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異常調査部〜院内発砲事件〜【2】  作者: 月ノ羽ルナ
6/24

後悔はしてない

めぐるは走り去った杉野千すぎのせを追いかけたが、休日の道端は通行人でいつも以上に混んでいた


しかも、雨で殆どの人が傘を差しているせいで、通りの幅が狭くなってしまい、全力疾走どころか歩くのも一苦労だった


そんな人との間をすり抜け、なんとか杉野千すぎのせを見失わないように目を凝らすが、まだ小さい男の子がめぐるの目の前で転んでしまう


蔡茌さいし めぐる

「大丈夫か」


性分的にほっとけず、すぐさま男の子に駆けつけ手を差し伸ばす。男の子は「えへへ、転んじゃった」と元気に笑いながら手を掴み起き上がると、そのまま両親達の元へと向かった


無事、男の子が両親達に追いついたのを確認して、安心したのも束の間、めぐるは本来の目的を思い出した


蔡茌さいし めぐる

「…しまった」


完全に見失ってしまい、どうしたものかと頭を悩ませる


蔡茌さいし めぐる

「そう言えば、曳汐や世瀬も置いて来たんだよな…はぁ」


そこまでしたのに、杉野千すぎのせには追いつけなかった自分が情けない


このまま立ち止まっていても、仕方ないのでめぐるは、とりあえず杉野千すぎのせが走って行った場所まで歩いてみる


が、その先は道が三つに分かれており、彼女がどちらに進んだのか分からなかった


蔡茌さいし めぐる

「…杉野千なら何処に行く…」


黎ヰ(くろい)

「左は無しじゃね?行き止まりだし」


蔡茌さいし めぐる

「そうか、なら右か正面か……?!」


自然と答えてしまった自分に驚き、めぐるはすぐさま声がした方を向いた


そこには、当たり前のように黎ヰ(くろい)が居て、目が合うなりニヤリと意地悪な笑みを浮かべた


黎ヰ(くろい)

「で?何してんの、紾ちゃん」


蔡茌さいし めぐる

「いや、えっと…それが…」


いきなり黎ヰ(くろい)が現れた事にも驚いていたが、それよりも自分の状況をどう説明したものかと頭を悩ませる


歯切れが悪い上に、顔から悲壮感が滲み出ているめぐるに対し、黎ヰ(くろい)は彼の袖をハサミで摘んだ


黎ヰ(くろい)

「ちょっと、付き合いな」


蔡茌さいし めぐる

「は?えっ」


抵抗される前に黎ヰ(くろい)は、そのままハサミで左側へ引っ張って行く


先程、黎ヰ(くろい)が言った通り、直ぐに壁が見え行き止まりになっていたが、潰れた店の屋根の下にボロいベンチが置いてあった


ベンチまで誘導されためぐるは、仕方なく座ると手に持っていた、傘をじっと見つめた


杉野千すぎのせを追いかける際、傘が開いたままだと、通行人の邪魔になってしまうので閉じたのだが、結局は追いつけなかった…そんな虚しさだけが心に残ってしまう


黎ヰ(くろい)

「水も滴るなんとやらだなぁ」


蔡茌さいし めぐる

「そんなんじゃないさ」


いつもの黎ヰ(くろい)の軽口にも、めぐるはため息混じりに答えた


黎ヰ(くろい)

(こりゃ相当キテんなぁ。曳汐関係だと思ったが、別件か?となれば…さっき呟いてた名前か)


完全に俯いてしまっためぐるに、黎ヰ(くろい)は思い出したかのように、ポケットに入れていた缶ジュースを二つ出した


黎ヰ(くろい)

「一息つけな。杉野千って子、探してんだろ」


蔡茌さいし めぐる

「どうしてそれを!」


黎ヰ(くろい)

