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第5章

 第五章


 ドレイク達は、常に危機を人類に与えてはいなかった。

 人類が、この星〈フォース〉に降り立って、100年後。戦争がはじまった。

 さらに、それから二世紀間程、戦争は続いた。もう詳細な年数は記録がない。

 学者、都市毎に見解が違っており、はっきりしないのだ。

 それほどまでに文明が衰退した表れでもあった。

 戦争の終わりも突然だった、ドレイクの攻撃が影を潜めたのだ。無くなった訳ではない。

 襲ってくる数が激減したのだ。

 理由は不明であった。

 ドレイクの攻撃は、その後、天災のような扱いを受けるまでとなった。


 〈ヴァルハラ〉の事務室にいた、イーシュの前にコーヒーが出された。

「どうぞ。俺が淹れた物で悪いけど」

 そう言ったのは、心配だのと帰るのを拒否したジェリドであった。

「ありがとう」

「サヤカちゃんは?」

 イーシュは、黙って首を振った。

 昨日、妹のサヤカが帰ってこなかった、連絡もない。

 こんな事は、初めてだった。

 サヤカの友人に連絡を取った所、ヤマトと放課後、どこかに行ったらしい。

 ヤマトにも連絡を取ろうとしたが、取れなかった。

 そして今朝、小包が届いた。中身は、良く手入れされた黒髪が一房入っていた。

 一目、見た時、サヤカの物だと思った。

 他の人間の物だと思いたい。だけど……。

 イーシュの中に不安だけが、募っていった。

 ミネルも結局、部屋に戻らず事務室で一夜を過ごした。

 事務室の電話がなった。

 電話には、ミネルが出た。少し会話した後、イーシュの方を向いた。

「イーシュ姉、電話。小包の件」

 イーシュは、あわてて電話を取った。なぜか立ち上がっていた。

『社長さんかい? 贈り物は気にいってくれたかな』

 男性の声だった。知らない声だ。おそらく若くは無い。

「……社長のイーシュ・フジムラです。サヤカは?」

『察しが良くて助かるよ』

「無事なの?」

 電話の向こうで相手が変わるのを感じた。

『……姉さん』

「サヤカちゃんなのね?!」

『うん、姉さん、相手は』

 サヤカが何か言いかけた時、電話の相手が再度、強引に変わった。

『ここまでだ』

「ちゃんと無事なの?!」

『ああ五体満足。病気もなし。飯付きの待遇。貞操も保証してやる』

「いい待遇ね」

『だろ。サービスに散髪までつけた。何なら風呂までつけようか』

「……。お風呂は遠慮願うわ。で、要求の話をしてくださる?」

『残念。要求はTAL[ワルキューレ]、それと粒子砲[グングニル]』

 イーシュは、あまり驚かなかった。予想された内の一つだからだ。

「……わかったわ」

『二日後の0700、[グングニル]を見つけた場所に持ってこい』

「わかったわ」

『どこぞと連絡を取らないように。とくに昔の同僚にはね、フジムラ元情報部大佐』

 イーシュの体が、電撃に撃たれたように震えた。

「……連れの男の子は?」

『察しが良くて、助かるよ。無事だぜ。では、後ほど』

 これだけ言って、電話は一方的に切れた。 


 電話が切れたのを確認し、イーシュはゆっくりと受話器を戻した。

 ミネルが、心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫、サヤカちゃんは無事よ」

 ミネルが安堵の溜息を洩らした。その後、イーシュの目を見つめた。

「どうだった?」

 ジェリドも、ミネルを代弁した。

「……」

 ミネルの目の前で、話すのもどうかと逡巡したイーシュだったが、決意を固めた。

「サヤカちゃんは、誘拐されたみたい。ヤマト君も」

「……」

「分かった事はいくつかあるわ。」

 まずは、こちらの事をある程度調べられている。戦力分析も済んでるでしょうね。

 それから、一定以上の戦闘訓練を受けている。

 さらに言うとTALもあると考えた方が良さそうね」

「さすが、元情報部」

 イーシュの顔が一瞬、暗くなった。

「それは、言わないで」

「すまん」

「とにかく、これを踏まえて作戦を練らなきゃ」


 時計は取り上げられたヤマトには、正確な時間は分からなかった。

 拘束されたままだったので、有ってもまともに見る事ができなかったが。

 ただ窓から見える空はすでに夜、捕まってから一日以上がたったということだ。

 サヤカ共々、昨日いた廃工場でコンテナに乗せられた。TALがそのコンテナを担ぎ、移動させられた。目隠しされなかった為、コンテナの隙間から見えた風景で、おおよその場所や時間も推測ができた。

