18 特殊事案対策室
光太郎が案内された部屋は何かの研究室のようなところだった。
白色光の照明の下、温度管理のされた部屋で白衣を着た人たちがパソコンに向かったり何かのサンプルを運んだりしている。
「こっちに来てくれるかな、樋山クン。」
篠島と名乗った女性が、子どもでも呼ぶようにおいでおいでをする。
なんだか子ども扱いされているようで、光太郎は顔をしかめた。
呼ばれた先に行ってみると、台の上に乗った透明なケースがあった。未熟児を入れる保育器に似ていて、側面に穴が2つ開いている。
保育器と違うのは、その穴にはビニール手袋のようなものが付いていて、内部と外部は完全に遮断されていることだ。
ケースの底には1センチほどのやや白濁した液体が溜まっていて‥‥、そしてその中で何かが何匹も蠢いていた。
それは最初、光太郎の目にはミミズのように見えた。
が、ミミズではない。
蛇のように横にくねるわけではなく、細く紐のように伸びたり、丸っこく膨らんで縮んだりしている。
その動きが気持ち悪い。
赤っぽい色で、どちらが頭でどちらが尻尾かわからないが、両端は骨白色で細くなっており先端が吸盤のような形をしていた。それが口のようにも見えるが、それだと両端に口があるということになる。
「な‥‥なんですか、これ?」
「何に見える?」
長森先生がちょっと悪戯っぽい目で光太郎を見る。
「気持ち悪いですね。まるで‥‥」
「筋肉みたいだろ?」
長森先生がそう言ったところで、篠島が口を挟んだ。
「みたいじゃなくて、筋肉だよ。寄生する筋肉。」
え? と光太郎は篠島の顔を見る。
「半年ほど前から、どこからともなく現れた新種の寄生生物。皮膚から侵入して人の筋肉に寄生する。寄生された人間は最初、自らの筋力がアップしたように感じるらしい。」
そう言って篠島はタブレットをタップして1枚の写真画像を見せた。
ベッドに頑丈な鎖で縛り付けられ、ギラついた目でこちらを睨んでいる男はボディビルダーのようなムキムキの身体をしている。
「彼は珍しく保護できた患者。そして‥‥」
と篠島は画面をスライドさせる。
「これが彼の学生時代の写真。」
光太郎は目を剥いた。
そこに写っているのは、先ほどのマッチョ男とは似ても似つかないひょろっとした気弱そうな少年だった。
図書室あたりでひとり推理小説でも読んでいそうな雰囲気だ。
「彼はなんとか治療が間に合った。治療したのは長森さんだ。」
そう言ってちらと篠島が長森先生の方を見ると、先生は肩をひょいと上げてにこっと笑った。
「治療‥‥って‥‥」
「ちょっとやってみるから、見ててごらん。」
長森先生はそう言うと、ケースの手袋に手を突っ込んだ。
先生がその寄生生物の方に手を伸ばすと、それらはそれだけでパニックを起こし、手を避けようとして液体の中を暴れるように泳ぎ回った。
その1匹に先生が手を触れるか触れないかのうちに、そいつは電撃に打たれたかのようにのたうち回って、すぐにぐったりと動かなくなった。
程なくそいつの赤い色が抜け、白っぽくなった体はもろもろと崩れ出してケースの底に溜まった液体の中に混じっていった。
「こいつらは患者の体内から手術で取り出した寄生筋肉だ。我々は略してPMと呼んでいる。この液体は培養液だが、白く濁っているのはこいつらの死体が溶けているからだ。もっとも、それを栄養にして他のやつらは生きてるようだが。」
飯島が顔色も変えずに光太郎に説明する。
「長森さんの話では、キミも同じような力を持っているということだったが‥‥」
飯島は光太郎の顔を見て、それから目でケースの手袋を指し示した。
「ちょっとやってみてくれないか?」




