25 それは突然だった
「続きまして、二十人目は果穂ちゃんです。告白したい殿方、どうぞ!」
一巡目で男は必ず誰かに告白しなければいけない、というルールとなっている。彼女はトークタイムで一緒になったし、特殊技能も俺のものと似た『傀儡』だったはずだ。そろそろこの辺りで行ってみよう。
だが残念なことに少し遅れてしまった。俺より先に挙手した者がいたのだ。本気の告白ではないので、そのまま譲ることにした。
幸運にもカップル成立となった。夕暮れの暗さのため、二人の表情からは本気かどうか読みとれない。だが、そんなことはどうでもいいだろう。祝福の拍手を送った。
「次の二十一人目は、リコちゃんで~す。告白したい殿方、どうぞ!」
圜子の登場だ。
嫌がらせで俺が行ってやろうか、と思ったら……。
なんと、素早く挙手した男の多いこと!
この人気っぷりはなんだ? 俺は身を引いた。
これまでは譲り合いが行なわれていたが、今回はジャンケンが始まった。皆、ガチじゃん。だったら全員で行けばいいだろ。一人だけっていうルールじゃなかったし。
ジャンケンの勝者が大喜びで、圜子のもとへと走っていった。
「リコちゃん、本気で大好きです。よろしくお願いします」
「嬉しい~。ありがと!! でもお友達でいましょ」
ジャンケンの勝者はガックリと両手両膝をついた。
「次、行きますよ。二十二人目は鈴香ちゃんです。告白したい殿方、どうぞ!」
トークタイムで一緒だった子だ。そろそろ行かなければなるまい。
ここでも譲り合いが起きたが、今回は俺が行かせてもらった。
彼女は俺が歩き始めると、はしゃぐように飛び跳ねた。
そういえば俺に対して、結構、好印象持ってくれてたんだっけ。
あれは社交辞令だけじゃなかったのかもしれない。
だけど、逆に本気だったりすると困るな。お遊びイベントなんだし。
いよいよ正面に立った。
彼女は俺の顔を見ながら、何度も瞬きを繰り返した。
多くの告白者がやってきたように、決まり文句を言う。
「最初からあなたに決めてました。よろしくお願いします」
手を差し出し、頭をさげる。
「……」
うんともすんとも反応がない。
どうしたんだろう。
様子を見ようと顔をあげたそのとき……。
パチーーーーーン
平手打ちをもらった。
ええっ? ワケがわからない。
男たちからも女たちからも大拍手が起きた。
俺もこのノリは嫌いじゃない。道化役だって喜んでやってやるさ。
だけど、何故ビンタ?
彼女は真顔だった。平手打ちは悪ふざけではなかったようだ。
「最低。失礼すぎます」
「な、なんで……?」
理由を答えてくれなかった。
進行役のランがやってきた。
俺の顔を見るや、彼女も平手打ち。
ふたたび大拍手。
イベントを盛りあげるじゃないか、ラン。
「ねえ、どういうつもりなの?」
「それは俺のセリフだ。ワケを聞きたい」
「それ、マジ?」
「マジっす」
ランに腕を引っ張られ、その場を離れていく。
そこで鏡を見せられた。
わああああああああああああ!
「アイツらっ」
犯人は月輝姫か? 雪綺姫か? 両方か?
頬のそこかしこに赤いキスマーク。口紅がべっとり。
首筋には小さな痣も一つ。
これらは俺が仮眠していた間のいたずらだ。
周囲の男連中は、たくさんの口紅に気づいていたはずだ。どうして誰も教えてくれなかったんだ!
