17 デュエルゲーム
その日はまだ宵の口の午後8時頃から、噂を聞きつけた大勢の若者がストリートに集まっていた。
かつて『デュエルゲーム』に参加したことのある者から、今日初めて観戦に来た者までさまざまな顔ぶれである。
中には明らかにそのスジの人間らしいのも混じっていた。スカウトに来たのだろうか。
9時頃から前座のファイトが始まった。
ここらはいつものイベントと変わりない。
ただ、今日はこの後が違う。
旧伝説と新伝説が、王の座を賭けて再びあいまみえる。いったいどんな勝負になるのか。
観客たちは前座など見ていない。互いにその話で盛り上がっていた。
そんなざわついた空気が変わったのは、前座が終わって魔沙鬼と金吾が中央に歩み出たときだ。
ぶあん!
という気の圧力が、周囲のざわめきを一瞬にして静寂に変えた。
しん、と静まり返った路上で、2匹の獣が静かに対峙する。
動きが止まっているようでありながら、決して止まっているわけではない。
魔沙鬼がじわりじわりと足をにじらせるようにして間合いを詰める。
このあたり、百戦錬磨の魔沙鬼に一日の長がある。
対する金吾はじっと魔沙鬼の動きを見ながら、時おり攻撃線を外すように横に移動する。
その動きは武術に長じた者の動きというより、野生動物のそれに近い。
観客たちにとって無限の時間にも思える対峙が続いたあと、唐突に動きが起こった。
先に動いたのは魔沙鬼だった。
いや‥‥‥
ギャラリーの目には魔沙鬼が消えたようにすら見えた。
一瞬沈み込んでから、右へと跳んだのである。
動かない状況に慣れていた目には、その動きは捉えられなかった。よほどの武術の達人ならば見抜いたであろうが‥‥。
金吾にも見えていなかった。
消えた。‥‥と金吾は思ったが、体は反射した。
魔沙鬼はポストを蹴って鋭角に跳び、金吾の左側死角から怪鳥のように襲いかかった。身体を回転させて振り下ろすような蹴りを金吾の脳天に炸裂させる。
‥‥が
金吾はそれを頭のすぐ上で、腕で受けた。
魔沙鬼の方を見てもいない。
受けてから、初めて魔沙鬼の存在に気づいたかのようにそちらに顔を向けた。
普通これだけの加速度のついた蹴りをこんな角度で腕で受けたら、腕の骨を骨折しかねない。
だが金吾は痛みすら感じていないようで、宙にある魔沙鬼の体を見て薄ら笑いさえ浮かべている。
金吾のもう片方の腕が、魔沙鬼の蹴り足に襲いかかった。
上から魔沙鬼の蹴り足を挟み込むように打撃を加える。
みしっ。
と魔沙鬼の膝が軋む音が聞こえた。
これらのことが、魔沙鬼の身体がまだ宙にある一瞬のうちに起きた。
おそらく、何が起きたか見えている観客はほぼいないだろう。
だが魔沙鬼も並の男ではない。
金吾に固定された蹴り足をすぐに支点に変え、そのままの体の勢いを活かしてもう一方の足で金吾の脇腹に突き刺すような蹴りを入れた。
ずん!
という衝撃があって、横方向の力のために金吾の足がアスファルトの上を滑り、バランスを失って宙に浮く。
そのまま2人してもんどり打つように路面に転がった。
2人ともすぐに跳ね起きて、足から路上に立つ。
その足がアスファルトを捉えた直後、金吾は前方に跳ぶようにして魔沙鬼に襲いかかった。
魔沙鬼の顔面に向かって左フックを繰り出す。
それを紙一重のスウェーでかわしながら、そのまま体の捻りを利用して魔沙鬼は金吾の右顔面にアッパー気味のフックを繰り出す。
リーチを届かせるために腕は半ば伸びている。
それでもダメージを与えられるほど、力に自信があるのだろう。
金吾はガードがとれていない。
魔沙鬼のパンチが金吾の顔面を直撃する!
と思われたとき、金吾の右顔面が首から腫れ上がった。
いや、腫れ上がったのではない。皮膚の下で何かが、ごぼり、と動いて膨れ上がったのだ。
金吾の顔が、奇妙に歪んだ。
そこに魔沙鬼のハンマーパンチが当たり、そして、はじき返された。




