推理タイム
院内発泡事件から半日以上時間が経ち、報告書を提出した後、黎ヰはよくやく自宅へと帰る事ができた
自宅とは言っても、葩永夏氷の住んでいるマンションの二階が黎ヰの家という事もあり、戻るのが面倒だとそのまま夏氷の家に居座っている事がほとんどだ
夏氷よりも先に彼の部屋に着いた黎ヰは、冷え切った部屋の真ん中にある、座り心地の良さそうな椅子に腰掛け一息つく
紾が倒れた後も、発泡事件についての事情聴取やらで手が空かなかった黎ヰは、夏氷に冬葵への伝言を頼んだ
目を覚ました事は紾達に伝えたが、自殺未遂や母親が協力していた事などは言ってない
それを伝えれば、きっと皐月は黙ってないだろう。必ず冬葵達に介入する事は、目に見えていた
黎ヰは今回の事件についてこう考えている。穢佇や影上達、隅田に冬葵や白石。塔沽に狭硯……それぞれが誰かの為を思いながら、結局は自分の為に行動した結果が、複雑に絡まり発泡事件を生んでしまった
全貌が解明できたとしても、当人達が心の整理をつけるには、それなりの時間を要するだろう
それを、他人が簡単に介入する事に黎ヰは、あまり賛成できなかった。冬葵と新田が事件を知った後、どうするかは自分で選ぶべきだと思ったからだ
選んだその選択に、正解も間違いもない。その結果を経験とし生きていく事に意味と価値がある
だからこそ黎ヰは、下手に他人に介入しない夏氷が適任だと、彼に頼んだのだ
黎ヰ
「にしても、また不可解な謎が残ったな」
影上。彼がどうして白昼堂々とナイフを振り回していたのか……彼の身辺や精神状態などを調べて考えてみても、その謎は不明のままだった
送検された影上の様子が気になり、夏氷に頼みこっそり防犯カメラの映像を拝借したが、特に引っ掛かる点はなく、また彼はナイフを振り回した理由を「分からない。気づいたらしていた」と証言している
黎ヰ
(曳汐も言ってたが、誰かに危害を加えるって言うよりは、ただ一心不乱にナイフを握って走ってたんだよなぁ〜)
だとすれば"直後"に彼に何かあったと、考えるのが妥当だ。誰かが接触したのか、そうならざるを得ない何かが起こったのか…
無難な線だと、隅田と穢佇の協力関係を知り、利用されていた事への怒りのあまり気が狂ってしまったか…または、冬葵達が目覚めた事で、悪を裁いていた事への罪悪感が芽生えたのか…
黎ヰは、自身が思いついた考えに納得できず、どちらも影上の不可解な行動を引き起こした切っ掛けにはならないと結論付けた
不満気な顔で頬杖をつきながら、ハサミ越しでマウスを操作しファイルを開く
黎ヰ
「照井ユミが失踪する前に居た場所と、あんま変わんないんだよなぁ〜。こう次々と不可解な事が起こるもんかね」
パソコンの画面には、廃校舎事件とは別に発見された"照井 ユミ"についての資料が映し出されている
異常調査部でも、ユミが失踪する日に一緒に居た友人からの証言によれば……駅前で待ち合わせをした後、何件か服屋を周りお昼過ぎにレストランにて遅めの昼食。その後も転々と雑貨屋などに行き、午後8時に解散
黎ヰ
(その証言を裏付ける為に、各店の防犯カメラを調べたが、急な停電のせいでデータが全てなくなった…なんて出来すぎてんだよなぁ〜)
停電の理由はこの季節にはよくある事で、カラスが巣作りの為に電柱の上にハンガーや針金を置き、それに電気が流れて漏電してしまったのが原因らしい
黎ヰは画面をクリックすると、今度はユミの死因についての資料をみる
彼女の死体を司法解剖した結果、背骨や首の骨の歪みに身体中の擦り傷や打撲痕が多数、そのどれもが他者から付けられたものではなかった
