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第4章

 第四章


地球を出た人類は、初の宇宙で生きる事のできる生命体と出会う。

だが、彼等は人類に対し、友好的ではなく、人類に対し牙をむけてきた。

文字とおりの意味である。

巨大な体を持ち、強靭な四肢と長い尾と、長い首。

それはまさしく、伝説上で竜と呼ばれた魔獣に酷似していた。

それゆえ、つけられた名は、ドレイク。

人類の機動兵器を上回る戦闘力を見せた彼らは、

未だに人類の敵であった。


 ヤマトは空中に浮いているような錯覚におちいった。

 TALに乗る度、この錯覚はやってくる。校庭の中央に6、7mくらい浮いているように見えるのだ。だが、これは実際に浮いている訳でもはない、TALの全方位スクリーンに映しだされた映像なのだ。

 その証拠に、操作用レバーや、コンソール、各種ボタンはできっちりとあり、実際には1.5m程しかない球状の空間に押し込められたという窮屈感もある。

 操作用レバーを握り直し、ヤマトは前方を見た。

 そこには、TALがいた。TALは、すでに体を斜めに向け、こちらに構えを取っていた。

 データベースの検索は終わっているのか、スクリーンに機体名が表示されていた。

 [ワスプ]。〈ヴァルハラ〉にあった機体と同一の機種である。

 だが、こちらの方は軍から、教習用にとロールアウトにした機体だ。あちらこちらが壊れ、補修され、やっと動いている。そんな感がする程、ぼろぼろな機体であった。

 ヤマトの耳に声が響く、通信が入ったのだ。

『コスギ! やる気あるのか、お前は!?』

 校庭の隅にある小屋にいる教官の声だ。

 この教官は、熱血漢で有名だ。暑苦しいたら、ありゃしない。

「ありますよ」

 鬱陶しいと思いつつも、ヤマトは答えた。

『近接戦闘の実習なんだ。逃げまわってるだけじゃ、ダメだろうが!』

「へーい」

『何だ、その返事は!』

 ヤマトのやる気のない声に不機嫌になった教官は、ヤマトの目の前のTALへと叫ぶ。

「フジムラ、構わない、倒してしまえ」

『はい!』

 目の前のTAL、その搭乗者であるサヤカが威勢よく返事をする。

 今回の実習の相手はサヤカだった。

 実習前は、かなり息こんでいたのが見えていたが、相当に気合いは十分なようだ。

 サヤカの機体が動く。まっすぐに向かってきて、拳を繰り出してきた。

 ヤマトは、機体にバックステップを踏ませ、すかさず距離を取った。

『だから、それじゃ! まともに組みあえ!』

 教官の文句が、再度聞こえてきた。さっきから、これを繰り返していたのだ。

「……」

 無視するヤマトの機体に、再度、サヤカの機体が飛び込んできた。

――――スラスターを吹かしてやがる。

 まさしく飛び込んできたのだ。足の踏みきりでは、このスピードは出ない。

 そのまま、右足の飛び蹴りを繰り出してきた。

 だが、ヤマトもこれにまともにぶつかる気は無い。

 ヤマトもスラスターを吹かせた。

 蹴りを避ける為であり、機体は大きく左後方に移動させた。

 間近に教官がいる小屋が足元に見えた。

 次いで、機体を大きく空中に飛び上がせる。

 この衝撃で、脇にある小屋が大きく揺れた。

 教官は、吹き飛ばされないように必死に小屋の柱にしがみく。

 ヤマトは、横眼でそれを見ながら、サヤカの機体を見た。

 サヤカも、機体を空中に飛びあがらせた。

『……』

 回線を繋いだままの通信から、無言だというのにサヤカの怒りが伝わってくるかのようだ。

