7 ヒーロー
悟の学校生活が変わってきた。
サッカー部における位置が変わったことによる。
具体的には対外試合での起用がほとんどない控え選手から、レギュラーになることができたのだ
センターバックが今のところ定位置で、部活の中でもその存在感が増している。
それなりに女子の注目も集めるようになった。
悟は少し気分がいい。
が、そうなってくるとさらに欲も出てきた。
もっと目立つ場所でもプレーしてみたい——。
「小林は持久力をつけなきゃな。」
外部民間から監督として招かれている四季平先生はそう言う。
たしかに悟はパワーはついたが、その分の持久力がついていってないので、どうしてもフルタイムで走りきれないのだ。
先発で出ても後半疲れてしまうので、後半に入ると本来のパフォーマンスが出せなくなってしまう。
ピッチには投入されるが、今のところ最初は控え——という起用も半々である。
最初から先発で投入され、試合終了寸前で逆転のゴールを決める菖とは華々しさが違った。
悟は四季平先生の助言に従って走り込みで心肺機能を高め、スタミナをつけることを自分の課題とした。
菖も食べ物などのアドバイスをくれた。
「走れるようになれよ。そしたら本当に悟と2トップのフォワードがやれる。」
そんなふうにも言ってくれる。
それは小学校の時に2人で話していた、たわいもない子どもの夢ではあったのだが。
いい友達だよな——。
と思う反面、悟のどこかに華々しくゴールを決める菖の姿を見ていて、羨ましい‥‥いや、妬ましい? と感じてしまう自分がいることも意識していた。
だめだ。だめだ。
そんなことを考えるより、もっと努力しなくては。
「最近体が出来てきてよく食べるようになったもんね、サトちゃん。」
母親はそう言いながら「食費が大変だわ」と漏らしている。
実際、悟は自分でも驚くくらいよく食べるようになった。
パワーだけついてもサッカーには役に立たない。
筋肉にはパワーを出す筋肉とスピードを出す筋肉がある。
そのバランスが取れていないと、ただの鈍重な力持ちになってしまうだけなのだ。
そしてサッカーの場合は特にだが、持久力だ。
スピードと持久力。
それが、菖と同じ舞台に立つには必要だ。
悟は、マラソンは強かった、という父親の助言も入れて、持久力のつく走り込みのやり方を取り入れてみた。
ただ、そうしたさまざまな努力をしているにもかかわらず、相変わらず悟の体はバランスを欠いていた。
体は一回り大きくなってパワーはさらに増し、スタミナもついてきたのだが、スピードのための筋肉がつかない。
むしろ遅くなっているかもしれない。
「なあ、菖はスピードを上げるために何かやってる?」
「特にはやってないよ? 部活で教えられてることだけ。」
パワーをつける筋トレをやめて、スピード重視のダッシュやドリブルの練習をメインにしたらどうか——と菖はアドバイスをくれた。
いい友達だよな‥‥。
悟だってやってないわけじゃない。
むしろ早朝、ひとりで速さを増すためのメニューをこなしたり、人一倍努力しているつもりだった。
ただ、何をやってもパワー筋だけが増えてゆくのだ。
体質が違うんだ‥‥。
生まれつき‥‥菖の方が体質に恵まれてるんだ。
ネタマシイ‥‥
悟の中に、どうしてもそんな負の感情が芽生えてしまう。
特に体が大きくなり始めてから、そんな感情のコントロールが効かなくなっているような気がする。
俺って、こんな嫌なやつだったんだ。
悟は湧き上がる負の感情を持て余した。
そんな悩みを抱えて悶々としていた日々、悟はまたあの妙な夢を見た。
ある日の明け方のことだ。夢うつつの中で悟は、奇妙な虫のようなものが話しかける声を聞いた。
受け入れろ そうすれば応えてやろう
ちくり。
と右太ももが痛んだ。
秋になって、悟は対外試合でミッドフィルダーに起用され、まさにあの小学生の時の夢のように菖との見事なコンビネーションで初のゴールを決めたのだった。




