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異常調査部〜院内発砲事件〜【2】  作者: 月ノ羽ルナ


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18/24

発泡

隅田すみだが引き金を引くーーその時、誰かが走って来る足音がした


皐月さつき しゅう

「やめてください!隅田さん!」


銃声のお陰で、場所が特定できた皐月さつき隅田すみだに向かって叫んだ


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「…来たのか。皐月」


なんとなく、こうなる事が分かっていたのだろう…隅田すみだは視線だけを、皐月さつきの声がした方へと向けた


皐月さつき しゅう

「もう、やめてください。こんなことっ、間違ってます!」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「ふっ、お前はそう言うだろうな。甘い考えだ…俺は復讐さえ果たせれば、死んでも構わない。もしかすると、臓器移植で冬葵が助かるかもしれないしな」


なんとなく、思いつきで出た言葉に隅田すみだ自身が、そうなれば良いと心から願った


ようやく皐月さつきが暗がりの中、姿を現したかと思えば、両手で握っていた拳銃を隅田すみだへと向けていた


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「これは、驚いたな。まさかお前に銃口を向けられる日が来るとは…」


皐月さつき しゅう

「あなたに、人は殺させません!」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「言うようになったな。おっと、それ以上は近づくな…もちろん、後ろに回ろうとしてるお友達もだ。すぐに出てこないなら、こいつを殺す」


二手に分かれ、皐月さつきが気を引いている隙に、めぐるが背後から取り押さえる作戦は、最初からバレてしまっていた


人質を殺すと言われてしまえば、出ざるをえない


蔡茌さいし めぐる

「っ、分かりました!」


めぐるは、出来るだけ隅田すみだを中心に皐月さつきと板挟みにできるよう、出ていこうとするが…


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「皐月の隣に行け」


蔡茌さいし めぐる

「ぐっ、」


今まで凶悪犯を、何人も相手にしてきた隅田すみだには、通用せず言う通りに従う


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「もう、足音は聞こえないな…ここへ入ってきたのはお前達だけか」


皐月さつき しゅう

「はい」


作戦があっさりと見破られてしまい、皐月さつきが悔しそうに顔を歪ませた時、隅田すみだの銃口が皐月さつきを捉え銃声が響いた


バンッ


皐月さつき しゅう

「っつ?!」


ガチャン


銃弾は、皐月さつきの拳銃へと目掛けて放たれた


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「油断し過ぎた。俺が狙ってたら死んでたぞ、甘い考えは捨てろ。人を殺す道具がある場所は、何処だって戦場に変わりはない」


隅田すみだが忠告めいた言葉を掛ける中、めぐるは慌てて皐月さつきに駆け寄った


蔡茌さいし めぐる

「皐月君!!」


皐月さつき しゅう

「だ、大丈夫です…銃に当たっただけなので、僕は無傷です」


蔡茌さいし めぐる

「よ、よか、た」


ホッとするのも束の間、隅田すみだはまたリボルバーを回し、腰が抜けて座り込んでいる立石たていしへと向けた


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「下手に動けば、殺す」


"誰を"とは、聞かなくてもその行動で理解できてしまう。皐月さつきめぐるは目で頷き合う


皐月さつき しゅう

「分かりました。その代わり、隅田さん僕を人質にして下さい」


拳銃はもう一つある。めぐるが持っているとバレていない内に、なんとかして隙をつくしかないだろう


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「それで、全員解放しろと?話にならんな、お前達も嗅ぎ回ってたんだ、俺の目的ぐらい理解してるな」


皐月さつき しゅう

「……娘さんの、復讐ですよね。そんな事をしても、何にもならないのは隅田さんなら、分かるはずです。あなたは犯人を捕まえる側の人間だ、犯人側(そっちがわ)じゃない」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「知った口を聞くな!」


それは、隅田すみだが初めて感情的に声を荒げた瞬間だった。言葉の中には、彼の中に渦巻く後悔や怒り悲しみが含まれていた


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「どれだけ凶悪犯を捕まえても、不良共を務所へと送ったってな、大事な家族を守れないなら意味はないっ!」


隅田すみだは、二ヶ月前…いや、それよりもずっと前から、"家族"を守れなかった事への、怒りの矛先を求めていたのだろう


蔡茌さいし めぐる

「娘さんは、まだ生きてます。目覚めた時に、あなたが自分の為に人を殺したと知れば、必ず悲しみます!それで良いんですか」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「冬葵が目を覚ます…か…」


植物状態となってしまったいま、隅田すみだはそんな望みは既に手放していた


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「一つ、青二才に忠告しといてやろう。お前も警察の端くれなら、奇跡なんて信じるな。信じて良いのは目の前の現実だけだ」


