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後編

腐男子も出てきます。

でも、BL要素はありません。

 そして、今だ…。

 あの頃はまだ、父の名字の田中姓を名乗っていたので、今の私とは、見た目も名前も変わっているはず…。 

 だから、私がしらを切り通せば、潮音君にはバレないと思っていたのだけれど…。



「エミリちゃん、ここ分からなくて…英訳してみて」

「エミリちゃん、これ…この間食べてみたいと言ってた新商品買ったんだ。良かったら一緒に食べない?」

「エミリちゃん、これから伊藤と高橋さんと勉強会するから、エミリちゃんも一緒にやろう」



 そう…怖ろしいほど積極的に潮音君に話し掛けられている…。


 伊藤君は茜の彼氏で、彼も茜と一緒の関西の大学を目指しているらしく、何かとこの4人でつるむことが多くなってしまった。

 潮音君と伊藤君は昨年まで一緒に生徒会で会長、副会長をしていた仲で、伊藤君と茜は文芸部で一緒だったそうだ。



「エミリ、完全に鈴木君にロックオンされているね」

 茜が微笑ましいものを見るような目で見てくるけれど、こっちはそれどころではない!!

 あまり近くで一緒にいたら、いつ()()田中笑里だとバレてしまうか分からない。 

 もうこれ以上潮音君に嫌われるのだけは耐えられない。

 だって彼はあの時、最後にこう言ったのだ。



「エミリちゃん、僕は君の(君がした)事を絶対忘れない!!

 君が僕からどんなに遠く離れても…絶対覚えている(許さない)から!!」と…



 せめて初恋の彼に、好かれなくても嫌われたくはない。

 最初は転入生が珍しくて、正義感が強く優しい彼らしく、学校に馴染むまで気を使ってくれているのかと思った。前の時もそうだったし…。

 でも、さすがにもう半年以上経つので、単なる気遣いではないと分かる…。


「鈴木君ね、あんなに格好いいのに、彼女とか全然作らないの。もちろんモテるから、女の子からもいっぱい告白されてるんだよ…学年1可愛い子からも告白されたのに、お断りしちゃったの。

 だから一時期は、彼は男の子が好きなんじゃないか?という噂も流れて…うちの貴司(たかし)と付き合ってるんじゃ?なんて噂まで流れたの。

 もちろん、貴司には私という彼女がいるし、珍しく鈴木君が声を荒げて抗議したので、そのデマはすぐ収まったんだけど…。

 彼、初恋の女の子が忘れられないらしくって…エミリ、大丈夫?顔が真っ青よ!!」


 その後私は、心配した茜に保健室へと連れて行かれ、先生に少し休んでいくよう言われた。


 あの優しい潮音君が声を荒げるところなんて、3年間の小学校生活でも一度も見たことがない。

 きっと凄く嫌だったんだ…男の子が好きだと思われるの。

 私のせいだ。私があんな漫画を描いたから、彼を傷つけてしまったんだ…。



「エミリちゃん、大丈夫?もう授業終わったよ」



 気がつけば、もう保健室は暗くなり始めていた。

 最近受験勉強で夜遅くまで勉強していたのと、潮音君の事で考えることが多くて、ちゃんと眠れていなかったらしい…。


「これカバン持ってきたよ。送るから一緒に帰ろう」

「ありがとう。茜は…?」


 いつも一緒にいるけれど、大抵、茜や伊藤君も一緒なので潮音君と2人きりになることは無かった。

 さっきまで潮音君のことを考えていたので、この状況は何だか気まずい…。


「高橋さんと伊藤は、久しぶりの放課後デートに出掛けたよ。今年はクリスマスも塾あるし、塾が休みの時に行っとかないとね」

 何だかんだで、私達は塾も同じ所に通っている。茜に誘われたからだ。

 受験もラストスパートを迎えた今、恋人達もクリスマスどころではないけれど、目指す大学も一緒だから、2人の明るい未来のためには、今が頑張りどころよね…。


「だから今日は僕だけで悪いけれど…一緒に帰ろう」 

 潮音君からカバンを受け取り、2人並んで歩き始めた。

 茜と伊藤君が塾が休みという事は、私達も今日は塾が休みだ。


「久しぶりに息抜きに、ちょっとだけお茶して行かない?」

「いいよ」

 私も一回、潮音君がどう思っているのかを聞いてみたいと思っていた。

 それ次第では、このタイミングだけれど進路を変更しないといけないかもしれない…。



「こんなところあったんだ…」

 潮音君が連れてきてくれたのは、学校からも駅からも少し離れた、隠れ家的なお店だった。

 そんな広くはないけれど、木目調で落ち着く雰囲気のカフェだ。


「うん、たまに1人になりたい時に来るんだ。ここなら学校の子や知り合いにも会わないから」

 いつも色んな人に囲まれて楽しそうに見えるのに…潮音君にも、そんな時があるんだ…。

「鈴木君はどうして京都の大学を目指してるの?