ダッシュで顔を洗いにいった。
首筋の痣は式神の回復魔法で消した。
一巡目が終了。
ちなみに、ここまで最も多くの拍手をもらったのは俺だ。
いや、正確には俺を叩いた鈴香とランの方か。
二巡目に突入となった。
何巡目まであるんだよ。
「さあ、皆さん。敗者復活戦の始まりです! 一度はフラレた殿方も、フッてしまった姫君も、気を取り直していきましょう」
ランは大したものだ。テンションが全然さがっていない。
多くの男連中のターゲットは圜子だ。
その圜子の番となった。
「二巡目、六番目はリコちゃんでーす!!」
このときがやってきた。一巡目のとき、俺はジャンケンもせずに辞退した。今回は勝負に挑むつもりだ。前回同様、多数によるジャンケンが始まった。だが、なんという強運! 俺が激戦を勝ち抜いたのだ。
圜子の方へと歩いていく。
圜子は顔をしかめている。
正面に立った。
「なんでアンタがっ」
若いイケメンが来るのを期待していたか。残念だったな。
三巡目も四巡目も、俺がジャンケンに勝ってやるぜ。
「イベントを盛りあげるため以外に、理由があるか」
告白の決まり文句を言う。
「初めから、まあ……リコちゃんに決めてましたのん。よろしくっぴ」
片手を差し出す。
すると、あるはずのない声がかかった。
「ちょっと待ったぁーーーーーーーーーーー!」
嘘だろ? このイベントで初めて【待った】がかかったぞ。
もともとジャンケンの激戦を制したのは俺だった。だから俺一人が圜子のもとに向かっていった。だが、それは本来のルールにはないものだ。告白したい男が自由にコクっていいことになっている。
暗黙ルールを破った男は一人。こっちに走ってくる。
それほどまでに圜子に夢中ってことか。
どんなヤツだろう。
隣に並んだ男の顔を確認する。
何っ!?
さっきのジャンケン大会にはいなかった男だ。
それどころか、イベントに参加すらしていなかった男だ。
彼は聖騎士副団長オーキュネンだった。
「いても立ってもいられなくなりました。このご無礼をお許しください。リコを他の男に渡したくありません!!」
オーキュネンも片手を差し出した。
ああ、俺、もう帰っていいかな?
圜子への嫌がらせのつもりだった。
しかし圜子はとても幸せそうな顔だ。
結局、圜子が選んだのは、参加資格のないオーキュネンだった。
いいのか、ラン? しかし進行役のランは笑顔で拍手を送っていた。
圜子とオーキュネンが抱きしめ合う。
もはや二人だけの世界に入り込んでいる。
ハニトラ作戦なんて吹っ飛んでしまったことだろう。
多くの男たちが意気消沈した面持ちで、会場から去っていった。
気づけば女たちも人数が激減していた。
俺は強制参加なので帰れず、このイベントに残り続けた。
だが、さすがにこの盛りさがり方だと、三巡目はなさそうだ。
二巡目の最後の一人が終わった。
ランが閉会を告げようとする。
「皆さん、当イベントはいかがだったでしょうか。これで敗者復活戦も終了といたします。お疲れ様で……」
「ちょっと待ったーーーーーーー」
こんなところで、またもや【待った】がかかった。
その男はランの旦那だった。
ランの方へと歩いていく。
「あなた……」
「蘭子がいないとやっぱり寂しくてさ。もう一度やり直す気あるか?」
イベント中ずっとハイテンションだったランの目から、涙がこぼれ落ちた。
「うん」
「また他の男とイチャツクような真似したら、今度は絶対に殺すからな」
「うん」
人目をはばからず、二人は抱き合った。
当イベント最後の拍手が起きた。
ところで進行役はどうするんだ?
リーダーもあんなふうだし。
えっ、副リーダーがやれと?
しゃーない。俺が必要か。
「はーい閉会としまーす。解さーん」
棒読み口調だったのは謝る。
ミニテントの撤去を終えた。
居住用テントに戻ってみると、たくさんの女たちが群れを作っていた。
その理由は、俺の人気のためということではなかった。しかしまったく俺に関係ないことでもなかった。彼女たちは口紅を譲ってもらいに集まっていたのだ。平手打ちの鈴香までもいるのはどういうことだ。
それから数十日経ってからのことになる。
なんの前触れもなく、凄惨な事件が起きた。
聖騎士副団長のオーキュネンが殺されたのだ。