そこから考えるに、誰かから必死に逃げていた可能性が高く、またそれ以外の他者から付けられたと見られる外傷はなし。胃から気になる異物なども検出されていない事から、死因は餓死に近い過労死
黎ヰ
(主に足を酷使した形跡があった。過労死だとすれば、骨が歪んでた事とすり合わせれば、おそらく…)
心身共に疲れ果てるまで何者かに追い詰められ、最後は狭い場所で身を隠し力尽きた可能性が高い
何故、彼女が殺害されなければいけなかったのか。黎ヰは、そこにアリババ含む組織が関わっていると考えていた
黎ヰ
(だとしても、実行したのは奴じゃない)
廃校舎で対峙したアリババの行動や言動からみても、苦しみもがく相手を見て楽しむ、そうして確実に自身で手を下す。そうしなければ死に際が見れないからだ
もし、照井ユミをアリババが殺害したのなら、彼女は確実に致命傷を負わされているか、廃校舎でしたように死に至る劇薬を飲まされているだろう
だがこの人物は、わざと彼女を逃し追いつめている。そしておそらくだが、隠れた彼女が出られないよう見張っていたか、出られない場所に誘導している。その事から、アリババとは別の楽しみ方で人を殺害している
黎ヰ
「組織なら、アリババ以外が居るのは納得できるが」
黎ヰは、ユミの失踪が追跡出来なくなった事や彼女の殺害方法について、妙な引っ掛かりを感じている
そんな時、ふと玄関のドアが開閉した音で思考が遮られた。夏氷が帰って来たと、黎ヰは椅子をクルリと回しドアの方を向いた
しばらくすると、予想通り夏氷が部屋のドアを開け中へ入ってくる。最初から待ち合わせをしていたので、黎ヰがいる事に対し、夏氷は驚きを見せなかった
彼が何かを言う前に、黎ヰが先に声を掛ける
黎ヰ
「お帰り♪あんがと」
冬葵達の一件について、素直にお礼を言う黎ヰ
葩永 夏氷
「"お邪魔しまーす"から随分と昇進したね。一応言っておいてあげる。ただいま、どういたしまして」
夏氷はUSBを出すと、丁度開いてあるパソコンに接続した。今度は黎ヰが何か言う前に、夏氷が口を開いた
葩永 夏氷
「例の映像手に入った。…あぁ、丁度それについて思案してたのか、リアルタイムってやつだね」
今まで黎ヰが見ていた資料を見た夏氷は、すぐに照井ユミについて考えていたのだと察する
葩永 夏氷
「先に確認の為に見たけど、完全に人災。アンタが執念深く毎朝見張ってた甲斐があったね」
カラスの巣づくりのせいで漏電したのなら、カラスの性質上、巣を撤去しても同じ場所に巣を作る
黎ヰはそれを裏付ける為に、毎朝漏電した場所にカラスが近寄っているのかを調べていた。だが、いつ見てもカラスどころか雀すら現れず、漏電の原因が証拠を消す為、意図的に仕組まれたものではと考えた
そこで黎ヰと夏氷は、車にあるドライブレコーダーなら、もしかすると記録されているかもと、いつも近くに停まっている業務用のバンに目をつけた
ただの車なら記録時間に限りがあるが業者なら別だ。自社の貸し出している車なら、事故や事件などを防ぐために長い時間を記録できるようにしている
だとしても、その業者がしっかりドライブレコーダーを記録してくれているかは、運に賭けるしかなかった
そして今、夏氷が映像を手に入れてきたのだった
彼は慣れた手つきで操作し、一つの映像を再生する。最初は荒い画質に夜なので暗く見えずらかったが、彼の手により映像はすぐに鮮明に映し出される
映像はバン目線なので、少し高く端の方に例の電柱が映っていた。しばらく静かな時間のあと、急に電柱からポロポロとハンガーが落ちた
と思えば、目の前を何かが飛んでいた。それは不安定に動いてはいるが、確実に電柱の上へ針金などを置いている
黎ヰ
「ドローンか」
葩永 夏氷
