第39話 無邪気な子供
「グルアァァァアァァッ!!」
布を羽織った大男が電柱を強く抱きしめる。男が力むと地面が段々とひび割れていき、電柱が引き抜かれた。配電線が引っ張られ周囲の電柱から外れていく。
「……マジか」
大男は電柱を振り上げ、ホルスに向かって振り下ろした。砂埃が舞う。
しかし砂埃が落ち着いた時にはホルスの姿はそこに無かった。
「ウ“ゥ?……ウ“ッ!」
大男の頭上に突如ホルスが現れ踵を振り下ろす。大男は蹴られた後頭部軽く抑えた後、すぐにまた攻撃を再開した。
「……クソッ、まるで効いていないな」
大男は電柱を振り回し地面を抉っていく。ホルスは全ての攻撃をかわすが大男の攻撃が止む気配は無い。ホルスは縦横無尽に空を駆け、隙をついて攻撃をするもいずれも有効打とはなり得なかった。
その中でホルスは大男の腕に何かが巻き付いているのを見つける。
「グルウアァァアァァ!!!」
「あれは……数珠?…………!」
(数珠って……まさか……!)
ホルスの思考が一瞬戦闘から離れる。
その時、欠けた電柱の破片がホルスの頭部に直撃した。ホルスは落下しその場に倒れ込む。大男は電柱を捨てゆっくりとホルスに近づく。
「グルラァ??」
「うぅ……」
(あの数珠……あの巨体…………恐らく、そうだろう。あいつは……シシガミの……)
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HOPEsアジトのリビングでアレスとスサノヲが言い合う。それを眺めながらホルスとシシガミが話していた。
「……なぁ、例のシシガミの友達ってどんな奴だったんだ?」
「……そうだな……あいつとは20年来の友人でな。まるで私とは違う、活発で元気で、いつまで経っても子供みたいなやつだったよ」
「意外だな」
「意外?」
「あぁ。シシガミはちゃんとしてる奴の方が好きだと思ってた」
「なるほど、まぁ確かにその通りだ。でも例外はあるさ。そうじゃなきゃアイツらと仲良くなんてしてないさ」
シシガミはそう言いながら、互いの服を掴み合うアレスとスサノヲを指差した。
「まぁそれなりの理由がなきゃ例外にはしないがな」
「理由を聞いても?」
「アイツらもあいつも同じだ。人を傷つけない良い奴らだからだよ」
アレスとスサノヲは互いに殴り合う。がそれを見かねたハデスが2人にゲンコツし奥の部屋へと連れて行った。
「……あれが人を傷つけない、か?」
「ハハッ、確かにな」
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大男は倒れ込むホルスの前まで着くとホルスを軽く持ち上げた。
「グルアァ……」
大男はホルスを投げつける。そして再び近づくと持ち上げ蹴り飛ばす。
空を舞うホルスは何とか体勢を整え着地したがすぐによろけてしまった。
「うッ……! 左足がお釈迦だな……」
「グルルルゥ……」
「……なぁ、野郎」
「ウ“ウゥゥ……」
「僕は別にお前に対して思い入れの類は無いが……」
ホルスは折れた足でまっすぐに立ち、大男を見つめる。
「お前がこれ以上誰かを傷つけるのは許さない」
そう言うとホルスは大男に急接近し両手を掲げ炎を放射した。その炎は大男の纏う布に着火する。
(僕の打撃はアイツに通用しない。つまり僕のすべき事はアイツを拘束する事。だが……)
上空で羽ばたきながらホルスは学校の周囲を見渡す。
(アイツを捕縛し続ける事の出来る素材なんてあるのか?…………もしや……あれなら? だが僕のスピードだと厳しいか?…………いや、やるしか無い)
ホルスは校庭に降り立つと、大きな電柱の欠片を拾い上げ即座に飛び出した。
「1度……とにかく遠くへ……!」
ホルスは街のほぼ端まで辿り着くと、電柱に繋がる配電線を手に持った欠片で切りつける。千切れた配電線をホルスは掴み、全速力で校庭へと戻った。
道中で各電柱から電線を外す事でホルスの持つ電線は長い紐となっていく。
「速く……速く…………」
校庭の真ん中で大男が焦げた布を脱ぎ捨てた。赤い体表が露わになる。
「グルルルゥ……」
「待たせたな」
「!」
大男は声のした方を見るがそこには何もいない。
「……グゥッワァアァァッ!」
ホルスは大男の背中目掛けて炎を放射した。しかし大男の振り回す腕に吹き飛ばされてしまう。
「クソッ……今度はあばらか…………くッ……!」
ホルスは脇腹を抑えながら立ち上がる。
「グウルルルル……」
「でも……準備は整った……」
ホルスが長い一本の配電線の中腹を掴んで軽く引っ張ると、その線は大男の背中へと目掛けてピンと張る。
背中の皮膚と電線とが互いに溶けてくっついていたからだ。
異変に気付いた大男はホルス目掛けて飛びかかる。
「後は……僕次第か」
ホルスはそう言うと大男に向かい走り出した。両者の衝突まであと一歩という所で飛び立ち、勢い良く大男の周りをグルグルと飛行し始める。
(……後はアイツが動けなくなるまで……!……ぐッ……!)