 こっちでも鈴木君が行きたい学科はあると思うんだけれど…」

 潮音君は昔から、後世まで残るような建物を設計したいと言っていた。

 今もその夢は変わらないようで、彼は建築学科を目指している。


 エミリが京都の大学を目指したのは、古典文学にのめり込むキッカケとなった、古典作品を素敵な英訳にして海外に広めた先生が、京都の大学で教鞭をとっておられると知ったからだ。


「…笑わないで欲しいんだけど…エミリちゃんみたいな、学問的な理由じゃなくて、ごく私的な理由なんだ…」

「笑ったりしないけれど…私が聞いても良いの?」

 そんな、他の人が知らないような理由を、知り合って日が浅い(と思われているはずの)私が聞いていいのだろうか…?


「実は…好きな子が京都の大学を目指していると聞いて、自分も京都の大学を目指そうと思ったんだ」

 そう言えば、潮音君にはずっと思っている初恋の女の子がいると聞いたな…。

 もしかして…美奈ちゃん?

 彼女も京都の大学目指しているのなら、ますます私、気まずいんだけれど…。


「僕は子供の頃、海の近くの小さな村に住んでいたんだ。父が海洋生物の研究をしていて、その関係でね…。

 彼女に会ったのは、その村でだった。

 初めて会った時は、今にも消えてしまいそうに儚げな感じで、こんな妖精のような女の子がいるんだと思った。

 それまで会ったことのある女の子は、みんな元気な子ばっかりだったから…」

 あれ?美奈ちゃんって、儚げなイメージだったっけ…?

 ショートカットで、よく日に焼けていて…どっちかというと、元気いっぱいだった気が…。


「肌が白くて、長い艶のある黒髪が綺麗で、あの当時は眼鏡を掛けていたけれど、琥珀色の瞳は吸い込まれそうに澄んでいて…」

 それって…。

「小学校時代の儚げなエミリちゃんも可愛かったけれど、今の明るくて綺麗になったエミリちゃんも素敵だね」

 潮音君はドッキリが成功したというような、嬉しそうな顔をした。


「潮音君、私だと分かっていたの…」

「ごめん、実は卒業式の後エミリちゃんのお家に行った時に、お母さんにお願いして連絡先交換してもらって、エミリちゃんの近況をずっと教えてもらってたんだ…あっ、引かないで…」

 ちょっとだけ引いた…。

 もし、私が日本に帰国することが無かったら、ずっとお母さんとやり取りするつもりだったのだろうか…。


「いいや、最初は自分が留学することも考えていたよ。でもお母さんからエミリちゃんが京都の大学を目指していると聞いて、自分も京都で行きたい大学を探したんだ」

「でも、潮音君は私の事を恨んでいたんじゃないの?潮音君を題材にした漫画なんて描いたから…」

「まさか、恨んでなんかいないよ!!離れていても、忘れられなかったし…ずっと好きだった。

 あの漫画は確かに衝撃的だったけれど…何よりショックだったのは、漫画に描かれた自分が女の子みたいだったことだよ。

 エミリちゃんから見た自分はあんな風なのかと…それからは一生懸命背が伸びるよう牛乳をいっぱい飲んで、筋肉がつくように運動もしたんだ。

 まあ、あんまり筋肉のつく体質じゃなかったから細いままだけど、水泳していたから肩幅は広くなった」

 まさか潮音君が()()が原因で、肉体改造に挑戦していたなんて…。

「じゃあ、伊藤君との仲を疑われて激怒したのは、私の漫画がトラウマになったからじゃないの?」

「それ…高橋さんに聞いたの?

 だって、あの伊藤だよ?あいつ、あんな聖人君子みたいな顔して腐男子なんだ…。

 自分がネタにされても喜びそうで…しっかり釘を刺しておかないと危険だからね」

 潮音君は心底嫌そうな顔をした。

 そうなんだ…まさか彼が同志だったとは…。


「本当はエミリちゃんが転校してきた時にすぐ話したかったんだけれど、何だか必死に隠そうとしているみたいだから言えなかったんだ…」

 だって潮音君にだけは、知られてはならないと思っていたから…。


「改めて言わせて。子供の頃から、ずっとエミリちゃんが好きです。

 一緒に京都の大学に受かって、これれからは彼氏として側にいさせてください」

 ちょっと緊張して不安そうな潮音君を見て、こんな表情の彼も人間らしくて好きだなと思った。

 もう彼の色々な表情を見てときめいても、この()()という気持ちを()()にしなくても良いんだと思った。



「エミリ、今更だけど、どうしてこの高校に転校してきたの?

 大学は外部に行くつもりなら、エミリの家からもっと近いところにも帰国子女を受け入れている学校はあったでしょ?」

()()()

お読みいただきありがとうございます。


誤字脱字報告ありがとうございます。



少し分かりにくいかもしれませんが、最後の会話は茜とエミリの会話です。


一見普通そうにに見えて、普通でない人を書くのが好きです。






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