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ARTEMA SAGA  作者: Rozeo
第1部 
9/53

第八話「クロウ家とレノン家」

昼間まで寝て、やっと着いた常闇の神殿。

この世界に舞い戻って二回目だった。

俺は風に埋もれながらも微かな声に耳を傾けている。

男と女の声。

この声は……アンガスか?


アンガス・クロウはレイヴンの異名を持つ七年前の仲間だった。

既に生き絶えており、霊として存在するのならやはり此処か。

そしてもう一人女性の声は恐らくイザベル・クロウ。

アンガスと同じクロウ家で七年前に生存した凄腕の占い師である。

アンガスとイザベルの霊はこの地に来た俺に確実に話しかけようとしている。


だが所詮過去の遺物だった。

風にかき消されそうな声だし、無視してもよかろう。

俺が神殿の庭を徘徊していたその時だった。


頭上にエルメスの影。

裏切り者のピエロは屋根の上で足を組み此方を見ている。


(俺は血が欲しいんだ)


背中のファントムソードに手をかけ、構える。

この神殿は幾つもの建物で構成されており、内装は地下まで続いた。

そんな中現れたエルメスはさも可笑しそうにこう告げた。


「もう直ぐハモン様が来る……世紀の一戦、望まさせてもらうわ」


こうも容易く見つけられるとは思わなかった。

望むところだ。

今の俺は昨日とは違う。

渦と共に現れたハモンの火傷は完治していたようで、エルメスの白魔法が作用していたようだった。


(僕はいつだって君の味方だよ)


アンガスの声。

クロウ家の加護はここにきて真価を発揮か。

上等だ。

闇の力、解放する!

俺は地面に両手をつき、高さ二メートルのゲートを作り出した。

全てを無に葬るブラックホール。

先ずはこれで様子見だ。


「素晴らしい吸引力だ。だが甘い!」


発生した風にジリジリと近づけられるハモンは四つある腕のうちの一つから衝撃波を見舞った。

これを四つ同時に放つ技を人は「流星群」と呼ぶが、一本の腕でもゲートを破壊するには充分な威力だった。


(惜しかったですわ。マンティコアは元々私の恋人。手懐けられるなら是非レナ、貴方に!)


イザベルの声も聞こえた。

二つの霊は俺の左右に佇んでいるようだった。

爆発音と共に崩れゆくゲート。

だがこれは計算のうちだった。

巻き起こった砂煙に身を隠し、一気に間合いを詰める。


「サタンの武器『ファントムソード』を舐められちゃ困るぜ」


縦への抜刀切りは惜しくも空を切った。

とんでもない反射神経のハモン。

(これまた惜しい!)とアンガスが告げる。


二人のクロウ家の霊が見守る中、エルメスは屋根の上で足をブラブラさせているだけで参戦してこない。

これなら俺にも勝機はある。

そんな希望を見出した矢先だった。


ハモンの蹴り。

人間離れした体術で、俺の顔面にぶち当てる。

口の中で血の味がした。

大剣はモーションが大きい分隙もデカイのだ。


(敵はマンティコアは召喚するはずですわ。注意なさって)


占い師イザベルの霊が、先を予言し囁いてくる。

俺はすぐさま大剣を杖代わりに立ち上がり、対象を睨んだ。


ガゥゥガァァア!!


指輪から姿を現すマンティコア。

元々は悪魔と対をなす女神の息子だった。

つまり勇者マンティコア・ライデンは半神だったのだ。

それが今やアンデッド化し、ハモンの召喚獣に成り下がっている。

油断は厳禁だった。


体当たりに吹き飛ばされ、のしかかってくる。

俺は大剣で敵の牙を防いでいた。

その時マンティコアが低い声を上げる。


「マドウショヲモヤシタナ!?シンセイナホンヲケガスモノニテンハミカタセヌ」


全三章で構成される魔導書を、確かに昨夜俺は燃やした。

流石に女神の血を引くだけあって彼が怒るのも分かる。

だがーー俺は神をも畏れぬ強者として生きたいんだ。

左の拳をマンティコアの鼻に放った。

下級魔法フレアを纏った一撃に敵が一瞬揺らめいたのを、俺は見逃さなかった。

直ぐに立ち上がり、鬣で出来た首飾りを握りしめる。

すると、マンティコアは先程とは打って変わって大人しくなった。


「どうも光属性のマンティコアは使いづらい。特に貴様相手では。指輪に戻れ」


ハモンは金の指輪に召喚獣を戻した。

さあ、これからである。

既に息が切れかけている俺に、ハモンはどう動くか。

いや待っていては勝利は訪れない。

此方から先に動く!