 ドゥームシティだ。

 まさか、こんな数日中に往復するとは、思わなかった。

 今、サヤカ共々、放棄されたビルの一室に閉じ込められていた。

 あれから、男達は言っていた事は守った。サヤカの髪を切った後、何もしてこなかった。

 サヤカは口が重くなりはしているものの、思っていた程、落ち込んではいないようだ。

 だが、ヤマトは、サヤカに何と声をかければ良いか、分からなかった。

 結果、サヤカとの会話はほとんど無く、一日が過ぎてしまった。

 脱出の模索も検討したものの、どれも実行可能なものは、思いつかなった。

 ヤマトは、窓の外を見た。

 満月だった。

「……あいつ、やっぱりコスギの父親なの」

 そう、サヤカが聞いてきた。

「たぶんな」

「たぶんって」

「顔をちゃんと覚えていないって言ったろ。何となく覚えている顔だとは思うけどな。名前も合致してる。それに、仮に嘘だとしてもあちらが嘘をつく理由が分からない」

「……そう」

 また、しばらく沈黙が続いた。

「……お父さんに会えて良かったわね……」

 サヤカがつぶやくように言ったのが、聞こえてきた。

「はあ?」

 耳を疑った。

「嫌味か、それは?」

 サヤカは首を振った。

「人を拉致したら、自分の子供でした。どんな親だよ、それって」

 サヤカは、また黙ってしまった。

「……それでも、会えないよりは、いいじゃない」

「……」

 サヤカは、また口を閉ざした。

「……そうだな」

「……あたしね、ホントは、お父さんと血繋がってないんだ」

「なんだよ、急に」

「姉さんとミネルとも。二人はお父さんの子供なんだけど」

「……それが?」

「お父さんに引き取られて、家族だよって言ってくれた時、すごく嬉しかった」

「……」

「TAL乗りを目指しているのも、お父さんと同じ仕事ができたら、恩返しができるかなって」

「……」

「……お父さんに会いたい」

「フジムラも会えると言いな」

 気休めだな、そう思うヤマトだったが、そんな言葉しか出てこなかった。

「……ありがと」

 ヤマトは、ここ数日間で、サヤカとやっと、まともに会話できた気がした。


 閉じ込められた部屋の扉の向こうで錠前が開く音がした。

 扉が開く、そこにコスギがそこにいた。コスギは手になにやら袋を持っていた。

「おら、食事だ」

 持っていた袋をヤマト達に投げて寄こすと、自分は、ドカリと空いていた椅子に腰かけた。

「食わないのか」

 ヤマトとサヤカは、それでも動かない。肩をすくめたコスギは、ヤマトに話しかけた。

「まあ良いがな。ところでヤマト、お前、俺達の仲間にならないか」

「犯罪者の仲間にか」

「犯罪者ねェ。この国だとそうなるのかもな」

「……」

「こちらも人手が足りないのさ。お前、使えそうなんでな」

「拘束を解いてくれたら考えてやるよ」

 そう言ったヤマトに、ニヤリと口端はあげてコスギは答えてきた。

「仲間になるんだったら、解いてやるよ」

「……で、あんたの国は、何が目的なんだい」

 一瞬、目つきが鋭くなったコスギだったが、そのまま口端を上げた。

「はは。やっぱ気に入ったわ。お前」

「胸くそ、悪い」

「今の会話だけでそこまで読んでくるとはな。クレバーなのは、好きだぜ。その気があるなら、

 考えな。その時に教えてやる。スポンサーも含めてな」

 そう言ったコスギは、立ちあがり、扉の方へと向かっていく。

「悪いが、そんなに時間の余裕は無いからな」

「ちょっと、待って!」

 扉の前に立ったコスギを、サヤカがよび止めた。

 コスギは振りかえり、サヤカを見た。

「どうした?」

「父さんは、父さんはどうしたの!」

「父さん? ああ、テシウスか。察しなよ、おじょうちゃん」

 サヤカの表情が凍った。

「?! まさか」

「わるいけどな」

 みるみると表情を変えていったサヤカは、縛られたまま、立ちあがった。

「わああああああ!」

 サヤカは言葉にならない叫び声をあげ、コスギに体当たりを掛けた。

 だが、コスギは冷静だった。飛び込んでくるサヤカの腹に向け、足を繰り出したのだ。

 それが、カウンターとなり、サヤカはそのまま倒れ込んでしまった。

「フジムラ!」

 ヤマトは立ち上がり叫んだが、動けなかった。

 コスギが、サヤカの脳天を目がけて銃を向けたからだ。

 サヤカは咳込み、答える事ができない。

「大丈夫か?!」

「安心しな、大切な人質だ。」

 コスギは、倒れ込んだサヤカを見下した。

「こちらとしては、殺す気は無かったんだ」

 悪びた様子はまるで見えない。

「強情でね。なかなか口を割らないかったもんだから、ちィとやり過ぎちまった」

 いまだ地面に倒れこんだサヤカは、顔だけを上げた。その顔は憤怒、一色であった。

「もともと、テシウスも俺らの仲間だったんだぜ」

「嘘よ、そんなの!」

「それが、[グングニル]を持って、ズラカリやがってよ」

「だからって!」

「うるせェよ! だから、やり過ぎたって言ってるんだろうが」

 コスギが、サヤカをだまらせんと、再度蹴りつけた。

「フジムラ!」

「これでも、反省してるんだぜ。[ワルキューレ]と[グングニル]の行方が分からなくなっち

 ってさ。やっと見つけたと思ったら、どこぞ団体が、両方とも持って行っちまうんだもの。

 慌てて軍のシステムにハッキングかけて、データいじくってたら……」

 サヤカが睨んだ。

「おお、怖い。TAL乗りには、よくある話だ」

「でも、条約があるでしょ!」

 サヤカが言う条約、捕虜の取り扱いについてとりきめられた物だ。先時代からのあったものだが、TAL乗りは、これに暗黙に従う事が多い。

「条約? ああ、捕虜うんぬんって奴か。おいおい、俺らどこの国にも所属してないんだぜ。 んなもの、守る必要がどこにある」

「ううぁああ!!」

 獣のような呻き声をあげたサヤカは、反抗しようと起き上がろうとした。

「フジムラ、やめろ!」

