちっ……
「こんにちは、ヒューコさん。今日も大きいですね」
まあ大きいのは身長だけではないけどね。と、ちょうど僕の目の前で揺れる彼女の胸を見ながら思った。
ゆさっ……
「でさ、鑑定士くん。ちょっとこれから付き合ってくんない?」
むちちぃ……
***
彼女は今からリーパーを狩りに行くのだという。リーパーとは、触手を持つ植物のことで、その触手には強烈な催淫作用がある。そのため採集は困難だが、もし採れれば、上質の媚薬の原料となるため、かなりの高値で買い取ってもらえる。
「だからさ、鑑定士の君にはちょうどレベル30くらいのリーパーを見繕ってもらおうと思ってさ」
「なるほど」
リーパーはレベルが高いほど、催淫能力も高くなる。彼女がちょうどレベル30と指定したのは、流石にリーパーのレベルが高すぎると、ヒューコさんでも失敗する可能性が出てくるからだ。
リーパーのレベルは見た目で分からないので、鑑定士を同行させるのはよくあることではある。
僕たちは深い森を歩いていた。この先にリーパーの生息地がある。
「でもヒューコさん、僕なんか同行させて大丈夫ですか?」
僕は戦闘がからっきしである。僕を戦わせるくらいならハムスターに託したほうが良い。
「大丈夫大丈夫、うちが守ってあげるから」
ムチムチ!
隣を歩くヒューコさんは手をひらひらさせている。ひゃだ、この人男らしい……。
恐らく、彼女はこういう高額のクエストを僕に一枚かませることで、金銭的な補助をしようとしてくれているのだろう。
過去の依頼を見ても、わざわざ僕に頼む必要が無さそうなクエストが多かった。
「これ食べなよ」
ムチムチっ
ヒューコさんは袋からパンを取り出した。
パンパン!
「あ、ありがとうございます」
二人でパンをかじる。パンの甘みが口の中に広がる。
ジュワ……ジュワ……
じんわりと彼女の優しさも胸に沁みた。
オーガの人たちは彼女に限らず、仲間に食べ物を分け与えることが多い。どうやら「獲物を分配する」という文化が根付いているようなのだ。
素晴らしいことだと思う。
僕はそんな優しい彼女に好意を持っていた。
前世で僕が好きだった女の子……真中さんに似ていたというのもある。
真中さんも優しくて、笑顔が可愛かった。それに身長も5mを超えていて大きく、肩幅は片側二車線くらいあったし、素手でコンクリートを剥がして食べられるほど力持ちだった。
ヒューコさんを見ていると真中さんを思い出す。
そして自惚れかもしれないと前置きした上で言うのだが、恐らくヒューコさんも僕に好意を持ってくれている……と思う。
じゃなければ、幾ら彼女が優しくても、お情けで何度も依頼をくれないだろうし、何よりも、彼女の性癖がそれを伝えていた。
いや、見ようと思ったわけじゃない。見ようと思ったわけじゃない。見えてしまったんだ。
彼女の二つあるうちの一つの性癖は『ショ●コン』だった。
つまり、巨大なオーガのヒューコさんは年下の男の子が好きなのである。
自分で言うのも何だが僕はかなり童顔だ。日本人の中でも童顔だといわれるくらいだった。
そしてここは異世界。ソース顔がデフォルトのこの国では僕はかなり幼く見えるらしい。
実際、今まで何度も12、3歳くらいだと間違われた。ヒューコさんからも、最初は「ぼく、こんなとこでどちたのー?(ムチムチ)」とまるで赤ちゃんに話すような言葉で話しかけられたものだ。
ちなみにもう一つの性癖は分からない。何故か「ショ●コン」の下は
【■■】
と、伏せ字になって見えないのだ。理由は分からないが、もしかしたら僕の鑑定レベルが上がることによって、これは明らかになるのかもしれない。
「変だなあ」
ヒューコさんが首を傾げている。
そろそろ、リーパーの生息地に到着する。
「どうしたんですか?」
「いつもなら、ここら辺にリーパーの1匹や2匹、湧いてるんよ。でも全然見当たらん」
僕は周囲を見回した。確かに、いない。
「他の冒険者に狩りつくされたんじゃないですか?」
と、僕が言った直後。
「危ない!」
ムチっっっっ!!
ヒューコさんの手が、ムチのような尖さでムチムチと僕の頭にかぶさったかと思うと、凄まじいムチムチパワーで地面に伏せさせられた。
ズボボぉ!
勢い余って僕の顔が地面に田植えされる。
やはりヒューコさんは真中さんに似ている。もっと好きになりそうだ。
「どうしたんですか?」
僕が一所懸命に顔を地面から剥がすと、ちょうどヒューコさんのお尻が目の前にあった。彼女は鎧も薄着なので、ほぼ丸見えである。あ、この中桃太郎いそう。
「あれ」
ヒューコさんの指さす方には、真っ二つになった木があり、その更に奥から、邪悪な気配が漂ってきていた。
「ほう、今のを避けましたか……」
その声は言葉を喋った。しかし、その言葉が人間の声ではないと直感的にわかった。
声質は合成音声に近い。
ゆっくりゆっくり、這いずって姿を現したのは、リーパーだ。
デカい。今まで見たことが無いサイズだ!