隅田すみだは知っていた。その目で無残な死体をいくつも見て来たのだ。もちろん、中には救えたかもしれない命だってあった…だが、ほとんどは残酷に命を落とす


そこには、加害者も被害者も悪人も善人も関係ない。人はその時が来れば、簡単に死んでしまうのだ


蔡茌さいし めぐる

「あなたが、信じてあげないでどうするんですか!」


皐月さつき しゅう

「そうです、家族が大切だと言うのなら、こんな事はやめて下さい!誰も望んでませんっ」


バンッ


二人を黙らせるかのように、天井へ向けて銃弾を放つ


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「言葉では俺を止められない。どうしても止めたいなら、行動で示せ」


いま彼を、突き動かしているものこそが復讐だ。そんな隅田すみだには、どんな言葉も届かない


ピーーピーー


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「?!ぐっ、なんだ」


その時、耳鳴りのような高音が聞こえた。まるで耳の鼓膜が突き刺されているような激痛に、隅田すみだは両耳を抑え苦しんだ


皐月さつき しゅう

「一体、なにが」


音が聞こえていない皐月さつきには、急に苦しみ出した隅田すみだを見て、何が起こっているのか理解できなかった


医師

「ぐっ、や、やめてくれ」


看護師

「苦しい」


その音は、聞こえている者と聞こえていない者とがいるらしく、とても奇妙な光景が広がっている。めぐるにも音は聞こえていなかったが、何となく似たような経験をした記憶があり、思い出そうとしたーーその時だった


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「誰だっ!」


いつの間にか、隅田すみだの背後に人が回り込んでおり、遠慮なく回し蹴りを繰り出した


寸前で反応した隅田すみだは、音が止んでいるのを確認すると、耳から手を離し銃口を向ける


が、その人物は身を低くしながら一直線に突進してくる。早すぎて狙いが定まらず、舌打ちをすると隅田すみだは、拳銃を持ったまま身構えた


暗がりの中、繰り出される拳の連打に隅田すみだは、冷静に対処し振り払っていく…攻撃を受けていく中で、相手が自分よりも小柄な人物だと知ると、腕を強く掴む


が、掴んだと思った腕は袖だけで、動揺した一瞬を相手は見逃さなかった


黎ヰ(くろい)

「おらっ!」


拳銃を持つ手を蹴ったつもりだったが、隅田すみだが咄嗟に肩を引いた事により、狙いが外れてしまう


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「くそ、」


それでも、胸部を強打したのには違いはなかったが、隅田すみだから拳銃を奪えず黎ヰ(くろい)は、顔を歪ませた


黎ヰ(くろい)

「一筋縄じゃいかねぇか」


捜査一課長の肩書きも、伊達じゃないらしい


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「あぁ、お前か。どれだけ俺の邪魔をすれば気が済む」


声から正体を見破った隅田すみだは、目の前でニヤリと笑い立つ黎ヰ(くろい)へと、銃口を向ける


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「なぜ、隠れなかった。あれだけ俊敏に動けるなら出来ただろう」


目の前に立てば、銃弾の餌食になるのは分かっていたはずなのに、あえてそれをしない黎ヰ(くろい)には、何か他の狙いがあるのではと、隅田すみだは警戒する


黎ヰ(くろい)

「隠れたって、人質を理由に脅すだろぉ?だったらその一手間飛ばしてやろうっていう、俺の親切心」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「その余裕が、仇にならなければいいがな。動くな!お前達、こいつを殺したいのか」


黎ヰ(くろい)に気を取られている隙に、皐月さつきめぐるは取り押さえようと近づいていたが、足音でそれに気づいた隅田すみだは一喝する


蔡茌さいし めぐる

「黎ヰ?!」


近づいた事で、隅田すみだに奇襲をかけた人物が、黎ヰ(くろい)だと分かると同時に、銃口を向けられている事で、めぐるは思わず声を上げてしまう


黎ヰ(くろい)

「紾ちゃん、そのままだ!いいか、絶対動くな」


真剣な声音にめぐるは、驚いて動きを止めた


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「ふっ、異常だと謳われているお前でも、命は惜しいか」


黎ヰ(くろい)

「いやいや、命は普通に惜しいもんだろぉ?それに、復讐が果たされるまでは捕まる訳にはいかない、だったら、動かない標的よりも動く標的を撃つよなぁ〜」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「……」


黎ヰ(くろい)の言う通り、たった一人の隅田すみだが警戒するのは、自身の身を捉えられる事。そうならない様に、先程から人質や拳銃を使い、自分に近づく人物達に牽制している


もしそれが破られれば、迷いなく向かって来る人物に撃つつもりだった


黎ヰ(くろい)

