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10/26 もしかして、好かれてる?

■■OCTOBER 26 SATURDAY 19:52

■■LOGIN



 本日三回目のログインだ。


 さてと、久し振りに渚のところにでも掛けてみるか。



■■OCTOBER 26 SATURDAY 19:54

■■CONTACT TO 市川渚



「もしもーし」


 …………。


 最初、出るまで時間が掛かるんだよな。電話と違ってパソコンを立ち上げる時間が必要だからな。


 まぁ、もうちょっと待ってみるか。


 …………。


「おまっとさん」


 おっ、ようやく出てきたな。


「こんばんは、久し振りだね。と言っても二日振りか」


「二日振りか。君ってよく掛けてくる方だっけ?」


「俺? そうだったっけ? よく覚えてないな。

 でも、君がこっちに連絡を取ってからまだ一週間も経ってないしね」


「そっか。君って何処に住んでるの?」


「田舎だよ、い・な・か。さすがに超ド田舎じゃないけどね」


「いやぁ。田舎か。ちょっと都会から離れて田舎の青年も良いなぁ」


 良いなぁ、ってなんのことだよ。


「知ってると思うけどさ、ここって東京とは比べられないけど、都会の方でしょ。そんなもんだから男のタイプが似てるのよね」


「男のタイプ?」


 何か変な会話してないか?


「そう、垢抜けているっていうの? そう考えると、田舎の方が垢抜けない清純タイプもいるんじゃないかなって思ってね」


「俺もそうだけど、田舎だからそういうやつも多いさ」


 俺、誰と会話しているんだ?


 何だか別人と話してる感があるのは、気のせいだろうか?


「君ってこっちに来れる? ちょっと私と付き合ってみない?」


 んんっ? マジで言ってるのか?


「何、無視してるのさ。ちゃんと聞いてる?」


「聞いてるけど」


「それなら、こっちからそっちに行ってもいいんだけどね」


「まぁね」


 どうなってるんだ、これ?


「結局は会えないってわけか。なんだかおひえ@\」


 何かおかしくなったぞ?


「おーい。どうしたんだ?」


 …………。


 どうなってるんだ? 何だか急に応答しなくなったようだけど。


 もしかして暴漢に襲われてるんじゃないのか?


「おい、渚! 大丈夫か?」


 …………。


 困った。


 どうする。


 何だか嫌な雰囲気が漂ってきたぞ。


 モニターの先で何かが起きていても、こっちは何もできないなんて、ど、どうしよう。


「おい! いるのか!」


 やっぱり出てこないよ。


 どうしちゃったんだろう。なんだか、こうしてただタイプしてるなんて馬鹿馬鹿しくなってくるよ。


 しばらく様子を伺ってみよう。


 …………。


「あっ、ゴメン。心配してた?」


「無事か!」


 どうやら無事だったみたいだ。


 一安心だ。


「あれ? 表示されてる文章を読んでみると、結構心配してたみたいだね」


「心配も何も、暴漢に襲われたんじゃないかって、マジで思ったよ」


「ゴメンゴメン。

 本当に困った娘だよ、あの娘は!」


 ん? ということは。


「やっぱり、別人だったのか」


「別人もなにも、極悪人だよ。藤田理恵。こっちの女子高では超が付くほどの派手好きで厄介者だよ」


「そいつが何で君の部屋に?」


「私って、寮に入ってるんだけど、そいつが私の筋向かいの部屋でさ、時々私のところに来ては、CDを借りてくの。

 別にそれだけなら良いんだけど、今回の事件。そう、さっきの君からのコンタクトに応答までしちゃうんだよ。明後日学校に行ったら、この事みんなに言いふらしてやる。ほんとに頭に来るんだから」