 制止を無視し、何とか起き上がろうとしたサヤカを、コスギは、遠慮なくもう一発蹴り入れた。そして、そのまま踏みつけた。

「大人しくして、くれないかな。これでも俺は、フェミニストなんだぜ。良かったら、今度ベッドの上で体験させてやるよ」

 そう言ったコスギは、もう一度、サヤカの腹を蹴りつけた。

 たまらず、サヤカは咳込み、うずくまった。

「大人しくしてな、朝には姉ちゃんに会わしてやる」

 コスギは、これで用は済んだとばかり、部屋の扉の前に向かった。

「じゃあな。あっ、ヤマト。さっきの話、考えとけよ」

 そう言い残し、コスギは部屋を出て行った。

 その後、扉の錠前が落ちる音がした。

 動かないサヤカは、泣いているのか怒っているのか、よく分からない声をあげた。

 それが続く中、ヤマトは黙ってサヤカを見る事しかできなかった。

「……」

 しばらく後、落ち着いてきたのか、サヤカの声が収まっていった、

「……あんたの父親って」

 うずくまったままのサヤカの顔は、ヤマトには見えなかった。

「最低ね」

「俺もそう思うよ」


 時刻06:50。

 ドゥームシティの人質引き渡し場所である瓦礫の山に来ていたイーシュは、空を見上げた。

 曇天。それが廃墟と化した都市を、よりいっそう不気味にしていた。

 少し離れた右手に[ワルキューレ]、左手に[グングニル]が置いてあり、イーシュの後には、ジェリドが載ったTAL[ワスプ]がいた。

 他の〈ヴァルハラ〉の皆は、かなり後方で[デュアルホーン]で控えていた。

『来たみたいだ』

 ジェリドが、外部スピーカーでイーシュに呼びかけた。

 ジェリの機体に、TALの認識が表示されたのだ。

「ええ」

 イーシュは頷いた。まるでそれが合図だったかのように、この場所につながる道の向こうの方から、人影が歩いてくるのが見えた。

 学生服をきた男女と、痩身の男であった。

 学生服を着た二人、サヤカとヤマトは両手を後ろに回していた、縛られているのであろう。

 誘拐犯の一人であろう男は、二人に銃を向けていた。

 男は少し距離を置いて立ち止まり、少し前を歩いていた二人に命令した。

「止まれ、二人とも」

 サヤカとヤマトは、その言葉に大人しく従った。

 イーシュは、サヤカの切られた髪を見つめた、そこでサヤカの顔に殴られた跡を見て、驚きの声を上げた。

「サヤカちゃん、大丈夫?」

「うん」

「ちょっと、どういう事?! 人質に手は出さないって」

「暴れたんでね、少々な。心配してるような事はしてねェよ」

 イーシュは黙って、サヤカとヤマトの方を見た。

 ヤマトは黙ってうなづいた。

「そう。分かったわ」

「じゃあ、ビジネスの話でも始めようか。まずはお互いのTALを下げようか」

 イーシュは、うなづき、[ワスプ]を見上げた。

 これを合図に、[ワスプ]と[バロール]が、後ろに下がっていった。

「見れば分かると思うけど、[ワルキューレ]と[グングニル]はあるわ」

「そうだな」

「しかも[グングニル]は組み立てとおいたわ」

「いいサービスしてるじゃないか。今度、TALのメンテもお宅に頼むかな」

「ごめんなさいね。客は選ぶ主義なの」

 ニッコリと笑ったものの、冗談ではないとイーシュは拒否を示した。

「あらあら、嫌われちまったねェ。さて、まず[ワルキューレ]を渡して貰おうか」

「断るわ。まずは[グングニル]とサヤカの交換よ」

「おいおい、まずは身内からかよ」

「そうね、女・子供を優先させたいのよ」

「ふん、まあいい。おい、社長さん、お前は左によれ」

 素直にしたがうイーシュを見て、男は[グングニル]の方に向かっていった。

「お前、行っていいぞ」

 男に背中を押されたサヤカは、黙ってイーシュの下へと向かっていった。

 次第に駆け足になったサヤカを、イーシュが抱きしめた。

「良かった」

「……姉さん、ごめんなさい」

「良いのよ」

 イーシュは、サヤカの拘束を解き始めた。

 男は待ちきれないように、口を開いた。

「次の交換にうつりたいんだが、いいかね」

「ちょっと待ちなさい」

 そう言うと、イーシュはサヤカの顔を両手で包みこんだ。

「大丈夫?」

 そう言うと、サヤカを抱きしめた。

「うん」

「良かった」

 強く抱きしめる振りしたイーシュは、サヤカの耳元に口を寄せた。

――――えっ?

 サヤカの顔が驚きに代わった。

 男には、気付かれていない。

「そこまでだ。感動の再会は、もういいだろ?」

 男は、しびれを切らした様子で、そう二人に告げた。

「そうね」

 二人は離れると、サヤカはイーシュの背後に隠れるように立った。

「では、[ワルキューレ]と」

「ヤマト君ね」

 ヤマトには、ピーんと緊張の糸が走るのを感じた。


 緊迫した状況の中、男が口火を開いた。

 男は左手を指さした。南の方、[ワスプ]が下がっていった方角である。

「まずは、二人ともそっちの方に行って貰おうか」

「ええ、いいわ」

 二人は、ゆっくりと指された方角に下がっていった。 

 10m程の距離が開いた所で、イーシュは立ち止まった。

「これくらいでいいでしょ、ヤマト君を離しなさい」

「ああ、いいぜ」

 男に背中を押されたヤマトは、イーシュ達の方へと向かっていった。

 男は、ヤマトに拳銃をむけつつ、[ワルキューレ]の方へと向かって行った。

 イーシュの下へと歩くヤマトは、イーシュと目があった。

 イーシュの口が動いていた。声は聞こえない。

――――えっ?

 ヤマトは、目を疑った。

 サヤカが、[ワルキューレ]目がけて、走り始めたのであった。


 男は、サヤカが駆けだしたのに、すぐに気がついた。

 未だ人質であったヤマトから、男はヤマトからサヤカへと拳銃の標的を変更しようとしたが、ここで別の事が目に入ってしまった。

 まず、ヤマトがイーシュの方でなく、右手の瓦礫に向かい走り始めた。

 次いでイーシュが、何か黒いモノを引きぬきこちらに向けてきたのであった。

――――銃?!

