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10/24 バイト先の悩み

■■OCTOBER 24 TUESDAY 20:23

■■LOGIN


■■OCTOBER 24 TUESDAY 20:24

■■REQUEST FROM 市川渚



 渚からリクエストがかかっているな。



■■OCTOBER 24 TUESDAY 20:24

■■CONTACT TO 市川渚



「あっ、いたいた」


 再開したらいきなり通信が掛かってくるんだから驚きだ。


「さっきパソコンを起動したばかりなんだ」


 時間を見ると、ログインしてから一分も経ってない。


「朝起きて、パソコンを立ち上げてみたら、君からメールが届いてるから、今日一日は気が気でなかったよ」


「それは言い過ぎじゃないか?」


「わたしって、ちょっと心配性なんだよね」


「心配性?」


「そう。親しい友達が学校を休むと、その日は『あー、あの娘、どうして今日休んだんだろう。もしかしたら事故でもあったんじゃないのかな?』って、もうそればっか。新しい友達とかなんて特にだよ」


「それは『ちょっと』じゃなくて『かなり』の心配性だね」


「だから、君からのメールを読んだら、心配させちゃったかなとか、そんなことを思っちゃってね」


「いや、君の体を心配するメールに、君が心配する必要はないよ」


 本当に心配性だ。


「今度からそうするよ」


 それより、昨日のメッセージにあった、バイトの方が気になる。


「それより、バイトって何をやってるんだ? 疲れるバイトをしているのか?」


「わたしってファミレスでバイトしているんだけど」


「ファミレスでバイトしているのか」


「そう。いつも大体一〇時近くまで仕事しているんだけど」


「結構遅くまでやっているんだな」


「実はね、ちょっと変な客に付きまとわれちゃってね」


「昨日のメールにあった、客とちょっとあったって、そのこと?」


「そう。やたらわたしに声をかけてくるのよ。『いつバイトしているの?』とか、『どこの高校に行っているの?』とか」


「変質者的なやつだね」


 この年はまだ『ストーカー』という言葉は定着してなく、『変質者』と呼ばれていた。ストーカーという言葉が広く広まったのは、翌年のテレビドラマ『ストーカー 逃げきれぬ愛』や『ストーカー・誘う女』が放送されてからである。その言葉が広く認識するに伴ってストーカー被害も増えていった。


「これが三回ぐらい続いたのよ」


「ちょっと、大丈夫なのか?」


 三回も続いたって、なんか心配になってきた。


「でね、店長にこんなお客がいて困ってますって相談したら、普段ストレスの発信源でしかない店長がそのお客に対応してくれたの」


「店長が頼りになった事より、ストレスの発信源と言われたことに強烈なインパクトがあるのだが」


「まぁ、それは事実だけど、その話は置いといて、店長が対応したおかげでその客は出禁になったのよ」


「それは良かったじゃないか」


「あのストレスでしかない田中が、あの時はたくましく思えたよ」


「店長から田中に格下げされたよ。さっきから酷い言われようだね」


「だって、嫌われやすい上司の典型的な店長なんだよ」


「仕事が細かいとか、横柄な態度とか、従業員によって態度が変わるとか?」


「そうそう、それそれ。

 手とか口は出ないけど、視線が胸やお尻に向くことあるもん」


「準セクハラか。渚にやらかす恐れがあるので、俺的にはアウトだ」


「そうだよね。

 口だけじゃなくて、手も出してきたらどうしよう」


「話が大げさになるかもしれないけど、そうなる前に辞めるべきだな」


「本当に大げさになってきたね」


 確かにたまにあるいやらしい視線だけで、バイトを辞めるというのは大げさかもしれない。


「でも、例の変質者が出禁になったとはいえ、外で待ち伏せしている可能性もあるし、なによりも、受験でバイトなんてやってられないんじゃないのか?」


「そうだよね。バイト二つも掛け持ちしている場合じゃないんだよね」


 はっ? 掛け持ちだと?


「掛け持ちしているのか?」


「ファミレスと喫茶店のバイトをね」


「なら、なおさら辞めても良いんじゃないか?

