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薔薇の棘ってやつですね……

目標の6000文字よりちょっと少なくて、ごめんなしゃい……。

 さて、やはり写真は消してくれないようです。

 じゃなかった。

 さて、明日は始業式と言う事で、普段通りの授業はありません。

 宿題の提出やプリントの配布、明日の入学式での大雑把な流れの説明を終えて帰宅です。

 疲れる要素が微塵も見当たりません。

 それなのに何故、わたしは朝のホームルーム前に、こんなにも疲労困憊なのでしょうか。


 教室でぐったりしているわたしの隣には、ついさっき撮った写真を映した携帯を片手に、わたしの頭を撫でる小響(さざめ)さんがいます。

 はあ、二人とも身長が高すぎてわたしの手に負えません。

 今朝からパシャパシャ、パシャパシャ…………耳に残ったこの音がフラッシュバックしてしょうがありません。カメラだけに顔も赤面(フラッシュ)ってか?

 …………………………………………。

 はあ、ここまで来たらもう諦めます。なんか、わたしの写真でそこまで嬉しそうにしてくれるなら、わたしなんかもうどうにでもなれば良いです。

 …………さっきのは、気にしないで下さい。


 あ、そういえば、由紀さんの……ゆきさんの?

 …………亀ヶ谷さんに何か用があったんじゃないんですか、小響さん?

 ただの言い間違い……思い違いです。キニシナイデ、クダサイ。

 わたしは鉛でも詰まっているんじゃないかという、ボーリングほどの重さ自分の頭を持ち上げて小響さんに尋ねます。


「さっき、亀ヶ谷さんを探してたのは良いんですか?」

「一目見て分かったから大丈夫よ」

「……?」


 …………何をですか?

 何の説明もない感じですか?

 まあ、小響さんがそれで良いなら、良いんですけども…………。

 何を見て何を理解したんですかね?


「すっかり可愛くなっちゃって、撫で甲斐があるわね」


 やっぱり気になりますけど、終わった話は良しとしましょう。わたしは小響さんの笑顔が見れて満足です。

 べ、別に、撫でられて、嬉しい、とか、おおおおおお思ってななななななないですけど? こここここここの柔らかい手で、いいいいいい癒されてるとか……そそそそそそそんな事は………………。

 ………………あれ、いつの間にか小響さんの手が、わたしの頬に?

 目の前には五大美人とまで言われる小響さんの美しいお顔が……。

 あ、あああのッ!? ど、どうか致しました?


「あ、そうだったわ。ねえ、小雪ちゃん?」

「…………ふ、ふぁい?」


 小響さんは首を妖し気に傾げ、わたしの目を見据えてニッコリと笑みを浮かべて、言いました。


「そのヘッドフォン可愛いわね?」

「へっ!? いや、その…………えっ……と…………」


 嫌にホクロが目立ちます。

 細く鋭い瞳でカエルを見据えるヘビでも想像してみれば、分かりやすいかもしれません。

 カエルはわたしです。

 わたしは頬にある手のひらから伝わってくる温度に羞恥しつつ、妖艶な光を放つ鋭利な視線に刺された気分で、背筋が凍るような感覚を覚えます。


 それ、笑ってます……よね?

 人は口を弓なりに曲げて、目を細める事を『笑う』と表現します。

 因みに人は『笑って』いるからといって、一概にハッピーだとは限りません……。


 しかし、褒められてます。

 わたしは褒められています。

 ヤッターウレシイナー。


 そう、わたしは言い聞かせます。

 自分自身にです…………。


「歌とか…………好きなの? 趣味?」

「あ、っと……え…………しゅ……す、すこし……」


 小響さんの瞳がギリギリまで細められ、不気味な音を立てて弓なりに曲がっていきます。ゆっくりゆっくり、矢が放たれる直前の弦が弓をギリギリとしならせていくようにです。でも、その細められた瞳の間からは、畏怖すべき耀(ひかり)がギラリとわたしを見据えています。


 アーイイテンキダナー。

 マドカラ、ケシキガ、ヨクミエルナー。


「こっち、見れるわよね?」

「へふっ、ひゃいッ!?」


 おっとっと!? 反対の手もわたしの頬に!

 これでわたしの顔は小響さんの手にサンドイッチ……とか言ってられる程、度胸はありません、わたし。

 逃げ場がありません、エンディング曲が流れ始めています。

 バッド・エンドが近い様子。


 ……………………(汗)。


「音楽……聞くのね?」

「ひゃ、ひゃい…………!」

「聞くだけ? 歌ったりするのかしら?」


 もはや小響さんの口が鼓膜に直接振動を伝えているかのように、小響さんの声だけが聞こえてきます。

 視線を外す事すら許されない様な重くズッシリとした空気が、小響さんから放たれている様にしか見えません。黒髪が黒い怒りのオーラとでも言えば良い程に燃えています。


 ブンブンブンブンッ!!

 いさぎよく、うなずく、おとです。


「そう、歌うのも好きなのねえ?」

「……………………」

「私達、友達、よねぇ?」


 ブンブンブンブンッ!!!!

