1 強くなりたいか
強くなりたいか?
浅い微睡の中で、金吾はその言葉を聞いたような気がした。
= パラサイトマッスル =
紗枝内金吾はイジられていた。
いや、いじめられていた——と言った方がいいかもしれない。
13歳。中学生。
体が大人への成長期に入り、精神的にもいろいろ不安定になる時期である。
気の合う友達はいなかった。
‥‥が、学校はそう捉えてはいない。
なぜなら、いつも男子数人とツルんでいたからだ。
そう。
ツルんでいるように見えた。仲が良さそうに。
傍からは‥‥。
「カンチョー!」
「うひゃあっははははぁぁ‥‥!」
やられるのはいつも金吾だった。
プロレス技をかけられるのもグループ内ではほぼ金吾の役割だった。
やあねぇ、男子って。
そんな女子の視線が刺さっているのがわかる。
グループのリーダーは億田という体の大きなやつで、少しワルだが勉強もでき、スポーツもできて要領もいいので女子にもよくモテた。
だから、教室の片隅で億田がゲームなんかやっていると、グループの周りには決まって数人の女子がいた。
もちろん億田目当てで、ついでに他の男子とも話をするが、金吾に話しかける女子はいなかった。
億田はゲームをやりながら、その中継を自分でやってみせる。それがまた軽妙で上手い。
金吾もそれを聞いていると面白いと思うし、そういうグループから外されるのもいやで、そういうこともイジられ役を引き受けている理由の1つだろう。
トイレの中でふざけてバケツの水をかけられるのは、いつも金吾。
新しいキメ技の実験台になるのは、いつも金吾。
女子の前で決まってズボン下げられるのも金吾。
グループ内では「金吾」と呼ばれることが多かったが、「サエナイキンゴ」とフルネームで呼ばれることもあった。
「サエウチと読むんですけど‥‥」とは金吾は言わない。
わかっててイジってるだけだってことは、金吾にもわかっているから。
金吾自身は勉強の成績は中の下で、体育は下の上、といったところだ。
そういう金吾がそんなグループの中にいるのは、そこから抜け落ちたら自分は本当に友達のいない落伍者になってしまう、という不安——いや、強迫観念か——が大きいということもある。
とりあえず、傍に人がいるだけで‥‥。傍に女子がいるだけで‥‥。金吾自身の現実からは、目を逸らしていられた。
日々ボロボロになっていく自尊心とやらを、気にしないでいられさえすれば。
金吾は怒らない。
ケンカなんてしたこともない。
億田のニラミが効いているから、このグループにいる限りちょっかいを出してくる他のワルグループもない。
そういう意味では、金吾のような弱っちいやつにはある意味安全な場所でもあった。
「お前ら、仲がいいな。」
担任の三枝は、そんな認識でいるだけだ。
教師は忙しすぎて生徒一人ひとりの細かなことまで見ている余裕などない。
なにしろクラスは38人もいるのだ。明らかな問題児もいるし、扱いにくいクレーマー親も1人や2人じゃない。
子どもの人権。ジェンダー差別防止。虐待児童‥‥。
そうした問題の対処と報告書の作成に日々忙殺されているのだ。
金吾の内部で何が起こっているか——など、何も表に出てこない以上、気がつくはずもなかった。
金吾自身でさえ、気がついていなかった。
しかし、金吾の自尊心は悲鳴をあげていたのだ。
そんな日々の中で金吾はある明け方、夢を見た。
真っ暗な中で、頭も尻もわからないような虫のようなものが、金吾にささやきかけた。
強くなりたいか?




