罪の重み
静まり返った取調室で、穢佇は肩を震わせた
穢佇
「ざけんなよっ、そうやって…説教して、何様のつもりだよっ」
感情のままに出てきた言葉は、意味をなさず宙に消えていくようだった。それでも、穢佇の中では抑えきれない感情が溢れていく
穢佇
「罪人なんだから当然じゃん、なんで何の罪も犯してない一般人が、巻き込まれて島に残されなきゃいけないんだよっ、罰を受けるのは罪人の方だろ!なのに!いつだって、ずる賢く惨めったらしく生き残ろうとするのは、罪人の方だ!何が身勝手な正義論だっ、法を犯す罪人の方が何倍も何百倍も身勝手じゃんか!」
黎ヰ
「ん?要は、法を犯す罪人もその罪人を裁く一般人も、結局はその全員に誰かを裁く権利は持たない。日本で考えれば、持つのは裁判官だけなんじゃねーの」
まるで、自分がしてきた事がすべて否定されている。黎ヰの言葉を穢佇はそう受け取った
穢佇
「それが役ただずのサツの言い訳かよっ、ご立派だね」
黎ヰ
「役に立つサツって言うのは、捜査一課長様様の隅田弦次郎だろ」
その物言いから、黎ヰには自分が隅田と手を組んでいる事は、すべてお見通しなんだと分かった
仮に探りで言われていたとしても感情の昂った今、自身を抑える事ができるはずもない
穢佇
「まだマシってやつ。隅田が居たから世のゴミ共を務所送りにできたし、学校も外も平和そのもの」
黎ヰ
「一課の犯罪検挙率が爆上がりしたのは、二ヶ月前でその最初の未成年者逮捕の一人がーー」
穢佇
「俺様を侮辱したゴミクズだろ」
黎ヰ
「正しくは、放火の濡れ衣をきせた警部補の息子だな」
黎ヰの変わらぬ反応に、穢佇はやっぱり最初から、すべて解かっているのだと確信すると同時に、弄ばれているような不快感が込み上げてくる
黎ヰ
「んでもって、次はーー」
穢佇
「いちいち誰を捕まえたか説明してくれるつもりっ、そんな事しなくたって分かってるし」
半ば自供ともとれる言葉だったが、穢佇は完全に冷静さどころか、当初の目的すら見失っていた
今はただ、自分がいかに正しくて警察が役ただずなのか…それを証明する事ばかりに考えが向いてしまっている
穢佇
「放火犯の次は、空き巣に万引き野郎、窃盗犯に暴行犯…ゴミばっかりだろ。お前らがやらないから、隅田と協力してゴミを掃除したんだよ。俺様がしてやった」
満足気に笑う穢佇に、黎ヰは紙束を机の上に置いた
黎ヰ
「これが、お前にゴミだって言われた人間達だ」
穢佇
「……」
普通なら、自分の態度に怒ったり憐れんだりする筈なのに、目の前に座る黎ヰからは、そんな様子は一切感じられない
それは悪い事をした子供に、その理由を教えるような…そんな感情を、今の穢佇には理解する事が出来なかった
理解できないからこそ、読めない黎ヰの真意を知ろうと穢佇は、紙束に目を移した
そこに書かれていたのは、言われた通り隅田と協力して逮捕した奴らの情報だった。ただ一つ違うのは、穢佇が知っていた彼らじゃないという事だった
穢佇
「は…は?なん、だよ…知らない…」
黎ヰ
「例の放火犯さんは、警部補の父が異常なまでの教育熱心のせいで、ほぼ自宅に監禁状態で勉強ばかり、父の機嫌を損ねれば暴力を振るわれる。さて、そんな奴が本当に放火をするタイミングがあるか?」
ずっと自分の中で引っかかっていた事件に、穢佇は黎ヰの言葉が理解できず、頭が真っ白になった
穢佇
「…なに、なんだよ…」
黎ヰ
「三年前も二ヶ月前も犯人は、同い年の従兄弟だ」
穢佇
「だって俺様…は、こいつの身代わりに…は?」
黎ヰ
「今は流石に違うが、三年前なら中学生。背格好も髪型も良く似てた。捜査一課が見逃すほどにな…動機は警部補である叔父が気に入食わなかった、だとさ」
なら、二ヶ月前に誤認逮捕してしまったのは言うまでもなく、穢佇だけでなく隅田でさえ、三年前と犯人は同じだと決めつけたからで、それは…明らかに冤罪だった
穢佇
「じゃあ、三年前…は、本当に…あいつは放火をしてなかった?だとしてもっ、身内を庇って俺様に罪を…」
黎ヰ