「紾ちゃんの独り言から得た情報」


言いながら、黎ヰ(くろい)はいつの間に開けたのか、缶ジュースを飲みながら、空いて居ない方を、驚いて顔を上げためぐるへと差し出す


反射的に受け取ってしまっためぐるだったが、黎ヰ(くろい)に言われた通り、一息つけようと缶を開ける


一口飲むと、甘ったるいバニラとメロンサイダーの味が広がった。内心、お茶やコーヒーを想像していただけに、予想していなかった甘さに顔が歪んでしまう


そう言えば、最近似たような事があったなと思い出し、その時は、寝起きに差し出された沈殿したココアと、苦瓜味のお茶だった


苦い思い出がよぎり、ふと肩の力が抜けるのを感じた


蔡茌さいし めぐる

「昔の…後輩に会ったんだ」


気づけばめぐるは、そんな風に話し出していた


蔡茌さいし めぐる

「その子は、交番勤務の時の後輩で……俺と夜勤だった時に怪我を負った。俺は怪我をした仲間よりも、逃走した犯人を優先させてしまった。その結果、彼女は川に落ちて…その後、警察官を退職したんだ……」


黎ヰ(くろい)

「……」


蔡茌さいし めぐる

「杉野千は自分が退職した後、俺が別の部署に移動になったのを、自分のせいだって思い悩んでた。その誤解を解く為に、俺は当時の事件を……彼女が知らなくても良かった事実を話して、思い出させてしまった…」


黎ヰ(くろい)

「そして紾ちゃんは、その子に責められ罵詈雑言を浴びせられたと」


蔡茌さいし めぐる

「いっそう、そうなら良かったんだけどな…」


黎ヰ(くろい)の言う通り、杉野千すぎのせが責め立ててくれれば、どんなに楽だっただろうかと思った


でも、実際は6年間ずっと気にかけてくれていた上に、何も悪くない自分を責めていた。彼女はきっと今も、自分を責めてるのだろう…そう思うと、どうしようもなく胸が痛んだ


黎ヰ(くろい)

「良くねーよ、バーカ」


蔡茌さいし めぐる

「え…」


黎ヰ(くろい)

「責められたいってのは結局、紾ちゃんの中にある罪悪感に、理由を付けたいだけじゃねーの?自虐心を正当化させた方が楽だもんなぁ〜……なぁ、もしその子と話すとして、紾ちゃんはどんな言葉を掛けてやるつもりだったんだ?」


蔡茌さいし めぐる

「それは…」


思わず、言い淀んでしまう。追いかける事ばかり考え、傷ついた杉野千すぎのせに、掛ける言葉なんて考えてなかったからだ


黎ヰ(くろい)

「ん〜、紾ちゃんならきっと…"君は何も悪くない。全部俺が悪い、だから気に病む必要はない"とかか?」


蔡茌さいし めぐる

「?!」


黎ヰ(くろい)の口から発せられたのは、まるでめぐる杉野千すぎのせに掛けた言葉のようだった


間抜けめいた顔に、黎ヰ(くろい)は目を細め、彼にしては珍しく優しく微笑んだ


黎ヰ(くろい)

「ちゃんとその子の話、聞いてやんな」


蔡茌さいし めぐる

「杉野千の…話を…」


黎ヰ(くろい)

「そっ、自分が()()()()じゃなくて、相手が()()()()()してる言葉を聞く」


そう言われて、さっきまで話していた筈なのに、杉野千すぎのせが伝えたかった言葉が、何一つ思い出せなかった


黎ヰ(くろい)

「彼女は何も悪くない。そう言い切れる自信があるなら、彼女が言う紾ちゃんも悪くないに、自信持たせてやんな」


黎ヰ(くろい)のアドバイスは、まるで見てきたかのようだった


蔡茌さいし めぐる

「そう…だな。俺は彼女の話を、聞いてなかったんだ…最初に会った時、杉野千は嬉しそうだった。ずっと笑ってて…そんな彼女に、俺は…」


本当に勝手だが、杉野千すぎのせにちゃんと会って話したい。そして俺も、もう一度伝えたい事がある


黎ヰ(くろい)

「この世に居ない訳じゃないんだろぉ?」


めぐるの言い草を間に受けてしまえば、黎ヰ(くろい)が少し大袈裟に思うのも仕方ないだろう


蔡茌さいし めぐる

「もちろん、生きてくれてるよ。でも、いつ会えるか分からない…」


見失ってしまった事が悔やまれるが、皮肉にも見失わなければ黎ヰ(くろい)に会う事もなかった。きっと、さっきまでの自分が掛ける言葉は、自分勝手で余計に、彼女を苦しめていただろう…


