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22 城内には娯楽がない



 月輝姫と雪綺姫とともに西タクッド山脈を越えた。

 その後も徒歩のみでルウェット城に帰ってきた。


 結衣姫は俺の顔を確認すると、飛ぶように抱きついてきた。

 そのまま泣きじゃくった。


「遅くなって悪かった」


 このあと聖騎士に報告した。


 魔法陣が転移装置のようなものだったことを伝えたが、転移先の町のことや他の転移者が殺されたことは黙っておいた。転移先は無人の草原だったことにした。


 報告時、オーキュネンの隣には圜子が立っていた。ちゃんとハニトラ活動をしているようだ。いや、二人で並んでいたとしても、進展しているとは限らない。くれぐれも逆にハニトラれるなよな。


 圜子には期待していない。聖騎士の真意を探るのは自分自身でやらなければならない、と考えている。



 最近、人形操作に磨きがかかってきた。YES/NOを求める質問に、木製や布製などの人形が、首の振り方で正確に答えてくるようになってきた。


 また複数以上の式神を同時に飛ばすことができ、それらに耳の役割をさせることもあまり難しくなくなった。


 朝、小さな四体の式神を飛ばした。


「さあ、散ってくれ」


 飛ばした式神の様子を、昼食時に確認してみた。


 四体のうち一体から聞こえてきたのは、圜子の声だった。

 俺の能力は未熟なので、式神からの視覚情報はほとんど得られない。

 せいぜい『屋内にいるらしい』というところまでだ。

 それでも聴覚情報はバッチリだ。


「まさか乙門颯太が無事に戻ってくるなんて……。せっかく危険度最大エリアの山脈中央に少人数で行ってもらったのに」


 なんだと。わざわざ俺を危険度最大エリアに少数で行かせたのか!?


 確かに危険なエリアだったさ。ドラゴンが飛んでいたり、魔法陣の罠があったりな。でもドラゴンの正体については、西の町で見た巨大鳥モアモアだったような気がしなくもないけど。


「我々としては、颯太が無事に帰還してくれたので安堵したよ。彼は最強の戦力だからね。個人的にも友人だと思っているし」


 いまの声はオーキュネンだ。


「だけど乙門颯太って、最低な男なのよ!」

「どうしてだい。そんなふうには思えないけど」


 圜子の声に力がこもる。


「乙門颯太は目がいやらしいの。実際、性の捌け口として人形をそばに侍らせてるでしょ。キモすぎない? ああ、鳥肌が立つわ」


 月輝姫も雪綺姫も、性の捌け口なんかじゃない!

 俺のいないところでディスりやがって。


 しかし、そんなふうに考えているのは圜子だけではない。他の日本人やグムル人にも、そんな目を向けてくるヤツはいた。


 また、他にも俺にストレスを与える者はたくさんいた。月輝姫や雪綺姫を欲しがる連中だ。いろんなヤツから月輝姫や雪綺姫の貸出を求められた。借りて何をするつもりだと訊くと、殆どの者は口ごもった。それでも中には、堂々と卑猥なことを口にする者もいた。月輝姫や雪綺姫に殺されるぞ?


 俺が貸し出す気のないことを知ると、今度は月輝姫や雪綺姫を『踊らせろ』とか『歌わせろ』とか言ってきた。


 断るたびに『ドケチ野郎』とか『ラブド野郎』なんて捨て台詞を吐かれた。もう何度聞いたことだろう。精神的に参ってきた。



 きょうも迷惑な輩を追い返した。

 ぐったりして溜息を吐いた。


「疲れた顔ね」


 月輝姫、あんたのせいでもあるんだぜ。


「いや別に。俺は普段どおりだが」

「たまには気分転換が必要よ」


 月輝姫が手を引く。どこへ連れていくつもりだ?