「息子はことの真相を知らねぇだろうな。なんせ監禁状態だしな…実際に隠蔽し擦りつけたのは、自分のキャリアを心配した警部補と実行犯の従兄弟だぁ」
穢佇の理解が追いつかないまま、黎ヰは話を続けていく
黎ヰ
「次に、空き巣をした奴は部活では先輩風を吹かして、下級生をコキ使ってたらしいなぁ。でも、空き巣をした理由は下級生が没収された親の形見を、意地悪顧問から奪い返そうとした」
穢佇が紙をめくるより早く、黎ヰは暗記していたのか、次々と逮捕し務所送りにした未成年者達について語っていく
そのどれもが、素行が悪く周りからも浮き目立ち、教師や大人達から見放された子達ばかりだった。そう、それはまるで穢佇達のような…
穢佇
「だからっ、知らないんだよ、なんで!いつも威張って、虐めてただろ…弱い奴を…虐めてたんだって!あの子達に悪口言ったり、泣かしたりしてんだって!」
黎ヰ
「それも間違っちゃいねぇーよ。だが視点を変えれば、また別の背景が浮かび上がってくる、まるで誰かさんのようにな」
ズキズキと重い何かが、穢佇の心にのし掛かる
"どんな理由があろうが、そんなの知った事じゃない。虐めてた事実も施設育ちを馬鹿にした事実も、消えるわけじゃない"
そう言おうとしたのに、喉の奥が詰まるような感覚に陥った。果たして、今の自分は本当にそんな事を言えるのだろうか
黎ヰ
「蓋を開ければ、逮捕した不良は全員いい奴でした…とまでは言わねぇが、俺には差が感じられねぇように見えるぜ。さっきも言ったろ」
穢佇
「……裁く権利が…ない…身勝手な…正義…論だろ」
ゲームをした穢佇には、嫌でも認めざるえなかった。ゴミだと言った彼らと自分は変わらないのだと
世間から見放され、助けもなく孤独に生きてきた…親が居てもいなくても、自分と言う存在を認識してもらえなかった…だから苛立ち、自ら存在をアピールしていた
それが、間違っているかさえ分からずに…だって、誰も止めてくれなかったから…
穢佇は痛む胸を無意識に、ぎゅっと抑えた。あまりの痛みに、このまま心臓ごと何もかも壊れそうで、ただただ震えた
黎ヰ
「それが罪の重みだぁ。よーく覚えておくんだな」
不思議とその声音は、自分を心配しているような…そんな温かさが穢佇の耳をかすめた
穢佇
「なんだよっそれ!そもそも、お前ら警察がグズでのろまで役ただずだからだろ!だから、俺様が代わりにやってやった!その結果、虐めもなくなった!民事不介入とか言ってる、お前らじゃ出来ないだろ」
本当はもう全て分かってる筈なのに、自分がゴミと蔑んだ奴らと同じなんて、穢佇は死んでも認めたくない一心から、吐き捨てるように言葉をぶつけた
黎ヰ
「本当に全部の虐めがなくなった訳じゃないだろぉ?あくまでも独断と偏見だ」
穢佇
「うるさいっ!うるさいっ!少なくとも子供…あの子達は馬鹿にされずに済んだんだよっ!あの子達を、守れたんならいいんだ!」
黎ヰ
「それを子供達が本当に望んだのか」
穢佇
「そんなの関係ないだろっ!悲しむ前に俺様が守ってやんないとーー」
黎ヰ
「ハッキリしといた方がいいなぁ。本音はどっちだぁ?」
鋭い視線を向けられた穢佇は、その迫力に一瞬、押し黙ってしまう
黎ヰ
「お前のゴミ掃除ってのは、世の中の虐めを無くす為か?施設の子を守る為か?はたまたーー」
その時、穢佇は自分の目の前に居る人間は、誤魔化しや嘘は通じないと思い知った
黎ヰ
「自分の中の怒りを解消する為か?」
パチリ
と、穢佇の中で欠けていたピースがはまってしまったような感覚が、妙にしっくりとした
不気味に静まり返った取調室の沈黙を破ったのは、不意に肩を震わせた穢佇だった
穢佇
「…ふっ、はは…ははははは…そっか…ははははは」
気づけば、声を抑えるようにして笑っていた。そんな穢佇に黎ヰは、今まで通りの調子で聞く
黎ヰ
「因みに俺は全部だと予測するが、実際はどうよ?」
穢佇
「はは…はははは…お前も案外お人好し過ぎだろ。全部…であれば、救われた…かもね…」
自分の中に存在するドス黒い感情は、いつの間にか自分すらも呑み込んでしまっていたのだと、穢佇は思った