烏の羽を剣先から迸らせながら黒い旋風を巻き上げる。

闇属性剣技「邪鬼」と混ぜ合わせ、渾身の一撃へと威力を高める。

ファントムソードの刃が黒く染まり疾風のような攻撃はハモンの腹を貫通した。


「ぐっ……!」


と口から血を吐くハモン。

顔は布切れで覆われていて見えないが、痛みに打ちひしがれている筈だ。

どうだハモン・ヴェラスケス。

七年越しの復讐だ。

アンガスとイザベルも、黙って戦況を見守る。


その時、ハモンの四つの腕が動いた。

それぞれの掌からエネルギーはチャージされ、至近距離からの流星群を受ける事になる。

逃げる隙など与えられず、視界が真っ白になると同時に焼けるような痛みに襲われた。


「キャハハハハ」


遠くでエルメスの嗤い声が聞こえる。

木製の十字の御守りは燃やされ、俺は静かに息を引き取った。


胴体を貫いておきながら、負けたのだ。

そして此処は、一面真っ白な世界。

今度こそ正真正銘死後の世界だった。

目の前にいるのは死んだはずの神グレンーー?

両脇にはアンガスとイザベルが佇んでいた。

グレンが口を開く。


「レナ・ボナパルト。其方は邪悪に染まりすぎた。そんなお前がクロウ家の秘技『デビルズゲート』を開いたのは驚きだったぞ」


デビルズゲート?

ああ先程の戦いの黒い門か。

グレンは眩い光に包まれた白いフードを被った髭を生やした男だった。

アンガスは顔面刺青の戦士、イザベルは頭に刺した薔薇が特徴的な赤髪の女性である。


うつ伏せになっていた俺は立ち上がり、嘗ての宿敵グレンを見た。

その者に殺気は感じられない。

寧ろクロウ家の秘技を使用した事で喜んでいる様子だった。


「私はクロウ家の開祖。妻ミルナはレノン家の開祖だ。二つの名家は共に競い合い、お互いをここまで高めてきた」


ミルナはレノン家?

だとしたら俺の装備ファントムソードと暗黒の鎧はレノン家と深い結びつきを持つ事になる。

あのマンティコアだってレノン側の存在だった。


「俺はこれからどうなる?アンデッドになるのか?」


「罪を改めるなら神秘の秘薬を与えてやってもいい。ついでにアンガスとイザベルも連れてゆけ。私が持っている秘薬は全部で三つだ」


「俺たち勇者はお前を殺した張本人だぞ?随分寛大じゃねえか……」


「ハモン・ヴェラスケスこそ私の生み出した負の遺産だ。その昔、ミルナの人格が二つに分かれた時、現実逃避に陥った私はこの想像世界を作った。つまりハモンもナオミもただの私の創造物だ」


