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ツガイの君

作者: グレイト

バンダナコミック01投稿作品です。

ーー大和国(やまとのくに)帝都 対妖魔対策本部地下格納庫 


「……今回も駄目だったみたいですね」

「ああ、"妖の涙(あやかしのなみだ)"は、反応を見せなかった」


 街の声も静まった深夜、二人の男が地下で会話をしていた。

 片方は20代ほどの年若い青年で、短く整えられた黒髪に切れ長の目が特徴的な軍服の美丈夫。そしてもう片方はメガネを掛け白衣を纏う細身の整った顔立ちの男だ。それぞれの胸元には名札があり、美丈夫の方には、桃皇(とうおう)タロウ……そして眼鏡をかけた男の名札には雉ヶ谷(きじがたに)リュウと書かれてある。

 タロウが片手に持つ小箱の中には青く輝く宝石が収められている。


「今度こそはと思ったが……そううまくはいかないか。付き合わせて悪かったな、リュウ」

「気にしないでくださいタロウ様。僕も……それに"犬"や”猿”の奴もあなたがどれだけ人々を守るため動いてるのか知っています。それに……」


 リュウは眼前にある巨大な物体を見上げる。

 それは甲冑を思わせるフォルムをしている灰色の機械の巨人だった。

 腰には日本刀のような武器が下げられており、背中には長弓のような武器が装備されている。


「この『ツガイ』は僕達の切り札なんです。万全の状態で動かせるようにしなければ帝都……いや、世界の全てが滅んでしまうのですから」

「……そうだな」


 そしてタロウも同じく"ツガイ"と呼ばれた機械の巨人を見上げる。その眼差しは決意に満ちていた。


「"予言"の時は近い……。早くこいつを起動できる俺の番を見つけないとな……」

「まぁあなたについていける女性がいるのかなと、僕達は心配していますけどね」

「何? どういう意味だ?」

「ふふっ……どういう意味でしょうか」


 リュウの言葉にムッとした様子を見せるタロウだが、それを意に介さずと言った様子でリュウは肩を竦める。


「明日は鬼崎(きさき)家でしたか?」

「ああ」


 自らの質問に頷くタロウに、リュウは告げる。


「あまりに固く接しすぎて女性を泣かせないでくださいよ? ただでさえ冷たい雰囲気があって、勘違いされやすいんですから」

「……善処しよう」


 リュウからの忠告にタロウは顔を背け、天井を見上げながら応えるのであった。

 


 目が覚めているように感じるが、自分でこれははっきりと夢だと分かってしまうことは誰にもあるだろう。

 ――私、鬼崎(きざき)ミコトは現在そういった状況だった。何も無い平原に風が吹き、私の銀色の長髪が風にたなびく……そして


『久しぶりね、ミコト』

「 お母様……」


 ……目の前には私が幼い頃に亡くなった母が立っていた。


『色々と話をしたいけど、そんな時間はない。大切なことだけ伝えるわ』

「一体何を……]