 そのまま、ヤマトに追撃するように接近して来ては、拳や蹴りを繰り出してきた。

 ヤマトは、これを前後左右、上下にと機体を巧みに動かし、まともに取り合わない。

 TALの空中格闘戦は、校庭中を所狭しと動き回った。

 二つの機体が作り出した突風は、辺りを荒らされていく。

『スラスターは禁止だと、言ったろうが!!』

 それでも止まらない二人。

『おまえら、止めろ!』

 教官の怒鳴りが、二人を止めるのに数分かかった。


 授業後の教室でサヤカがやってきたと思ったら、開口一番はこれだった。

「あんたのせいで、怒られたじゃない!」

 俺も一緒に怒られたんだけどな、そんな言葉を飲み込みながらヤマトはサヤカを見た。

「お前、怒ってばかりだな」

――――バンっ。

 気にさわったのか、サヤカは手のひらを机に叩きつけた。

 音が教室中に響きわたった。

 クラスメイト全員がヤマトとサヤカの方を見たる。

 サヤカは、そんな事は気にも留めず、口を開いた。

「あんたが気に障る事しか、しないからでしょ!」

 とっさに感情的になりかけるヤマトだったが、言葉を飲み込む。

「ああ、そうですか。すいませんでした」

 ヤマトは話を終わらせようと、謝罪の一手に出たつもりだったが、怒気を完全に飲み込めなかったようで、おざなりな返事をかえしてしまった。

 これが、余計な怒りを買ったようだ、サヤカは顔を真赤にし、抗議の声をあげた。

「あんたも、TALのパイロットになるつもりなんでしょ。だったら!」

「どうでも良いだろ、んな事」

 変わらずにつかかってくるサヤカにヤマトは、声を荒げて応えてしまった。

「……」

 サヤカは少し間、黙った後、声を絞り出した。

「……気にくわないのよ。あんたは」

「うるせェな」

「あんた、自分用のTALが手に入るっていうのに」

「はあ?」

「しかも、父親の手掛かりがつかめるかもしれないっていうのに」

「……」

「何で、そんな無関心なの、あんたは!」

 サヤカの言い分ももっともだった。

 資産で換算すると人間数人が一生遊んでいられる額になるTALが手に入る。

 ましてや、TALのパイロットになろうという人間なら、喉から手が出る程、欲しいものだ。

 これのあるなしで、TALのパイロットの処遇、待遇が一変する。

 これを手離そうとしているヤマトが異常なのだ。

――――そんな事は分かっている。だが、話が変ってくる。

 そう思ったヤマトは、説き伏せるべく、サヤカを見た。

「っ。?!」

 ヤマトの口から、怒りの言葉が出てこなかった。意外な物を見てしまったからだ。

 サヤカが、目に涙を溜めていたのだ。

「……」

 これ以上、サヤカの目を見れなくなり、ヤマトは目をそらした。

「……俺の勝手だろ、そんなの」

 感情的になったサヤカの口は止まらない。

「お父さんに会いたいって、思わないの!」

 ヤマトは話を切り上げるべきだった。だが、サヤカにこう言われた時、これを無碍にする事はできない、だから、素直に自分の思いを告げた。

「思わないね」

「えっ?」

 ヤマトは、まっすぐにサヤカを見た。

 サヤカには、この回答が意外であり、これがヤマトの本心だと分かったのだろう。

「……」

 サヤカは、これ以上、口を開く事は無かった。


 放課後。

 教室の空気は氷ついた。

 何故なら、ヤマトの前にサヤカが立ったからだ。

 静かにだ。

 前髪で顔は見えない。

――――第二ラウンドか?

――――修羅場? 修羅場?