グレンは続ける。


「だがレナ、お前は違う。お前は魂を持った貴重な生身の人間だ。罪を認めるならもう一度だけチャンスをやるのも大人の義理とも言える」


「なるほどな……」


俺はカインの言葉を思い出した。

愛の力を蔑ろにして先へ進めると思うな、正にその通りと言った具合か。

ナオミやキャンディスには死んでもらいたくない。

俺は戦う意味を七年越しに思い出した気がした。


「自分の為に戦うのは構わん。だがその前にお前は一人の人間だ。他人との結びつきが為せる業を甘く見るべきではないと、私は思う」


グレンの言葉に、アンガスとイザベルが頷く。

俺はメリアのクッキーを手で払い飛ばした事を思い出した。

あの時はとち狂っていた。

今にして思う。


「クロウ家の文官、カインの仇は取るぜ。俺を常闇の神殿に戻してくれ」


「うむ……最後に杯を交わせ。罪を償う儀式だ」


俺はグレンを神と称えるつもりはなかったが、渋々杯を交わした。

ワインは苦い。

だが不思議と心が浄化される気がした。


「では行け。因みに私やミルナには秘薬は効かんのだよ」


「よし、行くぜアンガス、イザベル。ナオミを殺させはしねー」


神秘の秘薬を飲んだ俺たち三人は光と共に消え、常闇の神殿に移された。

アンガスは二十八歳、イザベルは三十八歳だった。


「石板に触れよう。城に戻り、ナオミやメリアと和解する」


「そうだね。きっと許してくれる」


「城への帰還は吉と出ていますわ」


既にハモンとエルメス無き後の常闇の神殿を離れるべく、俺たちは緑の石板に触れた。

ーーサルデア城。

ナオミとキャンディスの気配は感じるが、メリアの気配は感じない。

怒って出て行ってしまったか。

俺の帰還に抱擁で応えてくれたのはナオミだった。

いつも自分を受け入れてくれる、特別な存在だ。


アルフはカインの遺した紙に書かれた政治を為すべく動いていたようで、民は元気を取り戻しつつあった。

アルフ・レノン。

女王でも上手くいくさ。

俺は王の間に皆を招き、昨日の事を謝る事にした。

それにしてもアンガスとイザベルは良い戦力になり得る。

俺は一つ咳払いし、皆の方へ向き直った。


「一回死んで皆の大切さを学んだ。ナオミやキャンディス、アルフやどこかに消えたメリアも、誰も殺させはしねー。このファントムソードで護り抜く」


イザベルはフフッと微笑んでいる。

アンガスの装備は剣と盾で、エルフ兵の統率を自ら名乗り出た。

流石に俺やナオミ程の武勇はないと思うが、兵を率いるには十分な将軍となり得る。

俺は密かにイザベルの占いにも期待していた。

先を見通す力はやはりこの国には必要だった。


「三人を正式に迎え入れようと思う。皆んなハモンへの備えは怠らないように」


アルフもやっと国王らしくなってきた。

キャンディスも「誰にでも闇はある」と言っていたし、取り敢えず溶け込む事には成功か。

俺はベランダでイザベルと話す事にした。


「この世界の行く末を、見通す事が出来るのか?」


「全てとまではいきません。占いにも限界はあります。でもこれだけは覚えていて。異世界人である貴方は特別な存在だと。誰も貴方を軽視できたりしませんわ」


選ばれし者、とキャンディスは言っていた。

確かに俺は七十億人の中から選ばれてこの異世界に二度も来た。

想像世界を救える可能性を秘めているから、という考え方も出来なくもない。


下でアンガスの兵の調練が行われている。

アルフは適切な指示を出せるだけの力を秘めていたし、それは自分にとって予想外の事だった。

カインの目は正しかった事になる。

ただ狡猾さが足りない。

それが唯一の弱点だろう。

そしてナオミとキャンディスはハモンに対抗し得る確かな戦力だった。


「メリアにもいつか謝らねーと」


俺は銀髪の少女を思い浮かべた。

いつか帰ってくる。

何故かそう思わされるのは、やはり未来で道が繋がっていると何処かで確信しているからか。

出逢いは必然。

そう思うようにしていた。


「ハモンにたった一人で挑むなんてやはり無茶だ。勇者四人がかりでも敵わなかったものを」


背後からナオミが来て言った。

だが彼女は知らない。

俺の黒い旋風斬りが、奴の腹を貫いた事を。

あと少しーー七年前より力の差は確実に縮まっている。


「イザベル。キャンディス・ミカエラについて教えてほしい。彼女についての記憶がすっぽり無くなっているんだ。占い師なら分かるだろ?」


「七年前、神々に背きハモンに加担した罰として……仲間からの記憶を消されたのですわ。元々はアンガスやレナと同じ旅の仲間。裏切りの罰はグレンやミルナが下したのでしょう」