「何発も撃ちまくったのは、暗がりでもちゃんと命中するか、確認してたんだろ。それとも過去に囚われ、怒りのままに引き金を引いたのか…五分五分ってところか?」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「口振りから察するに、俺を調べたな。食えない奴だ」


お互いが視線を逸らさず、相手の動向を探っていく


黎ヰ(くろい)

「百発百中の腕は見事と言わざる得ないが、その拳銃は()()()手に入れた?」


警察が持つ拳銃の装弾数は、だいたい五発だ。弾丸数に制限があるなら、無闇に撃つ訳がない。その行動から、五発以上の装弾数があるのは明白だった


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「知りたいなら、吐かせてみろ」


黎ヰ(くろい)

「ツンデレだねぇ〜。まぁでも、その様子から見るにまだまだ弾には余裕がありそうだなぁ」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「試しに踊ってみるか」


バンッ


バンッ


バンッ


わざと足元を狙った隅田すみだは、三発の銃弾を放つ。黎ヰ(くろい)は落ち着きながら、素早く身を引き後退した


黎ヰ(くろい)

「おっと、うまい具合に距離を取らせたか」


軽口を叩きながらも頭の中では、一度発砲された拳銃が次に発砲するまでの時間を計算する


黎ヰ(くろい)

(装填する時間と合わせても、最速で五秒あるかないか…拳銃の扱いに慣れてたとしても、明らかに短すぎだな。弾が床に弾いた音も、妙に軽すぎだ…距離があれば殺傷能力は下がるが、詰められたら普通にお陀仏だなぁ〜)


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「射程距離に入れば確実に殺す。今ので理解したな」


どうやら隅田すみだは、最初から黎ヰ(くろい)に拳銃の性能を知らしめるつもりで撃ったらしい


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「俺は復讐を果たしたいだけだ。黙って見てるなら見逃してやる。そうでないならーー殺す」


黎ヰ(くろい)

「犯人にそう言われて、下がる警察官は居ないって分かってんだろぉ」


その時、ふと黎ヰ(くろい)は先程の銃撃のせいで、自分と隅田すみだとの距離が離れている事に疑問を持った


もし言葉通りに殺すつもりなら、射程距離内に入れておいた方が何かと有利にもっていきやすい。なのに、どうしてそれをしなかったのか…


まさかと思い、めぐる皐月さつきの位置を確認した黎ヰ(くろい)は、隅田すみだの狙いに気がつくと歯を噛み締めた


二人とも、完全に射程距離内に入ってしまっている


黎ヰ(くろい)

「さすが、捜査一課長様様だぁ。えげつない方法をよくご存知で」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「だが、これが一番効く」


暗がりの中でも、隅田すみだが笑っているのだと分かる


黎ヰ(くろい)

(さて、どうしたもんか。皐月は問題ないとしても…紾ちゃんはヤバいかもしんねぇな)


いつ銃弾が飛んでくるかもしれない状況下で、冷静に判断できる程、蔡茌さいしめぐるはこういう状況には慣れてはいない


黎ヰ(くろい)は何とかして隅田すみだの標的を、めぐるから逸らす方法を考えるが…


隅田すみだは銃口を既に、めぐるへと向けていた


蔡茌さいし めぐる

「っ…」


自分へと向けられた銃口に、めぐるは一瞬心臓が止まったかと錯覚する。無意識に手に持っていた拳銃を強く握りしめる


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「状況が飲み込めたなら、全員下がれ」


言いながら、隅田すみだは片手で立石たていしの髪を掴み、無理矢理上へと引っ張り上げ立たせると、逃げられないよう、首元へと軽く腕を回した


立石たていし

「や、しにたく…ない、いや」


銃口はまだ、めぐるに向いたままだが、すぐ側にいる事でいつ殺されてもおかしくはないのだと、立石たていしは身体を震わせた


皐月さつき しゅう

「お願いです、人質なんて止めてください!」


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「人質だと?この女は冬葵を殺した。人質なんかじゃない、処刑台へ上る罪人だ」


本当に殺すつもりなのだと、この場の全員が悟った


立石たていしは、恐怖で何も考えれなくなっていく中、あれだけ死にたいと思っていたのに、いざ殺されるとなると…こんなに、怖くなってしまう事が不思議だと感じる


立石たていし

(そっか、死なないでって…冬葵ちゃんが言ってくれたんだ…友達だから、辛い事も悲しい事も相談しようって…支えになるって…そう、言ってくれたから…生きていてもいいって思ったのに…)


