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4 人形と遊ぶのは楽しい



 いよいよ俺に順番が回ってきた。


 水魔法でも風魔法でも雷魔法でも、なんでもいいから早くほしい。ちなみに、ここまで最も頻出しているのは【水魔法】だ。珍しいものでは【テレポート】や【透明化】なんていうのもあった。


 俺の場合、何が出てくるのだろう?


 息を深く吸い込み、大きく吐いた。

 石板に手を触れる。中央に文字が浮かんだ!



 おおおおおおお! 【ドラゴン化】と【猛火の渦】だ!!



 どっちもいままでで最高じゃん。断トツでカッコいい。

 俺は大歓喜した。たちまち皆の羨望の的となった。


 聖騎士たちに文字を読み聞かせると、彼らは目をほころばせた。


 さーて、これは難しい選択だ……。

 でもやはり【ドラゴン化】かな。


「ねえ。わたしの手を、石板に触れさせてくれないかしら」


 俺が抱えている人形からの要望だった。

 小声だったので、俺以外には聞こえていないはずだ。


 石板に触れさせるくらい問題なかろう。人形に言われたとおりにした。

 すると……。


「えぇぇぇぇっ!」


 出てきた二つの文字が消えてしまった。


 嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ?

 せっかくの【ドラゴン化】と【猛火の渦】だったんだぞ。


 代わりに別の文字が浮びあがった。


 なんだよこれ。


 表示された候補はたった一つ。

 だから選びようがない。


 しかも……。ああ、ショックはデカい。

 その場は爆笑の渦に包まれた。笑うな!


 女聖騎士が問う。


「不思議なことに文字が変わったようですね。我々はあなた方の言語文字が読めません。また声に出して読んでもらえませんか」


 読まなきゃならんのか。


「に、人形……操作……です」


 聖騎士たちが唖然とする。

 日本人たちからは罵声がとんできた。


「ちげぇだろ。ちゃんと読めよ」

「書いてあるとおりに発音すればいいじゃない」

「読めないの? 【お人形さん遊び】でしょ」


 ぐぬぬぬ。顔から火が出る思いがした。

 誰かが言ったように、その文字は【お人形さん遊び】だ。


 小声で人形に怒りをぶつける。


「これ、お前の仕業だな!」

「そうよ。でもいいじゃない。面白そうで」


 澄ました口調で何を言いやがる。


「せっかくの【ドラゴン化】だったんだぞ!」

「危険よ。ドラゴンになって戻れなかったらどうするつもりだった?」

「まあ、別に【猛火の渦】でも良かったし」

「そっちも危険。火事になったらどうするのかしら」

「火事って、お前なあ。だったら水魔法も風魔法も全部危険になるぞ」


 日本人たちからの声が聞こえてきた。


「キモっ。あの人、人形に向かって何か喋ってるわ」

「特殊技能を取得する前から、お人形さんとお遊びしてるぞ」

「人形好きもここまでくると重症だな」

「皆、可哀想よ。そこまでにしてあげて。突然こんな世界に飛ばされてきちゃったんだから、きっと精神状態ボロボロでおかしくなっちゃったなのよ」


 最後の哀れみの言葉が最もキツかった。


 結局、しぶしぶ【お人形さん遊び】の文字に手を合わせ、それを取得。

 他に選択肢がなかったからだ。



 でもこの人形、いったい何者なんだ?

 奇妙な能力を使えるみたいだけど……。




 夕暮れを迎えた頃、最後の四十六人目まで無事に終了した。

 いいや、俺のときだけ無事じゃなかったな。


 さっそく明日から特殊技能の訓練が開始されるとのことだ。魔法のような技が自由自在に使えるようになるそうだ。けれど俺の場合【お人形さん遊び】だもんな。ああ、いやだ。



 このあと寝具として一人ずつテントが与えられた。

 でもテントだと? 話が違うじゃないか。

 快適な寝床が用意されるはずだろ。


 聖騎士団長によれば、テントは一時的なものらしい。異世界人がすでに数百人にも達し、建築が間に合っていないのだとか。


 配給された食事を済ませ、テントに入った。

 きょうはもう何もすることがない。あとは寝るだけだ。


 人形をキッと睨む。


 もしあのとき【ドラゴン化】や【猛火の渦】を取得できていれば、今どれほど幸福な気持ちでいられただろう。それなのに!