 三つの事が同時に起き、男は一瞬、判断に迷った。

 結果、イーシュから銃撃に対処すべく、避けるようと体を滑らした。

 そのまま不完全な姿勢からのサヤカへと発砲するが、当たらなかった。

 そして、イーシュの黒いモノから何かが発射された。

 銃じゃない、男がそう思った時、イーシュと男の間に発光弾による閃光が瞬いた。


 サヤカは[ワルキューレ]に対して走った。

 背後から銃撃も、幸いにも当たらなかった。

 次いで閃光が起こった。

 気にせず走ったサヤカは、[ワルキューレ]の下に辿りついた。

「サヤカちゃん!」

 姉からの叫ぶ声がした。サヤカは慌ててTALの影に隠れると、サヤカの付近に銃弾が当たり弾けた。、

 サヤカは[ワルキューレ]の操縦室であるハッチへと向かった。

 先ほど抱きしめられた時、「合図したら[ワルキューレ]に乗って」と、そう言われた。姉に言われた時は驚いた。

 操縦室に辿つく間にも、銃弾数発が飛んできたが、TALが遮蔽となってくれたお陰でサヤカには当たらなかった。そのまま操縦室に滑り込んだ。

「起動している?!」

 座席についたサヤカに反応し、スクリーン、コンソール群が点灯していった。

「ハッチ、閉めて!」

 サヤカの叫びに[ワルキューレ]のAIが反応し、ハッチが閉まっていった。

 全方位スクリーンが周りの風景を映し出し、コンソールが起動終了を告げた。

「[ワルキューレ]、行くわ!」


 ジェリドは、TAL[ワスプ]の操縦室でイーシュの合図を待っていた。

 人質交換の場から後方に控えて、注意深く見守っていた。

 イーシュ達がいるであろう場から、閃光が巻き起こるが見えた。

「よしっ」

 その瞬間、ペダルを強く踏み込んだジェリドは、発生した強烈なGに座席に押し付けられた。

 ジェリドは、誘拐犯のTALがいるであろう方向へと、手持ちのTAL用マシンガンの引金を引いた。


 背後で閃光が起こったのを感じながらも、ヤマトは瓦礫の影に潜り込んだ。

 隙間から覗くと誘拐犯の男が、[ワルキューレ]に飛び付いたサヤカへと発砲するのが見えた。

 銃弾は当たらない。

 ホッっと安堵の溜息をついたヤマトの横に、イーシュが滑りこんできた。

「イーシュさん!」

「ヤマト君、無事?!」

「はい」

 誘拐犯の男は、膝立ちした[ワルキューレ]が起き上がり始めたのを見ると、退避し始めた。

 ついで頭上から空気の割ったような音が鳴った。TAL用のマシンガンだ。

「大丈夫、ジェリド中尉よ。こっちに向かってる」

 ついにサヤカの乗った[ワルキューレ]が完全に立ちあがった。

『姉さん!』

 サヤカの機体が、ヤマトの隠れた瓦礫の横にやってきた。

「サヤカちゃん、平気?」

『うん、それより、これから……』

 そこまで言った時、突風が巻き起こった、ジェリドの乗った[ワスプ]が現れた。

『早くしろ、サヤカ! イーシュを連れてさっさと下がれ』

 空中で停止した状態で、ジェリドの声が響いた。

 サヤカからの返答はない。だが、イーシュが頷くと[ワルキューレ]から声がした。

『わかった』

 ヤマト達へと、[ワルキューレ]の右手が差し出された。

 それに飛び付いたイーシュは、ヤマトに右手を差しのべながら、質問をした。

「あっちのTALの数は、分かる?」

 ヤマトも[ワルキューレ]につかサヤカがら、イーシュの質問に答えた。

「四機です。誘拐犯も四人」

「……。ジェリド中尉! 敵機は四機、お願いね」

『ちっ、あいよ。予想よりも一機多いけどな』

 轟音を鳴らし、[ワスプ]が誘拐犯の向かった方へと向かって行った。

「サヤカちゃん、お願い!」

 そう言ったサヤカは、[ワルキューレ]を立ちあがらせた、そのまま[グングニル]の方へ向かって行った。

「サヤカちゃん?」

 驚きの声を上げたイーシュにサヤカが答えた。

『これも持って行く』

 左手で[グングニル]を掴んだ[ワルキューレ]は、人質交換の場を離れた。

 イーシュは唇を噛んだ。


 廃墟と化した都市で、ジェリドの[ワスプ]は地上から2、3m上である空中に浮いていた。

 敵であるTALの内、ニ機はすぐに見つかった。

 [ワスプ]のデータベースが、現れた敵機の機種が表示されている。

「[バロール]ねェ。聞いた事ない機体だけど」

 ドラム缶のような寸胴な機体である[バロール]は、バズーカ砲をジェリドに向けてきた。

 それは、そのまま火を吹いた。

 ジェリドは、これを器用に避けながら、無人のビルの隙間に逃げこんだ。

 だが、ジェリドの機体は止まらない、勢いを殺さずにビル群から飛び出て、[バロール]の方へとマシンガンの引き金を引いた。

 二機の[バロール]は、その銃撃を交わす為、右と左に分かれた。

「ホーバーつきかよ!」

 [バロール]の動きから、そう判断でしたジェリドは、そのまま機体を後方に移動させた。

 突然、今までいたビルの屋上に、もう一機[バロール]が現れる。

 そいつは[ワスプ]に向けたバズーカ砲の火を噴かせた。

「読んでたよ!」

 ジェリドは、強くペダルを踏み込む、[ワスプ]のバーニアが、これに応じ、今まで以上に噴射した。

 [ワスプ]は、そのまま斜め後ろへと発射されたかのように都市の上方へと昇って行った。

 だが、不自然にピタッと機体が空中に留まった。これが[ワスプ]の特徴である。

 TALにしては軽量であるものの、これに似合わない強力なバーニアとスラスター。これにより無理な空中制御が可能となった機体である。

「さてと」

 都市の空中で、ジェリドは現場にいる敵機を観察した。

 現れた一機は、こちらに向けバズーカを向けようとしていた。

 先にいた二機は、右手と左手と別々の方向からサヤカ達に向かおうとしていた。

「追わせるかよ!」

 右手にいた一機をマシンガンで牽制しつつ、左手に機体を滑らせた。これにより中央の機体との間にビルが入りこんだ。このビルが、遮蔽となり中央からの砲撃は防がれる。

 そのまま左の[バロール]に肉迫した。[ワスプ]の左手からブレードを飛び出る。

――――斬!