『"妖魔"の復活が近い、あなたも自らの使命に気付いて』


 妖魔の復活?私の使命?話がまるで見えてこない。

 だがそんな私を置いてけぼりにして、母は話を続けた。


『私があなたに遺した首飾り……今も持っていてくれたようですね』

「ええ、勿論です」


 そう言って私は首にぶら下がっている首飾りを握りしめた。首飾りには赤い宝石がはめ込まれている。

 母が亡くなった時に遺品として受け継いで以来、ずっと身に着けていた。


『その首飾りがあなたを導いてくれるでしょう』

「私を導いてくれる……」

『ミコト、あなたの"(つがい)"である殿方を探し出すのです。それがこの世界を救う唯一の方法……』

(つがい)……?」

『頼みましたよミコト……』

「まってお母様! もっと詳しい話を……!」


 一方的に言いたいことだけを言って消えようとした母を引き止めるため手を伸ばしたところで、私は目を覚ました。

 窓からは日の光が柔らかく差してきている。窓の外には雲一つ無い快晴が広がっていた。


 ――なんだったのだろう、あの夢は。


 そんなことを考えながら枕元の目覚まし時計を見ると、針は5:30頃を差していた。


「いけない……少し遅れてしまっているわ」


 私はいつものように服を着替えて、鏡の前に立つ。母から受け継がれた赤い瞳が映る。私は長い髪を動きやすいように縛ってまとめあげ台所へと降り朝食の用意を始めた。

 とってもこの朝食は私のものではない。私以外の家族……父の鬼崎ゴンゾウ、義母の鬼崎ミヤコ……そして義妹である鬼崎メイのものだ。料理を皿によそい食卓に並べていると二階から足音が聞こえてきた。


「おはようございます。お父様、お母様、メイさん」


 私は皿を並べ終えると食卓に座り食事を始めた三人へと挨拶をした。丸々と太った身体を揺らしながら父はこちらに振り向くことなく無言で食事を始める。そして義母は年齢に比して若く美しい顔に私への畏怖を隠すこともせず、怯えた様子で。

 義母はこの大和国には珍しい私の銀の髪と赤い瞳を不吉なものだと、この家に来た当初からずっと怖れていた。


「おはようございます!お姉様!」


 妹のメイだけが、束ねられた黒髪を揺らしながら元気に挨拶を返してくる……これがいつもの朝の様子だ。

 彼らが食事を終えるまで私は食事を摂ることも座ることも許されず、私は食卓の近くで彼らの食事を立ちながら見守っていた。

 ちなみに義妹にさん付けしているというのも、そうしろと父に言われてのことである。義母と再婚した時に彼女の方を鬼崎家の主筋とすると決まっていたからだ。

 鬼崎家は元々義母の実家である吉備家の分家であり、父が私を疎んじていた結果話し合いでそう決まったとのことだ。


「今日は桃皇家の方と謁見できるのよねお母様」

「ええ、滅多にない光栄なことです」

「”氷の貴公子”と呼ばれる桃皇タロウ様にお会い出来るなんて……! すごく楽しみ!」

「あまり騒ぎすぎないようにな」


 目の前で交わされている言葉に耳を傾ける。目を輝かせてはしゃいでいるメイを父と義母が落ち着かせる。


ーー桃皇家、か。


 桃皇タロウ……帝都五大氏族の一つ桃皇家の御曹司だ。帝にも連なる血筋と言われる武門の名家である桃皇家の出身で軍に所属しており、二十歳という若さで大佐になっている。その冷徹な眼差しと常に冷静な態度そして整ったから、”氷の貴公子”の異名をつけられ氏族の女性陣の間で絶大な人気を誇っているとのことだ。

 私も以前メイに見せられたネットの記事で顔を見たことがあるが、確かに人気が出るのも頷ける美丈夫だった。

 そんな名家が小氏族であるこの九鬼家になんの用事があるというのだろうか……もっとも私の関わることではないが。


「……ミコトさん、私達が帰ってくるまでの間に雑事をお願いいたします」

「はい、お任せください」


 恐る恐ると言った様子で義母が私に今日の責務を言い渡す。私が頷くと彼女はほっとしたように出かける準備を始める。


「お姉様も一緒に行けたら良かったのに」

「ありがとう、その言葉だけでも嬉しい」

「帰ったらいっぱい今日のことをお話するね!」

「ええ、楽しみにしています」


 メイと話していると心が落ち着く。父には無視され義母には怖れられている私にとって、彼女との会話は唯一の癒やしだった。

 そして玄関から出ていく彼女達を見送ると、私は掃除用具を手に屋敷の掃除を始めるのであった。


 

