13 不調
翌日の試合で悟はミドルフィルダーとして先発メンバーに入った。
相手の城南中学はパワフルなサッカーを持ち味とする。
「小林! おまえの戦略眼とパワーが活きてくる。相手の壁をぶち破っておまえと神代で早い段階で1点もぎ取れ!」
監督の四季平先生はそんなふうに言って悟をピッチに送り出した。
よし! やってやる。
監督の期待どおり、敵のディフェンスの壁をぶち破って菖に先制のシュートを撃たせる。
あいつなら間違いなく俺の尖ったアシストを受けられるはずだ。
もし敵のマークが厳しくて菖の前にシュートコースがなかったら、俺がダイレクトでシュートを決めてやる。
菖と俺の2人を等しくマークしなければならなくなれば、ウイングのマークが手薄になる。
そこをうまくそちらに振ってやれば、攻撃パターンはより複雑にできるだろう。
悟はそこまで考えて、ピッチの定位置についた。
菖がちらとアイコンタクトを送ってくる。
悟がそれを受けて横に走り出すと、菖はキックオフのボールを前にではなく斜め後ろ、悟が走る前方に蹴り出した。
悟がそのパスを受けて、ドリブルで一気に前に走り出す。
相手が悟を抑えようと寄ってくる隙を突いて、菖は敵のミッドフィルダーの裏側へと走り出た。
しかし相手もそこは織り込み済みだ。
すぐにサイドバックが菖に付いて、悟からのパスコースを消す。
悟と菖に吸い寄せられた敵の手薄を突いて、悟が予測どおりとばかりにウイングへとボールを振った。
ウイングの白木が前に走りながらボールを受け取る。
敵のサイドバックが白木の方に寄って、悟に付いていたミッドフィルダーもそちらに気を取られた隙に、悟はそいつの裏側へ出た。
一気にダッシュして敵を引き離す。
「戻せ!」
悟の声でウイングの白木はドリブルをせず、悟に速い地を這うようなパスを返してきた。
それを受け取ってドリブルで切り込む勢いを見せる。
敵のセンターバックが悟のコースを塞ぐべく、走り寄ってくる。
ちらと見ると、菖がいい位置にいる。
よし! 狙いどおりだ!
悟はボールを奪いにきた相手にくるりと背中を向け、そのままワンアクションで菖が走り込むと予想する位置にパスを出す。
‥‥‥‥はずだった。
敵がぶつかってきても、背中で十分に押し返せる。
‥‥‥‥はずだった。
だというのに‥‥脚に力が入らず、悟はぐらりと体勢を崩した。
なんだ?
と思った直後、ボールは敵に奪われた。
ドリブルで速攻に移ろうとする敵に追いすがりながら、悟は相手の体勢を崩すべくショルダータックルを仕掛ける。
‥‥が、脚に力が入らない。
逆に押し返されてしまう。
「何やってんだ、悟!」
背後で菖の声がした。
ちくしょう!
こんなバカな!
昨日のマッサージのせいか?
あのトレーナーの若造、何しやがった?
もう一度体をぶつけて相手の体勢を崩そうとする。
だが、押し返された。
ふっざけんな!
ちくしょう! ふざけんな!
やっとレギュラーになれたのに!
先発メンバーに選ばれたのに!
こんなところで挫折してたまるかぁ—————!!
悟の内側で何かが暴れ出した。
膝が痛い。
軋む!
ぐりん。
と何かが悟の太ももの中で動くのがわかった。
悟の走るスピードが、ぐん! と上がる。
そのまま相手の真横から体をぶつける。
相手は体勢を崩すどころか、車にでもはねられたみたいに真横に吹っ飛んだ。
悟はそのまま足元のボールをキープして、菖の方を見る。
敵の選手が4人ほど悟と菖の間にはいたが、しかしわずかな隙間が一着線に菖が走り込める先に空いている。
悟はそこに向けて、まるでダイレクトシュートでも撃つようなパスを蹴り出した。
ボールは地面につくこともなく、ゆるい弧を描いて敵の間を抜けてゆく。
菖はすでにその地点に向けて走り出していた。
さすがは神代菖だ。
悟の弾丸パスにきっちりと足を合わせ、開始早々の先制ゴールを決めてみせた。
どおおっ! とギャラリーが湧く。
悟が菖にかけ寄り、ガッツポーズで駆け戻ってくる菖の頭をくしゃくしゃにした。
「やると思ったぜ!」
悟の言葉に菖は厳しい一言を返してきた。
「気ぃぬくな。取り返しにくるぞ。」
言われるまでもない。ミッドフィルダーは序盤のプレッシャーも大事な仕事だ。
それにしても‥‥
さっきのあれは、何だったんだ?




