表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/38

7 特訓中は遊んでいてもいい



「べ、別に何もしてないわよ」


 ランが首を横にふっている。


「その男と腕を組んでいたじゃないか」

「ふざけていただけよ。それだけだから」


 俺はその新入りに睨まれた。

 目、怖いんだけど。俺は何もしてないぞ。無罪だからな?


 その男はランの彼氏なのだろう。いいや、年齢から考えると夫だな。でも驚いた。ランは女子高生の姿なのに、遠くから見ただけで、よく認識できたものだ。


 俺だったらどうだろう。圜子(まりこ)が若返ったとして、すぐ気づけるものだろうか。まあ……思い出したくない顔だし、どうでもいいや。


 その男は俺を憎んでいるかもしれないが、俺としては彼に親近感を抱いた。この状況に心穏やかでない彼には、胸の奥から共感してしまう。逆にランには嫌悪感を覚えた。


 ただ、夫婦喧嘩には巻き込まないでほしい。絶対絶対、巻き込むなよ?


 まずは二人に軽く一礼した。そして『俺、無関係です』感を全身に漂わせながら、その場をそっと離れていく。


 男に呼び止められたらどうしようとビクビクだった。しかしそれは杞憂だった。そりゃ当然だろう。俺は何もしていないのだ。


 そのまま広大な訓練場の端っこへと移動した。


「呆れたわね」


 月輝姫がぼそっと一言。


「ああ、呆れたな」

「でも気をつけた方がいいわ。背中、彼に刺されないように」

「怖いこと言わないでくれ」


 もうすぐ妻の圜子と別れることについて、月輝姫にはすでに話してあった。だが細かいところまでは、まだ言っていなかった。だからこの機会に、妻の不倫や托卵についても打ち明けることにした。


 月輝姫は話を黙って聞いていた。


 圜子に比べたら、ランのしたことなんて些細なものだ。夫以外の男の腕を組んで密着しただけのこと。決してベッドを共にしたわけではないし、ましてや托卵なんてとんでもない。ちなみに、仮にランがそんな行為を求めてきたとしても、俺は絶対に応じなかった。


 それでも、ランの行動を許せない人は少なくないだろう。何を隠そう、この俺だって昔はそうだった。まだ圜子の浮気癖を知らなかった頃だが、他の男と単に親しく会話しているのでさえ、見ていて気分があまり良くなかったことを覚えている。


「圜子やランみたいに、夫以外の男と不倫もしくはベタベタするような人って、たぶん他にもたくさんいるんだろうな。圜子やランが特別な例外ってわけじゃないはずだ。月輝姫はそんな人間のことをどう思う?」


 月輝姫は即答だった。


「可愛らしいと思うわ」


 なんだよ、それ。


「つまらん皮肉で来たか」

「あら、皮肉として捉えられてしまうとは残念ね」

「じゃあ、どう捉えろと」


 すると月輝姫という人形は、ワケのわからないことを言いだした。


「人間なんて所詮は動物。生存競争として、浮気好きなDNAが残っていくのは自然なことよ。子孫繁栄のためには多様性が大切だもの。単数のオスからDNAをもらって子供を産むよりも、複数以上のオスからもらった方がいろんなタイプの子供を産めるから、様々な環境に適した子孫が残りやすくなるということ。真面目な古代人がたくさんいた中に、こっそり不倫する古代人も僅かにいたとしたら、後者は強いわ。実際、こうして途絶えることなく確実に、不倫好きな子孫を残してきたのだもの。浮気癖のあるあなたの妻……そのDNAは、子孫を末永く残そうと一生懸命に頑張ってきた。そんな必死な姿を思い浮かべたら、可愛くも感じてこない?」


 はあ? そんなもん感じてこねえよ。


「そりゃ、子孫繁栄レースで浮気願望DNAのようなものは有利になるだろうし、実際に勝ち残ってきたんだろう。一応、俺も理解できる。けど裏切りは裏切りだ。托卵にしたって、無関係な男からいろんな意味での『財産』を奪う泥棒じゃん。社会から抹殺されるべきだ」


「怒らせてしまったようね。失言だったわ。ごめんなさい。わたしもあなたの意見に賛成よ」




 昼食後、特殊技能の訓練が始まった。


 最初はゆるい運動やストレッチ、次に瞑想みたいなもの。

 本当にこんなんで特殊技能が上達するのか?


 次は特殊技能の実践に移った。初心者は特殊技能の発動練習から入る。


 しかし俺はすでに特殊技能の発動に成功していた。そればかりか、午前のイベントで大いに目立ったほどだ。そのため俺だけ合同特訓は免除となった。


 一人で個別特訓を行なう。


 といっても式神を飛ばして遊ぶだけだ。特殊技能が【お人形さん遊び】だから、好きに遊んでいようと誰からも文句を言われない。童心に返ったように夢中で遊んだ。


 なお、俺の沽券に関わる重要な話だが、人形の月輝姫で遊ぶなんてことはなく、あくまで式神を操作するだけだ。


 式神の『目からビーム』の特訓はやめておいた。これ以上は注目を浴びたくないからだ。式神をより遠くに飛ばせるようになっては喜び、より速く飛ばせるようになっては喜んだ。


 楽だな、こんな生活。数日前までは、ヘトヘトになるまで会社で仕事をしていた。それが今では遊んでいれば一日が終わる。しかも圜子の顔を見なくて済むからストレスもない。




 こうして十日以上が過ぎた。


 ランと彼女の夫らしき男は、常に別行動していた。二人が会話する姿を見かけることはなかった。破局を迎えたのだろうか。また、ランが俺に近づいてくるようなこともなくなった。


 一方、イチャイチャ・カップルもいた。日本では新婚夫婦なのだと明かしていた。新婚のうちに、せいぜい仲良くやってくれ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