――帝都 高級ホテル


「よくぞ来てくれた、鬼崎家の方々」

「お招きいただき感謝いたします、桃皇大佐」

「さあ奥へ、部屋を用意してある」


 ホテルへやってきたメイ達をタロウが出迎える。

 そして予約していた部屋へと招き、食事を始める。

 和やかな空気の中会話が弾み打ち解けていく中、メイはタロウに頼み事をする。


「桃皇様、写真を一緒に撮っていただいていいですか?」

「しゃ、写真!? あ、いや、それは構わないが……」

「やったあ! ありがとうございます!」


 メイからの予想もしてない提案に驚いた様子を見せたタロウだが、彼女の提案にを了承する。

 そしてメイはその写真を手に喜んだ様子を見せた。


「ふふっ、帰ったらお姉様に見せてあげないと」

「……お姉様?」

「はい。何故かお留守番になってしまったけど、私達の家にはもう一人家族がいるんです」


 メイの言葉にタロウは目をカッと見開き、ゴンゾウを睨みつけた。


「……これはどういうことだ?」

「と、いいますと?」


 タロウの視線を意に介さずと言った様子で、ゴンゾウは聞き返す。


「俺は()()()()で来るようにと令状をしたためていたはずだが?」

「ええっ!? そうだったんですか!?」


 タロウの言葉にメイが驚いた様子を見せる。

 そしてミヤコもそのことを知らなかったのか、不安そうにゴンゾウを見つめる。


「私の()()はこの二人だけですよ……何か問題でも?」

「ああ、問題有りだ。これは未曾有の危機に備えての重大な活動だ。それを一個人の感情などで乱すとは……」


 ゴンゾウの態度にタロウは苛立った様子を見せる。だが首を振って気を取り直すと、メイに青い宝石を見せる。


「メイさん、その宝石を手にとってくれないか?」

「えっ? は、はい……」


 小箱から出された宝石……妖の涙を手に取るメイ。だが何も起こらず、ただ宝石を手に取るだけで終わってしまった。


「……今回も駄目だったか」

「"今回"も……?」

「ありがとう、メイさん。あなたの協力に感謝する」


 妖の涙を回収するとタロウはメイに頭を下げる。そしてゴンゾウの方を睨めつけ静かに告げる。


「――軍の特命に背いたこと、後悔することになるぞ」

「……どうやら若き大佐殿は意外と直情型なようですな」

「何っ!?」


 ゴンゾウの態度にタロウが更に声を荒げようとしたところで、部屋のドアが勢いよく開かれた。


「何事だ!?」

「申し訳ございませんタロウ様! しかし、緊急の連絡でして!……"妖魔”がとうとう帝都に現れたとのことです」

「……とうとうこの時が来たか! 急いで現場に向かう! 衛兵、鬼崎家の人々を避難させておけ!」

「はっ!」


 タロウの命令を受け、衛兵達がメイ達を避難させようと動き始める。

 そしてそれを見届けたタロウは隠しエレベーターで急いで地下に降り、専用のバイクを駆り基地に戻っていった。



――同刻 鬼崎家

『皆さん! 突然巨大な怪物が帝都を襲い始めました! 警察や軍の指示に従い、落ち着いて避難してください! これは映画やドラマ、ゲームの映像ではありません! 現実の映像です!』