「改造されたね。一般的な奴だと何かを持ち運んだりは出来ない。カラスの仕業にする為にドローン操作して、漏電させるよう電柱に仕組んだ。これって明らかにいき過ぎた隠蔽かもね」
映像の最後は、ドローン自身が上へと行きその後は、戻って来なかった
黎ヰ
「ドローンごと電柱に乗せたなら、確実に漏電するなぁ」
葩永 夏氷
「普通はこんな大それた事思いつかないだろうね。リスクが高すぎる。実際証拠を残してるしね」
夏氷の言う通り、各所の防犯カメラの映像を消す為とは言え、普通はやらないだろう。目撃される可能性だってある
もちろん、改造しているのなら音も最小限だろうし、時間帯も夜中。向こうも証拠は残さないようしているが、そのやり方は確実ではない
黎ヰ
「よっぽど照井ユミの失踪を辿られたくないようだなぁ〜」
葩永 夏氷
「だろうね。住宅地で証拠を消す為に山火事を起こす組織だし、驚くどころかむしろ辻褄が合うけど」
不意に言葉を区切った夏氷は頭の中で、ある人物を浮かび上がらせた
葩永 夏氷
「身内に似た奴が居るから言えるけどさ、人がこんな風に突飛的な行動する時って、誰かを庇う時なんじゃない?」
"身内に似た奴"それが誰かを分かっている黎ヰは、妙にうなづいてしまう
今回の事件でもそうだったように、人は誰かの為なら常識なんて関係なく行動する。純粋に他者を攻撃するよりも、守る為を理由とした攻撃の方がその威力は増すものだ
黎ヰ
「結託力が高い証拠かもしんねぇな。馬場のように切り捨てず、守りに徹してる」
組織として絆があるというのは、追跡する黎ヰからすれば、厄介としか言いようがなかった。見えない敵に対し黎ヰは顔を歪めた
葩永 夏氷
「そんなアンタに朗報。ドローンを操作してる人間の顔、分かるよ」
黎ヰ
「マジ?」
驚く黎ヰの顔を見てクスリと笑うと、夏氷はすぐさまパソコンを操作し、画面にいろんな機能を表示していく
葩永 夏氷
「映像の中にガラス張りがあるだろ、そこから反射できる。角度もいい具合だしね、このドローンのタイプだと長距離の遠隔操作は無理だと思う」
ダウンロードの文字がでかでかと表示され、それが100%になると同時に、画面上に男の顔が映った
見知った顔に黎ヰは目を細める
黎ヰ
「アリババだ」
流石にフードを被っていてはドローンを操作出来なかったのだろう、アリババの顔がはっきりと映っている
黎ヰ
「あの時も暗がりだったからこそ分かる。目に焼き付いている人物と相違ないぜ」
言い切った黎ヰに夏氷は、アリババの顔をデータ上に読み込んだ
アリババと言うのは組織内でのコードネーム。もし本名が分かれば、彼とその組織について一歩近づく事ができる
葩永 夏氷
「最初は免許証とか個人データ系統から検索してみる」
何気なく使っているそのパソコンの中には、この世のありとあらゆる情報が集まっている。普通なら役所などで調べてもらわないといけない事なども、夏氷の手にかかればその場で情報が手に入ってしまう
黎ヰ
「笛使った時、反応したからなぁ〜。二十前半で絞っていいぜ」
葩永 夏氷
「二十前半ね。そこまで絞れるなら時間掛からないかもね、それにしても…」
画面から視線を黎ヰへと移し、再び呆れた表情を向ける
葩永 夏氷
「防犯ブザー代わりにあげたやつ、まだ使ってる訳?」
黎ヰはポケットから、それぞれ違う色の付いた親指サイズぐらいの連なった笛を取り出した
黎ヰ
「何かと便利いいんだよな〜コレ」
葩永 夏氷
「防犯意識が低いからってあげたやつだけどさ、オレが暇つぶしに作った玩具なんだよねソレ。まさか攻撃手段として使用されるとは思ってなかったけど」
黎ヰ
「身を守る為には、時に先制攻撃が必要だろぉ〜」
廃校舎や双葉医院で起きた謎の耳鳴りの原因は、黎ヰの持っている笛が原因だった