 [ワスプ]は敵機へと切りつけたが、目の前の[バロール]は軽々と避けてしまった。

 ジェリドが派手に動いたせいで、動きは捉えられていたのだ。

「ちっ」

 ジェリドは舌打ちしたが、目の前の[バロール]は、完全に足を止めた。

 ジェリドはスラスターを噴かし、敵機と距離をとり、先ほどの右手にいた機体を見た。

―――――動きは止まっていない。

 マシンガンを向けると同時に、[ワスプ]の操縦室に警戒音が鳴った。

 [ワスプ]に銃口が向けられたのだ。

「無理か」

 撃つのを諦めたジェリドは、迫りくる砲撃を避ける事に徹した。

 撃ち洩らした機体を見ると、追いつくのが難しい程に離れてしまっていた。

 再度、警戒音が鳴った。

 少し離れた場所に三機目の[バロール]が現れたのだ。

 三機目を認識したジェリドは、サヤカへと通信を入れた。

「悪い、一機行った。気をつけろ」

 ジェリドは、[バロール]三機と改めて対峙した。


 サヤカは、[ワルキューレ]の操縦室で、ジェリドからの通信を受け取った。

「悪い、一機行った。気をつけろ」

 それに合したかのように警戒音が鳴った。

「姉さん、コスギ、捕まって!」

 サヤカは、機体を右へすべらせた。

 サヤカは[ワルキューレ]の右手を確認する、ヤマト達が必死に捕まっているのが見えた。

 背後からの[バロール]の砲撃は、[ワルキューレ]の左を通り過ぎて行く。

「!」

 サヤカは、さらに機体を右へ滑らした、再度の[バロール]からの砲撃であった。

「もう!」

 これで[ワルキューレ]の速度は完全に削がれてしまった。

 サヤカは、[ワルキューレ]の頭部を、[バロール]に向けた。頭部についたバルカン砲が火を噴く、だが、簡単に避けられてしまった。

 [ワルキューレ]が後へ向こうとすると、またも砲撃が来た。

「行かせなさいよ!」

 また横に避けるしかない。

 サヤカの中で悔しさが込み上げてきた。

 背後の[デュアルホーン]へ向かおうとすると、またも[バロール]からの砲撃が来た。

 [ワルキューレ]が横に避けるようにである。

 大分あった敵機まで距離も大分詰められてしまった。

「引き離せない。こちらの方が足が速いはずなのに!」

 そう文句を言うサヤカだったが、分かってはいた。

 あちらが、[ワルキューレ]の速度性能を発揮させないように仕向けてるのだ。その術中に見事にはまっているサヤカ、単純にTALのパイロットとして、あちらが技量が上なのだ。

 技量が上の相手にし、右手の守る者を抱えたサヤカは、唇を噛むしかなかった。

 そう考えている間にも、再度の砲撃が来た。

「また?!」

 サヤカには避けるしか方法が無かった。


 サヤカが乗った[ワルキューレ]は、回避行動を取らされ続けていた。

 右手に乗ったヤマトと、イーシュは必死にしがみついていた。イーシュが備えていた布製品で簡易的に機体と体を括りつけていなければ、振り落とされていただろう。

 それでも左右に振られるGで、声すら上げる事ができなかった。

 うっすらと目を開けると、敵機は徐々に追いつかれているのが分かった。

――――ふりきれないのか?

 サヤカは、TALの操縦が下手な訳ではない、学校でも屈指の腕なのだ。だが、あくまで学生レベルでの話だという事なのだろう。

 ヤマトは、隣にいるイーシュを見た。

 目を見張った。

 イーシュと[ワルキューレ]を紐づいていた革製品の金属製の留め具が外れかけていた。

 イーシュは気がついていない。

 声は出せない。

 ヤマトは手を伸ばし、イーシュの留め具を直そうとした。

 イーシュは慌てて、ヤマトを見た。ヤマトが何をしようとしているのか気付いたのだ。

 そのまま首を振った。

 ヤマトは無視し、留め具を直そうとするが、片手では無理。

――――仕方ない。

 両手でイーシュの留め具を直した。

 直後、[ワルキューレ]の機体が揺れた。今までよりも強いGがヤマトの体を襲った。

――――やばい!

 そう思った時、ヤマトの体は、宙に放りだされていた。


 また、回避行動を取らされたサヤカは、人を乗せた右手を見た。

「コスギ!」

 ヤマトの体が、右手から放りだされていくのが見えた。

 サヤカは慌てて、飛ばされたヤマトを眼で追った。

 地面に叩きつけられ、転がっていくヤマトだったが、どうやら無事なようだ。

 サヤカに対し、手を振っているのを確認できた。

 安堵の息をつく、暇もなくサヤカの耳に警戒音が轟いた。

 ヤマトに気がそれている内に、[バロール]に完全に追いつかれてしまっていたのだ。

『御嬢ちゃん、あんまり手を煩わせるなよ!』

「えっ!」

 [バロール]にバズーカ砲を向けられる。

「姉さん、しっかり捕まって!」

 そう叫んだサヤカは、機体を大きく後方にジャンプさせた。


 ジェリドは、半ば空中に浮いた[ワスプ]を上下左右前後へと機体を揺らし、来る砲撃を避けた。サヤカでは、まだこうも動かせないだろうなと思いながらも、さらに来たミサイルを冷静かに見極め、安全圏まで機体を動かした。

 三機を相手にペースを掴んでいたジェリドだったが、内心焦っていた。

 ジェリドは、[バロール]がいるであろう地帯へと牽制射撃をした。

 そのまま移動させつつ、本命の一撃を放つ。

――――直撃!

 だが、[バロール]の装甲は剥ぐものの、大したダメージは与えられていない。

「火力が弱すぎる!」

 ジェリドが、愚痴をこぼした。[バロール]という機体、装甲がかなり厚いのだ。

 その間に一機が背後に回り、砲撃してくるが、ジェリドは見ているかのように軽々と避けた。

『良い腕してるな、あんた!』

 外部スピーカーまで使って、背後に回った機体の搭乗者が話かけてきた。

「どうも!」

 謝礼とばかり、ジェリドはその機体へと手持ちマシンガンを発砲した。

『ちっ』

 その機体は避けるが、完全には避けきれずニ、三発だけ着弾した。これでは[バロール]の装甲にダメージを与えられない。

『めんどくさい、例のを使うぞ』

 その機体が、そう叫ぶのと同時に、[ワスプ]の周りを旋回し始めた。

 他の機体も、それに倣った動きを始めた。

―――――例の? 何をする気だ?