 本当に頭に来てるようだな。


「君さ、さっきの言葉にふらふらって来てない?」


「いやいや、全然」


「本当かな? 確認の為に、ちょっと調べさせて貰うから、ちょっと待っててね」


 どうやら、さっきの会話の内容を調べてるようだ。一応、これには一回の会話ログを記憶してるから、そんなの簡単なのだ。


「どうやら、大丈夫だったようだね。もう、そんなに田舎に行きたいのなら、とっとと出ていけばいいんだよ」


「まぁ、まぁ」


「ここって割と方言のある地域だけど、あの藤田理恵ってそれ嫌いだからって標準語を使ってるんだよ。しかも、発音とかもまるっきり標準語。

 さらに付け加えて、コギャルの言葉までべらべら使っちゃうんだから。それなら、東京に出れば良いんだよ」


「そう言えば、君って前に会った時もそうだけど、標準語喋ってるよね。標準語より東京弁だけど」


「だって、私って東京から出てきたんだもん」


「はぁ?」


 それは初耳だ。


「生まれも育ちも東京で、中学までいたんだけど、おじいちゃんたちが年取ったから、私の中学卒業を期に親父の実家に戻ってきた感じ」


「そうだったんだ。その割には寮生活なんだ」


「女子校に憧れてたんだよね。そんな理由で高校を選んだら、家から遠くて寮生活になったんだ」


 そんな理由で高校を選ぶんだな。


「今思うと、寮生活なら、東京の女子校でも良かったんじゃないかなってね。友達も東京にいるしさぁ」


「ごもっともな話だ」


「それでも地元にも女子校があったけどさ、私って頭が悪くてさ。

 だから遠くなっちゃったんだ。本当に頭悪いんだよ」


「そうなのか」


 何だか画面向こうでため息を付いている渚の姿が容易に想像つく。


「ちょっと、納得しないでよ。

 君に誤解されると困るから、もっと良い言葉を選んで言うけど、こう見えても、順位はいい方なんだよ。

 ただ、地元の女子校は進学校で厳しかっただけで」


「そうだったんだ。

 でも、俺は別に君が頭が悪くたってどうも思わないよ。渚は渚だし」


 とりあえずフォローは入れておく。


「やっぱり優しいんだね。第一印象からしてそんな気がしたよ」


「第一印象って?」


「割と話しやすいタイプかなってね。

 夏に会った時からそう思ってた」


 本当の所はそんなタイプじゃないけどね。


「でも、本当に頭が悪くて、おっちょこちょいで、バカでマヌケで、顔は……そこまで入れちゃうと考えようかな。そんな人でも、連絡入れてくれる? 君は」


「よほどのことがない限り心配ないよ。

 ちなみに、俺は外見で選ばないよ。問題は中身だよ」


 なんて、カッコつけちゃったりして。まぁ、本当に外見で選ばないのは事実だぞ。


「そうか、そんな君は希少価値大ありだよ」


 それは言い過ぎじゃないか?


「でも、藤田理恵が『付き合ってみない』って言ったのに対して、君は何も答えなかったけど、それまでは私だと思って話してたんでしょ?」


 相手が渚にせよ別人にせよ、突然のあんな質問、心構えがなければ答えられないよな。


「やっぱり何も答えないんだね。

 あー、だめだめ! こんな調子じゃ明日も頑張れないぞ、市川渚!」


 なんだか渚の様子が変わった気がする。


 俺、もしかして、好かれてる? うぬぼれてるかな?


「うん、この話はやめよう。

 それにしても、まさか君とあの理恵がコンタクトしてたのを見た時にはビックリしたよ。私、その時ちょうどお風呂に入ってたからね。

 それに、これがテレビ電話じゃないことに感謝するよ。あんな場面を映されたらたまったもんじゃないよ」


「一体何が起きたんだ?」


「もう半分喧嘩だったよ。口じゃないよ、手と足」


 足まで使うか。


「これは嘘。口だよ、口。

『もう、なんで理恵が出てるのよ!』『いやぁ、まさか男だとはね』『もう、ぶっ殺されたくなかったら、さっさと出ていきなさいよ』ってな感じかな?」


「…………」


「あっ、態とらしく『……(てんてん)』なんて使ってる。これも冗談よ、ちょっと尾ひれを付けたんだから」


 意外と事実だったのでは?


「と、とにかく、今日は変わった一日だった気がするな」


「わたしもだよ。

 えっ? 接続時間が四〇分も経ってる。

 もう、理恵が来なかったらもっと話せたのに。通話料かかってるのに。あいつに最低でも一〇分ぐらいのお金をせしめなきゃ」


「まぁ、ほどほどにな」


「それじゃ、切るね。おやすみ」


「あぁ。おやすみ」



■■SHUT DOWN



 あーあ。何だか疲れたな。


 まさか別の人が出るなんて思ってなかった。


 それにしても、渚の様子が変わった気がするが、気のせいだろうか。


 さて、今日はこれで終わりにするか。


 それじゃあね。


 あー疲れた。


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