 変質者、ストレスのある環境、受験、それだけじゃなくて、君の身体も心配だよ」


「身体?」


「掛け持ちしているって事は、毎日バイトしているってことだろ? それじゃ、いつか体を壊すよ。

 それに、ストレスのある環境は精神衛生上、よろしくないよ」


「わたしのことを気にしてくれるの?」


「そりゃそうだよ。

 大事な友達の健康を気にするのは当然のことだよ」


「分かった。バイトのことを前向きに考えてみるよ。わたしのこと大事にしてくれる友達の助言だからね」


「そうしてみてくれ」


「それにしても、夏に会った時もそう思ったけど、君は本当に真面目に考えてくれるね」


 あぁ、そういえば、夏に初めて会った時もそんな事言われたな。


「君はいとこのお兄ちゃんみたいだよ」


「なんだ、それ」


 何かの言い回しか?


「内緒だよ。

 それで、話は変わるんだけど」


「うん、なに?」


「ちょっとパソコン通信に関して教えてほしいんだけど」


「パソ通に関してならどんとこいだ」


「ほら、前、パソコン通信を始める切っ掛けって姉貴がやっているのを見たからって言ったよね」


「そういえば聞いたね」


「その時、姉貴は大勢の人たちと会話をしていたんだけど」


「喫茶店のことだね」


「喫茶店? コーヒーやナポリタンが出てくる?」


「いやいや、リアルな喫茶店じゃなくて、このホストに喫茶店というところがあって、そこでは複数人でチャットができるんだ」


「どうやってやるの?」


「えっと、パソ通にログインしたら、いくつかメニューが表示されていると思うけど、その中に喫茶店って項目あるから、それを選ぶんだ」


「その喫茶店を選べばいいのね?」


「喫茶店の項目の中にいくつか店があるんだけど、俺が良く利用しているのはカフェテラスっていう店だ。やるようだったら来てくれよ」


 他の通信会社では喫茶店をチャットルーム、店のことを部屋とか呼んでいるところもある。


「ちなみに、俺のハンドルネームは白滝だよ」


「変な名前だね」


「変な名前なんてたくさんいるよ。前に話した奴なんて、弁慶とかサンとか丹下とか、他にはモズクとかカレイとか。面白いのがコンパ。何だか毎日酒を飲んでそうだよな」


「そうなんだ。それじゃ、わたしもやってみようかな」


 この調子だと、喫茶店に来てくれるのかな? 今のうちにハンドルネームを教えてもらった方がいいよな?


「ハンドルネームって、自分の名前を隠すことで本性を露わにできるから、知ってる相手でもペラペラ喋れるんだ。

 だから、ハンドルネームは使った方がいいよ。もし、決まったら教えてくれよ」


「それなら、ハンドルネームを教えない方がいいんじゃない」


 うぐっ、余計なことを言ったか。まぁ、渚のハンドルネームが分からなくても、出会えば気づくだろう。


「何にしようかな。なぁんて、今から決めちゃったりして。

 時間が空いてたら喫茶店にも顔を出すから。

 もうこんな時間。それじゃ、気分がいいところで切るね」


「あぁ」


「うん。それじゃあね。

 おやすみなさい」



■■SHUT DOWN



 割と長話しちゃったな。まぁ、たったこれだけの会話文だけど、文章を打ち込むから話すより結構時間が掛かるんだ。気付いてみたら三〇分を越えていたなんてザラだからな。


 まだここのホストは接続料金無料だから、電話代だけで済むけど、大手の通信会社だと電話代の他に接続料金も掛かるから、金がかさむんだ。


 それにしても、渚のバイトは大丈夫だろうか。身体に悪そうだし、変質者もいるようだし。


 あと、渚に喫茶店を勧めたけど、そのうち来てくれるのかな?


 さて、この後だけど、今夜は喫茶店にいかずに大人しくしているつもりだ。昨日の弁慶の『呪い殺す』ってのが目に焼き付いてるから、もし喫茶店でばったり出会ったら大変だ。


 喫茶店に出るのは明日にするか。


それじゃあね。


現代2022年に再放送を果たし、1996年のこの年に放送された連続テレビ小説「ひまわり」。

このドラマで、ストーカーの怖さが各放送局に知れ渡り、翌年に本文の2つのドラマが放送され、「ストーカー」という言葉が一斉に広まった。


『あのドラマはストーカーを増やした』と思った方は下の☆☆☆☆☆を★★★★★を、

『接続するのに電話代がかかるなんて』と思った方は下の☆☆☆☆☆を★★★★★にお願いします。

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