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ホームセンターのATMにて

掲載日:2025/04/27

【ホームセンターのATMにて】


⸻


連休に入った週末、

家族でホームセンターへ出かけた。


5月を新しい布団カバーで迎えたい。

そんな気分が家族の中に自然に広がっていた。


シロクマ柄の涼しげな水色のカバー。

ボタニカルなデザインで、清涼感のあるカバー。

みんな、それぞれに気に入ったものを見つけた。


ぼくはと言えば、

「汚れても目立たない紺色がいいかな」

そんな現実的なことを考えていた。


ふと財布を見ると、

このあと行く予定のラーメン屋で払うには、少し心もとない。


ATMでお金を下ろすことにした。


妻は、土日にATMで現金を引き出すのをすごく嫌う。

「利息もつかんくせに、手数料だけは一丁前に取るけん!」

いつも笑いながら、でも本気で怒る。


そのたびに僕は、冗談めかして言う。

「まぁ、昔お世話になったけん、ちょっとくらい返さんとね。」


……そう、昔ぼくはこの銀行で、10年ほど働いていた。


ATMは混雑していた。

2台あるうちの1台が故障していて、列がじわじわと伸びていた。


そこへ、初老の二人組がやってきた。

銀行のATMセンターの職員らしく、工具箱を手に持っている。

並んでいる客に、申し訳なさそうに頭を下げながら、故障対応に取りかかった。


……あれ?


小柄で濃い顔のおじさん。

丸顔で愛嬌のある中年男性。


見覚えがあった。

間違いない、あの二人だ。


三浦さんと、吉兼さん。


若い頃、僕が銀行にいたころ、

この二人は検査部の臨店検査班に所属していた。


半年に一度、予告もなく支店に現れる。

支店の事務処理にミスがないか、

不正がないか、

行員たちの勤務態度に問題はないか……。


細かくチェックしていく、いわば「銀行内の監察官」。


検査で不備が見つかれば、

支店長はもちろん、役席も、末端の行員も、

昇格が遅れるなどのペナルティを受ける。


誰もが、検査部の臨店検査を恐れていた。

朝、開店前の支店に彼らが現れたときの、あの空気。

ピリピリして、重くて、ひどく居心地が悪かった。


そんな恐ろしい存在だった、三浦さんと吉兼さん。

でも今、目の前には……

故障したATMに頭を下げながら、汗をぬぐう、ただのおじさんたちが立っている。


ぼくは声をかけようか、迷った。

でも、ええい、と決心して言った。


「……三浦さん、ですよね?」


おじさんは振り返って、ぱっと顔を明るくした。


「おおー! 誰やったっけ!? 呉服町とか箱崎におった辞めた子やろ!!」


「大津です。」


「あああ、大津くん、大津くん! 死んだ中島支店長が可愛がっとったね〜!」


吉兼さんも、ニコニコしながら、

「こんなとこで会うとはなぁ!」と手を振ってくれた。


「でも、髭やら生やして身体もデカくなったね! 今なにしよっと?」


「あー、サラリーマンは向いてないとようやく気づいて。大型トラック乗っとります!」


すると二人、顔を見合わせて、

「あー君は銀行員向いてなかったばい!」

と声を揃えて大笑いした。


懐かしい検査部時代の話になった。


僕の机を最後の日にこっそりチェックして、

点数を帳尻合わせしてたこと。

あんまり不備が見つからず点数が良すぎる時に、

「2〜3点の不備は絶対僕の机に隠れている」と確信していたらしい(笑)。


今は二人とも、定年後にATMセンターへ再雇用されていること。

そして「爺捨て山」と呼ばれるその部署には、

かつて僕が仕えていた支店長たちも何人かいること……。


冗談交じりに、でもちょっとだけ寂しそうに、そんな話をしてくれた。


ふと見ると、

僕を探しに来た妻がこちらを見ていた。


老人手前のおじさんたちと談笑する僕を見て、

妻は嬉しそうに笑った。


そして、ぺこりと二人にお辞儀をした。


──妻が美人でよかった。

銀行を辞めても、なんだか幸せそうだな、って思ってもらえる気がした。


 


銀行を辞めるとき、僕の人生はぐちゃぐちゃだった。


営業車で昼寝をし、

喫茶店で漫画を読み、

担当案件は放置したまま。


どうしようもなくなって、人事部に呼び出された。


支店の上司も、

本部勤務の通りすがりの元上司たちも、

「土下座してでも家族のために残れ」と言ってくれた。


でも……

言うことを聞かなくてよかったと思う。

今が幸せだから。


別れ際、

三浦さんと吉兼さんがにこにこしながら言った。


「大津さんが幸せそうで、ほんとよかった。

 辞めたとき、心配しとったんよ。多分ね(笑)」


「ありがとうございます。お元気で。」


そう言って、ぼくは二人に深く頭を下げた。


 


──これが、僕が土日でもATMを使う理由です(笑)。


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