「最高級の魔法が使えるようになれたはずなんだぞ。どうしてくれるんだよ。そのうえ皆に爆笑されたじゃないか」


「そうね。ならばわたしが責任とって、特別に【秘術】を伝授してあげるわ。その特殊技能がいかに素敵なのか理解できるはずよ」


 馬鹿馬鹿しい。【お人形さん遊び】の秘術なんて。


「お前が俺に伝授? 遠慮しとくぜ」

「後悔すると思うけど」

「しねえよ」

「もしきっちり伝授されたら、わたしに泣いて感謝すると思うわ」


 本当か? そこまで言うのなら……。


「じゃあ、一応頼んでみようか」

「いいわ。だったらまず、聖騎士に頼んで紙とハサミをもらってきて」


 紙とハサミだと? なんでそんなものが必要なんだ。やっぱり伝授されるのはやめようか。でもなあ……。ひとまず従ってみよう。でももしくだらない秘術だったら、そのハサミで首を切り落としてやるからな。


 テントを出る。聖騎士たちはまだ中庭に残っていた。その中に若い女聖騎士を発見。俺をここへ連れてきた人物だ。彼女に声をかけてみる。


「すいませんが」

「ああ、あなたは」


 俺のことを覚えていてくれたようだ。

 まあ、あまり時間は経っていないから当然か。


「ねえ見て。あの人、聖騎士のお姉さんをナンパしてるわ」

「ホントね。あっ、あの人って。キャハハハハ。【お人形さん遊び】の人よ」

「【お人形さん遊び】のくせにナンパなんて! ウケるんだけど」


 なんか俺、笑われてるんだけど。


 だが、いまは紙とハサミだ。

 他人のことなんかどうでもいい。


 若い女聖騎士がニッコリ微笑んだ。


「そうそう。確か【お人形さん遊び】の人」


 うるせっ。


 とりあえず紙とハサミをもらい、テントへと戻ってきた。


「ご苦労だったわね」


 人形から指示を受ける。

 紙を二つ折りにし、ゆっくりとハサミを入れた。

 折っていた紙を広げる。


 この形、漫画で何度も見たことがあるぞ。


「これって、あれか……」


 陰陽師っぽい人とかがよく用いるやつだ。


「式神人形よ」

「みたいだな。これをどうしろと?」

「わたしが手本を見せてあげるわ」


 人形が式神人形に命じる。


「飛べ」


 式神人形がふわっと浮きあがる。

 わっ、手品みたいじゃん。いや、魔法か。


「回れ」


 式神人形は飛びながら、俺たちの頭上を旋回。

 おお、自由自在じゃないか。カッコいい……。


「師匠っ。俺も、俺にも教えてくれ!」


 人形の言っていた『泣いて感謝する』の意味がわかった。


 式神人形を動かすためには、全身のエネルギーの注ぎ込みが重要らしい。てことで、式神に全身のエネルギーを流し込む練習から初めた。その全身のエネルギーについては、ファンタジーっぽく魔力と呼ぶことにした。


 しかしなかなか思いどおりにはいかない。そこで師匠である人形が、俺と一緒に魔力を注ぎ込んでくれた。おかげで、コツを掴むことができた。まもなく一人でも魔力を注げるようになった。


 次のステップだ。いよいよ式神を飛ばす。


 まずは宙にふわりと浮かせたい。しかし微動だにしなかった。この様子を見た師匠が提案する。師匠が式神を宙に浮かせ、俺がそれをキープするというものだ。


 やってみたら上手くいった。これを何度も続けた。するとキープ可能な時間は、五秒、十秒、二十秒……と、いい感じに延びていった。


 俺一人で式神を宙に浮かびあがらせることにも成功した。次は浮かせたまま移動させてみたい。まっすぐ進ませ、右に曲がらせ、左に曲がらせる。次第にスムーズになっていった。


「これ面白いな、師匠!」


「そうでしょうとも。いい調子ね」


 練習を続けた。ずいぶんコントロールできるようになった。俺には才能があるそうだ。師匠が言うのだから間違いあるまい。ただ、まだUターンがおぼつかない。でもそのうちきっと上手くいくさ。


 両手で師匠を掲げて叫ぶ。


「いやあ、お人形さん遊びは最高だ~」


 と同時に……。


「ごめんくださーい!!」


 テントの出入り口が開いた。

 女子高生っぽい制服の日本人だった。


 おい、勝手に出入り口を開けるなよ。

 せめてノックぐらいしろ!!!


 ……さっきの言葉を聞かれてしまった。

 ……この動作を見られてしまった。


 震えながら、師匠を床シートの上におろす。

 俺、恥ずかしくて、もう生きていけないかも。


「本当に人形がお好きなんですね」


 ほっとけ。





お読みいただきまして有難うございます。

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