 いろいろな考えを持ったクラスメイトの視線が集まる中、サヤカが口を開いた。

「この後、用ある?」

「何、まだやる気なの?」

 黙って、サヤカは首を振った。

「無いけど。今日じゃないとダメなのか」

 サヤカは相変わらず黙ったまま、頷いた。

「……仕事だから」

「……。わかった」

「じゃあ、校門前で」

 それだけ言ってサヤカは立ち去っていく。

「ハァァァァ」

 クラス中から、溜息が洩れた。

 その後、クラス中が活気にわいた。

 女子は女子で、なにやら盛り上がり、男子の一部がヤマトに首を締めるようにつかかってきた。

「はあ、何だよ、あれ?!」

「乙女心って、複雑よね」

「っていうか、お前、何かやっただろ、絶対!」

「そういう始まりというのも、有って良いと思うのよね」

「修羅場よね、絶対!」

「ああ、サヤカちゃああああんが」

 混乱を極める教室でヤマトは叫んだ。

「うるせェよ。お前ら!!」


 その後、校門前で待ち合わせたしたヤマトとサヤカは、歩いていた。

 サヤカは、ヤマトの横ではなく少し後ろを歩いていた。

 会話は無かった。

 沈黙が重たい。

 しかも、視線がいたい。

 ヤマトはそんな事を考えていた。理由はわかっている。

 隣で歩いているサヤカだ。

 サヤカが人目を引く美人であるのが、主原因である。

 美人が、うつむいたままであり、だまって男の傍を、とぼとぼと歩いているのだ。

 傍から見れば、俺が泣かした様に見えるんだろうな。

 あながち、間違っていないだけに心が痛む。

 七分程、歩くと学校最寄の駅についてしまった。

 駅の改札前で、立ち止まった二人は、しばらくの間、お互いだまっていた。

「……」

「……」

 用があるのは、そっちだろと思いつつも、ヤマトは口火を切った。

「どうするんだ? 駅についちまったぜ」

「……」

 だまったままのサヤカは、すっと駅横の店を指さした。

「あそこでいい」

 サヤカが指さしたのは、女子には人気のファーストフード店だった。ドーナツが全種類、一律低価格になるキャンペーンを頻繁に行うので有名な店である。

「えっ。……ああ、うん」

 甘い物がおいしい女子に人気の店。それは男子には、かなり入るのに抵抗がある店だった。

 抵抗がある事を案にサヤカに示すヤマトだったが、うつむいたままサヤカは、気付かず店に入ってしまう。

 どうしたものかと、頬をかいたヤマトだったが、諦めて、店に入ろうと入口に向かった。

 入る直前にヤマトは、ふと来た道を振り返った。

「……」

「……」

 数人の人物と、目があった。

「出歯亀がやめろ! さっさと帰れ!!」

 つけてきていたクラスメイトの有志達は、あわてて立ち去って行った。


 座席に座ったヤマトは、いたたまれない気持ちでいた。

 こんな店に入るのは、初めてなのだ。

 ピンクと白色を基調とした外装が、あまりにもメルヘンチックであり、店内に流れる音楽も、楽しくなるような店のコマーシャルソングであるのだが、何よりも女性客ばかりであったからだ。男子禁制の店じゃなかろうか、そんな考えまで出てくる。

 注文する時でさえも、三十種類もあるドーナッツのどれがいいのか、良く分からずヤマトはレギュラーで置いてあるセットメニューを注文した。

 座った後も、どうしたら良いか分からず、横を見ると何か悪い気がするので、上を見たり、テーブルの模様を見ていたりしていた。

 やっと対面の椅子が、スーと引かれた。

 サヤカだった。サヤカは、持っていたトレイをテーブルに置くと、そのままストンと座った。

 ヤマトは目を見張った。

「!」

 サヤカのトレイには、十個程のドーナッツが置かれていた。種類も赤にピンクに、チョコつきに、クリームが乗っていたりと、てんでバラバラだったからだ。

――――見たこともない奴、ばっか。

 これの名前、ストロベリーウンチャラカンチャラで、結局よくわからなかった奴だ。

「こんなに食うのか?」

 サヤカは黙って、こっくりと頷いた。

「ああ……そう」

 こいつ、本当に怒っているのか、そんな想いがヤマトの頭によぎった。

 サヤカは、席についた途端、ドーナッツには手をつけず、カバンの中をゴソゴソと漁りはじめた。そして、電子端末を取りだし、操作しはじめた。

 あまり女子らしくない端末であった、黒一色で、どこにもアクセサリーなど全くない。どことなく社会人を連想させるほど無骨な物であった。

「これ、見て」

 そう言われたヤマトは、端末をおそるおそる受け取った。

 無骨だといっても、やはり女子の個人的な物である。なんとなく気がひける。

 画面に表示された物を見て、ヤマトは驚いた。

 さらに無骨な物が表示されていたからだ。

 画面の脇に『Name:[グングニル]』と表示されていた。

 その他にも、色々と書かれてあった。ヤマトは二、三行みて気づいた。

「これって……。粒子砲か?」

 サヤカは黙って、頷く。

「いや、ちょっと、待て。何故、いきなりこれを?」

「前にドゥームシティに行ったでしょ」

「ああ」

「そこで、見つけた部品の完成させた姿よ」

 黙って聞くヤマトに、サヤカが補足を加えた。

「TAL用の装備よ。しかも[ワルキューレ]用に開発したものみたい」

 話を聞いて、ヤマトは変に思った。

「ちょっと、待て、これ追加武装だろ。[ワルキューレ]専用って、どういうことだ」

 おかしな話である。追加武装の[ワルキューレ]専用というのが、である。

[ワルキューレ]は、かなり珍しい機体ではある。TAL一万機にあって、一機もない、それくらい珍しい機体なのだ。だが、[ワルキューレ]は、それほど特別的に強い機体という訳ではない。そんなTALの専用武装を開発しても、あまりメリットは無い気がした。

