前編
ある歌が頭から離れず、『秘密』をタイトルにしたくて書きました。
お楽しみいただければ、幸いです。
『エミリちゃん、僕は君の事を絶対忘れない!!
君が僕からどんなに遠く離れても…絶対覚えているから!!』
「笑里、もうすぐ搭乗の時間よ」
「は〜い。パパは?」
「先にゲートに向かってるわ。友達へのお土産は買えた?」
「日本にお土産渡すような友達はいないから大丈夫。お爺ちゃん、お婆ちゃんに渡す分は買ったよ」
私は5年ぶりに日本に帰国する。
日本を離れたのは小学6年生の時…。
ある事件が起こり、そのまま学校に行けなくなった私は、誰に別れを告げることもなく、ママの再婚相手が住むカリフォルニアへと旅立った。
今回、パパのお仕事の関係でまた日本に帰ってくることになったけれど、小学校時代の友達には知らせていない…というか、あの頃の私に、友達と言える子はほとんどいなかった。
唯一、信頼していた親友も、私はあの事件で無くした。初恋も失った。
高3の中途半端なタイミングでの帰国となったけれど、帰国子女という事もあり、受け入れてくれる高校はすぐに見つかった。
「初めまして。こんな慌ただしい時期からですが、父の仕事の関係でアメリカから転校してきましたエミリ=佐藤=ウィリアムズです。よろしくお願いいたします」
『ウィリアムズって…アメリカ人なのかな?』
『茶髪に瞳の色薄くて色白いから、日系のアメリカ人じゃない?』
『どっちにしろ美人だよね…』
100%日本人です。ウィリアムズは再婚したアメリカ人のパパのファミリーネームで、佐藤はママの旧姓です。
瞳は自前だけれど、髪は染めて緩くパーマあててます。
美人と言ってくれたあなた、ありがとう。
私は向こうに行ってから、少しでも浮かないように、眼鏡をコンタクトに替え、真っ黒で重たく長い髪を肩くらいまで短くし、明るく染めて、緩いウェーブヘアにした。
それで見た目は何とかアメリカンに出来たけれど、英語は全然話せなかったので、やっぱり苦労した。
お家では、パパに完全英語生活の猛特訓を受け、何とかクラスの友達と打ち解けられるようになったのが、ミドルスクールを卒業する頃。
せっかく友達も出来て、あと半年でハイスクールも卒業というタイミングでパパの日本転勤が決まった。
元々大学は、日本の大学に通う予定だったので、家族揃って行くことになった。
「ウィリアムズさん、わからない事があれば隣の席の高橋さんに聞いてくださいね」
「はい。高橋さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。英語でわからない時とか、教えてね」
高橋さんは、少しアメリカに引っ越す前の私に雰囲気が似ていた。
そのためか、すぐに意気投合し、気がつけばお互いファーストネームで呼び合う仲になっていた。
「エミリ〜、今日帰りに図書室寄るからつきあって」
「いいよ。私、職員室寄るように言われているから、その後でも良い?」
「じゃあ、私も職員室付き合うわ」
「茜、ありがとう」
職員室には、現時点での進路希望を書いた紙を提出しに行く。みんなは既に提出済みなので、早めに出すよう言われたから。
この学校はそのまま内部進学も出来るけれど、私は行きたい大学があるので、外部受験する予定だ。
京都の大学で、私の興味がある古典文学について思い切り学びたいと思っている。
茜も関西の大学を受ける予定で、そういうところも話が合う。
茜と大学の話をしながら職員室に向かっていたので、扉を開けて出て来る人がいるのに気づくのが遅れた。
「Sorry!!」
出て来た人にぶつかりそうになって、咄嗟に英語で謝ってしまった…。
「あれ、うちの学校、留学生の子いたっけ?」
ぶつかりそうになった私の肩を支え、笑顔で話し掛けてくれた人の顔を見て…固まった。
一言も発せず、固まってしまった私の代わりに、茜が相手の男子生徒に謝ってくれた。
「鈴木君、ごめんね。彼女、エミリ=佐藤=ウィリアムズさん。留学生じゃなくて、帰国子女の転校生だよ」
「ああ、噂の美人転校生ね。隣の3組の鈴木潮音です。よろしくね」
「エミリ、鈴木君は校内1の秀才で、京都の大学を目指してるの」
間違いなく潮音君だった…。
相変わらず…綺麗な顔。
「初めましてエミリ=佐藤=ウィリアムズです」
「佐藤さんって呼ぶべきか、ウィリアムズさんって呼ぶべきか迷うから…エミリちゃんって呼んでもいい?」
あの頃と変わらない笑顔で、あの頃と同じ呼び方で名前を呼ぶ…初恋の人。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
一話完結の話にするつもりが長くなり、なかなか終わらないので3部構成にしました。