それに喋るリーパー!? 魔物が喋るというのは聞いた事がある。しかし、かなり高レベルで、長生きしていなければ喋れないはずだ。
あとこいつどこから声を出してるんだ。
「鑑定士くん! 鑑定お願い!」
「わ、分かりました! 鑑定スキル、発動!」
僕は両手を前に出しておおよそ唯一の取柄である鑑定スキルを発動させた。
触手植物型リーパー(Reaper Plant)
種族: 異形植物(魔獣型)
属性: 闇 / 毒
レベル
76
HP
85
高い生命力、再生能力あり
攻撃力
75
触手の打撃・切断攻撃が強力
防御力
60
柔軟な触手で攻撃を受け流す
知能
111
獲物を誘い込む知恵がある
性癖:熟女
好きなシチュエーション:(スクール水着を着た70歳以上の熟女が昆布で乾布摩擦をしているところ)
ば、バカな! 知能が100を超えているだって!?
「ククク……! 驚いているようだがもう遅い! お前達も今までの人間と同じよう養分にしてくれる」
リーパーの葉っぱとも花ともつかない部分が露出し、ねちゃちゃとした球体の物がずらりと並んでいるのが見えた。
「鑑定士君、気を付けて。あれはリーパーの卵! あれを植え付けてくるつもりかもしれない!」
「わ、分かりました!」
リーパーは他の生物を苗床にして自分の種族を増やす性質がある。
あれを植え付けられたら最後。一生リーパーの養分にされて吸いつくされてしまう。想像するだけで背筋が寒くなった。
リーパーは高笑いしながら言った。
「分かってももう遅い! この卵! 1パック350ゴールドになります!」
「あ、こいつ! 卵生みつけるんじゃなくて卵売りつけようとしてる!」
その刹那、目にも止まらぬ速さで、触手に乗った卵が伸びて来て、僕の目の前に置かれたかと思うと、死角から出てきたもう一本の触手が、僕の財布をまさぐり、400ゴールドを抜き取って行った。
しかも、一旦戻った触手が50ゴールドを投げつけるように僕の地面に置いた。
「ククク! お釣り50ゴールドになります!」
「ああ! 待て! 買うなんて言ってないぞ!」
まさに押し売りである。
「しかも350ゴールドって高い。町じゃあ200ゴールドで売ってる」
珍しくヒューコさんが真剣な声で言った。
「黙れ、オーガ風情が! 次はお前だお客様ぁ!
再びリーパー卵のパックを乗せたリーパーの触手が伸び、今度はヒューコさんの方へ迫った。
「2パックで600ゴールドとお安くなっておりまぁす!」
「ひゅ、ヒューコさ……」
僕は途中で叫ぶのを辞めて、そのまま口をあんぐりと開けてしまった。
ヒューコさんの元にも、僕のときと同じように二つの触手が迫っていた。肉眼でとらえるのも難しいスピードだ。
しかし僕の目が触手の先端を捉えたとき、彼女はその両方ともを鷲掴みにしていた。
そして、まるで小さな雑草でも抜くかのように、いとも容易く触手をちぎってしまった。
ブチブチっ! というちぎれる音と、ムチムチぃ! というムチムチ音が二重奏になった。
「卵が欲しかったら、自分で奪う」
涼しい顔をしているが、目は一点を凝視して離さない。獲物を見る目だ。
彼女は普段はおっとりしているが、やはり魔物を前にすると戦闘民族らしく闘争心が湧きたってくるのか、一切の容赦が無い。
「せ、窃盗は犯罪だぞ! 警察呼ぶぞ!」
リーパーは苦し紛れに叫んだ!
「そう。アコギな商売をしているリーパーは言うことが違うね」
リーパーも答えに窮したようだ。
「舐めるなよ人間風情が!」
リーパーが叫ぶと、まるで後光が差すかのように、おびただしい数の触手が広がった。
「遊びは終わりだ! お前らまとめて養分にしてくれるわ!」
ヒューコさんは背中の大剣、ではなく腰の短刀を抜いた。
「私は、商売をおあそび呼ばわりしてるやつには負けない」ムチッ!
