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最終話 めんどくささのその先に。

最終話 めんどくささのその先に。


めんどくせえ夢を見た。




欠けたトランプ。散らばったキットカット。




赤いランドセルと黒いランドセル。




そこから先を、思い出してはいけない。今日も仕事だ。


「ああ、きっつ……」


思わず声が出たよ。めんどくせえな。本当に。


どうしよっか、ばか。


こんな時に思い浮かぶのはたった一人。叶ったら困るくせに叶ったらいいな。嬉しいだろうなと思う。




しかし。




子供さん、悲しませるわけにゃいかんのよ。


五分だけ、ベッドの中で頭を抱えて。




タイムカードを押してから、ドアノブを回す。




いつものように軽く明るく。挨拶。おはよぉーございマース!




「私さんちょっと」




会社の屋上で。2人きりで。相手が。真剣な顔で。そんな顔する時お説教の時くらいしかしないじゃん。なんすか今お仕事まだ始めてないすよご指摘されるとこありましたっけな。




「何があったの?」




なんもないすよ。




「そういう顔、してないの、わかってるよね」




と、相手が。いつものように。いつものように困ってることを解決しようとしてくる。




「昔のことすよ。大昔の」




ダメだった。確かに背景は出会った当初に言った。でも詳しくは言えてない。話せない。




めんどくせえな。




めんどくせえ。ほんとに。




決壊、しちまうよ。




相手は無言で見ている。




「9歳、でしたよ」




相手は何も言わない。




「子供って、怖いですよね。や、私も子供でしたが」




止まらない。




「2歳差、って小学生だと絶対勝てないじゃないですか」


癇癪持ちのあの人。しかしいつの間にか私の家に居着いて「仲良くしろ」と父に言われ。




トランプをしていたのだ。ババ抜き。切っ掛けは私がJOKERの札を割ってしまった。黒と赤のランドセルが宙を舞う。おやつに、と言ってくれた女性から貰った袋から散乱するキットカット。




「そこから10年ですよ。10年間。」




こっそり。こっそり。声をあげられなかった。もちろん誰も助けてくれなかった。




「で、あの人が姉と結婚する時になんて言ったと思います?[あれは恋愛みたいなものだったよね]ですよ?ーーーーーーふざけるな」




ダメだ。声が震える。




相手が、無言で私の唇を塞いだ。




……スマホでかよ!


「ほういうほき、くちでふさぎまへんは」


「フラグはへし折ってくタイプだから」




やっぱめんどくせえな、この人。


私の目が真っ赤なんだが笑ってしまった。負けだ負け負け!




いや、勝ち負けではないかな。


勝ち負けで言うとスタートラインでとっくに私は惨敗してる!この勝負の参加資格なしだ!




というか。




「やっぱめんどくせえですね、あんた」




ぽつり、と。相手が初めて苦しそうな顔をした。




「初めてその話聞いた時、なんでだよって、思ったよ。なんで君みたいな自分より人を大事にする優しい子が、って」




「ごめん、いい子とは思ってたけど。本音言ったら今も本気で揺らいでるよ。でも。それでも、…娘を、娘たちを産んでくれた人を持つ身としては、越えられないかな」




そりゃそうだ。




私と相手はお互いめんどくせえ者同士である。




しかし、相手の子供はめんどくさくないのだ。


可愛い盛りだ。相手にキットカットを手で割ってもらって喜んで食べ、トランプの札を割ってもしょんぼりしてごめんなさいを言えるような、幸せな可愛い盛りの子供だ。そして、そんな子を授けてあげた女性も。




「幸せに暮らせバカ」




「幸せになれよまじで」




パァン!と手を打ち合って。




その時、私たちは初めてその間に何も邪魔するものがなく、直にお互いの体に触れたのだった。





【了】

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