暗い気持ちを振り払うように、めぐるは無理矢理顔を上にし、薄暗い雨雲を見上げた


蔡茌さいし めぐる

「いや、違うな。いつ会えても良いようにしないとな」


そう思うと、雨雲の遥か上に、太陽が輝いているような気がした


蔡茌さいし めぐる

「黎ヰ、相談に乗ってくれてありがとう。少し意外だったけど、聞いてくれて嬉しかったよ」


そう言っためぐるの顔は、まだ少し無理をしている様だった。その証拠に笑顔がぎこちない。それでも、必死に前を向こうとしてるのだろう…


そんなめぐる黎ヰ(くろい)は、少し気まずそうに見ながら、口を開いた


黎ヰ(くろい)

「綺麗に締めたところ悪りぃんだけど、俺多分その子の行き先、分かるわ」


蔡茌さいし めぐる

「何だって?!」


数秒前に諦めた事を、あっさりとひっくり返されめぐるは、文字通り驚いた


黎ヰ(くろい)

「紾ちゃん、その子と店ん中入ってただろ」


蔡茌さいし めぐる

「どうして、分かるんだ。いや、待て…もしかして…」


黎ヰ(くろい)杉野千すぎのせとの話も、飲み込みが早かった。そして見てきたかの様な的確なアドバイス…


ふと、めぐるの中で、最初から見られていたのではと、疑惑が浮かんだ


黎ヰ(くろい)

「いやいや、いくら俺でも仲間のプライベート覗き見しねぇよ?」


蔡茌さいし めぐる

「そうだよな、疑ってすまなーー」


黎ヰ(くろい)

「俺が見たのは、雨の中人混みを避けて走る子と、それを追いかけながらも、目の前で子供が横転したのを、ほっとけず助けてた紾ちゃん」


蔡茌さいし めぐる

「う…見てたのか…」


改めて客観的に言われると、自分の行動が凄く恥ずかしくなり、思い出すほど顔が赤くなっていく


黎ヰ(くろい)

「職業柄、そういった行動は直ぐに目に付くからなぁ〜。で、よく見たら紾ちゃんだし」


蔡茌さいし めぐる

「…本当にすまない、反省してるよ。でも、見ていたなら杉野千がどっちに行ったか、分かるんだよな」


黎ヰ(くろい)

「いや?仮に見てたとして、時間経ち過ぎだろ。()()()()()()()()は不透明確実」


さも当然の様に自信満々に言われても、はっきり言って困った


蔡茌さいし めぐる

「…分かるように言ってくれないか」


黎ヰ(くろい)

「一瞬見たが、杉野千って子は傘どころか鞄すら持ってなかった。で、追いかけてる紾ちゃんは、傘しか持ってない。そして二人は追いかけっこの前には、店に居た…」


蔡茌さいし めぐる

「あっ」


何かに気づいたのか、めぐるから発せられた間抜けた一音に、黎ヰ(くろい)はニヤリと笑う


黎ヰ(くろい)

「つまりはお互い、店の中に荷物置いて来たんじゃねーの」


蔡茌さいし めぐる

「すっかり、忘れてた」


もうこれは、馬鹿とか間抜けてるとかの次元ではなく、唯ひたすらに愚かだと思った


黎ヰ(くろい)

「店に戻れば、自ずとその子も自分の荷物を取りに戻ってくる、だろ?」


蔡茌さいし めぐる

「あぁ。その通りだ」


荷物を置いたままで出てきてから、随分と時間も経っていた。喫茶店の子達も、きっと迷惑してるだろう


黎ヰ(くろい)

「んじゃ、夕方に」


黎ヰ(くろい)は、座ったまま片手を挙げると、軽く振った


めぐるは立ち上がり、もう一つ重大な事を思い出して、気まずそうに黎ヰ(くろい)を見た


蔡茌さいし めぐる

「実は…曳汐を、置いてきてしまったんだ…もう一人もいるけど」


流石に、二人共あのまま居るとは考えにくいが、放ったらかしにしてしまい、かなり申し訳ない気持ちになる


黎ヰ(くろい)

