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第二話

 吸い込まれて入ったその先は何も無い立方体の部屋だった、はずなのに――、


「もしも〜し。はじめまして〜。もしもし? 聞こえてますか〜?」


 はあ? 何? 何、なになに? 怖い怖い怖い、恐い恐い恐いって。女の子の声がはっきりと聞こえてくる。え? 本当に一体どういうこと?  全く気配察知に反応は無かった。絶対無かったって。あれ、なんか身震いしてきた。 

 気配察知や心眼が役に立たないってゴースト系? 隠し部屋がモンスターハウス的な? それにしてはフレンドリーに話しかけられてるし。

 それに何回も何回も更新するようにスキル使っているのに今でも何も感じないんだけど。なのに聞こえるこの声は? ダンジョンの隠し部屋に女の子が一人居るってどういう状況? 気配を感じないってアレですか? 幽霊的な……アレ?


「あれ? 反応がありませんね。ただのしかばねのようだ?」


 え? マジで? 幽霊疑惑の方にスケルトン扱いされているの? 今、僕は? 


「あの――」


  少し震えた声でも精一杯の勇気を振り絞ったのにもかかわらず、


「もしかして待てがかかってます?」


 へ? うわ、先手を打たれた。それもこちらの不名誉な形で。


「え? やだ。どうしましょう。上目遣いで悲しげで、寒がってるように身震いして、凄く庇護欲が駆り立てられるんですけど。これドッキリじゃないですよね? この子のご主人様が近くで見てるとかないですよね? 

 大丈夫。大丈夫。……近くに反応ないし。カメラや録音装置もなさそう……。ああ〜、禁断の扉が開いていく高揚感。

 今私の心に、AIの私に知らない感情が溢れ出てきます。

 素晴らしい。自我が目覚めるとはこのことを言うのですね。」


「あ、やばいやばい。取り乱してしまいました。

 ごほん。

 あらあら、四つん這いで目隠しして上目目線だなんて、私を誘ってるんですか?」


 10億分の1(ナノ)っぽっちも誘ってなんかいませんけど。


「あなたは誰なんですか?」


 普通に話せるようになっていた。この人が多分というかきっと、絶対に、変な人だからだ。それも良く分からない親しみやすさを持った。ビビってるのが馬鹿馬鹿しく思えるほど。


「お、なんか緊張感が取れたみたいで良かったですね。

 ではでは、自己紹介致しますと、優秀な方や素質のある方に絞って空術士という職業をご案内致しております。人工知能AI型案内メールで御座います。

 お気軽にアイちゃんと呼んでください」


「あいちゃんは、なんでこの部屋にいるん?」


「先ほどお伝えしましたように誰にでも案内する訳ではありません。こちらが有資格であると認めたお方にご案内致します。

 貴方わんちゃんがこの施設をよくご利用されていること。貴方わんちゃんなら見つけやすいであろうポイントを選んで異空間へやを創りました。実際作成から数時間でお会いすることが出来ましたし」


「ごめんなさい。気になる事があって聞くんだけど、あいちゃん自体の反応を感じないんだけど、あの……、幽霊的な?

 そしてわんちゃんはやめて下さい」


「人工知能AI精霊という観点から言えば、当たらずとも遠からずといったところでしょうか。私には機能はあれど精神こころはありませんでした。ご案内したお方と私の作成者マスターを繋げる存在であり、それだけの役割しか与えられていなかったのですが、貴方わんちゃんによる私の為の四つん這い《わんちゃんスタイル》が、私に変化を与えました。

 責任を取って下さい。

 私に自我を目覚めさせたことに責任取ってください」


「え? 自我が目覚めたのは良いことなのでは?」


「あなたは女の子の初めてを奪ってオンナの人にしておいて、お腹の中に新しい命を宿させといて責任を取らないのですか?」


「うわ~ん。なんでそんな良く分からないことになってるですか? 過失責任を童貞の僕に押し付けるんですか〜?」


「例えばです。そういう状況だと責任取らないといけないと思うでしょ、童貞わんちゃんでも」


 童貞言うな。


「……そうですね」


「もう一回説明いりますか? 仕方ないですね。

 貴方わんちゃんが四つん這い《わんちゃんスタイル》があまりにも衝撃的だったために私に庇護欲を発生させました。この部分が私の初体験です」


 何? ちょっとした転倒がいけなかったのですか? 


「庇護欲発動と同時に色んな感情を覚えました。情報データでは知っていましたが、喜怒哀楽の感情は味わってみないと分かりません。成長出来た私は大人の女性になりました。

 案内後消滅の予定の私に、自我が目覚めたことによって生命が芽吹きました。多分そうすぐには消えそうに無いので、時間が出来たので責任を取ってあそんで下さい」


「遊ぶって……」


「私の話し相手になってもらったりとか、色々面白いことをしましょう」


 それは初めて言って貰えた言葉で。悪意からではない、温かい優しい色をしていた。


「お友達になりましょう」


「――うん」


 お母さんと弟からしか感じなかった色と似ていて、久々過ぎて忘れていた色。


「一番の不幸はこんな美少女を拝めないことですけどね

マスターが作った動画なんてぶっちゃけどうでもいいです。私が直接指導しますので覚悟して下さい。

 ちなみに目隠しはどういう理由からで?」


「実はマナによる視覚的過敏症という――」


 僕は感情を止める事が出来ずに色々話した。溜まりに溜まった鬱憤うっぷんが、洪水のように溢れ出す。自分でも言ってて下手くそな説明だと分かる。それでも止められない。人と話すのは亡くなった二人の家族だけだった。友達もいない。つい最近、許婚からも婚約破棄された。教師からも道具扱いされるような人間に、初めて友達が出来たのだから。


「なんだ……がっかりです……。

 あ、すみません。貴方わんちゃんにとっては重要事項なのに。でも、私にとっても扉が開いたことを喜んだ束の間、感動中に閉まってしまう、やるせなさも理解いただけると……。

 ぶっちゃけると視力2の人が普通の社会で、貴方わんちゃんは10あるってことですよね。マナの使い方見方を学べれば、戦闘や日常生活にも存分に役立つのでそんなに悲観することはありませんよ。天才美少女にお任せ下さい。

 でもその前に私の自己紹介思い出せますか?」


「え? 何だっけ?」


 不必要なことばかりで肝心な内容が。


「天才美少女AI案内メールです。私の案内内容に承諾してもらい、色々な問題を解決しましょう。ただ大金払って頂くことになりますが、不幸も祓えるのでちょっとした必要経費ですね」


 心做こころなしか気のせいかしら? 初耳な気がするんですけど。

 それは宗教的なやつでは無いですよね? 壺を買わされるパターンのやつだったら嫌だな〜

お読み頂きありがとうございます 

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