 屋敷の掃除を終えて休憩していると、突然テレビのニュースが臨時ニュースに切り替わる。手元の情報端末で調べてみてもしきりに同じ内容のニュースが更新されていた。

 テレビには帝都を襲う巨大な角のようなものが生えた巨大な鬼のような機械が、棍棒を片手に帝都の街を破壊していく様子が映されている。

 画面の中ではあれほど華やかに栄えていた帝都の街が見るも無惨な瓦礫の山と化していた。

 アシガルという名前の軍の最新人型機動兵器の部隊が鬼を止めようと出撃し槍衾を展開したが、鬼の力の前に成すすべもなく敗れ去っているとリポーターが告げている。


「もしかしてお母様が言ってた"妖魔"ってあれのこと……!?」


 私は今朝見た夢で母が言っていたことを思い出す。形見の首飾りが、私を導いてくれるのだと。

 首飾りを見ると、はめ込まれた宝石が赤く輝いていた。そして宝石から放たれた光は私を導くように、一定の方向を指し続けている。


「……考えても仕方ないか。メイのことは心配だけど言ってみましょう」


 そうして私は母の言葉を信じ、光の導きを信じて屋敷の外に飛び出していった。



――帝都市街


「くそっ。生き残ったのは俺とお前だけみたいだなトウキチ」

「ああ、どうやら絶体絶命って奴みたいだよコウのアニキ……!」


 鬼を前に唯一生き残った黄のアシガルと緑のアシガル……。

 それぞれのパイロットである犬神(いぬがみ)コウと猿臣(えんじん)トウキチは、目の前に転がる一般兵用の茶色のアシガルの残骸を見ている。

 コウの方は筋骨隆々とした鋭い目を持つ野性的な雰囲気の青年、そしてトウキチはあどけなさを残す幼い少年だ。

 彼らの部下であるアシガル部隊を軽々と破壊し尽くした"鬼"を前に、二人は死を覚悟した。その時彼らの機体に通信が入ってくる。


『コウ、トウキチ、無事ですか!?』

「その声……リュウか!」

「ギリギリだけどどうにか無事だよ、リュウのアニキ!」


 通信の主は雉ヶ谷リュウだった。彼は二人の声を聞いて少しホッとしながら、二人に軍の命令を告げる。


『軍の命令を告げます。あなた達は今すぐ撤退してください!』

「撤退だって!? 奴はどうするんだ!?」

『タロウ様がツガイで今出撃しました! 残念ながらパートナーが見つかっていないため万全ではありませんが、アシガルよりは奴らを倒せる可能性は高いはずです!』

「タロウのアニキが……わかった、僕達は撤退するよ」

「くっ……後は任せたぜタロウ」


 タロウとコウのアシガルが戦線を引いていく。そして逃げる相手には興味がなかったのか、鬼はそれを一切邪魔せずに動かなかった。

 そしてそこに入れ替わりにタロウの乗る灰色の巨人……ツガイが現れた、


「コウ……トウキチ……、よく無事だった。後は俺とツガイに任せておけ……」


 二人の撤退を見届けるとタロウはツガイの刀を引き抜く。


「この帝都の人々を一人でも多く救って見せる……。いくぞ妖魔……!」


 タロウの駆るツガイは刀を持ち、鬼へと斬りかかる。それまでの相手とは格が違うということを察した鬼は、面白がってその攻撃を棍棒で受け止めた。


「ぐっ……軽々と受け止めただと!?」

「キキキ」


 ツガイの刀の振り下ろしは、力不足なのか鬼にあっさりと受け止められてしまう。不利と見たタロウは即座に距離を取り、背中の長弓での攻撃に切り替え構えを取る。そして光の矢の束が長弓へと束ねられていく。


「闇を貫く……!"流星"……!」


 構えた長弓から放たれた光の矢の嵐が流れ星の如く鬼に降りかかり、その場に巨大な土埃が巻き起こる。


「やったか……!?」


 これで倒せたかと思ったタロウ……だが煙が晴れるとそこには鬼が無傷で立っており、それを見たタロウは忌々しげな表情で悔しがる。


「ケケケ」

「くそっ、やはり完全な状態でないと力が足りないか……!」 


 次の手段を考え始めるタロウ。だがそこで彼は信じられない物を目にした。なんと瓦礫の街の中に、銀の髪を持つ少女がいたのだ。……彼は知る由もなかったがそれは首飾りの導きに従い動いていたミコトだった。


「なっ……民間人だと!? 避難が終わっていなかったのか」

『どうしました!?』

「民間人がいる。避難させる時間はない、俺が保護する」

『民間人ですって!? なんであんなところに……分かりました。そちらに判断はお任せします』


 そしてタロウはミコトを避難させようと動き出す。



「あ……あの物凄く派手な攻撃でもやられないなんて……」


 私は目の前の光景が信じられなかった。恐らく軍のものであろう灰色のロボットの攻撃を受けても、鬼には全く通じていなかったのだ。


「あんな化け物……人間じゃどうしようもない……」


 母は首飾りの導きで(つがい)となる人を探せと言っていたが、とてもじゃないがそんな状況ではない。それにペンダントの導きは突然途切れてしまった……。このままだと私は番とやらを見つける前に鬼の攻撃で死んでしまうだろう……。そんなことを考えたその時だった。