裏切りか……。

俺も昨夜あとちょっとで皆んなを裏切った形になりかけた。

だがハモンを追った事で神々からは称賛され、クロウ家の力を解放した事でグレンに神秘の秘薬をもらった。


「イザベルはマンティコアの元恋人だろ?何としてでも仲間に加えなきゃな」


召喚獣という形での籠絡にはイザベルも思うところはあるだろう。

だが七つの召喚獣が集えば東の魔女を殺し得る完全召喚が成せるのだ。

迷うべきではない。

ハモンを倒した暁には彼の指輪を手に入れる。

今の俺は光と闇の中間。

召喚獣マンティコアも喜んで力添えしてくれるはずだ。


だがハモンの力はやはり想像を絶する。

この想像世界を創り出したグレンが何かのバグで生み出したバケモノだが、やはり何としてでも倒しておきたい。

そしてエルメスも油断ならない相手である事は確かなのだ。


イザベルの頭の薔薇。

七年前とスタイルは変わっていない。

嘗て絶世の美女と謳われた余韻を残している、と俺は思った。

というより殆ど変わっていない。

あの硬派なマンティコアが恋に落ちたのも頷ける。

そして俺のパートナーだったナオミはサファイアの様な瞳で空を見つめている。


「復縁……しないか?」


突然のナオミからの発言だった。

俺は何も言わず、彼女の唇を奪い去る。

そこへあのエルメスが城のベランダに現れた。

金の指輪をしており、新たにクリーチャーと契約を結んだようだ。

彼女は言う。


「砂地で雷属性の召喚獣『麒麟』を手懐けたわ。ハモン様は今日の深夜には回復する……それまで敵の数を減らさなくちゃ」


エルメスの両手からバチバチと火花が散る。

雷属性下級魔法「スパーク」と見て間違い無いが、その威力は麒麟との契約によって底上げされている。


「ハモンを倒せるのはレナ、君だけだ。ここは私が行こう」


とナオミが歩み出る。

「私も参戦しますわ」とイザベル。

そこへ沈黙を保っていたキャンディスが「今日こそ過去に禊をつける……万が一の時のために私も戦う」

と小さく言った。


「その三人ね。いいわ望むところよ。私の魔法で場所を変えるわ。イチ、ニノ、サンッ!」


煙と共にエルメスらは姿を消した。

恐らく敵にとって有利な場所への移動だが、あの三人なら問題ないだろう。

そして何より、指輪を手に入れる事が出来れば五体目のクリーチャーをモノにした事になるのだ。

今夜……。

レナは気合を入れ直した。


夜になった。

ナオミ達は帰ってこない。

俺は一人マゼラに新たに建設された教会で祈りを捧げていた。

中央の女神像は悲しげに沈黙を保っている。

これから行われるハモンとの激戦。

遂に運命の再戦が行われようとしている。

今回は黒と白の中間、灰色の心で臨む。

目を開き立ち上がった、次の瞬間だった。


バリバリバリン!!