色毎に五歳単位で分かれている笛は、人の聴力を攻撃し頭に響かせ酷い耳鳴りを発生させる。因みに年齢により聴力が違うので、笛の種類も十代から八十代まで作ってある
黎ヰは、相手の動きを封じる為に廃校舎では、アリババの双葉医院では隅田の年齢に合わせた笛を使用した
葩永 夏氷
「アインシュタインの哀傷」
夏氷の言いたい事を瞬時に悟った黎ヰだったが、口を曲げ抗議する
黎ヰ
「アインシュタインは暇つぶし感覚でしてねーよ。そもそも年齢別で判断するから、切羽詰まった場面の防犯用としては使えねー。咄嗟に襲いかかってくる人間の年齢とか判別出来ねぇーし」
本当に暇つぶしで作った物なので、有事の際について深く考えてなかった夏氷は、確かにと黎ヰの意見に納得した
葩永 夏氷
「それもそうか。そんな事よりも、記録されてるデータ上にはこの顔は見つからなかった」
二人が話している間にもパソコンはアリババの正体を突き止めようと、免許証などのデータからアリババと一致する人物が居ないかを探していた
が、残念な事に検索結果は0件と表示される。なんとなくそんな気がしていた二人は、たいして驚きはしなかった
葩永 夏氷
「もし、アリババって人のデータが削除されてるなら痕跡は辿れる。そこから復元もできるだろうけど」
黎ヰ
「いや、指紋からも正体を辿れなかったからなぁ〜。元々、データに記録されてない可能性のが高いだろ」
ナイフから採取したアリババの指紋。それを使い今のように正体を特定しようとしたが、警察や医療機関などのデータベースには存在しなかった
葩永 夏氷
「それじゃ、次は記事になってないか見てみる」
黎ヰ
「頼む」
個人データで見つからないならと、次は新聞やネットの写真などからアリババが居ないかを探すが、こちらの方が可能性的にはかなり低い
これでダメなら、次はいよいよ街中にある防犯カメラで辿る他ないだろう。そんな事を思いながら集中してパソコンを見ていた二人…
しばらくすると、予想に反しアリババの写真が載った記事が出てきた
葩永 夏氷
「……見つかった」
不機嫌というよりは、記事の見出しを見て頭を悩ませる夏氷。黎ヰも、予想してなかった見出しのせいで、口を尖らせる羽目になった
黎ヰ
「そうきたか」
【真林高校で大火災。1名の教員と7名の生徒が死亡】
記事には死亡した教員と生徒の顔写真と名前が載っており、アリババと名乗った男子生徒も"鳳朝 ケンシ"の名前でそこに記載されていた
黎ヰ
「俺の視野が狭すぎたなぁ。な〜つ〜ご〜死亡者リスト」
実際にアリババと対峙したせいだろう、探す際に死亡者は視野にいれていなかった。黎ヰは、指紋や個人データで見つからなかった理由を察し反省する
葩永 夏氷
「どーぞ」
黎ヰが言うよりも先に行動に移していた夏氷は、もう一つのパソコンの画面に指紋と一致した人物の写真を出す
ドライブレコーダー越しの映像と火災記事の顔写真、指紋が一致した人物の写真、その三つを照合した結果……完全に同一人物だった
黎ヰ
「死んで生き返ったか」
葩永 夏氷
「海外ならまだしも、灰になった人間に蘇れって言うのは酷すぎじゃない?」
日本なら死体は火葬する。記事にも鳳朝夫妻が丁寧に息子を火葬により見送ったと書いてあり、冷静に夏氷が突っ込む
黎ヰ
「冗談に決まってんだろ」
黎ヰも、本当にオカルト的な魔術で蘇ったとは思っていない。ただ、数日前に対面し現在も生きている映像のある相手が、既に死亡してしまっていると世に発表されている事に対して、何か言ってしまいたかっただけだ
ふと、記憶の片隅にアリババが住宅地の住人達に飲ませていた薬について思い出す