 訊いても答えてくれなかった。


 建物に入った。

 

 通常、許可がない場合、風呂以外の目的では入れないことになっている。

 風呂? 背中でも流してくれるのか。いいや、まさかな。


 風呂場の前を通り過ぎていった。


「待て。この先に進んでったら怒られるぞ」


 月輝姫は無視。行き着いたところは、誰もいない屋上だった。

 ここで何をするというのだ。


 月輝姫が北東の空を指差す。

 俺は思わず「おおお」と声をあげてしまった。

 北東ではたくさんの星々が輝いていた。


「二人きりで星空をぼんやり眺めるの、久しぶりね」

「久しぶり? てことは俺が子供の頃の話か」


 月輝姫が首肯する。


 しかし俺は覚えていない。

 いや、待てよ。それはおかしい。


「子供の頃、夜中に公園なんか行くはずないだろ」

「それでも来たの。ご両親と喧嘩したって言ってた」


 俺、そんなことがあったのか……。


「覚えていないようね。ならば、そのとき見せたコレも覚えていないのでしょうね」


 コレってなんだ。


 月輝姫は靴を脱いで裸足になった。

 両手を広げながら、体を捻って静かに跳ぶ。

 華奢な四肢が優美に躍動する。

 しなやかな動きは夜風と調和していた。


 南西の空も晴れ、月が顔を出した。

 夜空の光が月輝姫の舞を演出する。


 汗が月光の欠片を弾く。

 妖艶な瞳が俺を誘う。


 俺は月輝姫の舞を恍惚としながら眺めた。

 心臓は激しく鼓動し、それが苦しくも心地よくもあった。

 月輝姫は人形だ。人間ではない。なのに何故だろう……。

 俺はどうかしている。やはり疲れているようだな。


 月輝姫が足を止めた。もう終わりか。


「俺、前にもソレを見ていたのか」

「もしかすると見てなかったかしら」

「なんだよ、月輝姫の嘘だったのか」


 月輝姫は首を横に振った。

 やや不機嫌そうな面持ちだ。


「見せてやったつもりだったのに、あなたは眠っていたのよ。初めから終わりまで見てなかったかもしれないわ」


 いまのを見逃すなんて、子供の俺はもったいないことをしたものだ。


 このあと屋上にいるところを警備兵に見つかり、聖騎士団長グリガンにこっぴどく叱られた。




 夕べの月輝姫の舞を思い出しながらつくづく思った。城内は娯楽が少なすぎる。それで月輝姫や雪綺姫の貸出を求める輩が多いのだろう。


 だから三日後のリーダー会議で議題にあげた。


 こっちの世界に芝居はないのか? 音楽コンサートはないのか? 聖騎士からは『ある』との返答だったが、それらを鑑賞するという提案は却下された。


 だったら何かイベントなどを企画できないものか。

 たとえば城内サッカー大会とか城外ピクニックとか。


 しかしこれには圜子が拒否。体を動かして疲れるものは不可だという。

 そこで、すべての異世界人たちにイベント案を募集することにした。


 後日、多くの案が寄せられた。

 しかし不可能なイベント案ばかりだった。


【ゲートボール大会】 圜子の一存でスポーツ全般は不可。

【eスポーツ】 スポーツか否かは別として、城内に電気機器がない。

【喧嘩トーナメント】 スポーツではないだろうが不可。これ絶対、甘巻銀兵のリクエストに違いない。

【ラブドール・ヌードショー】 城が木っ端微塵に破壊されてしまうため無理。

【缶蹴り大会】 城内に缶がない。それに誰得?

【吹奏楽】 城内に楽器がない。

【潮干狩り】 城内に海がない。

【カップリングパーティ】 城内にいる限り、振られた相手と顔を合わせる機会が多いので不可。


 それでもこれらの中から候補として、無理やり二つを選出することになった。


【缶蹴り大会】<修正点>缶の代わりに円柱の木材を使用。

【カップリングパーティ】<修正点>「ガチ」ではなく「お遊び」を強調。


 二つが決まったので、異世界人の皆に投票で決めてもらう。


 翌日、全異世界人による投票の結果がでた。


【缶蹴り大会】      一票。

【カップリングパーティ】 六票。


 ほとんどの人が無投票という不人気・低レベル争いで、【パーティ】に決定した。ただし今回、グムル人は見物するだけだと言っている。


 この【パーティ】の提案者はランだった。そんなわけでランが進行役を務めることになった。はたして五十歳代の彼女が、今どきのカップリングパーティのやり方を知っているだろうか。それとも昭和のやり方で押し通すのか。


 俺は女性が嫌いなわけではないが、特別に親しくなりたいとは思っていない。それは別に、圜子とまだ離婚が成立していないからではない。この歳になると、そういうのは面倒にしか思えなくなるのだ。だから参加するつもりはなかった。





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