19 特殊能力
光太郎はケースについた手袋を眺めて二の足を踏んだ。
気持ち悪い‥‥。
「やってみて、樋山クン。手袋は分厚いから、そいつに侵入されることはないから。もし長森さんと同じような力があるなら、そいつらは逃げるはずだから。」
けっこう美人に属する篠島さんのにっこりに押されて、光太郎は恐る恐る手袋に手を突っ込んだ。
光太郎がケースの中に手を入れると同時に、中の妙な生き物たちはさっきよりも激しくパニックになった。
光太郎がその中の1匹に手を触れようと指を近づけただけで、そいつは激しくのたうち回ってすぐにぐったりとなった。
赤い色が抜けてゆく。
光太郎は表情を歪めながら、手袋から手を抜いた。
「すごい! 長森さんの比じゃないよ、この子。」
子‥‥?
とその言葉に引っかかりながらも、光太郎は思わず自分の手を見る。
俺‥‥そんな特殊能力あるのか‥‥?
「気のようなものだよ。たぶん。」
そんな光太郎の表情を読んだのだろう、長森先生が言った。
「気功というのは知ってるかな? 力のある気功師だと離れたところから人をひっくり返したりすることもできる。気は誰でも発することはできるものだが、それを常人より強く出せる人というのがいる。おそらく体質だ。」
「長森さんのその説はわたしも有力だと思っている。樋山クンはおそらくかなり強い気を指先から発することができているんだと思う。このPMを殺すことができるほどに。」
光太郎はもう一度、自分の手を見る。
「私は‥‥気功なんてやったこともないし、やり方も知らないです‥‥」
「うん。だから体質なんだよ。私のこれも同じだ。通常は人体にはいい影響を与えるだけらしい。まあ、それで手技としては患者さんに喜ばれるんだ。」
長森先生はそう言って自分の手をひらひら振ってみせた。
その言葉を引き取って、篠島が光太郎にもう少し詳しく説明をする。
「我々も研究はしてるんだが、気というものがどういうものなのかはちゃんと分かってはいない。何らかの波動であろうことは推測できるんだが、それが何なのかまでは分かっていないんだ。」
篠島はタブレットに動画を表示して光太郎に見せた。
それはアクリルか何かの長細いケースの中に4本のロウソクが縦一列に並んでいるものだった。ロウソクには火がついていて、炎は真っ直ぐ上がっている、
ロウソクから離れた反対側の側面には丸い穴が開いていて、その穴に1人の男が手を突っ込んだ。
すると‥‥
ロウソクの炎が揺れて、互い違いに左右に流された。まるで1本1本に別々の風でも吹いているかのように——だ。
「これが、気だよ。」
篠島がそう言って光太郎の表情を見る。
「この動画は中国人の気功師のものだが、発現のしかたにも個人差が大きくある。離れたところから人体や生物に影響を及ぼすものから、長森さんやキミみたいに触れることで指先から効果が伝わるものもある。矢をつがえずに弓だけ引いて飛ぶ鳥を落とした武芸者の話もあるくらいだ。」
その弓の名人の話は光太郎も聞いたことがあったが、でっちあげられた話の類いだろうと思っていた。
「この気功師にも協力を依頼してやってみてもらったんだが‥‥。」
篠島はちょっと苦笑いを見せる。
「これほどのことができるのに、PMに対しては動きを止めただけで殺すところまではいかなかった。」
篠島は真剣な表情になって光太郎を真っ直ぐに見た。
「現時点での推定で、この寄生生物に侵入された患者は全国で200人を超えるだろうと思われる。このPMがどのようにして感染を拡大させているのか、まだ分かってはいないのだが、何としても拡大を止めなければならない。樋山クンには長森さんと一緒になって、この戦いに加わってほしいんだ。」
戦い——と聞いて光太郎は怯んだ。
「そ‥‥そんなこと、急に言われても‥‥」
自分がこの気持ち悪い生物と最前線で戦う?
俺は‥‥
長森整骨院に就職はしたけど‥‥。こんな組織の中で、訳のわからない寄生生物と戦うなんて‥‥そんなことは雇用契約の中には入っていないぞ?
光太郎は長森先生の方を見た。先生はにこにこ笑っている。
「なに、普段の仕事と同じだ。患者の体を触って治療するだけだよ。私たちに危険はない。」
「そ‥‥私は‥‥」
「政府から少なくない特別手当が出るよ?」