芥に解析をお願いしたところ、一種の興奮剤のような性能があり、麻薬とも似ているが少し違った
芥曰く『ゾンビ…を、造るつもりだよ』らしい。元々、ゾンビマニアの芥がすぐにそっち方面の発想にいくのは自然だと、当時の黎ヰは気にしなかった
黎ヰ
「だとしても、灰じゃなきゃ蘇れるよなぁ」
いま思い返せば、芥の意見も一理ある気がしてくる
葩永 夏氷
「アンタが追ってるのがオカルト組織なのかは別として、先に記事に目を通した方がいいんじゃない?」
黎ヰ
「死亡した原因が火災なら、死体の状況によっては色々と誤魔化せそうだよな〜」
呟きながらも黎ヰの目は、火災の記事を追っていた
出火元は宿直室で原因がガス漏れ。時間帯が放課後だったので、全校生徒が被害に遭う事は免れた
宿直室が一階に位置していた事で、火災にも直ぐに気づけ避難誘導も早かったが、被害に遭ってしまった生徒と教員は、四階に居たせいで火災に気づくのに遅れ、気づいた時には避難経路は断たれており煙を吸いそのまま意識を失って、火の餌食となってしまった
ほぼ一日続いた消化活動の後、発見された遺体は焼身しており、何人かは顔の判別が出来ない状態で、肉親の確認と身につけていた衣類などにより、本人だと証明されている
黎ヰ
「鳳朝ケンシの遺体の状態は?」
葩永 夏氷
「全身全焼」
黎ヰ
「判別出来なかったって事か」
先程も自分で言っていたように黎ヰは、鳳朝ケンシの遺体が何者かの手により、偽られたものだと考える
葩永 夏氷
「それはどうかな。鳳朝家はこの一件で学校を訴訟してる、大事な一人息子が学校の不手際で死んだってね。もちろん、息子の本人確認もどの遺体よりも入念に行われてる。焼け残った衣類や小物も要因ではあるけど、決めては歯だって」
黎ヰ
「親ぐるみって線は?」
葩永 夏氷
「父親は法務省で母親は検察官。現情報だけじゃ息子を死者にするメリットがない。しかも、訴訟して勝ち取ったお金は被害者遺族へと寄付して、学校の立て直しにも投資して協力。息子の最後に生きていた場所を残したかったんだってさ」
そこから考えてみても、鳳朝家が裕福なのが分かる。また夫妻の職業的にもそんな事をする理由が思いつかない
黎ヰ
「相当愛されてたってのも伝わるしなぁ」
もう一度調べる必要はあったが、訴訟で勝っている以上は火事の原因も記事の通りで間違いないだろう
だとしても、ドライブレコーダーの映像が一致した以上は、アリババもとい鳳朝ケンシは生存していると証明されてしまっている
黎ヰ
「何かがあったのは、確かなんだがなぁ〜」
葩永 夏氷
「因みにDNAも辿ってみたけど、隠し子だとか双子とかの可能性もなし。もちろん指紋も一致してるから、第三者が整形でなりすましてるとかも皆無」
黎ヰ
「という事は、だ。この火災で鳳朝ケンシとして死亡した別の人間がいるって事になるか」
黎ヰはどの方面から推理してみても、この線が一番しっくりくるなと思った
葩永 夏氷
「今ある証拠とか一回全部忘れて、アリババになりきってみれば?アンタの場合、勘的なものの方がアテになりそうだしね」
夏氷にそう言われ、文字ばかり追っても答えはでない状況を打破する為、黎ヰはアリババを記憶に呼び起こす
黎ヰ
(まず、廃校舎で一人の男子生徒を劇薬により殺害。その後死体の首を切断し、その罪全てを友人になすりつけた……そういや、馬場の罪も高校生になすりつけてたよな、なんで高校生にした?麻薬栽培の罪ならもっと別の人間の方が都合がいい筈だ)
一度そこで思考を区切ると、黎ヰは紾から聞いたアリババの話を脳へよぎらせる
黎ヰ
(再調査した事について、しつこく聞かれたとか言ってたなぁ。田文誠吾は終わった人間だって…)