『そこの民間人! 聞こえるか!』

「えっ……?」


 なんと鬼と戦っていた灰色の巨人がこちらに近いてきて、右手を差し出してきたのだ。


『君を避難させる、こちらに乗り移ってくれ』

「は、はい……!」


 そして私はその言葉に従い右手に飛び乗る。そしてそのまま操縦席の扉が開き、私はパイロットをしている男性に受け止められた。そして操縦者の顔を見て私は驚いた。


「えっ……桃皇様?」


 そうこの巨人の操縦者は、私の家族が会いに行ったはずの桃皇タロウその人だったのだ。


「ほう、俺のことを知っているのか。だが君のことを聞く余裕はない、サイドシートを展開するからそこに座っていてくれ」


 そう言って彼が助手席を展開してくれたその時だった。


「えっ……首飾りが光ってる……?」


 そう光を失ったはずの首飾りが再び強く輝き出したのだ。そして光を放つのはそれだけではなかった。


「なっ……この反応は……。妖の光が反応している……!?」


 桃皇様の胸元に収められた小箱が強く輝いている。彼も戸惑いを隠せない様子で、私もこれは一体どうしたのだろうと思ったその時だった。


「あっ……んんっ」

「どうした?」

「なんだか……身体が、熱くて……うううっ!」


 突然身体が熱を帯び始める。そしてそれは酷い痛みを伴っていた。

 そして首飾りと彼の持つ小箱の光もより一層強く輝きを増していく。


「ううっ……うわああああっ!」


 そして私の身体の熱と痛み……それに首飾りと小箱の輝きが消えると同時に、いつの間にか私は桃皇様が乗っていた本格的な操縦席のようなものに乗っていた、


「そうか……君がこのツガイを動かすための選ばれし者だったんだな」

(つがい)……」

「ああ、この巨人の名前だ。奴ら"妖魔"から人々を守るための剣だ」


 ――ツガイ……じゃあお母様が夢で言っていたのはこのロボットのこと……?

 そんなことを考えながら思わず私は自分の額に触れる。私は自分の体に起きた異変に気付いた。


「……角!? なんで……!?」


 突然の自分の身体への変化に戸惑う。どうしてこんなものがいきなり生えてきたのだろうか……。

 だが桃皇様はそんな私を尻目に、画面を見て叫んだ。


「出力が上がっている……! これなら負けはしない。君、悪いが協力してもらうぞ」

「……君じゃないです」

「?」

「私には鬼崎ミコトって立派な名前があります……!」

「おっと、それは失礼した。ではミコト、行くぞ! 奴を倒す!」


 そう言うと桃皇様は再びこの巨人……ツガイを動かし始めた。

 そして私も操縦方法なんて知らないはずなのに、何故か感覚的に彼をどうサポートすればいいかが即座に頭に浮かんでくる。


「はああああっ!」


 ツガイが刀を構えて、鬼に向かっていく。先程と同じように受け止めようとするが、今回は同じようには行かなかった。


「!?!?!?」


 ツガイが棍棒ごと鬼の右腕を切り裂き、鬼はその痛みにのたうち回る。そして起き上がるとこちらを驚いたような様子で見つめていた。

 どうやら先程までとの力の違いに鬼は驚きを隠せないようだった。


「……桃皇様、いまならこの子の完全な力が出せます」

「本当か?」

「ええ、なんとなくわかるんです」

「よし、分かった。なら……こいつの必殺技で決めてやろう」


 桃皇様はそう言うと再びツガイの長弓を構える。そしてそこには大きな力の奔流が集まり巨大な光の矢となっった。


「邪を貫く……"天羽々矢(あまのはばや)”!」

「グオアアアアア!」


 ツガイの弓から放たれた光の矢は今度こそ鬼を貫き、それを消し去った。……ひとまず帝都は"妖魔”から守られたのだ。

 そして私は桃皇様に連れられ、軍の施設である対妖魔対策本部の地下施設に連れて行かれることになった。


「――鬼崎ミコト、十七歳。鬼崎家の長女……10年前に生母を事故で失い父が再婚。現在は父・母・妹との三人で生活をしている……か。名前を聞いた時にまさかと思ったが鬼崎家の一員だったとは」


