2 成長期
ちくり。
と左胸が痛んだような気がして、金吾は目を覚ました。
外はすでに明るくなっていたが、スマホを見てみると目覚ましにかけたアラームの5分前の時間だった。
‥‥‥‥‥‥‥
あと5分寝よう‥‥
金吾はもう一度布団にもぐり込んだが、目は冴えてきて眠れない。
やっぱ起きるか‥‥。
金吾にしては珍しい。
寝起きの悪い金吾はいつも1回のアラームでは起きられず、2度3度アラームが鳴るようにセットしてある。
左胸に妙な鈍痛があった。
そのせいかもしれない。
なにげに右手を左胸の上に当てて、金吾はギョッとした。
膨らんでいる。
え?
なに?
慌てて右胸も触ってみる。
右胸はいつものままだった。
胸筋などまるでない、弱々しいペタンコの胸‥‥。
ただ、左胸だけが膨らみかけのおっぱいみたいになっている。
少し痛い。
なに?
何が起こったんだ? 俺の体に‥‥。
金吾はスマホで検索をかけてみる。
「おっぱい」で検索したら、エロ画像ばかり出てきた。
「男子おっぱい」で検索したら、もっと歪んだエロ画像が出てきた。
‥‥が、下の方に「女性化乳房」という医学的な話が出てきて、それをさらに検索していったら、医学的な解説にいろいろ出会うことができた。
しかし‥‥。その内容は決して金吾を安心させるものではなかった。
成長期のホルモンバランスの不均衡によって一時的に起こることがある。という解説の一方、男性の乳癌の可能性も書かれていた。
癌?
医者に行った方がいいんだろうか‥‥?
でも‥‥。この状態を人に見せるなんて‥‥。
13歳の金吾にとって、それはめちゃ恥ずかしい‥‥という感覚しか生まない。
アラームが鳴って、金吾は飛び上がりそうになった。
慌ててスワイプして音を消す。
このあと2回、アラームは鳴る設定だ。
うざい。
金吾は少し面倒くさがりながらも、残り2回の設定を消した。
下に下りていくと、父親が会社に出かけるところだった。
「お。今日は一発で目が覚めたのか?」
「熱があるっぽい。学校休む。電話しといて。」
こんな胸で億田たちのいるところへ行ったら、何をされるかわかったもんじゃない。
「大丈夫か?」
と父親は言ったが、出かける時間だ。
「わかった。大人しくしてるんだぞ? 熱が高いようなら、医者に電話して検査してもらえ。」
今はいろいろ厄介な感染症もある。
しかし、父親も生活費を稼がなくてはならないのだ。
金吾の家は離婚した父子家庭だった。
親父は子どもの頃、どんなだったんだろう?
やっぱり俺みたいにイジられてばかりいたのかな‥‥。
「男は強くなきゃダメだぞ。」とか言ってるが、気の弱そうな風貌からは、おそらくそれは親父の願望だけなんだろう、と金吾は想像していた。
その日、金吾は1日中ベッドに座ってゲームばかりやっていた。
億田の真似をして中継をやってみるが、金吾がやるともたついた感じになってしまってどうにもダサい。
ふと気づくと胸の鈍痛は消え、おっぱいみたいな膨らみも消えていた。
代わりに、少しだけ男らしい胸筋がついているような気がした。
あれ?
俺、いつの間にか少し筋肉ついた?
普段からこっそりと部屋で腕立てなんかやっていたが、その成果が出てきたんだろうか?
そうだったら、少し嬉しい。
よし。明日からも頑張ってみよう。
金吾は「熱がある」と言って休んだことも忘れ、ゲーム機を脇に置いて腕立て伏せを始めた。
いつもなら12〜13回くらいしかできない腕立て伏せを20回もやることができた。
その日を境に、金吾の体は新たな成長期に入ったようだった。