段々と大男の上半身に配電線が巻き付き始める。
大男が配電線に手を取られながらも暴れ、その衝撃は電線を伝ってホルスの体へと届いていた。
大男は己を縛る配電線を力だけで引きちぎろうとするも、ホルスはその腕ごと巻き付けながらさらに飛行速度を上げていく。
「グウォロアアァァアァァ!!!」
「僕も……ヒーローになるんだッ!」
やがて大男の周りに巨大な旋風が出来上がり始め、それはどんどんと大きくなっていった。
次第に配電線に巻かれた大男の動きが鈍くなっていく。
「うおおおおおぉッ!!!!!」
遂に大男の動きが止まる。
ホルスはゆっくりと速度を落とした後に着地した。軽く電線を引っ張ると大男は叫びながら地面に倒れる。
ホルスの身体も限界を迎えたのか、そのまま仰向けに倒れた。
「はぁ……はっ……はぁ……はぁ…………そろそろ僕も……ヒーローになれたか……?」
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「それより俺も腹割ったんだからさ、聞かせろよ。さっきみたいな嘘じゃない、お前の本当の目的」
アレスがゼウスに問いかける。
「本当の目的? 何を抜かしているんだ」
「じゃあもう一つ。お前は、自分に才能があると思うか?」
「……まぁ、無いだろうな」
「やっぱり。さっきの目的は嘘だな」
「……何が言いたい?」
ゼウスの声に苛立ちが滲む。
「才能のないお前が才能の保護なんてそもそも訳分かんないだろ?」
「……なるほど、確かに若いうちはそんなものだろう。だが歳をとると違う見方も出来るようになるものだ。言ってしまえば、芸術品のコレクションのような事をしたいんだ」
「それが本当の目的か?」
「あぁ。」
「じゃあなんでそんな顔してんだ?」
「!」
ゼウスは自分の顔を手で覆う。
「ほらな?」
「黙れッ!」
ゼウスはアレスに飛びかかる。アレスはゼウスの拳を掴んでカウンターを脇腹に叩き込むが、ゼウスはさらに体を捻りアレスを蹴り付け、一度距離を取る。
「くッ……いってぇ……」
「なるほど、赤い電気を帯電した状態の貴様はかなり強いらしいな……それより……はぁ……俺の顔がどうしたって……?」
「いや、随分と……はぁ……気分悪そうだったからよ」
「……じゃあ当ててみろ。俺の本当の目的」
「やっぱり嘘なんじゃねぇか……」
「悪かったな。だが悪意があった訳じゃない。実はな、俺にも分からないんだ」
「分からないって……?」
「あぁそうだ、分からないんだよ。自分の本当の目的が……」
「……? どういうことだ?」
「そのままさ。本当に分からないんだ。なぜ自分が日本を取りたいと思ったのか、なぜさっきあんなにも苛立ったのか」
ゼウスは少し俯きながら話した。
「……それじゃあお前は、これまで理由も無く人を殺していたのか?」
アレスの拳が強く握られた。ゼウスはそれを見て口元を緩める。
「まぁ、捉え方によっては。」
「そうか……何となくお前という人間が分かった気がするよ。お前の本当の目的も」
「俺という人間?」
「あぁ。人を殺しても何とも思わない心、感情制御の未熟さ、この2つから察するにお前は、ただのガキだ」