 いつの間にか私の個人情報が調べ上げられていたことに驚いたが、私はその言葉に頷いた。そして桃皇様に家族の無事について尋ねた。


「……あのメイと……お義母様とお父様は無事なのですか?」

「ああ、安心してくれ。私の部下が無事に避難させ、現在は自宅に戻っているはずだ」

「そうですか……良かった」


 桃皇様の言葉に私はほっと胸を撫で下ろす。メイが無事で本当に良かった。


「――ところで君は、妹以外のご家族とはあまり関係がよろしくないのか?」

「……はっきりと聞いてくるんですね」

「……いや、すまない。個人事情だったな」

「いえ、いいんです。……父からは母が死んでからずっとあんな関係です。それとお義母様は……私の容姿が怖いようで」

「……なるほど、君の髪色と目の色は随分と珍しいものだからな」

「ええ、それで不吉なのだと恐れています」

「そうか……迷信の類は信じ込む人は信じ込むものなのだからな」


 全く馬鹿らしいことだと思うが、私はそれを咎める気にはならなかった。父も含め私が彼らに逆らわないことで、鬼崎家の平穏が守れるならそれに越したことはないのだ。


「それでだ、ミコト。君の今後についてなのだが……」

「はい」

「君はようやく見つけたツガイを動かせる人間だ。……君には俺と一緒になってもらう」

「一緒に? それは……」

「端的に言えば俺と結婚して欲しい」

「えっ……けっ……ええっ!?」


 突然の桃皇様の言葉に、私は頭が真っ白になった。

 今日出会ったばかりの……それも大氏族の方と結婚……私が?


「突然こんなことを言ってすまないな、混乱するのも当然だろう。だがツガイを動かせないと、人類が滅びかねないんだ」

「……だから結婚という形で私を囲み込んでおきたいということですか?」

「そういうことだ。……酷い話だと思ってもらって構わない。共に来てもらえれば家族の身の安全は保証しよう」


 確かに酷い話ではあるのだろう。愛し合ってお互いを理解しての婚姻ではなく、目的の為に形式上婚姻関係を結ぶというのだから。

 だけど私はそれほど悪い話ではないとも思っていた。それに私も”妖魔"の被害を放って置くことはできない。

 ……それに突然角が生えたり巨人に乗ったりと、これまで通りの平穏な暮らしというのは難しくなりそうだし、家族の……メイの安全を保証してくれるのならこちらにも十分に利がある。


「……分かりました。その話、受けさせていただきます」

「すまないな。君の家には俺の方から話をつけておこう」

「これからよろしくお願い致しますね……桃皇様……いえ、タロウ様」

「ああ、こちらこそ」


 こうして私はタロウ様、そしてツガイと共に"妖魔"との戦いに足を踏み入れることになりました。その後に様々な困難が待ち受けているとも知らずに……。




 とある孤島。その洞窟の奥で二人の人物が話していた。

 杖を手に持ち長い白ひげを蓄えた頭に角のある老人、そしてもう一人は銀色の髪に赤い瞳と角が生えた若い男だ。

 老人の名はギュウキ、そして若い男の名をシュテンといった。


「まさか人間に我らの兵器が破壊されますとはのう」

「ははは、面白いじゃねえか。ただ蹂躙するだけじゃ面白くないと思ってたとこだ」

「ええ、人間の兵器への対策をこれからとらねばなりませんな……シュテン様」

「おう。お前の力も存分に頼らせてもらうぜギュウキ」


 そして会話を終えたシュテンは、眼下にずらりと並ぶ”同胞”達に対し拳を振り上げ叫んだ。


「野郎ども! 1000年待った復讐の時が来た! 今こそ我ら"妖魔”が地上を制覇するときだ! 気合を入れろ!」

「うおおおおおおおお!」


 シュテンの激に、妖魔達は拳を振り上げ叫んだ。

 こうして人類は妖魔との果てしない生存戦争に挑むことになるのであった……。

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