「……[ワルキューレ]って、大戦時に実際に戦闘していた部隊が保有していた機体じゃないの。TALの開発部が持っていたものなのよ」

「そうなのか」

 サヤカが説明をし始めた。

「新しいTAL用部品や、新兵器の開発用に調整された機体なの。だからセンサー系や情報系の装備が、普通のTALなんかよりも豊富なんだけど」

「……。その[グングニル]とかいう粒子砲も、新兵器の一つというわけか」

 再び、サヤカが頷いた。

「だけど、きちんと完成されなかったみたいで、サブシステムが、あの[ワルキューレ]にしか入っていない」

「で、そのサブシステムは、ブラックボックス化してて、取り外しも複製も今の技術じゃ不可能になっていると」

「そう。さらに、そのサブシステムが無いと、[グングニル]は発射どころか、粒子のチャージもできない」

「わかった。それは[ワルキューレ]専用って言っても、過言じゃないわな」

 疑問は、解けた。

 聞いた後で気づいたが、知らなくても良かったかもしれない。

 サヤカは、さらに説明を続けた。

「[グングニル]が放つ粒子は、[イ・コール]と呼ばれる粒子なの」

「それって、TALの主エネルギーだろ」

「ドレイク達のエネルギーでもあるわ」

「?」

 話がきなくさい方向に移っていったが、サヤカはそのまま続けた。

「大戦中、敵であったドレイクは、当時の科学技術力を持ってしても撃退するのが難しかった」

「ああ」

「人類が、彼らに敗退した理由。それは、彼らがこの粒子を自在に扱っていた、人類よりもね。

 この粒子砲は、彼らに対抗する為に開発した武器の一つ」

「ちょっと、待て。話が大きくなってや、しないか?」

「もう一つ」

 そう言ったサヤカは、ヤマトを無視し、端末を再びあやつった。

 表示されたのは、一枚の地図。見憶えがあった。

「これは、ドゥームシティの地図だろ。これが」

「ここが、[ワルキューレ]を発見した場所。で、ここが[グングニル]があった場所」

 地図には、三か所に印がついていた。

「ん、あとの一個は?」

「あそこで見つけたコンピューターにあった、データから分かったんだけど」

「これって」

「この場所にドレイクが眠っている」

 最後のポイントをさして、サヤカは言った。

「ちょっと、待て」

「……」

 サヤカは、素直にだまってくれた。

 あの廃墟と化した街に人類の敵であるドレイクが眠っている。

 そこにドレイクに対抗しうる[ワルキューレ]と粒子砲[グングニル]が隠されていた。

 当初から[ワルキューレ]も[グングニル]もあの街にあった訳ではないだろう。そしてこれらを隠したであろう思い当たる人物もいる。

「辻褄は合うってことか」

「そう」

「……」

「……」

 沈黙が流れた。ヤマトは、サヤカが自分の次の行動を見守っているのを肌に感じた。

 一泊の間を置いて、ヤマトが口火を切った。

「それで?」

 これは、サヤカにとって予想外だったのだろう、ガタンとサヤカが立ち上がった。

 みるみると顔色が怒りに染まっていくのが分かった。

「……」

 サヤカは、拳をぎゅっと握り、怒りに染まった目をまっすぐにヤマトに向けていたが、一拍置くと、そのままそっぽをむいた。

「……。単に途中経過報告よ」

 サヤカは絞り出すように声を出し、そのまま椅子に座り直した。

「……」

「……」

 またの沈黙。

「ドレイクの撃退は、俺ら民間の仕事じゃない。軍の仕事だ」

「そう……だけど。……だけど!」

「何?」

「ドレイクって、聞いて何も思わないの!」

「……」

「ドレイクに対抗できるのは、TALだけなのよ」

「……それで」

「私達は、TAL乗りになるんでしょ。だったら!」

 そうTAL乗りは、一般的には求められている役割は二つある。

 都市国家の軍隊という役割。

 だが、それよりも重要視されている役割があった。

 それが、今でも数年に一度、都市や町を襲うドレイクの駆除。

 ドレイクの一匹は、弱い個体でもTAL数機分の戦闘力を持つ。だから、戦争が終わった後も、時折現れる脅威に、人類は都市国家という狭いコミュニティーで過ごせざる負えないのだ。