彼女はもう居ないんだと、立石たていしは改めて残酷な現実を思い知った


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「……何の真似だ?」


蔡茌さいし めぐる

「彼女を…放して下さい。でなければ…撃ちます」


立石たていしが殺されてしまうと焦っためぐるは、守りたい一心で拳銃を構えた


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「馬鹿が。この暗闇の中で俺だけを狙える程の腕前じゃないだろ。それとも、この女も道連れにするつもりか?…脅すならもっと早くにしとくんだったな」


隅田すみだは、その構え方でめぐるが拳銃の扱いに慣れていないと見抜くと、嘲笑うかのように鼻を鳴らす


隅田すみだの意識がめぐるへと向いた…その一瞬の隙だった…風を切り裂く音と共に、隅田すみだの鼻筋に硬い何かが当たった


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

「っ、ぐわ」


全く予想してなかった痛みに、隅田すみだは大きく後退し、立石たていしを掴んでいた腕を緩ませた


立石たていしは逃げようと身体を動かすが、上手くいかずに前のめりに転けてしまう。彼女は知らないが、それが功をなし隅田すみだの全身がガラ空きになった


黎ヰ(くろい)はそれを見逃さず、先程と同じようにハサミの柄の部分を先頭にして、彼の両腿りょうもも目掛け2本投げた


完全に的になってしまっている隅田すみだには、避ける事ができずに命中する


痛みのあまり腰を屈めた瞬間ーー黎ヰ(くろい)が走り拳銃を握っている手に蹴りを繰り出す


隅田すみだは拳銃を蹴り上げられる前に、威嚇しようと引き金を引いた


バンッ


暗闇の中、銃声だけが響き渡る


蹴り上げる直前、銃口が天井を向いていた事を確認していた黎ヰ(くろい)は、発砲された事よりも早く隅田すみだを捉えようとするも、彼は空中で拳銃を掴み取り、銃口を真下に居る黎ヰ(くろい)へと向ける


隅田すみだ

「ぐっ、」


だが、先程蹴られた手に激痛が走り、とてもじゃないが二発目は撃てそうにない。おそらく指が何本か折れているのだろう…


冷静に相手の状況を読んだ黎ヰ(くろい)は、すぐさま大勢を立て直した


蔡茌さいし めぐる

「黎ヰっ?!」


暗闇の中、めぐるが唯一分かるのは黎ヰ(くろい)に向けられた銃口が光っている…それだけだった


黎ヰ(くろい)

(まずい!)


めぐるは声からも分かるくらい焦っていた。相手が引き金を引けない事を知らないのなら、この反応は当然だろう


だが、悠長に説明している暇はない…今できる最善の策は隅田すみだを捉える事だと黎ヰ(くろい)は判断するーーその数秒の間だった


せめてもの抵抗か、または抑止力の為か隅田すみだ黎ヰ(くろい)の額に銃口を当てた


ガチャンと額にまだ生暖かい鉄の感触がする


黎ヰ(くろい)

「撃つな!!」


咄嗟に叫んだ言葉は、隅田すみだではなくめぐるへと向けたものだったが、皮肉な事にそれが合図となり


バンッ


もう一発の銃声が鳴った


それは間違いなく、めぐるの手に握られていた拳銃から放たれた音だった


黎ヰ(くろい)は咄嗟に隅田すみだを庇うように、肩をぶつけて突き飛ばす


瞬間ーー耳たぶの辺りに、銃弾が突き抜けた。突き飛ばしていなければ、隅田すみだに当たっていただろう


黎ヰ(くろい)

(あっっぶねー。てか、狙撃の才能開花させるにしても、絶対いまじゃねぇ〜んだよなぁ)


なんて事を思いつつ、勢いのまま黎ヰ(くろい)の身体は、床へと倒れた


顔を上げると、突き飛ばされうつ伏せに倒れている隅田すみだと、皐月さつきが床に落とした拳銃を拾い、転んだままの立石たていしが視界に入る


その状況に、まだ黎ヰ(くろい)以外は気づいていない


立石たていし

(このままだと、殺される…死にたくない)


震える手で銃口を隅田すみだへと向けるが、黎ヰ(くろい)が拳銃をそっと上から抑え、向きを床へと変えた


立石たていし

「っ!わ、たし…なにを…」


我に返った立石たていしに、黎ヰ(くろい)は人差し指を自分の唇へ当て"内緒"と伝えると、優しく彼女の頭を撫でる


立石たていし

「ゔっ…うぅ…」


色んな感情が込み上げ、立石たていしは涙を流した


そんな様子を倒れた隅田すみだは見ていた。指が折れ拳銃は使えないが、このまま彼女の首を絞めるくらいはできる


そう思ったが、泣いている顔が…娘の冬葵ふゆきと重なって、彼はその場から動く事ができなかった


隅田すみだ 弦次郎げんじろう

(冬葵……ごめんな…お父さん、お前を助けてやれなかった)

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