8 カースト上位
グループ内における金吾の位置が変わった。
丹馬を力でねじ伏せたことで、丹馬に並ぶ億田グループのナンバー3の位置へと昇格したのだ。
「おめぇがあんなに強ぇとは知らなかったぜ。」
金吾に圧倒的に力負けしてから、丹馬の金吾に対する態度が変わった。向けられる目に畏敬のような色まである。
もっともこの態度には、丹馬を力でねじ伏せた後の金吾が丹馬に対して威丈高な態度を一切とらなかったことも大きく影響していた。
金吾にしてみれば、これまで圧倒的に強かった丹馬のイメージがまだ大きい。
ラジカセ犬状態である。
調子に乗った態度なんて恐ろしくてできないというのが正直なところなのだが、それが丹馬の自尊心をいい形で保たせた。
「僕、丹馬くんみたいな『技』は持ってないんで‥‥。よかったら今度格闘技教えてください。」
そんなふうに言われれば丹馬も悪い気はしない。なんとなく自分の舎弟のような感じで金吾に接するようになっていた。
金吾も弟分のような態度をとり続けている。
やがて金吾は丹馬に連れられて夜の街にも出るようになり、ストリートにもデビューした。
「俺の弟子だ」と丹馬に紹介される。
ストリートファイト。早く言えば一対一の素手によるケンカ。男のプライドを賭けた闘いだ。
丹馬駿の名前はその界隈では通っていた。
少し前の金吾だったら、覗き見ることすら怖しい完全な異世界であった。
しかし「弟子だ」と紹介された今の金吾は、その丹馬の顔に泥を塗るようなことはなかった。
負ける、ということがない。
金吾は先手必勝の戦術をとらない。まず相手に殴らせる。
顔面だけカバーするように両腕を上げ、ボディをガラ空きにしてしまう。当然、相手はパンチなり蹴りなりを繰り出してくるが、金吾は避けもしない。
殴った相手は、まるで大型トラックのタイヤでも殴っているような感触に驚き、思わず金吾を見上げてその目に恐怖を浮かべるのだ。
金吾はそんな相手の横っ面を、平手で叩く。相手がガードしても、そのガードの腕ごと力で吹き飛ばす。
あるいは、顔はガードしたまま、足で丹馬仕込みのローキックを放つ。
それでだいたい勝負がついた。
中学生とは思えない圧倒的なパワーだ。
金吾と丹馬が並んで歩いていると、かなりのケンカ自慢でも道を開けるようになるのに時間はかからなかった。
金吾は自信をつけた。
自信がつくと自然、余裕ができる。それが金吾の態度に奥行きを持たせた。
億田に対しても金吾は同じように腰の低い姿勢をとっている。
あの体育館裏のことがあってから、金吾は少し賢くなった。
億田のメンツをつぶさなければ、自分は億田を背景に他の連中に大きい顔ができる——ということを学んだのだ。
実際、金吾が他人よりも優っているのは「力」だけで、奥田の頭脳にもセンスにも全くついていけるわけではない。
金吾はその腕力だけを背景にしながら、これまで通りの金吾を演じ続けていた。
たまにはイジられてやるが、気分が悪ければ表情から笑顔を消す。それだけだ。
しかし、それだけであることがむしろ金吾の存在に凄みを持たせ、まわりも一目置いて気を使うようになっている。
金吾の学校生活はかなり居心地のいいものになってきた。
ひょろひょろだった頃の金吾には考えられもしなかった状況だ。
筋肉は人生を変える。
「速い! 見えないよ。」
「そうだろう? 力だけじゃこうはいかねぇんだよ。」
金吾はよく丹馬とスパーリングのようなことをやる。
スパーリングといっても、ほとんど一方的に丹馬が金吾を打撃し、金吾は受けるだけだ。
丹馬の技が速すぎて見えないのと、打たれても金吾は平気だからでもある。
だがもし逆に金吾のパンチや蹴りが丹馬に当たってしまったら‥‥、丹馬の体は壊れてしまうかもしれない。強いといってもまだ中学1年生なのだ。
「パワーをつけるとスピードが落ちる。スピードをつけるとパワーが落ちる。ここらへんのバランスが難しいんだけどな。」
丹羽のそんな講釈を金吾は真剣な表情で聞いている。
少なくともそういう表情に見える。
丹馬にしてみれば兄貴分としての自尊心は十分保たれてはいるのだが、一方でそんな金吾を不気味にも感じ始めていた。
こいつは‥‥実質的には俺より強い。
なのに、この謙りようは‥‥。
なんだか別種の生き物を見ているような‥‥。