黎ヰが見透かした薄汚い自分自身に、穢佇は身体中の力が抜け、呆然と天井を見つめ続けた
穢佇
「このふざけたゲーム、どーせそのタブレットで見てたんだろ…俺様が一番最初にした選択は…罪人を島に取り残す事だった。船が沈むって分かれば…迷う事なく、罪人を沈む船に乗せたじゃん……」
黎ヰ
「でも、最終的にはそのどちらとも違う選択をしたろ」
静かに掛けられた言葉だったが、穢佇にとっては唯の嫌味でしかない
穢佇
「なに?フォローのつもり、要らないって本当うざったい。…お前の言う通りだよ、全部にムカついてた……その感情に、正当な理由が欲しかっただけ…だ」
どうして、自分は両親と会えないのか
どうして、自分には皆んなのように家がないのか
どうして、自分には当たり前の幸せがないのか
どうして、施設育ちだからって蔑まされなきゃいけないのか
どうして、施設育ちは虐められても誰にも助けてもらえないのか
どうして、してもない罪を被せられなきゃいけないのか
どうして、税金で生活してるって指さされて生きなきゃいけないのか
どうして、夢を見ることすら許されないのか
止めどなく溢れ出てくる世の中への理不尽…いつだって満たされなかった。いつしかそう言った感情は、同じ境遇の子達と重ね合わせ、怒りをぶつけるきっかけを欲しがった
穢佇
「……こんな俺様でも、最初は…痛かった。殴るのも…傷つける言葉を使うのだって…でも、そうしないと…強者にならなきゃ、生きていけなかったんだよ!!」
黎ヰ
「で、いわゆる強者になった今は、どうなんだぁ」
穢佇
「マジで嫌味な奴だな。…いつの間にか、傷つける事に痛みなんて感じなくなってた……いや、それどころか……」
初めて殴った日も、雨野達を脅し駒にした日も、ずっとずっと自分の中に芽生えた感情があった
穢佇
「すっげぇ、楽しかった。誰かが俺様より下だって思った時、身体中が満たされていく感覚だったよ…ははは」
言葉とは裏腹に、穢佇の両頬には涙が伝っていた。もはや自分でも感情が追いついていないのか、はっきりと泣きながら笑っていた
穢佇
「あはは…最低じゃん……ゴミと…一緒とかさ…はは」
そんな穢佇に黎ヰは、何も言わず彼の頭に手をのせ優しく叩いた
穢佇
「……同情…してる、つもりかよ…」
と、言いつつも今の穢佇に黎ヰの手を振り払える力はなかった
黎ヰ
「ちげぇーよ。本当はもっと早くに見つけてやるべきだったって、俺の反省の意のこもった懺悔の印だぁ」
穢佇
「ねぇ、いい加減…考えるのが面倒なんだよ…言いたい事、あるならはっきり、言えよ」
黎ヰとしては、いつもの調子で言ったつもりだったが、穢佇には伝わりにくかったようで、今度は一音一音心を込めて伝える
黎ヰ
「止めてやれなくて、見つけてやれなくて、助けてやれなくて、ごめんな」
それはまるで、大人を代表して謝ってくれている。何故だが分からないが、穢佇はそんな風に感じた
今まで知らなかった温もりが、彼の涙を溢れさせる
穢佇
「フツー…謝る…必要ない…だろ…変な、やつ」
口から出た言葉は素直じゃなかったが、不思議と黎ヰの謝罪も温もりも嫌な気どころか、自分の事を見てくれていて、初めての居心地の良さを感じてしまった
黎ヰ
「謝る必要しかねぇーの、風十の大事な心を蔑ろにし、壊したのは紛れもなく大人だぁ」
穢佇
(だからって、あんたが謝る必要ないって…なんで…)
反論したかったが、今はただ撫でててくれる手の温もりだけを感じていたいと、素直にそう思い目を閉じたのだった
…
……
………
穢佇
「///」
落ち着き我に帰った穢佇が、撫でられてる事に恥ずかしさを感じ始めた時だった。タイミングを見計らったように黎ヰが、頭から手を離す
完全に心を読まれてるのが気に入らず、穢佇は顔を背けながら、空気を変えるべく唐突に質問を投げかけた
穢佇
「さっき、言ってた…人を裁く権利は裁判官にしかないって。じゃあさ…警察って存在する意味あんの」
黎ヰ
「警察って言葉は枷だ。"人を裁く"んじゃなく"人を捕まえる"だけってのなぁ。全員が相応の覚悟を持って人を捕まえる為だけに命を懸けてる、カッコ良くね?」