リーパーの触手が次々に迫ってくる。
そこからの彼女の動きは目で追えなかった。ありとあらゆる角度から迫ってくる触手を、短刀一本と己のフットワークのみで切り裂いていく。まるで料理でもするようだ。
すごい。このままいけば倒せる。
その時、僕の目が、ヒューコさんのお尻の当たりの地面が不自然に盛り上がっているのを捉えた。
それが何なのか、認識する前に、僕の足は動いていた。
「ヒューコさん、危ない!」
僕はヒューコさんを突き飛ばした。勿論体重差がある。ヒューコさんはちょっと左によれただけだが、その後、僕を襲った痛みが、その行動は無駄ではなかったと示していた。
僕の身体に触手が巻き付いていた。ギリギリと締め上げられる。
「ちいっ! 外したか!」
このリーパー、やはり知能が高かった。恐らくヒューコさんには勝てないと思ったのだろう。地面から不意をついてきたのだ。
「鑑定士君……私を庇って……」
むちぃ……。
ヒューコさんは一瞬悲しそうな顔になった。
「ぼ、僕は良いから早くリーパーを!」
ヒューコさんは屈み込むと、ぶちぶちぃ……! と僕の身体に巻き付いた触手を引きちぎった。
そして、リーパーを見据える。その顔に、殺気が宿った。
ヒューコさんは金棒を抜き、構えた。
空気がざわついている。
急速に温度が下がってくる。
万物がヒューコさんの殺気に怯えているかのようだ。
「コロス」
「ひ、ひい! 来るなあ!」
ヒューコさんが踏み込んだ次の瞬間、リーパー塵になっていた。
***
「鑑定士君、怪我はない?」
むちち?
ヒューコさんは僕の足を優しく撫でてくれた。
「大丈夫です。ちょっときつく巻き付かれただけなので……それより、ヒューコさんが無事で良かったですよ」
僕が笑うと、ヒューコさんは顔を真っ赤にして、背けた。
「鑑定士君も、無事でよかった……。それから、その、君に助けられて、すごくうれしかったよ」
ムチっ。
何だか良い雰囲気になってきた。今好きって言ったら、ヒューコさんも答えてくれるだろうか。
「じゃ、じゃあ帰りましょうか。触手も手に入れたことだし!」
しかし僕は結局言い出せなかった。本当にビビリでチキンだと思う。これだから未だに童貞なのだ。
「さて、帰り道はどっちだっけ」
僕は立ち上がろうとした。しかし、右手を掴まれて動けなかった。
「その、帰り道のことなんだけど」
ミチィ……、カエリムィチィ……。
「どうしたんですか?」
「あのリーパーがふざけ過ぎてて忘れてたけど……リーパーの触手には催淫作用のある液体がびっちゃびちゃに付いてるんよ」
むちぃ♡
「あっ」
気付いた時には僕は押し倒され、ヒューコさんの体が覆いかぶさっていた。
「ちょっ、ヒューコさん!?」
当然ながら僕の力で何とかなるようなフィジカルの差ではない。
「ごめんね、こんな時、なんて言ったらいいのか分かんないけど……」
むちぃ♡
「頂きます」
むちぃ♡♡♡
こうして、僕はオーガに食べられ(性的に)、童貞としての人生を終えたのであった。
***
チチっ、ムチチっ
ムチムチ音で目が覚めると、僕は見知らぬ場所に居た。どうやら幕屋の中に寝かされているらしい。
「気がついた?」
ヒューコさんが僕の頭上から覗き込んでいる。
「あ、あの」
「起き上がらないで良い。ここは、私の実家」
つまり僕は、気を失っている間に、オーガの里まで運ばれたということらしい。
その瞬間、ヒューコさんに押し倒されてから気を失うまでの一連の記憶が蘇ってきて、思わず赤くなった。
詳しくは言えない。詳しくは言えないが、全身の水分を本気で絞り切られるかと思った……。
「お、目を覚ましたねえ」
ヒューコさんの声ではなかった。僕の視界の下の方に声の主はいた。やはり角が生えている。オーガの女性だ。
「え?」
その瞬間、僕は意識が一気に覚醒した。自分の置かれている状況が非常にまずいということを、一瞬で理解した。
ここはオーガの里。ヒューコさんの他にオーガがいても全く不思議ではない。不思議ではないが、問題はその数である。ざっと数えただけで10人。
その一人ひとりが鼻息荒く、僕の身体を舐め回すように見たり、さすったりしている。
「ヒューコちゃん、本当に良いの? 彼氏なんでしょ?」
良いのって何が!? ねえ! 何が!?
「うん。でも……」
うんじゃないよヒューこさん!!! 助けてよ!
ヒューコさんは恥ずかしそうに顔をそむけた。
「すごく良かったから、みんなにも、体感して欲しくて……」
そして無意識に発動した鑑定スキルで、彼女たちの性癖が見えた。全員【ショ●コン】持ちである。
おまわりさんこの人たちです!!!
そして僕は思い出していた。彼女たちオーガには、仲間同士で獲物を分け与える性質があるのだと。
「そう、じゃあ……」
「遠慮なく」
全員の声が揃った。
「いただきます」
こうして、僕は彼女たちが満足するまで、一滴残らず搾り取られることになるのだった。
おわり
※彼は3日後開放されました。