「ん?曳汐?…あぁ…大丈夫だと思うが、一応連絡入れとく。もう一人は、自分で入れときな」


その一人に関して、黎ヰ(くろい)は心当たりがあったが、今は突っ込まない事にした


蔡茌さいし めぐる

「すまない。お願いするよ」


本来なら、自分ですべきなのは分かっていたが、曳汐ひきしおとは、どうにも距離感が掴めずにいる


世瀬よせについては、後で理由を話して謝っておかなければならないだろう…どんな理由があれ、全てを話してしまったんだから


めぐるは、そのまま黎ヰ(くろい)と別れると、喫茶店『はんなり』へと引き返した


そんなめぐるの後ろ姿を見ながら、黎ヰ(くろい)は少し渋い顔をした


黎ヰ(くろい)

(やっぱ、曳汐となんかあったか)


曳汐ひきしおから窃盗犯を、めぐると共に捕まえ、その後警察に厄介払いされたと、連絡が入った時から嫌な予感はしてた


黎ヰ(くろい)が一番最初に、怪我は無いかと聞いた時に彼女は、自分の片手がナイフを握った事で切れたと言っていた


黎ヰ(くろい)

(曳汐なりの、最善の行動だったろうが、紾ちゃん的には納得出来ないだろうなぁ)


めぐるに会う前黎ヰ(くろい)は、部下達が厄介払いされた交番所へと赴き、無理矢理に窃盗犯についての情報を聞き出した


窃盗犯は未成年で、身柄を少年課へと引き渡した。曳汐ひきしおが投げ飛ばした際の怪我も大事なかった


だが、窃盗犯が盗んだ中身のほとんどが、女性物の衣類や化粧道具など、まるで一人分の旅支度だったらしい…


黎ヰ(くろい)

(この辺りで起きた事件となると、少し気にかけた方がいいだろうなぁ)


数週間、異常調査部が生存時の行方を追っている、照井てるいユミもこの辺りで疾走している


そして、探し出した時期と同時に、停電により辺り一体の防犯カメラの映像が全て削除された


黎ヰ(くろい)

(その矢先に、不可解な窃盗事件か…直結はしてないだろうが、妙に騒つくなぁ)


これは、いわゆる黎ヰ(くろい)の勘だった。確証も証拠もないが、嫌な予感がする


その正体は、この間の事件と関わったアリババかもしれないし、まだ見ぬ別の誰かかもしれない…


黎ヰ(くろい)