ガラスの割れる音。

回転しながら現れたハモンは先ずは邪魔な俺を消そうと登場か。

俺は背中のファントムソードに手を掛けた。

睨み合う。

一瞬の気の緩みも許されない、探り合い。


先に動いたのは俺か、或いはハモンか。

はっきり言ってほぼ同時だった。

一気に距離を詰め馳せ違う。

ハモンの拳を掻い潜り、横への斬撃を試みた俺だったが、腹から伸びた腕にガードされる。

ハモンは腕が四本あるのだ。


「負けるかよ!」


ライオンの鬣の首飾りが光り、炎属性下級魔法「フレア」が発動した。

暗い教会に火が灯り、それは敵の顔面にぶつかった。

今だ。

視界を奪った今こそ技を畳み掛けるしかない。


俺は両手を地面につけ、デビルズゲートを作り上げた。

高さ二メートルの黒き門は全てを無に葬る効果を持つ。

その時だった。

門が開いたところから紫色の肌をしたクリーチャーが現れたのである。

彼こそ身長二メートルの闇属性クリーチャー「グレートデーモン」。

七体目の刺客だった。

クロウ家のグレンの力。

神々への祈りがこの召喚を可能にしたのか。


「フン。ならば此方もクリーチャーで対抗だ」


とハモンはマンティコアを指輪から召喚する。

デビルズゲートは閉じられ、ツノの生えた人型のグレートデーモンと獣マンティコアの睨み合いとなった。


「マンティコア、本来の自分を思い出せ。お前の相手は今の俺じゃないはずだ」


と首飾りを翳す。

すると闘志剥き出しだったマンティコア途端に大人しくなり、俺に味方するように横に並んだ。


「馬鹿な……!クリーチャーは召喚士(サモナー)に絶対服従なはずでは!?」


「クリーチャーとの絆が優先されるのさ。一緒に旅した事をマンティコアも忘れちゃいない」


左にグレートデーモン、右にマンティコアを従えいざハモンとの決戦に臨む。

グレートデーモンの幻術。

すーっと空気に溶け込み、気づいた時にはハモンの心に忍び込んでいた。

心を支配する術は脳筋野郎には効果的と言ったところか。

ほんの数秒だが確かな隙が生じた。

ここぞとばかりにマンティコアが首筋に噛みつくべく飛びかかる。


その時、ナオミの顔が思い浮かんだ。

彼女に教わった技「究極剣技『桜竜の舞』」ーー。

敵がクリーチャー二匹に手こずっている今こそ、大技に賭けるしかない。

精神を集中ーー。

両腕に二つの属性をイメージして大剣に力を注ぐ。

今なら出来る。

桜の花びらが突風と共に吹き荒れる。


「退いてろマンティコア。究極剣技『桜竜の舞』!」


ファントムソードに全ての力を注ぎ、解き放った。

青白い光とそれを覆う花びら。

その勢いは計り知れず、教会の石造りの床を捲り上げていく。


「ぐ、ぐぁぁあ!魔王とまで呼ばれたこの俺が負けるとは……おのれ……レナ……ボナパ……ル……ト」


ハモンは絶命した。

勝ったのだ。

クリーチャーの力添えはあったにしろ、たった一人で倒したと明言してもいい。

俺は奴の死体から金の指輪を掴み上げた。

これでデーモンとマンティコア、二体のクリーチャーが俺のモノとなった事になる。

身体に負担がかかるので、契約を結ぶのは二体までが限界か。

そこへナオミとイザベルとキャンディスが駆けつけた。


「こんな夜中に襲ってくるとは……君が無事で良かった」


「ハモンを一人で倒すとは……後世に名を轟かせる偉業ですわ」


「流石は選ばれし者……いや私の……大事な……」


キャンディスは泣いていた。

いつもは大人びている彼女にしては珍しい事だった。


「ああ、お前のお兄ちゃんだよ」


と頭をクシャッと撫でる。

これでキャンディスも過去の過ちを気にすることなく生活出来る事だろう。

もうハモンはこの世にいないのだ。

聞けばエルメス戦では大活躍したそうで、イザベルも顔負けの魔力だったと言う。

今、雷属性召喚獣「麒麟」はイザベルが支配している。

俺達は希望を成し遂げたのだ。


「見て……メリアさんだよ……!」


明け方ドラゴンに跨り帰還するメリアの姿があった。

七体の召喚獣の最後の一ピース……!


「絶対に帰ってくると思った」


俺はメリアを抱きしめて迎え入れた。

町の広場には俺、ナオミ、メリア、キャンディス、アルフ、イザベルの六人。

そして七体の召喚獣は此処に集結した。

ドラゴンやグリフォン、グレートデーモンといったクリーチャーが指輪から放たれ、空へと舞っていく。

そして白い光となって散らばっていった。


「マンティコア……」


イザベルが今にも泣き出しそうな声を上げる。

天は裂かれた。

眩い光が空を覆い、何年ぶりかの朝日が顔を出した。

魔女は死に、世界はその支配から解放された証拠だ。

召喚獣はその役割を果たしたのだった。

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