無意識にハサミを何度も開閉する黎ヰは、次に住宅地での事を思い出す
黎ヰ
(亜久を殺すのに火事を演出したのは、住宅地の証拠や俺達を消す為……以外にも、一度自分が体験しその威力を知って、火を使ったって考えられるよな)
しばらく考え込んでいた黎ヰは、カチカチと鳴らしていたハサミを大人しくさせた
それを合図に夏氷が口を開いた
葩永 夏氷
「まとまったようだね。アンタの見解は?」
黎ヰ
「学校の火災について言えば、鳳朝ケンシは被害者だぁ〜」
その言葉を聞いて、特に驚きをみせない夏氷は「で?」と、話の続きをうながす
黎ヰ
「それがきっかけで、鳳朝ケンシは自らを"終わった人間"だって諦めた…いや、悟ったに近いかもな」
葩永 夏氷
「賛成。もし、愛する両親が息子である自分の死体を見間違ったなんて事実、知った後の絶望感ってのは、オレが想像するよりも酷過ぎるだろうからね」
鳳朝ケンシと言う青年は、生きているのに死んだと扱われ、自分の存在価値を失ってしまったのだろう
黎ヰ
「ターゲットに自分と似た人物を選ぶってのは、過去に囚われた人間が起こす行動の一つだ。鳳朝ケンシの場合"罪を着せる’’ってのに、火事に巻き込まれた時の自分と同じ年頃を選んでる」
葩永 夏氷
「なら、罪をきせるって言うのがキーワードかな」
黎ヰ
「鳳朝ケンシだと勘違いされた死体。これは何の脈略もない俺の勘だが……鳳朝にとっては加害者かもしんねー」
唐突に発せられた言葉は弱々しいものだったが、黎ヰの中で否定できない、核心をついたものだと夏氷は感じた
だから、その見解に彼は目を細め笑う
葩永 夏氷
「請け負ってあげる。火災当時よりも、もっと前の真林高校の内情が必要だしね、警察で調べたら令状だのって面倒だろ」
黎ヰ
「確たる証拠もなしに、アリババの存在を認めたくないって言う上の判断。そんな奴を世に曝け出すってなると、敵は身内にも居そうだしなぁ」
アリババの存在を認めてしまえば、彼の絡んだ事件すべてが覆るだろう。実際に馬場は廃校舎すべての罪を問われ裁かれている
だが、警察上層部が懸念しているのはそこではない。アリババを認めると言う事は、その組織の存在も認めなければいけない事を意味する
葩永 夏氷
「アンタは最初から敵だらけだろ?まぁ、組織はかなり根深い部分まで根を張ってるし、露見させたくない人は居るだろうね」
組織は薬の製作だけでなく、隅田へ改造銃も提供している可能性が高く、そうだとすれば警察の人間とも繋がっている事になる
黎ヰ
「直接関わってなくても、藪蛇を避けたい奴も居るだろうしなぁ〜」
葩永 夏氷
「それにこの組織の件は、きっとオレ達の案件だろ。ほっとけない」
ふと、夏氷が口を開く。その瞳には組織の奥に居る人物を見透かしているかのようだった
組織についてはまだ何も暴いてはいないが、黎ヰも夏氷もある人物の存在を感じている
葩永 夏氷
「我が血縁ながら、ほんっっとにやってくれる」
普段クールな夏氷だったが、この時はぶつけようのない僅かな怒りを秘めていた
〜葩永 夏氷プロフィール〜
性別/男 年齢/23歳(外見年齢15歳) 誕生日/5月7日 血液型/A型
好きな食べ物/フルーツサンド、おかずクレープ 嫌いな食べ物/小骨、皮
好きな飲み物/クリームソーダ お気に入りスポット/家
経歴/黎ヰとは3年前に接触して以来、持ちつもたれずの関係。通称、黎ヰ専門の情報屋。本人曰く特異体質の為、外見と年齢が一致しない程に若く見えてしまう。また、黎ヰとは半同棲状態。
性格/偉人や小説の登場人物を状況によって引用する。クールで物静かだが、少し世間知らず。黎ヰの影響もあり、滅多な事では動じない。曰く、天邪鬼料理が好物。