 もち、ろん、です。


 そう頷く私を見つめ、瞳はわたしを見据えたまま一度顔を逸らします。

 そして演技掛かった様子で、丁度今気付いたかの様に驚嘆の声を上げます。


「そうよねぇ。あら? でも私、一年も一緒にいるのに、趣味の事、()()()()()()()()?」

「…………………………………………」


 額と言わず体の至る所から、凍るような冷たさの汗が、焦る私を滝のように流れていきます。

 しかし、手を当てられた頬だけは燃えるように熱くて、それが伝導するように顔中が火照っているのが、嫌でも伝わってきます。

 その熱が伝わっていないかどうか何て今は気になりません。

 目の前では怖い程(わら)った顔が傾げられて、流れるような艶のある黒髪が洗脳でもするかの如く、ユラユラ、ユラユラ、揺らいでいます。

 わたしの口は催眠術にでもかかったかのように、上手く動かす事が出来ません。


(汗)(汗)(汗)。


「ねぇ……小雪ちゃん? なぁんで、教えてくれなかったのぉ?」

「…………………………………………しゅ、しゅみま……しぇん…………」


 絞り出す様にして出た掠れ声は、歯の鳴る音に搔き消されていきました。


 ガタガタガタガタッ。


 あごの、ふるえる、おとです。



     ◇◆◇



 オトモダチ、カクシゴト、ヨクナイ。


 一つ教訓を得ました。


 でも、やっぱり言うのは気が引けます。

 幼馴染の親友と一緒に歌い始めた時からもう…………ええと……いち、にい、さん、しい………………じゅう? あ、じゅういち年だ。

 十一年になりますが、わたしが歌う事を知っている人は相当少ないです。友人の数に比例して…………。

 それに、歌っている動画をNewtubeに投稿して、所謂(いわゆる)『歌い手』なんて者でもある、この身の上。軽々しく口にすれば、ネットで調べられて簡単に見つけられてしまうかもしれません。

 簡単に見つけられる程、有名に成ってはいないですけども…………。

 登録者、何人だったかな? えっと、去年…………見たっけ? 一昨年は確か五千人とかだった気が…………。

 話を戻しましょう。

 親友はもう遥か高みへと登っていって、確か昨日見たのが、五十七万八千六百人ぐらいだった筈です。

 流石ひいちゃん! この前なんかテレビで『歌みた』が流れるくらい有名に成ってしまって…………親友として嬉しい限りです。そんな有名人の心の片隅に存在出来るなんて、光栄極まれり。

 またいつか、一緒に歌いたいなあ…………。

 ……いちミリも話が戻ってませんけども、要するに、恥ずかしいものは恥ずかしいんです。


 そんな事を思いながら、午前中の卒業式の会場設営は終わらせました。

 ぼーっとしながら設営のお手伝いしてましたから、いろんな人に迷惑かけた気がします。人に注目された出来事なんて、思い出したくありません。


「パイプ椅子、重かったです」

「身も蓋もない感想じゃん?」


 隣では金髪にハッキリと主張をする黒い瞳で、ふわりと覆うポニーテールと第一ボタンの開いたシャツの襟に隠される(うなじ)を強調する様に付けられた首飾り(チョーカー)によって首の細さが際立つ、高身長美人ギャルJKの亀ヶ谷さんが、わたしの歩幅に合わせて歩いています。


「だって……わたしは亀ヶ谷さんみたいに運動部にも入ってないですし、筋肉もないです。疲れました」

「サナギちゃん力弱いからね~。なんでか肺活量はあるけど」


 プリント類の配布、提出が終わり、入学式の上級生の入学式での動きを軽く説明されましたが、終わり次第会場設営に駆り出される事は、聞いてませんでした。

 現在、体育館から教室へ疲れた足を引きずって移動中。

 疲れた腕をもみもみ、ちょっとだけ、隣の乱れ風紀委員さんに愚痴を溢します。


「うう、風紀委員だけで、設営終わらなかったんですか?」

「もともと、風紀委員がする予定じゃなかったんだけどね?」

「そうなんですか? 」

「そ、だから愚痴りたいのはお互いさま」

「ご、ごめんなさい…………」


 どちらにせよ設営はする事になっていたようです。

 ああ、指がひりひりします。

 周りの皆さんは、軽々と片手に二脚ずつ椅子を持ち上げていましたけど、わたしには両手を使って二脚が限界です。終いには運動部の方々が、わたしの分の椅子を何脚か運んで行ってくれました。因みに、見ず知らずの生徒に、お礼を言う勇気はありませんでした。

 というかそれ以前に、人の沢山集まった体育館に長時間居て、身も心も疲れ切っています。

 あう、えう、言って、されるがままでした。


「サナギちゃんも普段から運動しとけば良いのに。バド部来ない?」

「え、遠慮、します…………というか、その『サナギちゃん』って何ですか?」

「新しいあだな」


 何を今更、といった様子で亀ヶ谷さんは子首を傾げます。

 ……そ、そんな目で見られても。

 と言うか、イモムシより成長したけど、イモムシより可愛げがないです…………。


「『イモムシちゃん』は嫌だって言うから」

「まだ、『イモムシちゃん』の方がマシなような気が…………」


 そんな話をしていると、小響さんがわたしの横から現れました。

 立てば芍薬(シャクヤク)、座れば牡丹(ボタン)、歩く姿は百合(ユリ)の花な、小響さん。

 上機嫌な様子を隠しもせず、わたしの顔を覗き込んできます。

 ()()()


「私も混ぜてもらえないかしら? 私達、お・と・も・だ・ち、よねぇ?」

「ひゃ、ひゃいッ、ヨロコンデッ!?」

「……………………?」


 まだ怒ってたああああああッ!!