ニヤリと笑う黎ヰに穢佇は、冷めた目で見やった
穢佇
「かっこいい訳ないじゃん。むしろ、ダサ過ぎて笑えない。だってそれって結局は、無力って事じゃんか」
黎ヰ
「クックック…現役目の前にして、憎まれ口叩いてくれるねぇ〜。まっ弁解はしねーけど」
穢佇
「しろよ」
黎ヰ
「感じ方は人それぞれだろ?紾ちゃんーー俺の前に取り調べしてた真面目警官二人組みたく、熱血漢でも脳筋でもないもんで、悪かったな」
明らかに、はぐらかされている気がした穢佇は、まだ納得できず食い下がった
穢佇
「隅田は世の中の悪を裁くって言ってた。でもお前は悪を捕まえるだけなんだろ…意味わかんない結局、警察ってなんなわけ?」
黎ヰ
「ん?知りたいなら自分の目で見んのが一番なんじゃねーの。誰かに与えられた答えじゃ、満足出来ないだろ?」
目に映った人物は、やっぱりふざけたニヤケ面だった。穢佇は、ふと暴行罪になるなら黎ヰを殴るなり蹴るなりしとけば良かったと後悔した
黎ヰ
「俺だと暴行罪にはなんねーよ」
穢佇
「うざい、心読むなよな。でも、なんで」
興味本位で聞いてしまった自分自身に穢佇は、数秒後心底後悔する事になる
黎ヰ
「だって、当たらねーもん♪」
得意気に笑う黎ヰに、いい加減このふざけたやり取りが馬鹿げてきて、飽きを感じる
穢佇
「あっそ。もういいよ…隅田との事、全部話すか認めるかすれば良いんだろ。するから、ちゃんと取り調べしてくんない」
黙秘する理由も必要も失い、全て自供しようとする。穢佇の目的はあくまで、罪から逃れる奴に正当な罰を与える事で、先刻さんざんと聞かされた逮捕者達の裏側を思えば、自分が裁いていた奴らは、果たして本当に正当な罰だったのかどうかは、穢佇が一番理解していた
とは言え、人の考えはそう簡単に変わるはずもなく、いまでも穢佇は軽犯罪や虐め加害者達になんの罰も下されないのはおかしいと思う
だからといって、自分がそれを裁く権利なんてない事も嫌と言うほど身に染みていた。だから…その罪を認める為に取り調べを促したーーなのに…
黎ヰ
「あ?なんで?」
何故か、訝し気な目を向けられ反射的に穢佇は、顔を引きつらせた
穢佇
「……なんでって、は?」
どうしてまともに罪を認め、自供するって言ってるにも関わらず、取り調べしてる方に何言ってんだ?みたいな顔をされなければいけないのか
ムカつくがその理由が分からず、黙る穢佇に追い打ちをかけるように、とんでもない爆弾発言が落とされた
黎ヰ
「俺が言いたかったのは、悪を裁くとか人を守るとかの為に、自分を犠牲にする事はないって事だけだぁ」
黎ヰからすれば、これまたふざけた話だが事件の内容自体は、夏氷の情報と隅田や穢佇の反応を照らし合わせれば、簡単に解けていた
彼が一番こだわっていたのは穢佇が隅田と手を組み、自分を犠牲にしてまで成し遂げたい事の一点のみで、その理由は悪を取り逃す警察に代わって、悪を裁く意志の強さなのだと分かった
そんな世の中の犠牲者になるような真似、誰もがする必要はないし、一人だけに背負わせるものでもない
黎ヰ
「子供達が大事な風十お兄ちゃんを、もっと大事にしてやんな」
呆然とする穢佇は、とてもじゃないが信じられなかった
穢佇
「嘘つくなよ、それだけの為に…何時間も取り調べする訳ないだろ…」
黎ヰ
「だから、してねーじゃん。何時間もしてたのはゲームだったろ?」
穢佇
「いや、そう、だけど」
確かに記憶にあるのは、悪趣味なゲームと終始ニヤケ面の黎ヰの顔だけで、頭を抱えながらもよくよく考えてみれば、一般的な取り調べらしい取り調べはしていなかった
例えば、誘導尋問によりボロを出させるだとか、わざと挑発して冷静さをかかすだとか…されてない。それどころか、事件について新たな情報を聞き出すなんて事も…全くなかった
ゲームと実体験が重なって、感情的になって吐き出したのは全部自分からだ
穢佇
「本当に、それだけの為に、なんだとしたら…んなの最初から…敵わなねーじゃんか、ちっくしょうが」
