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10/23 カフェテラス

■■OCTOBER 23 WEDNESDAY 22:40

■■LOGIN



 今ログインしたこのパソコン通信について、詳しく説明する必要がありそうだ。


 俺が利用しているパソコン通信のホスト『ネットシティ』は、いわゆる草の根BBSと呼ばれるグループの一つで、その中では比較的規模が大きく、各地にアクセスポイントもある。加入者数も五千人と草の根BBSの割には多い方だ。


 余談だが、この五千人という数字は全盛期の数で、今やインターネットに押されて千人を割ってしまっていた。


 この草の根BBSとは企業が運営しているわけではなく、個人が運営するパソコン通信のホストである。その為、ホストによって利用できるサービスが異なっている。


 このネットシティは大手のニフティサーブやPC-VANのように、利用料金を払うことなく大手と同等のことができる所なので、俺としては重宝している。


 だから、アクセスポイントまでの電話料金のみでパソコン通信をしている感じだ。


 そう、毎回あの独特な接続音を聞き、電話代にビクビクしながら通信をしているのだ。


 とりあえず、パソコン通信についてはこの辺でいいだろう。


 勉強を早めに切り上げて渚に連絡しようかと思ったけど、こんな時間になってしまった。確か、昨日の渚の話ではバイトで遅くなるから、一〇時以降は良いって言ってたな。



■■OCTOBER 23 WEDNESDAY 22:48

■■CONTACT TO 市川渚



 あれ?


 俺宛の応答メッセージがあるな。



■■OCTOBER 23 WEDNESDAY 22:12

■■MESSAGE FROM 市川渚



「ごめんね。昨日は連絡ちょうだい、なんて言ったのに。

 バイト六連チャンってこともあるけど、客とちょっとあって、なんだか疲れちゃったから今日はこれで寝るね。

 詳しいことは明日話すから。

 おやすみなさい」



■■CLOSE



 この一対一のトークには、このようにメッセージを残す機能がある。それは、コンタクトを取った全員に対して、だったり特定の相手だったりと、通知相手を指定することができるネットシティ特有の便利機能だ。


 それよりだ。客と何かあったようだけど大丈夫かな。それ以前に六連チャンとか、割ときついバイトしてるのか?


 一応、返信しておくか。



■■OCTOBER 23 WEDNESDAY 22:55

■■MAIL TO 市川渚



「お疲れさーん。メッセージを見てしまいました。

 これを見たのは明日の朝なのかな? 余りきついバイトをしてると体に毒だぞ。

 まっ、余り気にしてないから。ゆっくりと休むといいよ。

 といっても、授業中に寝てちゃいけないぞ。人のこと言えないか。

 てなわけで、今日(二四日)も頑張ろう」



■■CLOSE MAIL



これでいいだろう。


 それじゃ、余った時間は適当に喫茶店でも行くか。


 おっと、喫茶店と言ってもコーヒーやナポリタンが出てくる、あの普通の喫茶店のことじゃないぞ。


 よその通信会社ではチャットルームとかOLTオンライントークとか言われている場所のことを、ここでは喫茶店と呼んでいる。


 一対一ではなく、三人以上のチャットはこの喫茶店を使うのだ。


 幾つもある喫茶店のうち、俺がいつも利用しているところは『カフェテラス』という名前だ。


 全員で二〇人ぐらいいるはずなんだけど、ふだんはせいぜい五人ぐらいしか集まらない喫茶店だ。



■■OCTOBER 23 WEDNESDAY 22:58

■■CONTACT TO カフェテラス



(白滝)こんばんはー。


 ここでは俺は白滝って言うハンドルネームを使っている。変だって? 変で悪かったな。


(弁慶)おっ、白滝じゃないか。話がつまらないのなんのって。


(白滝)一体誰がいるんだ?


(弁慶)俺とサンと丹下だ。


 丹下。これって「たんげ」って読むんだよな?