 ジェリドは疑問に思っている間に、[バロール]の胸部が開き。丸いレンズ状のユニットが姿を現した。そこから何やら赤い粒子が[バロール]の前面に展開されていった。

 高さ、幅はTAL数機分を並べた程までに拡がっていく。

「何なんだよ、あれは?!」

 ジェリドは、機体のデータバンクに検索をかけたが、無慈悲にデータなしと表示された。

 そのまま[バロール]は、[ワスプ]に近接戦闘をせんと突っ込んできた。

 ジェリドは牽制の為、マシンガンを発砲したが、[バロール]は気にせず突進してきた。

 ワスプの弾は、[バロール]の前に、展開した赤い粒子の前に完全に遮断されてしまう。

 一機の突進をかわすと、他のニ機が先ほどとは違う連携を始めていた事に気づいた。

 [ワスプ]の周りを、周り始めていたのだ。

 突進してきた[バロール]も加わり、三機が高速で周り始めた。

「何だよ、これは」

 ジェリドは隙間を抜けようとするが、赤い壁に阻まれた。

「ちっ」

 後に下がろうとしても、三機に連携され、うまく抜け出せない。

 [ワスプ]は、敵機が作った輪の中に閉じ込められようとしていた。

 それどころか、敵機は着実に輪を狭めてきた。ジェリドは悪態づいた。

「くそったれ」

『諦めな』

 敵機から、わざわざそんな声が届いた。


 何回、繰り返しただろうか、分からないがサヤカはこれしか方法がなかった。

 避けて、避けて、避ける。

『諦めな』

 そう言い聞かせられているようだった。

 右手には、イーシュが、未だ必死でしがみついた。

 よくもっていてくれている、サヤカはそう思った。

 先ほど右手から落ちたヤマトの事も気になっていた。

 どんどんヤマトの落ちた場所から離されていた。

 また[バロール]が、砲撃を仕掛けてきた。

 何度目だろう、姉に強烈なGが掛かる事も分かっていたが、急な回避行動を取らざるおえない。

 サヤカ、あふれてくる涙をこらえる。

 もう少し、自分がTALの操縦に長けていたら、状況は変わったのだろうか?

 だけど、どうしようもない。

 今は、避けるしかできないのだ。

――――えっ?

 突然、爆発音が響いた。

 サヤカは身を固めてしまう。

 それを解いてくれたのは、通信だった。

『マリ姉』

「ミネル?」

『当たった。良かった』

 少ない言葉と、呟いているようにしか聞こえない口調、間違いない妹のミネルだ。

 横を見ると、こちらに向かっている[デュアルホーン]が見えた。

[デュアルホーン]の主砲であるリニアガンが、[バロール]の左腕を直撃したのだ。

 [デュアルホーン]は砲撃を続けていた。

 左腕を失った[バロール]は、ホバーを巧みに使い、砲撃をかわしていった。

 一旦、距離を取ろうとしているのか、[バロール]は離れて行った。

『早く』

「え、うん」

 サヤカは、[デュアルホーン]の隣に並んだ。

 甲板に降りたイーシュは、急ぎ船の中へと避難して行った。

 また、ミネルからの通信が入った。

『マリ姉、受けとって』

 デュアルホーンの甲板には、[ワスプ]用のビームライフルが置いてあった。

 サヤカは、そのビームライフルを掴むと[バロール]の方を向いた。

「これで!」

 サヤカは、[ワルキューレ]のバーニアを噴かした。

――――武器なら手に入った。これなら!

「さっきは、よくも!」

 サヤカの貯め込んでいた怒りを爆発させるかのように叫んだ。


 ジェリドの乗った[ワスプ]は、回転する三角形の形にフィールドに押し込められていた。

「……これしか、方法がないのか」

 フィールドが展開されていない上方は、狙い撃ちされる事は分かり切っている。

 さすがに、三機からに十字砲撃は避けられる自信は無い。

「くそったれ!」

 そう叫んだジェリドは、一機の[バロール]に接近する。

 そのまま[バロール]の腹部、赤いフィールドを展開しているであろうレンズ状のユニットに、TAL用マシンガンを強引に押し付けた。

 そのまま全弾発射する、マシンガンは耐えられなくなり爆発した、[ワスプ]の右腕もそれに巻き込まれた。

「もう一丁!」

 ジェリドはおかまいなしに、次いで[ワスプ]の左腕から飛び出したブレードを垂直にレンズに叩きつけた。

 さらに、スラスターを全力で噴かせた。

 周囲にキーーンと異音が響きわたった。

『無駄だ!』

 敵機から外部スピーカーから声が届いたが、ジェリドはこれを無視し、吠えた。

「いけェェェ!!」

 ジェリドの願いがかなったのか、ブレードが、バロールのレンズに到達する。

 レンズに徐々にヒビが入り、ついに完全に割れる。

――――やったか!

 レンズが割れ、[バロール]を覆っていた赤いフィールドが薄れていった。

 勢いが止まらない[ワスプ]のブレードは、そのまま[バロール]を串刺しにしていった。

 だが、ジェリドの喜びを無視するかのように[ワスプ]の左腕が爆発した。

 両腕の爆発で機体が揺らぐ。

「ちきしょう!」

 右腕、左腕とボロボロになった[ワスプ]はスラスターを全力で噴かし、魔のトライアングルから離脱した。

 それでも[バロール]の方へ、ジェリドは[ワスプ]を向き直らせた。

 先ほど、両手を犠牲にしてまで傷つけた[バロール]は、動いていなかった。

 だが、他二機はすでに動き出しており[ワスプ]を挟み打ちにせんと迫っていた。

 ジェリドはバーニアを噴かした。

――――えっ?