見てる視点が全然違っていて、穢佇には黎ヰがどうしようもなく、大きな存在に思えた
穢佇
「……ほんっっとーにムカつくから、これだけ言わせてもらうけど」
このまま、何も言わないでしまうと黎ヰの思惑通りな気がして、無性に腹が立った穢佇は、自分の知っている事を話した
穢佇
「俺様が隅田と手を組んだのは、悪を裁く為であって、委員長…娘とは関係ないから。俺様の興味は学校にないし、同じクラスって言ったって、玉ねぎか人参にしかみえてないレベルなんだよ」
蜂笑が紾達に言っていたのは、本当のようで穢佇はおそらく、彼の存在すら認識してないだろう
黎ヰ
「その気持ちは同感だなぁ。興味のない事ってのは、どうしても蔑ろになっちまうもんな」
内心、本当かよと思いながらも軽く受け流す
穢佇
「知ってるんだろうけど、隅田と俺様は犯罪を通した変な関係。一度施設が潰れた時も援助金出して、新しく立て直してくれた。俺様への罪の意識かは知らないけど、お陰で家は失わずに済んだし…まっ支援物資持ってきたり、施設に顔出されるのはウザいけど」
隅田との関係は本人が言ったように、変なものでそこに友人とか家族愛だとか、そんなものは存在していない
しいて言えば、お互いに目的を同じくした者であり、利害が一致した関係性に過ぎない。少なくとも他人を拒む穢佇は、それ以上の関係性なんて望んでいなかった
穢佇
「今の隅田はかなりヤバいのは事実だね。娘を事故に合わせた男…新田は、俺様も知ってる。委員長の交際相手で影上とも群れてたし、隅田は絶対に認めなかったみたいだけど」
そして、穢佇を巻き込み、手を組み世の中の不良を裁いていった
穢佇
「隅田の奴、薬のルートについて嗅ぎ回ってた。なんでも、委員長の植物状態は単に事故が原因じゃなくて、その後に飲んだ薬の可能性があるとか、どうとか言ってた気がする」
黎ヰ
「薬のルート、ねぇ」
黎ヰは妙に引っかかりを覚える
穢佇
「俺様には関係なかったから、あんまし覚えてないけど」
黎ヰはもう一度、穢佇の頭へ腕を伸ばし軽く叩いた
黎ヰ
「貴重な情報提供、あんがと」
穢佇
「?!」
穢佇は、恥ずかしさから腕を払おうとするが、先に引っ込められ空振る
どうせ、ニヤケ面で面白がってるんだろと思うのも束の間、椅子から立ち上がる音が響き、はっと黎ヰの方を見る
黎ヰ
「楽しかったぜ♪穢佇風十」
それだけ言い残し、スタスタと取調室を出ようとする背中に、思わず声をあげてしまう
穢佇
「待てよ!」
黎ヰ
「どうしたぁ?」
穢佇
「えっと、芥川だっけ?俺様がぶつかった弱そうな奴…ごめんって伝えといてよ…」
最後に心残りだった事を伝えた穢佇だったが、本日何度目かの果てしない後悔をする羽目となる
黎ヰ
「ダーメ。そー言うのは、自分で伝えてこそだろ?爪が甘いねぇ」
穢佇
「?!」
取調室を出て行く最後に、あっかんべーとされパタリとドアが閉まる
穢佇
「は、ははは…ははははは…」
怒りをあらわにした笑い声を立てながら、やっぱり警察とか大人なんて大っ嫌いだと強く思った
穢佇
「なにアイツ、子供じゃん」
悔しさから絞り出した声は、どこかスッキリとしていた
穢佇
「自分を…犠牲にか…」
どうしてそんな事を言う為に、アイツはわざわざ時間を費やしたのか…少し考えてみたくなった
脳裏に浮かぶのは、元気に笑ってる施設の子供達で、汚い大人や世の中から守りたいって思ったのは嘘じゃない
『子供達が大事な風十お兄ちゃんを、もっと大事にしてやんな』
アイツは俺様が大切にする子達の為に、自分を大切にしていいんだと言った。それと同時に、守る為に自分を犠牲にする必要はないんだとも…
矛盾してんじゃんって、ちょっと前なら思ったかもしれない…でも、なんとなくその意味が、少しだけ分かる気がする
『大事な風十お兄ちゃんが自分達の為に手を汚してるって知ってもか?』
何故だか、ずっと耳から離れないその言葉に、無意識に口が動いた
穢佇
「んな訳ないじゃんか………バカ」
震えた声音は小さい取調室に響き、それはまるで今までの自分に、返ってきているかのようだと穢佇は思った