 

 只ならぬ小響さんの様子を見てか、亀ヶ谷さんが半目でわたしに耳打ちしてきます。


「なに、さざめっち怒らせたの?」

「えと……ちょ、ちょっと……か、隠し事、と言うか……恥ず、かしくて、言え……なかった、と言うか…………」

「あら? また、私に、()()()、小雪ちゃ~ん?」

「ひ、ひえッ!?……ちゃッ、ちゅあ、ちちち違い、ましゅッ!」

「なぁに? 私たちのために一曲歌ってくれるの? 嬉しいわあ!」

「え゛」


 そんな話聞いてませんけども……これ、断ったら…………。

 しかし、わたしだけでどうにか出来そうな雰囲気ではありません。

 小響さんの細められた瞳が、『逃がさないわよ?』と言っています。


 どどどどどうにか、回避する方法はッ!?


 視線だけで辺りを見回しても友人が他にいるわけもなく、結果、縋りつく先はギャルを除いて他にいません。文字通り。

 どうか、どうかッ! だずげでぐだざい゛!!


「サナギちゃん………………歌えるの?」


 そっちに食いつくなああああああッッッッ!!!!

 好奇心の赴くままかッ!? いや、今ちょっと小響さんの方確認しましたよね!? 『あ、これ賛同しいた方が良いヤツだ』って目してましたよねッ!? 小響さんが怒ると怖いのは、由紀さんも知ってますもんねッ!?

 まずいです、このままだと本当に私が歌う嵌めになってしまいます。

 はやく! はやく否定しないと!!

 焦って口が回りませんが、今は気にしている場合ではありません。


「い、いや、でででででもッ、わたし、そんなに上手く歌えない、ですッ!」

「別に上手く歌おうとしなくても良いのよ? ()()()が、可愛く歌う姿をみたいだけなの」

「サナギちゃんには悪いけど、あたしも気になる!」


 あんた容赦ないのかッ!?

 とことん小響さんの味方するじゃんッ!!


「じゃあ、今度、携帯で動画を撮って見せてね?」

「ふえッ!? でででででもッ!」


 どどどどどどどどどっどーうがッ!?

 嫌ですッ!?

 何でよりによって動画を見せなきゃいけなくなるんですか!?


「嫌なら、一緒にカラオケにでも行く?」

「動画撮ってきますッ!」

「うふふ、楽しみにしてるわね?」


 手を叩いて嬉しそうに、妖艶に微笑みます、小響さんです。

 わたしは……わたしは…………、何でもないです。

 後ろで亀ヶ谷さんが若干安心したように、ホッと胸を撫で下ろしているのが見えます。小響さんは怒ると怖いです。それはわたしと亀ヶ谷さん、二人ともよ~く存じ上げているので、わたしも内心同じように安心しています。

 してはいますが、結局歌う嵌めになってしまいました。隠してきた私のささやかな特技を披露する事になり、もう今から恥ずかしさが込み上げてきますが、どうせ恥ずかしいんだったらどこまでやっても変わらないんじゃないかな、なんて遠い目で悟ってみます。

 あ、今練習してる恋愛ソングでも撮って、小響さんを応援しようかな……。

 そしたら小響さん、喜んでくれたりしないかな?


「教室とうちゃく~」

「私は下校の準備してくるわね」

「わたしも、してきます」

「ホームルーム終わったら靴箱でね~」


 わたし達はそれぞれ帰宅の準備をしに自分達の机に戻ります。

 心なしか小響さんの後ろ姿は嬉しそうだったので、ちょっとだけ安心しました。

 友達が不機嫌なのは少しだけ歯痒さが付きまとうので、機嫌が直って良かったです。

 ぼーっとしていると、優雅に歩く小響さんが卒然と振り返り、わたしの目を見て声を出さないで唇を柔らかに動かします。


『忘れちゃ、ダ・メ・よ?』


 ――――ッ!!


 背筋がゾッとする思いです…………。

 わたしは何事もなかったかの様に席へと戻る小響さんに戦慄しながら、謎の焦燥感に駆られて、自分の席へと急ぎます。

小雪が小響ちゃんを名前呼びな理由。


「私達お友達よね、小雪ちゃん?」

「は、はい……み、南海さん」

「お友達よね? 小雪ちゃん」

「…………み、南海さ――」

「小雪ちゃん?」

「…………さざめ、しゃん」

「あ・り・が・と」

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