 前程の出力が出ない。右腕、左腕の爆発で[ワスプ]のあちらこちらで機能不全を起こし始めたのだ。

 完全に避け切れなかった砲撃により[ワスプ]はさらに破壊されていく。

「くそっ」

 ついに右足を砲撃の直撃を食らってしまう、砲撃の余波、さらにはスラスターの不調で[ワスプ]は、空中姿勢を保てなかった、そのまま地面に倒れ込んだ。

――――ここまでか。

 ジェリドは、唇を噛みながら、操縦室のハッチを開放させた。そのまま外へ出た。

 目の前にいた鉄の巨人を見上げた。

『やってくれるじゃないか』

「降伏だ。条約は守ってくれるんだろうな」

 ジェリドは両手をあげながらも、しゃべりかけてきた[バロール]へ呼びかけた。

 だが、そんなジェリドに対し、[バロール]は砲口を向けた。

『条約? ああ、捕虜うんぬんって奴か。鋭意、努力してみるよ』

 [バロール]のハッチも開く、中からコスギが現れた。


 先ほどとうってかわり、[ワルキューレ]は、[バロール]を攻め続けていた。

 地面間近を横滑りさせながら、頭部のバルカンとビームライフルを適宜使い[ワルキューレ]は、[バロール]を牽制していた。

 [バロール]は、[デュアルホーン]のリニアガンが気になるのか、回避に専念していた。

 サヤカは、[ワルキューレ]のスラスターを噴かした。

 肉迫してくる[ワルキューレ]に、[バロール]はバズーカ砲を向けた。

「そんなの!」

 サヤカは、叫ぶと同時に機体をさらに加速させ、右へと避けた。

 バスーカを空撃ちした[バロール]は、慌てて至近距離にまで迫った[ワルキューレ]へとと砲口を向け直そうとした。

「遅い!」

 その動きを読んでいたサヤカは、[ワルキューレ]を頭上へとジャンプさせ、すれ違い様に[バロール]の頭を蹴りつけた。

 堪らずよろめいた[バロール]に[デュアルホーン]からのリニアガンが襲った。

 その一発が[バロール]の胸部に直撃し、敵機はさらによろめいた。

 ジャンプした[ワルキューレ]をスラスターにより空中に留まり、ビームライフルを[バロール]に向けた。

「当たれェェ!」

 サヤカが引き金を引く。ビームライフルが火を噴き、その火線はまっすぐ[バロール]の機体を貫いた。

「やった!」

 炎に包まれていく[バロール]。だが、まだ動きは止まらない。

「えっ!」

 最期にとバズーカを発砲させた。その砲撃は、[デュアルホーン]へと向かって行く。

「姉さん! ミネル!」

 サヤカの警鐘にも関わらす、砲撃は[デュアルホーン]の右舷に着弾した。

 あわてて舵を切った[デュアルホーン]だったが、完全に避けきれなかったのだ。

「姉さん! ミネル!」

 サヤカの再度の呼びかけに、一瞬の間が空いた後、ミネルから通信が入ってきた。

『大丈夫。みんな、無事』

 胸をなで下ろしたサヤカは、炎を上げている[バロール]を見た。

 [バロール]の機体に異変が起こる、背中から勢いよく何かが発射された。

――――脱出ポッド?!

 異変は止まらない。次いで

――――閃光!

 爆風が巻き起こった、[バロール]が自爆したのだ。

 

 安堵したサヤカに通信が入った。

『サヤ姉、無事?』

 ミネルの声だ。

「なんとか。いまから、ジェリドさんのトコに行かなきゃ」

『……いいの、サヤカちゃん』

 イーシュの落ち着いた声が届いた。

「えっ、でも。[ワスプ]は?!」

『……[ワスプ]からの信号が途切れてるの』

 なぜ、信号がきれているのか、想像すると、ぞっとした。

「……。でも、行ってみたら……」

『そう、だからもう少し待って。状況を今、調べているから』

 ブリッジのやりとりが、通信機越しに聞こえてくる。

『光学探知可能地域で、戦闘が行われていません』

『レーダーは?』

『電磁波干渉地域の為、使用不可』

「……」

 重い沈黙が流れた。


 ヤマトは全身傷だらけながら、走っていた。

 運が良い事に、サヤカのTAL[ワルキューレ]の手から放りだされたのに、大怪我もなく擦り傷程度ですんだ。

 打ち身でひどく傷む体を無理強いし、とにかくデュアルホーンの方へと向かった。

 ここまで来る途中、サヤカの乗った[ワルキューレ]が、木々の隙間から見えた。

 かなり遠方の方にいるようだ。

 あの後、どうなったのかは分からない。

 先ほど遠くで何かが爆発したのを最後に、戦闘の音が消えた。

 とにかく、急いでサヤカ達と合流しなくては……。

 そう思い、走っていた。

 ヤマトは、背後から騒音を立てながら近づいてくるモノがあるのに気がついた。

 振り向くと土煙りが、すぐ近くまで迫っており、ヤマトの視界を覆った。

 何もみえなくなるヤマトの耳に人間には出せない大音量の声が届いた。

『よう、息子。久しぶり、元気だったかい?』

 土煙が晴れると、ヤマトの目の前に[バロール]がいた。

「……」

 ヤマトは、苦々しく目の前の機体を見あげた。

 背中のハッチが開き、コスギが姿を現すと、ヤマトに銃を向けた。

「その顔じゃ、この前の話はご破算って事かな」

「……」

「おとなしく、付いて来い」

 ヤマトは、従うしかなかった。


 ヤマトは、再びコスギ達が拠点としたビルに連れ戻ってきた。

 前と一緒の部屋に拘束され、押し込められていた。

 前との違いは、連れであった。

 捕虜となったジェリド中尉であった。

 彼は二人の男に囲まれていた。

「大損害だよ、まったく」

「こいつのせいで、俺の機体が!」

 そう言って、コスギの仲間の男は、ジェリドの腹部に拳を叩きつけた。

 ジェリドは血反吐をはく、そのまま自力で立ち上がれず、倒れ込んだ。

「捕虜は大事にしてくんないかな」

 陽気に言うジェリド。

「大事にしてるぜ、生かす殺さずってな」

 男の一人は、倒れたジェリドの顔を踏みつけた。

「それくらいにしとけ」

 部屋の壁にもたれかかっていたコスギが、二人のリンチを制した。

「けどよ、コスギ! 俺はこいつらのせいで」

「機体を失くしたのは、自分のせいだろ」

「お前はいいぜ。俺なんて、あの女に!」

「しばらく動かせないのは、かわらないだよ!」

 そう言った男は、再度、ジェリドを蹴りつけた。

「むかつく物は、むかつくんだよ」

「こいつらは、人質としてまだ有用なんだ」

「ちっ」

 もう一人の男は、ジェリドの唾を吐き捨てた。

 部屋の扉が開いた。

 コスギの顔があがり、開いた扉を見た。

 扉から現れた残りのコスギの仲間が、コスギ達に話しかけた。

「三人とも来てくれ。命令変更だってよ」



 三十分後。

 先ほど、このビルから[バロール]が一機、出て行ったのが見えた。

 状況が動いているのは、ヤマトには分かった。

 はがゆかった。

 だが、ヤマトは拘束され、今、身動きできない。

 ジェリドも先ほどのリンチにより、動ける状況では無かった。

 いや、動けたとしても……。そんな想いもヤマトの心によぎった。

 状況は動く。

 ヤマトが閉じ込めれた部屋の扉が開いたのだ。

 コスギの仲間の一人が、戻ってきた。ジェリドに機体を壊された男だった。

 そのまま、倒れたままのジェリドの前に立った。

「悪いな。上の方針が変わってな」

 そう言うと、男は銃を取り出し、ジェリドに向けた。

「何を?!」

 叫ぶヤマトにおかまいなく、引き金が引かれた。

――――銃声!

