12 熱い指
「小林を見ろ。地道な努力がちゃんと実を結ぶという典型的な例だ。」
監督の先生にそんなふうに言われると、悟は少しおもはゆい。
「努力はすぐには実を結ばないかもしれないが、それでも続けることが大事だ。特に今のおまえたちは成長期にあるんだ。才能があっても努力を怠ればすぐに追い抜かれるし、努力を続けていれば才能のあるヤツを追い抜くことだってできる。」
先生は神代菖のことを少し念頭に置いているのかもしれないが、悟は菖が人知れず努力しているところを知っている。
それに‥‥
悟自身、これが本当に努力の結果なのか、やや疑わしく思ってもいた。
あの妙な夢を見てから以降なのだ。
悟の体が変化したのは‥‥。
実際、この短期間に体がひと回り大きくなった。
成長期なのだから当然。と言われればそのとおりなのだが、なんだか悟自身が不自然な感じがする時がある。
膝や肩の関節なんかが、時々軋むみたいに痛んだりもする。
そんなある日、学校と整骨院のコラボによる対外親善試合の地域大会が企画された。
会場にプロのトレーナーとそのスタッフが来てボランティアで応急処置や身体の調整をしてくれる——というものだ。整骨院の宣伝を兼ねている。
試合は4チームのトーナメント戦で、土日の2日間にわたって行われる予定で設備の整った悟たちの中学校が会場になった。
初日の土曜日は午前と午後に1試合ずつ行われ、その勝者2チームと敗者2チームが翌日曜日にそれぞれ試合を行う。
3位決定戦は午前中。決勝は午後からだ。
神代菖と小林悟のいる福富中学は土曜日は午前中の第一試合で、当然のように勝った。
試合後の昼休み。
先生に言われて試合に出たメンバー全員が整骨院のトレーナーたちのメンテナンスを受けることになった。
院長の長森先生は全日本チームのトレーナーをするほどの人だという。
「こんな機会はめったにないから調整してもらえ。明日は決勝の試合だからな。」
たしかに、めったにない機会なのだが‥‥。
なぜか悟は気が進まなかった。体が嫌がっているような感じがするのだ。
「おい、悟。行こうぜ。」
菖がそう言って背中をぽんと叩く。流されるままに悟も体育館のホールにやってきた。
福富学園中学校はスポーツにも力を入れている中高一貫の私立校で、高校と共用の体育館にはホールや観客席があり、設備の整ったトレーニングルームも併設されていた。もちろんサッカーコートも人工芝だ。
トレーナーによる選手の身体の調整は、玄関を入った右側のホールで行われていた。
オレンジ色のビニルレザーを張った施術台が6台並んでいて、テーピングやアイシングの道具も並んでいた。
トレーナーの人(正式には柔道整復師というらしい)は7人いて、全員が長森整骨院のスタッフであるらしい。
長森先生はサッカーコートの方にいて、怪我をした生徒の応急処置のためにスタンバイしていた。
悟の担当になったのは、樋山という若いスタッフだった。
「こちらにうつ伏せになってください。痛いところとかあります?」
施術代を手で示しながら、そんなふうに聞いてくる。
なんだか経験の浅そうなヤツだった。
大丈夫なんか? こいつ‥‥?
悟は、顔に出ちゃったかも、と思いながらも言われたとおり施術台にうつ伏せに寝た。
そもそも悟はマッサージとかが好きではない。他人に体を触られるのが苦手なのだ。
「足から診ていきますね。サッカー選手ですから。」
足から、と言いながら臀部を指で押してくる。
指が熱い。
なんだか熱した鉄の棒を押し付けられているような感じだ。
筋肉の中にめり込んでくるような嫌な感じがある。
「いいですね。柔らかいですね‥‥?」
よくしゃべるヤツだ。
そのあと太ももの裏を手のひらで押すように揉んでゆくが、そのうち手が止まった。
何か考えているような感じがある。
「もう終わりっすか? 帰っていいっすか?」
悟は早くここから逃げたかった。
どうにも嫌な感じがする。明日の試合にプラスになるような感じがしなかった。
「あ、はい‥‥。」
その若いスタッフがそう言ったのをいいことに、悟は逃げるように施術台から下りて体育館を出た。
行くんじゃなかった‥‥。
なんだか触られたところがまだジンジンと熱い。




