23 世間の外
億田グループの元気がない。
教室の億田の席のまわりにはグループのメンバーが集まってはいるが、いつもみたいに騒いでいるわけではない。
ひとつには億田に覇気がなく、むっつりと黙り込んで何か深刻な表情をしているからだった。
メンバーは誰も理由を知らなかったし、聞く空気でもない。なんとなくはしゃぎにくい雰囲気なのだ。
金吾はもう3日も学校に来ていない。
入院した——と担任は朝のHRで短く言っただけだったが、どんな病気かについては何も話さなかった。
魔沙鬼にやられて大怪我でもしたんだろうか‥‥と、そんなふうに想像している者もいた。いや、グループの大半はそう思っている。
先週末、魔沙鬼が校門に現れて金吾を挑発したのをグループの皆が見ているし、それに金吾が応じて『デュエルゲーム』に行ったことも知っているからだ。
だが、そんなことを少しでも口にしようものなら億田がじろりと暗い目で睨んだ。
億田がそうである以上、誰もそのことを話題にできない。
新川にとってはイジリがない分過ごしやすいが、自分の知らないところで何かが起こっているようで気味の悪い怖さも感じていた。
その日の午後、丹馬が億田のところへやってきた。
こいつもいつになく沈んだ顔をしている。
「ニュース、ねぇな‥‥。」
丹馬がそう言うと、億田が立ち上がった。
「裏へ行こう。」
それからグループの他の面々を眺め回して拒絶の視線を送った。
「おまえらは、帰れ。」
体育館の裏で、億田と丹馬が犬走りに並んで腰を下ろして座っている。
「ありゃあ、いったい何だったんだ?」
億田が飲みかけのコーラのペットボトルをコンクリートの上に置いて、言った。
「何のニュースもねぇ。」
2人とも自分の目で見たものがまだ信じられないでいた。
「金吾のあれは、いったい何なんだ?」
ボディービルダーのマッチョな肉体とかいうようなものじゃない。
すでに怪物の部類だった。
「いつからだ? 丹馬は金吾にケンカの手ほどきをしてたよな?」
「格闘技‥‥。格闘技の技だよ。金吾が教えてくれって言うもんだから——。」
丹馬は首を少し前に突き出すようにしてうなだれた。
「正直、気味悪かったよ。蹴っても殴っても平気な顔してやがるし‥‥。億田は見てないから信じられねぇかもしれないけど、あいつ最初に魔沙鬼とやり合ったとき蹴り一発で道路標識の鉄柱曲げてんだぜ? 人間じゃねーよ。魔沙鬼を倒した時だって、たぶんあいつ意識イっちゃっってたし‥‥。」
そしてあそこに突然現れた黒ずくめの軍隊みたいな集団。
警察ではなかった‥‥。
そいつらが金吾を変なものでがんじがらめにして車に乗せて連れ去った。
その後残った清掃員が手慣れた様子で路面を清掃し、何事もなかったようにして撤収したあとは、ただアスファルトの路面が雨でも降ったように濡れているだけだった。何の痕跡も残さず‥‥。
その時間、わずが15分ほど。
そしてその異様な戦いと捕り物は、まるでそんなものは初めからなかったみたいに世間から消されてしまった。
ニュースにすらならない。
自転車と歩行者の事故やら、アイドルの一日警察署長やらのニュースですら流されているというのに‥‥。
『デュエルゲーム』の中継をやっていたSNSのアカウントまでがNET上から消えている。
金吾はどこへ連れていかれたんだ?
俺たちは、何か見てはいけないものを見てしまったのか?
そのうちあの黒ずくめたちが目撃者として俺たちを探し出し、連れ去りにやってくるんじゃないか‥‥。
2人の憂鬱と不安の原因はそれだった。
イキがっていても、まだ中学1年生なのだ。それほど世間を知っているわけではない。
ましてや金吾が連れていかれたのが世間の外となれば‥‥