 だが、この都市には正規軍があり。きちんとTALも配備されている。

 民間であるヤマトやサヤカが負う必要はないのだ。

「だったら、何?」

「……」

 サヤカは下唇を噛んだ。不服に思っている事はありありと伝わってきた。

「言っただろ、それは軍の仕事だ。それに俺達は、学生で……」

「……分かってるわよ」

 そこまで、話した時だった。

「ちょっと、良いかな。君たち?」

 ヤマトとサヤカが座っている席の目の前に、一人の男が立っていた。


 痩身という印象の男だった。だが、痩せている訳ではない、常人よりもしっかりとした筋肉がついている。長距離ランナーや、減量したボクシング選手のように、極限まで体を引き絞めているのだ。初夏だというのに、長袖のコートを着ていた。

 今いる、メルヘンチックな店には、まったく合わない風体の男だ。

「?」

 ヤマトが、その男を見た時、妙な既視感に襲われた。

「何か?」

「デート中、ごめんね。聞きたい事があるんだ」

 デート中……。そのわりには険悪な雰囲気を漂わせて、店の雰囲気に合わない話題をしていたよなと、ヤマトは妙な所にひっかかった。

「君ら〈ヴァルハラ〉の人だよね」

「そうですが?」

 素直に返事をするサヤカだったが、ヤマトは眉をひそめた。

――――なぜ知っている?

 男は、ちらりとヤマトに視線を合わしたが、そのまま話を続けた。

「そう、良かった。じゃあ、二人とも一緒に来てくれるかな?」

 大袈裟に左腕を動かしながら、男は気楽な調子で言ってのけた。

「は? 何よ急に」

 サヤカが男に抗議しようとするが、ヤマトがあわてて手で制した。

「何よ!」

 制止の意味が分からなかったサヤカは、文句を言った後に、やっとヤマトの行動の意味が分かった。

 男の右腕は、サヤカの腹に向けられており、その手には何か黒いモノが握られていた。

「大人しくしてくれると助かる。これはあまり使いたくない。硝煙の臭いがきついんでね」

 男は黒いモノが何なのか、暗に示した。

「こんな奴……」

 抵抗の意思を示そうとするサヤカを、ヤマトは再度、止めた。

「馬鹿、囲まれてるんだぞ」

「えっ」

 そう言われたサヤカは驚き、動きを止めた。

「ほう」

 男は感嘆な声を上げた。ヤマトが気が付いていた事が意外だったらしい。

 男はヤマトに質問を投げかけた。

「何人いるか、分かるか?」

「……」

「素直に答えてくれるかな」

「目についたのは一人。アンタが左腕を動かした瞬間に、それに合わせて動いた」

「おしい」

 男は口端を上げた。何が楽しいのか、ヤマトには分からない。

「二人だ。もう一人は君の後。死角だったからねェ。まァ、状況は分かったね」

 世間話を済んだとばかりに、

 男はまるで友人に買い物を頼むように事無げに要望を述べた。

「ついてきて貰えるね。血は流したくない。明日、朝刊の記事になりたいなら別だが」

 抵抗する意志がない事を示したヤマト達を見て、男はニヤリと笑った。


 ヤマト達は、郊外の廃工場にいた。

 廃工場内の大きな広間にヤマト、サヤカ、そして誘拐犯である四人。

 さらには、ヤマトの知らないTALが四機。

 あの後、安物の車に乗せられ、ここまで連れて来られたのだ。

 後手に縛られた状態で、安物の木椅子に座らされ、足も椅子にくくりつけられていた。

 ヤマトの目の前には、痩身の男がいた。憮然とした表情をしていた。

 逆に、男の仲間は、三人とも声をあげて笑っていた。

 男の仲間は三人いた。店にいた二人の他に、逃走用の車に控えた男がもう一人いたのだ。

 男達が笑いだしたのは、ヤマトが自分の名を告げた時だった。

「こりゃ、おかしい」

「縁ってやつかい」

 何がおかしいのか、よく分からないヤマトは痩身の男を見た。

 痩身の男は、未だ憮然とした表情でいた。

「……」

 ヤマトと痩身の男を見て、他の誘拐犯達は、腹を抱えて笑い始めた。

「感動のご対面って奴だな。これは」

 なぜ笑われているのか分からないヤマトは、サヤカを見たが、サヤカも首をかしげていた。

 痩身の男は、ヤマトに尋問を始めた。

「答えろ。お前、孤児院育ちか」

「? ……ああ」

 痩身の男が村の名前を出した。

 それはまさしくヤマトがいた昔いた孤児院の場所だった。

 これを聞いた誘拐犯達は、さらに爆笑した。

 その中の一人が、痩身の男に向かって言った。

「何の因果かね。なあケイイチ・コスギさんよ」

 痩身の男は、苦虫をつぶしたような顔になった。

「?」

 ケイイチ・コスギは、ヤマトの父親の名だ。

――――なぜ、ここで父親の名がでてくる?