()()潜んでる気がすんだよなぁ〜」


黎ヰ(くろい)の独り言は、雨音と共に虚しく消えていった




ーーー ーーー ーーー ーーー




喫茶店『はんなり』


外側の扉には"本日定休日"と、可愛いポップな張り紙が貼られているのにも構わず、本日何回目かの外部の者の手によって、扉は音を立てて開かれた


カラン カラン


杉野千すぎのせ 杏果きょうか

「すみませーん。私の鞄ーーげっ、せ、せんひゃい」


蔡茌さいし めぐる

「気持ちは分かるけど、その反応はないんじゃないか」


まさか、めぐるが居るとは思わなかった杉野千すぎのせは、驚きのあまり噛んでしまう


そんな二人を少し離れた場所で見る、はんなり店員、荒兎あらとほとり杉野千すぎのせが来た事に喜んだ


荒兎あらと

「あの人の言う通り来たね!良かったわ。仲直りできるかな」


一足先に店に戻っためぐるは、詳しい所は省いた事情を説明し、杉野千すぎのせが来るまで待たせて貰っていた


ほとり

「そうでないと困る」


荒兎あらと

「ふふっ、畔ずっと心配してたもんね。本当に三角関係だったら、どうしようって」


ほとり

「私じゃない、言ってたのは荒兎だろ」


不機嫌そうに、そっぽを向いたほとりを笑いながら荒兎あらとは、お盆にマグカップを乗せて、めぐる達の方へと近づいた


荒兎あらと

「さぁさぁ、お二人共座って下さい。」


蔡茌さいし めぐる

「いや、そこまで迷惑をかける訳には…」


荒兎あらと

「それを言えば、私だってお財布の件でご迷惑をお掛けしたじゃないですか。私が言うのもなんですけど、気にしないで下さい!おあいこですから」


言いながら、荒兎あらとはテーブルの上にマグカップを置いていく


そう言われてしまうと、容易に断る事も出来ず二人は、ぎこちないながらも席につく


荒兎あらと

「これは試作じゃなくて、畔が作ってくれた賄いメニューです。余り物の野菜で作ったミルクスープなんですよ。冷えた体には最適ですよ」


勧められるがままに、杉野千すぎのせめぐるはマグカップに口をつけた


荒兎あらとの言うとおり、一口飲んだスープは雨で冷え切った体を、内側から温めてくれた


細かく切られてた野菜と、優しい味のミルクスープに二人は、ほっとした表情を浮かべた


荒兎あらと

「では、ごゆっくりして下さいね」


さっき迄とは違う二人に気を遣い、荒兎あらとは話を聞かないよう、厨房へと下がっていく



……


気まずい空気が流れる中、杉野千すぎのせは、ゆっくりと口を開いた


杉野千すぎのせ 杏果きょうか

「…私、実は言うと、警察を辞めちゃったの、後悔してないんです」


蔡茌さいし めぐる

「あぁ」


めぐるは、相槌あいづちを打つと、黙って彼女の言葉に耳を傾けた


杉野千すぎのせ 杏果きょうか

「だから、もし先輩が鑑識に移動した事で、やりたかった事から、かけ離れちゃったんじゃって……でも、先輩には警察官辞めて欲しくないんです。我儘だって、分かってるけど…」


杉野千すぎのせは、俯き両手を握りしめた。自分がどんなに身勝手な事を言っているのかが、分かっているからだろう…


そんな彼女にめぐるは、分からない事があった。どうして、自分をそこまで思ってくれているのか…


杉野千すぎのせと過ごしたのは、僅か1ヶ月余り。確かに、教育係として接する場面は多かったが、どちらかと言うと、世瀬よせの方がしっかりと教えていた


蔡茌さいし めぐる

(その他に、特別何かした訳でもないし、むしろ彼女を守れなかった。なのに、杉野千は真実を知った後も、ずっと俺の事を考えてくれている…どうしてなんだ…)


杉野千すぎのせの気持ちが分からず、めぐるは頭を悩ませる中、彼女の言葉が沈黙を破った


杉野千すぎのせ 杏果きょうか

「先輩が交番に居る時、人の出入りが多いんです。何となくその事に気がついて、どうしてだろうって…理由は直ぐに分かりました。先輩が優しくて丁寧だから、皆んな甘えたくなるんです」


蔡茌さいし めぐる

「そう言えば、よく世瀬に厳しさも必要だって怒られたな…懐かしいよ」


かつての思い出に浸る中、杉野千すぎのせは首を左右に振る


杉野千すぎのせ 杏果きょうか

「先輩は、時間も場所も関係なく、どんな些細な事でも話を聞いてた…内容とか人とか気にしないで、ちゃんと目の前の人と向き合ってた。私は…そんな蔡茌先輩の背中を見て、警察ってこうあるべきだって思えた。だから、先輩は私の憧れなんです」


少し恥ずかしそうに、笑う彼女を見ためぐるは、ようやくさっきの疑問が解けた気がした


蔡茌さいし めぐる

(俺に警察という職の影を、重ねてくれてたのか)


杉野千すぎのせ 杏果きょうか

「警察官以外の仕事してる先輩の姿が、想像出来ないって言うか…」


杉野千すぎのせは知っていた。いつだって、めぐるの周りは笑顔で溢れており、彼を見た人々の表情は、とても安心していたのを…それは、世瀬よせを筆頭に他の警察にはないものだった


それもあってか、彼女から見ためぐるは、交番内では少し浮いていたりもした。でも、どれだけ悩んだとしても、目の前の人に必ず手を差し伸べてしまう…


杉野千すぎのせ 杏果きょうか

「今日会って、やっぱり思いました。私、警察官の先輩のファンなんだって」


素直で真っ直ぐな言葉を、少し恥ずかしく思いながらもめぐるは、受け止める


蔡茌さいし めぐる

「ありがとう。そこまで思ってくれて、嬉しいよ。だからこそ安心してくれ、訓練士として過ごした過去も、刑事課として過ごしている今も、俺にとっては貴重で大切な日々なんだ……だから俺も、後悔はしてないよ」


上手く伝わっているか分からないながらも、めぐるは精一杯の思いを打ち明けた


杉野千すぎのせの顔を見てみると、彼女は目を見開き、口をポカンと開けている


蔡茌さいし めぐる

「杉野千?」


何か変な事を言ってしまっただろうかと、めぐるが焦る中…杉野千すぎのせは呼び掛けには答えず、暫く何かに驚いたような、顔をしていた

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