序章
序章
――――炎。
年端も行かぬ少年の目に写った物だ。
炎は、彼を包むように燃えさかっていた。
海のように拡がった炎は、治まる気配はない。
燃えているのは、少年が育った町。
「……」
ただ、茫然と見ている事しかできなかった。
わめく事も、泣くこともできずに、
ただ無力にそこに立っている事しか少年にはできる事がなかった。
突風が起こり、炎の海が割れた。
少年の横を何か巨大なモノが通りすぎたのだ。
少年は、それを目で追った。
――――人影?
少年がそれを認知するより早く、誰かに手を強く掴まれた。
少年は、その人間の顔を見る。
少年はこの人間の顔を全く知らなかった。
当然だ、少年が知っている人間達は、もういない。
彼らは、先ほど目の前にある炎の海に飲み込まれたのだから。
「……」
手を掴んだ者は、急いでいる様子で少年に何かを語りかける。
分からない、何を言っているのか。
何を叫んでいるのか。
頭に入ってこない。
だから返す言葉も出てこない。
「……」
じれったいのか、その大人は、何も語らない少年を急ぎ抱えあげた。
そして、先ほど突風が作り上げた通り道を走りはじめる。
少年は、なすがままであった。
だが、抱えられた少年は、その肩越しから一つの光景を見続けた。
炎の海。その中に巨大な影があった。
それは、炎の海を作りだした元凶。
家程の大きさを持った四足の魔獣。
その巨躯は、長い尾と首を振りまわし、背にある大きな翼をはばたかせてた。
それだけで、炎の海は活気づき、津波のように辺りを呑み込んでいく。
生まれ育った村を、
住んでいた家を
親に捨てられ、育った孤児院を、
安らぎをくれた人達をもろともに。
――――こいつが奪った!
伝説に登場した竜と呼ばれる姿をした魔獣が、そこにいた。
そいつは、己の存在を誇示するかのように咆哮を轟かす。
もう一つ影があった。
先ほど、少年の横を通り過ぎた巨大な人影だ。
人の数倍の背のある巨人が竜に対峙するように立っていたのだ。
金属光に包まれた巨人は、力強く炎の海など目もくれず。
竜が動く。目の前に現れた邪魔な物を排除せんと。
巨人は跳躍し、これをさけた。
まるで絵空事のような戦いを、少年はただ見つめていた。
少年の名は、ヤマト・コスギ。
これから八年後、彼は高校に入学した。
国立の特殊な高校だ。
身寄りを失くし、親もいない彼が、学校に通うには、ここしか無かったのである。