 ジェリドの体に激痛が走った。右のふくらはぎから、大量の血が流れ出した。

 苦悶の声は完全に押し殺せず、ジェリドはのたうち回った。

「手前のせいで、元の計画が破綻しちまったのさ」

 事無げに言う男は、再度、銃口をジェリドに向けた。

 全身から脂汗を出したジェリドは、その男に憎まれ口を叩いた。

「やつあたりかよ。もとからズサンな計画だったんじゃねェの」

――――銃声!

「そうなのかもな」

 今度は、右肩が撃ち抜かれた。

「俺らは人質のはずだ」

 動けないヤマトは、抗議するしかなかった。

「その通りだったんだがな。言ったろ、上の方針が変わったって。単純さ、お前達を活かす必要が無くなった」

「やめろ!」

「うるさいよ、お前」

 銃口がヤマトの頭に向けられた。

「学生だろ、これから楽しい事もあっただろうに」

――――銃声!

 ヤマトは、目をつぶった。

 だが、いつまで経っても体に激痛は来なかった。

「いつまで目をつぶっている」

 そんな声がヤマトの耳に届いた。

 目を開けると、扉の前にコスギが立っていた。

 ジェリドの横には、男が倒れていた。頭を銃弾で撃ち抜かれていた。

「……」

 コスギが、ヤマトの傍まで来ると、ヤマトの拘束を解いた。

「どういうつもりだ?」

「さあな」

「単なる気まぐれだよ」

 ヤマトは拘束が溶けた途端、コスギを殴りつけた。

「痛ってな。折角、助けてやったのに、その仕打ちかよ」

「ふざけんな。何をしたいんだよ、あんたは?」

「目的なんか無えよ。言っただろ、単なる気まぐれだよ。ほれ」

 何かを投げて寄こしてきた。ヤマトはそれを受け取った。

「買い出し用の車の起動キーだ。そこに医療キットもある」

 それだけ言うと、コスギは部屋を出て行った。

 

 ヤマトが閉じ込められていた地下。

 そこに広大なスペースの部屋があった。

 天井の一部は崩れ、外へとつながっていた。

 そのスペースに、直径7,8mの球状の白い物体があった。

 それは淡く光を明滅させており、光が強くなると、白い物体の中が透けて見えた。

 そこに何かがいた。

 獣。そんな印象を与えた。

 長い首と長い尾、強靭な四肢を持ったもの、物語にでてくるドラゴンさながらの姿。

――――ドレイク。

 そこに、そいつが眠っていた。

 白い物体には、様々な機器が取り付けられており、コスギの仲間だった男が、その機器を操っていた。

 男は、自分に近づてくるコスギに気がついた。

「どうした?」

 機器をいじりながら、男はコスギに話しかけた。

 だまって近づいてくるコスギ。

 違和感を感じ、振りむいた男は、コスギが銃を向けているのに気がついた。

――――銃声!

 完全に避け切れなった、顔の半分が熱い。

「どういうつもりだ!」

 男は、失ったであろう部分を押さえながら、叫んだ。

「個人的に、ドレイクを起こしたくないんだよ。だから、今回の上の方針には従えない」

 コスギは、静かにそう答えた。

 ヤマトが、この部屋にやってきたのは、この時だった。父親の真意が分からず、探りにきたのだった。そのまま、ヤマトは物影に隠れた。

「はは、だが遅い」

 男と、コスギの会話は続いていた。

「ここまで起こせば、後は時間の問題だ」

「俺が、またそいつを眠らせる」

「なるほどな、テシウスを手引きしていたのは、お前だったわけだ」

「……そうだ」

 コスギは、男へ銃を向けた。その時、

―――― 空間が揺れた!。

その表現が正しいのかは分からない、だが、ヤマトはそう思えた。

 そんな事にお構いなく、男の笑い声が木霊した。

「おそかったな、思ってたよりも眠りが浅くてね。もう目ざめるぜ」

「ちっ!」

 コスギは、男へと発砲した。男がどうなったか、ヤマトからは見えない。

 そのままコスギは、機器に飛び付き、操作をし始めた。

 だが……。

 コスギは、自分を見つめる眼があることに気がついた。

 そちらを見た。

 ヤマトではない、白い物体の中からの視線。

 ドレイクの眼は開かれ、コスギを見ていた。

――――ドレイクが動いた。

 白い物体の外郭が、破裂した。

 それに巻き込まれたコスギは、吹き飛ばされた。

 ドレイクが今、目覚めたのだ。


 ドレイクは、しばらく動かせなしていなかった四肢や体の感触を確かめていた。

 倒れていたコスギが、立ちあがった。

 全身が血まみれとなったというのに、ドレイクへとコスギは銃を向けた。

――――発砲!

 銃弾はドレイクに当たったが、表皮に弾かれた。

 それにお構いなく、コスギは次々に銃弾を叩きこんでいった。

 コスギは、笑っていた。だが、その笑いは、通常のそれではなかった。

 ついにコスギが倒れる。

 ヤマトは、コスギの下に駆け寄った。

「何がしたいんだよ、あんたは」

 コスギの状態は、ヒドイの一言だった。とてもじゃないが、これで絶命していないのが不思議な状態だった。

「ドレイク、あいつらを全部、ぶっつぶすんだよ。全部だよ、全部」

 それでも、コスギは叫んだ。その眼は、目の前にいるヤマトをみていない。

 倒れても、コスギは銃をドレイクに向けた。

 だが、引き金を引いても銃弾は出ない。

 コスギは銃を投げ捨てると、仲間だった男の方へ這い進んで行った。

「アーシアを奪ったドレイクを全部だ」

 アーシア、どこかで聞いた事があった名だった。

 忘れてはいけなかった名のような気がした。

――――母親?

 突風が巻き起こった。

 ドレイクが、背にあった翼を閃かしたのだ。

 そのままドレイクは、天井に開いた穴から、飛び立って行った。

 ドレイクが姿が消えた後、ヤマトはコスギの傍に寄った。

 コスギは、事切れていた。その手に先には、仲間だった男の銃が転がっていた。

「何がしたいだよ! あんたは!!!」

 ヤマトは、叫んだ。



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