(弁慶)おーい、聞いているか。>白滝


(白滝)聞いてる聞いてる。


 こうやって文章を挿入していると、さっきみたいに書き込みが来るんだよな。


(サン)さっきまでバイクの話をしていたんだ。だけど、俺や丹下とは趣味が合わないらしくてね。


(白滝)俺だって詳しくないぞ。バイクのことは。


(弁慶)とにかく、話を聞いてくれよ。そのバイクに乗ってたら対向車線から大型トラックがはみ出してきたんだ。


(白滝)そりゃ危ないな。


(弁慶)それでかわした時にハンドル取られて転んじまって、バイクには致命的な傷が残っちゃったんだよ。


(白滝)それで生きているんなら、バイクだけで済んで儲けもんじゃん。


 下手したらトラックと正面衝突で即死していた案件だ。


(丹下)悪運が強くて良かったな。


(弁慶)悪運が強かったのは認めるが。


(サン)きっかけはどうあれ、自損事故になるのか。


(弁慶)もう悲しくて涙がちょちょぎれちゃうよ。


(白滝)それで、怪我はなかったのか?


(弁慶)ちゃんとライダースーツを着てたからな。


 バイク乗りはライダースーツって大事だな。


(丹下)だから、新しい奴買うんだってさ。くだらないね。


(弁慶)くだらないとはなんだ! あのバイクはCB750Fの初期型、FZなんだぞ!>丹下


(白滝)なんか良くわからないけど、思い入れがあるみたいだな。


(サン)バリバリ伝説に出てくる愛車か。


(弁慶)おっ、サンは知っているのか?


(サン)一応、最後まで読んだだけで、バイクにハマることはなかったけどさ。


(丹下)知らんな。


(白滝)俺も。


 漫画か何かか?


(サン)まぁ、知らんやつは、ナナハンって言葉ぐらい聞いたことあるだろ。


(丹下)なんかバイク乗りはナナハンにこだわる奴いるよな。


(弁慶)六年前に規制解除になるまで、日本では750ccが最大排気量だからな。


(サン)その規制解除する前から乗っていた愛車か。


(丹下)大事なもんだったら乗るなよ。


 何だか相変わらずの丹下だな。


(弁慶)だから丹下は嫌いなんだ。


(白滝)バイクは傷だけで済んだんだよな?


(弁慶)一応な。立派な傷はあるけど走れることは走れる。


(サン)俺なら買うより修理に出すけどな。


(白滝)同感。


(弁慶)なぁ、サンに白滝。俺の新しいバイクを買う金を分けてくれ。


(白滝)自分で買え、そんな金がねーよ。


(サン)スプレーで誤魔化せよ。


(弁慶)誤魔化せただけでは気が済まぬ。


(丹下)あーあ、つまらないな。それじゃ、先に寝させてもらうわ。あーあ、本当につまらないよ。>おやすみ、みんな


(サン)それじゃ、俺もそうするか。またな、もう一一時半だよ。


(白滝)俺もそうするか。


(弁慶)おまえも俺を見捨てるのか。>呪い殺すぞ白滝


 何だか怖いな。


(白滝)とにかく、サンの言う通り、スプレーで誤魔化せ。それじゃあな。>弁慶


(弁慶)ぬぉぉー! みんなの馬鹿野郎ー!



■■SHUT DOWN



 やってられないよな。癒やしに来たつもりが、逆に何だか疲れてきちゃったよ。


 とにかく、今日はさっさと寝るか。


 おやすみ。



*ダイヤルアップ接続音

 あの独特の接続音。21世紀生まれの子は聴いたことのない音。ユーチューブで検索だ!

*バリバリ伝説

 オートレースを題材としたしげの秀一の漫画。主人公の愛車がホンダ・CB750Fである。 


『パソコン通信やってた!』『チャットやってた!』『てか、ほんとダラダラだな』と思った方はブックマークや下の☆☆☆☆☆を★★★★★にお願いします。


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