 いまだ、状況についていけてないヤマトに、別の男が問いた。

「どうだい、坊主。オヤジさんの顔は?」

「……。はっ?」

 ヤマトは、素っ頓狂な声をあげてしまった。

――――オヤジの顔? 何がだ?

 憮然とした顔の痩身の男。父親と同じ名。父親の顔。そして初めて顔を見た時の妙な即視感。

 ヤマトの中で線が繋がっていった。

――――こいつが、……父……親?

 様々な感情がヤマトの中で渦巻いた。だが、一番強いのは、怒りと困惑という感情だった。

 憮然とした顔のまま、痩身の男ケイイチ・コスギが口を開いた。

「……それよりも仕事だ」

 それでも仲間達か、笑いを辞めなかった。

「ああ、おかしい。十年ぶりくらいだろ、いいのかよ?」

「そうだな、こう抱き合うのが定番だろ。感動、涙もののシーンだぜ」

 さすがに苛立ちを隠せなくなったコスギは、ヤマトの胸蔵を掴んだ。

「おい。答えろ」

 渦巻く感情が止まらないヤマトは、真っ正面からコスギの目を睨んだ。

――――こんな所で、何してやがる?!

 そんなヤマトにお構いなしに、コスギが述べた。

「お前も、いまさらって感覚だろ」

「……ああ」

 これを聞いたコスギの仲間が、口を挟んできた。

「ひどいねェ、自分が捨てた子供に」

「うるせえよ」

 コスギは、ヤマトを見下した。

「その通り。俺はお前を捨てた」

「捨てたって親が、あんたみたいな外道でよかったよ」

「そいつはどうも」

 そう言うと。コスギはヤマトを殴りつけた。

 ヤマトは、そのまま地面に倒れ込んだ。

「おら、手前等、仕事に戻るぞ」

「はあ、笑った。笑った」

 先程までの笑い声が、嘘のように消えた。

 誘拐犯の男達は全員、真剣な表情になった。

 そのまま、サヤカとヤマトの前に誘拐犯の一人がたった。

「聞きたい事は、一つだ。どこまであの会社は掴んでいる? [ワルキューレ]と[グングニル]の件だ」

「……」

 沈黙を決め込むサヤカとヤマト。

「……」

「まあ、いい。時間はたっぷりある。しかも」

 誘拐犯の一人が、何かを取り出した。

「それは!」

 サヤカが叫んだ。誘拐犯が取りだしたのは、サヤカの電子端末であった。

「これで、だいたいの事はわかりそうだしな」

「……」

「その前に、少しやっておきたい事がある」

 別の男が、口を挟んできた。

 そのままサヤカの目の前の立ち、サヤカの首を掴んだ。

「きゃあ!」

「何を!」

 そう叫んだヤマトは、起き上がろうと藻掻いた。

 すると、ヤマトの目の前にコスギが立ち、

「?」

 コスギは、ヤマトの腹に蹴りを入れた。

「ぐはぁっ」

 ヤマトは、口から空気は吐かされながら、そのまま顔面を踏みつけられた。

 その間も、サヤカの悲鳴は続く。

「落ち着きな」

「えっ、ちょっと!」

「あんたらが、大人しくついてきてくれたお陰で、予定がかわってね」

「こんな物まで、用意してたのによ」

 顔面を踏みつけられたヤマトに目の前に、手榴弾がぶらさげられた。

「そんなもの、あの店で使う気だったのか!」

「まあな。お前らが、暴れた場合な」

 サヤカの首を、男が片手でおさえつけた。

「動くな。叫ぶな。手もとが狂うからな。ちょいと髪を切るだけさ」

 目だけで、サヤカは反抗の意思を男に伝えた。

「おいおい、犯されないだけありがたく思ってくれよ」

「犯されるのが、お好みなら、話は別だけどな」

「こいつ、アブノーマルな性癖だぜ」

「お前は一番最後だよ。病気をうつされたら、かなわん」

 男達は、げらげらと下品に笑った。

 サヤカはくやしさで、歯をくいしばった。


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